ビジネススクール

研究科長から令和4年3月修了生へのお祝いメッセージ

2022年03月22日

研究科長祝辞

みなさん、本日は、修了おめでとうございます。みなさんをお支えくださったご家族・ご友人・関係者のみなさまにも、心からのお慶びを申し上げます。みなさんにとってこの特別な日を、「この場で一緒に過ごすことができる」ことが本当にうれしく、感無量です。
中央大学ビジネススクールは2008年に設立されました。それからこれまで、入学式ができなかったのは2回あります。東日本大震災の起こった2011年と、みなさんが入学された2020年です。あれから世界では新型コロナウイルスが猛威を振い、2年間にわたり人と人との接触や行動が制限され、社会や経済に大きな混乱と不安をもたらしています。みなさんも、職場やご家庭で、今までにないご苦労をされてきたとお察しします。
2020年4月、東京都に緊急事態宣言が発出されるかどうかという緊迫した状況のなかで、13期のみなさんが全員集まったのは、オンラインでの入学セレモニーでした。あの時のご自分の気持ちを思い出してみてください。これから始まる学びへの期待以上に、コロナ禍で学生生活がどうなるのかという不安と焦り。一方で、新しいことに挑戦する前向きで明るいワクワクした気持ちも湧いてきたと思います。
それから2年が経ちました。アッという間だったと思う方も、長かったなと思う方もいらっしゃると思います。たぶん、みなさんに共通しているのは、予期せぬ2年間だったという思いと、それでも何かをやり切ったという充実感であり、2年前には想像できなかった「新しい自分との出会い」だと思います。
この2年間は、私にとっても特別な2年間でした。はじめての新入生を迎えることになった2020年春から今まで、ずっと苦しい意思決定の連続でした。2020年4月は、どうしたら学びを途切れさせずに続けられるかという想いで、研究科の先生方と必死で知恵を絞り、ズームによるオンラインで授業をトライアルとして行いました。それが今も続いているプレ講義の原型です。また、オンラインと対面を組み合わせるハイブリッド授業も、13期の有志のみなさんとテスト講義を何度か行い、そこでのノウハウを活かして、今の形にたどり着きました。困難な状況のなかで、常に前向きに協力してくれたみなさんには本当に感謝の気持ちしかありません。
それでも、日々刻々と変わる感染状況のなかで、何とか対面で実施したいと願っていた多くの講義も成果発表大会もリフレクションセミナーも、結局は最後の最後になってオンラインに変更せざるを得なくなる。それの繰り返しに唇をかむ思いでした。みなさんには本当に申し訳なかったと今でも悔やまれます。
それでは、この2年間でみなさんが得たもの、失ったものは何なのか、あらためて振り返ってみましょう。今考えると、私は、みなさんが得たものはたくさんあったけれど、失ったものはほとんどなかったのではないかと思います。みなさんは、コロナ禍での新しい働き方の可能性と限界を知り、CBSで学ぶことの意味を考え直し、そして、CBSを修了してからの自分自身の生き方を深く再考したと思います。コロナ禍は人々の内省=リフレクションを促しました。今まで忙しい日々にまぎれて置き去りにしてきた「本当に大切なこと」に気づけたのも、新型コロナのおかげだったかもしれません。人と人との出会いや、人と人の中で揉まれることで得た、自分自身の成長も、コロナ禍でそれが「日常ではなくなったからこそ」気づいた大切なものだったと思います。
新型コロナは20世紀に築かれた文明社会への大きな警告です。自然の営みを無視して開発を進めてきた結果が、新しい感染症の蔓延であったとするなら、われわれは、今までの生活や経済のあり方を根本的に見直さなければならない時期に来ているといえるでしょう。地球温暖化も世界的な格差の問題も、ネットワーク化された社会におけるサイバー犯罪も、新型コロナの急速な世界への拡大も、すべては、われわれが盲目的に利便性や自己の利益を追求し、グローバル化を進めてきた結果でもあるのです。
 これからの経営者には、自己中心性から抜け出した「場所中心性」と表現すべき、地球的な観点、言い換えれば、われわれが「生かされている場所」を謙虚に意識しなければならないということを、肝に銘じる必要があります。
 そう考えると、現在のロシアのウクライナ侵攻も、一部の指導者の自己中心性と支配欲が招いた危機であるといえます。すでに時代は21世紀。グローバル化と多様性の時代に、古い民族主義の閉じた思想は相いれません。実際に、「何のための」「誰のための」戦争なのか?仕掛けた方も、すでに答えを出せないように見えます。たとえ、どんな大義があったとしても、侵略や殺戮はあってはならないことで、それが20世紀に我々が学んだことではなかったのか?ウクライナ情勢を世界の目が多様な視点から見て情報発信しています。これも世界がさまざまなネットワークでつながっている時代であることの象徴です。
このような時代の大きなうねりのなかで、翻ってわれわれに問われるのは、「どのような未来を作りたいか」という大きな課題です。それはみなさん一人一人に対する問いかけです。未来はみなさんの夢や野望のなかにあります。私はCBSの修了生には、「何のために」、「誰のために」という本質的な問いを深く考えたうえで、自分の意志で決定する本物の戦略経営リーダーであってほしいと願います。この2年間、みなさんが「頭」と「心」で学んだすべてをつかって、この大きな変化の中から新たな「何のために」、「誰のために」、「何をするか」をつかみ取ってほしいのです。それに真剣に取り組むのが、自分を変え、組織を変え、社会を変えるチェンジリーダーの使命です。
新型コロナウイルスによる社会不安は、まだしばらく続くと思いますが、その不安は自分たちがどう生きたいかという「意志」でしか乗り越えることはできません。怖れる気持ちは「行動」でしか克服できません。コロナ禍が去っていっても、今日のこの場、この時に刻まれた、「思い」、「感覚」、そして「今の決意」をどうぞ忘れないでください。
今日の修了式は、みなさんにとって一つの通過点であり、ゴールではありません。「行動する知性」、チェンジリーダーとしてのスタートの日です。これから社会でみなさんがCBSで学んだことの真価が問われます。常に前向きにチャレンジしていってください。
われわれは、これからも、みなさんが迷った時や羽を休めたくなった時に、いつでも気軽にもどってこられる、そして自分の原点を思い返すことのできる、学びの「場」であり続けたいと思います。
みなさん、本日は、修了おめでとうございます。


令和4年3月19日 
中央大学大学院戦略経営研究科 研究科長 露木恵美子