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研究科長から令和3年9月修了生へのお祝いメッセージ

2021年09月21日

 みなさん、本日は、修了おめでとうございます。みなさんをお支えくださったご家族・ご友人・関係者のみなさまにも、心からのお慶びを申し上げます。緊急事態宣言下で、対面での修了式の実施ができるか、難しい選択でしたが、みなさんにとって一生に一回しかない、

 この特別な日を、この場で一緒に過ごすことができることを、本当にうれしく思います。

さて、2年前の入学式の日を思い出してみてください。あの時のご自分の思い、何が起こるかという期待や、本当に続けられるかという不安などが入り混じった、それでいて、前向きで明るいワクワクした気持ちを。それから2年が経ちました。アッという間だったと思う方も、長かったなと思う方もいらっしゃると思います。たぶん、みなさんに共通しているのは、本当に大変だったという思いと、やり切ったという充実感であり、2年前には想像しなかった新しい自分との出会いだと思います。

 2020年に始まった新型コロナウイルス感染症は、われわれの生活を一変させました。オリンピックは1年遅れで開催されたものの無観客、デルタ株の蔓延での緊急事態宣言の延長につぐ延長、そして、人の感染に対する根強い不安と政府に対する不信感。何もよいことはないようにも思えます。

 12.5期のみなさんは、最初の半年は対面授業が中心のCBS生活を送りました。そして残りの1年半は、オンライン中心になりました。せっかく対面授業に慣れてきて学生生活が楽しくなってきた時に襲ってきた突然のパンデミック。それでみなさんが得たもの、失ったものはなんでしょうか?

 今振り返ってみると、私は、みなさんが得たものはたくさんあったけれど、実は失ったものはほとんどなかったのではないかと思います。みなさんは、コロナ禍での新しい働き方の可能性と限界を知り、CBSで学ぶことの意味を考え直し、そして、CBSを修了してからの自分自身の生き方を深く再考したと思います。コロナ禍は人々の内省=リフレクションを促しました。今まで忙しい日々にまぎれて置き去りにしてきた「大切なこと」に気づいたものも、新型コロナ禍のおかげだったかもしれません。人と人との出会いや、人と人の中で揉まれることで得た自分自身の成長も、コロナ禍でそれが「日常ではなくなったからこそ」気づいた大切なものであったと思います。

 資本論を書いたカール・マルクスは、階級闘争による社会変革の理論で有名な思想家であり革命家ですが、資本論の生産編と言われる部分では、モノとモノとの物々交換ではなく、そこに貨幣が媒介する交換のメカニズムが緻密に分析されています。すべてのものは貨幣を媒介にして交換できる。そのプロセスの中で、貨幣そのものがあたかも価値をもっているかのような逆転の動きが生まれる。今われわれが生きている資本主義貨幣経済の根幹を説明する理論です。一方で、マルクスはとても興味深いことも言っています。「信頼は信頼としか交換できない」と言うのです。それでは、信頼は何から生まれるのでしょうか?信頼は「何を言ったか」ではなく「何をやったか」から生まれるものだと思います。言葉ではなく行動からです。われわれは、人々の誠実な行動を信頼するのであって、もっともらしい言葉を信頼するわけではないのです。

 パンデミックの世界になっても、われわれはモノを手に入れることはできました。生産や流通システムが高度に発達していたからです。しかし、それはバリューチェーンを支える一人一人の人の、信頼を裏切らない行動が根底にあったからだと思います。日本では、インターネットでモノを注文しても翌日か翌々日に届くのはあたりまえ。時間指定までできる。こんなきめ細かいサービスを享受できる国は他にはありません。一つのモノが手に届く背景には、多くの信頼の連鎖があるのです。

 このパンデミックを契機として、われわれは深く考えるようになったと言いました。自分の過去を振り返り、これからの人生を考える。そこで新たに問われるのは、われわれはどのような未来を作りたいかという大きな課題です。それはみなさん一人一人に対する問いかけです。その未来はみなさんの夢や野望のなかにあります。私はCBSの修了生には、「誰のために」、「何のために」をよく考えたうえで、自分の意志で行動し、「真の信頼」をかちえる戦略経営リーダーであってほしいと願います。そして、みなさんの選択は、今までの延長線上にあるものではなく、今の大きな変化の中から新たにつかみ取るものです。そこでこそ、自分を変え、組織を変え、社会を変えるチェンジリーダーの真価が問われます。 

 新型コロナウイルスによる社会不安は、これからもしばらく続くと思いますが、その不安は自分たちがどのように生きたいかという「意志」でしか乗り越えることはできません。怖れる気持ちは「行動」でしか克服できません。コロナ禍が過ぎ去っても、今日のこの「思い」、この「感覚」、この「決意」を忘れないでください。

 今日の修了式はみなさんにとってのゴールではなく一つの通過点です。「行動する知性」、チェンジリーダーとしてのスタートの日です。われわれは、これからも、みなさんが迷った時や羽を休めたくなった時に、いつでも気軽にもどってこられる学びの「場」であり続けたいと思います。みなさんの門出を教職員一同、心から祝福し、本日の祝辞と致します。

みなさん、修了、本当におめでとうございます。

 

 

令和3年9月18日 

 

中央大学大学院戦略経営研究科 研究科長 露木恵美子