商学部

Vol.3 武石 智香子 教授

―Profile―

武石 智香子

早稲田大学 第一文学部 心理学専攻 卒業後、(株)三菱総合研究所、ハーバード大学大学院 社会学研究科で博士を取得。
その後、2001年4月より中央大学商学部に着任。中央大学 副学長、国際センター 所長、全学連携教育機構 機構長、AI・データサイエンスセンター 副センター長、評議員を歴任。
研究分野は知識社会学で、本学商学部では社会調査入門の授業を担当。

出身地:東京都
趣味:テニス
好きな映画:Perfect Days
休日の過ごし方:料理、ドラマ鑑賞、テニス
尊敬する人:integrityのある人
小さい頃の夢:小学生の頃は小説家、中学生の頃は警察官、高校生の頃は大家族

―Interview―

ここからは、商学部生の上田さんとともに、インタビューをしていこうと思います。

上田さん:こんにちは!よろしくお願いします。

武石先生:こんにちは!こちらこそ、よろしくお願いします。

上田さん:本日のインタビューとても楽しみにしておりました!では早速質問させていただきます!

出身

上田さん:ご出身はどちらですか?

武石先生:生まれたのが東京でその後転々としまして、心の故郷はインド、第二の故郷はボストンです。

趣味

上田さん:現在何か趣味はございますか?

武石先生:趣味はテニスなのですが、最近は忙しくてなかなか行けていません(笑)

上田さん:40歳頃から始められたとお伺いしたのですが。

武石先生:はい、そうですね。いくつになってもスポーツを始めることは良いことかなと思って、生涯スポーツを目指してやっています。

上田さん:そうなんですね!学生の頃を含めて若いころに何かされていたスポーツはありますか?

武石先生:中学がソフトボール部。高校が水泳部でした。

上田さん:運動は昔からお好きなのですね!

武石先生:好きではあります。上手じゃないですけど(笑)

上田さん:運動を楽しむことは大事ですよね!ありがとうございます!

好きな映画

上田さん:好きな映画は『Perfect Days』とお聞きしましたが、どんな映画なのですか?また、どんなところがおすすめなのですか?

武石先生:日々心を込めてトイレを掃除するお話なのですが、役所広司さん演じる寡黙な主人公が日常の些細なことに喜びを感じていることが、表情とか目だけで伝わってくるんですね。彼の生活は、いわゆるお金的にはいい生活とは言えないかもしれないですが、心を込めて生活する中で、小さなことに心を動かしている感じが、毎日が『Perfect Days』という。

上田さん:そういうお話なのですね!絶対見ます!ありがとうございます!

好きな休日の過ごし方

上田さん:休日は普段どのように過ごされていますか?

武石先生:趣味と実用を兼ねて料理をします。色々と創作したりですとか。あとは、時間があれば庭仕事もします。今ちょうど梅がなっていて、もっと時間があれば梅干しも作りたいです。

上田さん:庭仕事もされているのですね!そろそろ夏なので梅ジュースであったり梅酒にしたりもしているのですか?

武石先生:そうですね!

尊敬する人

上田さん:どういったきっかけでintegrity(インテグリティ)のある人に尊敬の念を抱かれたのですか?

武石先生:大学院の受験時に、記入すべき自己評価の項目にintegrityがあり、何だろうと思って色々と調べるうちに、「正直でなおかつ一貫性が取れていること」だとわかりました。この人にはこう言い、あの人には少し違うことを言ったりして、全ての人に誠意ある態度に見える人もいると思いますが、私はそういうことがとても苦手で、自分の中で一貫性をもってあらゆる人に正直に接しようとする人が直面する生きづらさが当時とても難しく感じられたのです。なので、integrityがある人を見ると尊敬します。

上田さん:なるほど!そういった経緯だったのですね。私も初めてこの言葉をちゃんと調べましたが、誠実な人はいますが、一貫性がありながらそれぞれの人に対して誠実に向き合うって確かに自分も苦手で、結構ごまかしてしまうかもしれません。

武石先生: 難しいですよね。接する人は色々ですから、私は今でも目標かもしれません。

上田さん:そうなんですね!とても良い言葉を学ばせてもらいました!ありがとうございます。

小さい頃の夢

武石先生:小学校の頃は夏目漱石が大好きで、小説家になりたかったです。読書感想文では夏目漱石のことを何本も書いた記憶があります。中学校の時は正義ものが大好きで、当時は警察官が流行りだったので、女性警察官になりたいなと。ミーハーでした(笑)。高校生の時には、ソフトボールのナインが組めるくらい家族ができたらいいなと思っていましたが、どれも叶いませんでした(笑)

上田さん:そうなんですね!大家族は、ワイワイした生活が憧れだったのですか?

