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中央大学理工学部教授 田口善弘先生をお招きし、CBS特別講演会「知能とは何か?ヒトとAIのあいだ」を開催

2026年02月05日

2026年1月26日(月)に理工学部教授 田口善弘先生をお招きし、「知能とは何か?ヒトとAIのあいだ」をテーマに、CBS特別講演を対面とオンラインで実施しました。

●概要

田口教授の講演では、「知能とは何か」という根源的な問いを起点に、生成AIの急速な発展が人間の知能観や実務の前提をどのように揺さぶっているのかが、知能研究の歴史を踏まえながら多角的に論じられました。近年の生成AIは、文章・画像・動画・音楽・プログラミングなど多様な分野において、専門家であっても人間が作成したものと区別することが困難なアウトプットを生み出しています。実際に、AIが生成した記事や動画が多くの閲覧や高い評価を獲得している事例が紹介され、アウトプットだけを見れば、人間だけが担ってきたと考えられていた知的作業の一部について、AIがすでに人間に匹敵する水準に到達していることが示されました。

一方で、こうした性能の高さが直ちに「人間と同じ知能」や「理解」を意味するわけではないことも強調されました。人間の知能は、身体性、経験、感情、価値判断と結びついた意味生成のプロセスであり、脳内でそれがどのように生じているかについては、いまだ十分に解明されていません。これに対し生成AIは、大量のデータをもとに「次にもっともらしい出力」を確率的に生成しているにすぎず、その内部過程は人間の思考様式とは本質的に異なります。脳科学の知見からも、人間は課題の難易度に応じて思考の速度や戦略を柔軟に変えるのに対し、AIにはそうした難易度判断や文脈理解が十分に備わっていないことが示されました。人間とAIは出力こそ似通っているものの、同じメカニズムをもっているわけではなく、それぞれ異なるプロセスによって現実を認知する「シミュレーター」である点が強調されました。

この違いは、生成AIの代表的な課題であるハルシネーションにも表れています。AIは内容を「理解」しているのではなく、統計的にもっともありそうな説明を生成するため、事実と異なる情報や細部の誤りを、あたかも実在するかのように提示してしまうことがあります。こうした出力を人間が真に受け、無批判に利用してしまうことの危うさについても指摘がなされました。

質疑応答ではさらに、「AIは将来自律するのか」という問いが取り上げられました。これに対し講演では、現在の生成AIは自律的な目的や意思をもって行動しているわけではなく、人間が与えた目標・評価基準・環境のもとで最適化を行っているにすぎないと説明されました。AIが自己保存や価値判断を内側から持つ「自我」を獲得する兆しは現時点では見られず、自律しているように見える振る舞いも、あくまで外部から設計された仕組みの結果であると整理されました。

以上を踏まえ、本講演では、生成AIを人間の代替的な主体とみなすのではなく、極めて高度である一方、明確な限界をもつ知的ツールとして理解することの重要性が示されました。AIの強みと限界を正しく見極め、人間の判断・責任・意味づけと組み合わせて活用することこそが、今後の実務と研究において不可欠であるという点が、CBS生に向けた田口先生からのメッセージでした。

 

田口善弘教授のプロフィール: 
バイオインフォマティクスを専門とし、遺伝子発現プロファイル解析やマルチオミックスデータ解析に長く取り組み、現在はテンソル分解を活用した教師なし学習による変数選択法を遺伝子選択に用いる研究を行う。著書や論文多数、ISET2021基調講演やセミナー講師、ラジオ出演なども行う。スタンフォード大学が選出する「世界の上位2%の研究者」(バイオインフォマティクス分野)として2021年から5年連続で選ばれている。
本講演は『知能とは何か?ヒトとAIのあいだ』(講談社現代新書)2025年に基づく。

●受講生の感想(一部抜粋)

・本講演を通じて、人間らしさとは、処理能力や正答率ではなく、「問いを立てる力」や「背景を読み解く力」があるのだと感じました。技術と人間の境界を、哲学的でありながら実践にもつながる形で示していただいた、非常に示唆に富む講演でした。AIについての知見を深めることができました。

・人間の知能もバイアスがかかっていて現実を都合よく解釈しているだけというのが面白かった。人工知能とヒトの知能を比較してどこまで近付いているのかということ自体がある意味ずれていることがわかり、目から鱗が落ちた。

・製造業として様々な経験をした中で、ロボットに求めることの違いに関するコメントはまさにその通りでした。暗黙の前提として人間の置き換えがあり、いざという時に人間に置き換えられるかが重要視されています。生成AIに対する期待値も似ているようで、完璧を求めるきらいがあるように思います。知能のようなものを発揮する別の手段がある、人間だってどうせろくに考えていない、という観点は面白くも自身が考えていた生成AIの受け止め方と同じでした。
 

●CBSについてもっと知りたい方へ

CBS特別講演会では、通常の講義に加え、最新のトピックを取り上げ、最先端の研究者や経営者を講師としてお迎えしています。登壇者の深い洞察と豊富な知見に裏打ちされた講義に加え、講師との真摯な対話の時間は、受講生が経営の枠にとらわれない視点に触れ、疑似体験を通じて思考を広げる機会です。こうした講演会は、アカデミックな知と実務の知を結びつけ、実践に活かせる学びを得るための貴重な場となっています。

CBSのカリキュラムの全体像は、以下のリンクをご覧ください。
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/pro_graduateschool/business/mba/