武石先生:そうですね、なんだか大家族っていいなと。それらにはなれませんでしたが、結局書き物をしていますし、大学の中で警察っぽい仕事もやっていましたし、(教員として)今子どもがいっぱいいるようなものなので。全て本質は叶えられているかなと思います。

上田さん:素晴らしいですね!様々な夢があって、どれも今叶っている感じがします!

武石先生の幼少期から学生時代について教えてください

幼少期

武石先生:幼少期は引っ越しばかりでいつも転校生だったのですが、はっと気づいたらインドにいました。それが9歳の頃で、インドに行ったときに世の中というものに気がつきました。ちょうど弟が生まれて1年ほど経っていて、それまで一人っ子として何も気づかずに過ごしていた自分にとって「社会ってこんなにも違うんだ」と感じた経験は、今思えば社会学に進む原体験だったように思います。それ以来、インドのことが大好きです。

上田さん:そうなんですね!

武石先生:当時コルカタにあるカルカッタ日本人小学校に通っていたのですが、生徒たちは2〜4年ほどで親の駐在任務が終わり、日本へ帰国した子たちから手紙が届くんですね、「日本は過酷だ」と。自分はインドで育ったから気を付けや整列が上手くできないといったことが書かれていて、体育も日本式の体育をしていないので、跳び箱なるものがあるらしいとか、みんなやったことがないのですごく怯えて「ずっとインドに住んでいたい」と思っていた子ども時代でした。

上田さん:そうなんですね!インド行ったことないんですけれど、どういうところが好きでしたか。人柄、国柄ですか?

武石先生:そうですね、皆さん優しいです。今まで2回引率で学生と一緒にインドへ行きましたが、最初は学生たちはすごく気を張っています。でも段々慣れてくるとインドの人ってすごく優しいねと言うようになりました。日本人からすると最初は日本とのセキュリティの違いばかりに目が行きますが、それを乗り越えると非常に優しい心が伝わってきます。心が通じあって、皆さん優しいんだと思える瞬間が私は好きです。

中高生

武石先生:中学はソフトボールばっかりでしたね。別に頑張っていたわけではないですけど。ただ楽しく遊んでいたという(笑)。私はどちらかというと態度の悪い学生だったので。

上田さん:そうだったんですね!

武石先生:授業中に、みんなが外を見ると私が肉まんを持ってサボって歩いてるとかそういう学生でした。

上田さん:そうなのですね!大学の先生って結構真面目に勉強されてきた方が多い印象だったのですが。

武石先生: 勉強しなくても大丈夫ですよっていう話ですね(笑)

大学生

上田さん:大学時代は心理学専攻だったのですね。どうしてこの学部を選んだのですか?

武石先生:私の親戚には、メンタルに不調をきたす人がいました。特に頭の良い叔父にそういう人がいて、ロシア語や中国語の古典を買い集め、独学でピアノを弾いていたりするような、才能ある叔父が精神を病んでしまうことがあったんです。そんな姿を見ているうちに、「自分も同じようになってしまうのではないか」という不安に襲われました。というのも、インドにいた経験もあり、多くの人が気にするようなことにあまり興味が持てず、日本の「普通」に違和感を抱きながら生きていたからです。その時は心理学的に解明したいと思い心理学に進みました。しかし学ぶうちに、それが自分個人の異常ではなく、文化の違いからくるものだと後になって気がついて、就職後に社会学に入りなおしました。

上田さん:就職後に大学院で社会学を学び始めたのですね!

武石先生:はい。就職して1年ほど経った頃、社会学では有名なデイヴィッド・リースマンの『孤独な群衆』という本をたまたま読んだんですね。その時に、本当にやりたいのは心理学ではなくて社会学だと思ってハーバード大学に進学すると、なんと当時80歳になろうとしていたリースマンさんがまだ健在で、大学で活動していました。

上田さん:社会学を学び始めるきっかけになった人に出会えるってすごい奇跡ですね。

武石先生:そうなんですよ!それがまた素晴らしいお人柄でした。研究発表会ではいつも一番前に座り、ずっとメモを取って、その発表が終わると、すぐに「今日のあなたのここが良かった。でも、ここはよく分からなかった」と、学生に対しても真摯にフィードバックしてくれる方でした。なんて素晴らしい人なんだろうと思いましたし、尊敬の念が絶えません。

研究・専門分野について

なぜ研究者の道へ進まれたのですか。

武石先生:私はブラームスの音楽が好きで、彼の伝記を読むと、食べていくために指揮者をしていたと書かれています。今、後世に残っているのは彼の作曲家としての顔ですが、当時は作曲だけでは生活できなかったんですね。私自身は──なかなか珍しいと思うんですけど──キャリア志向というものがほとんどなく、むしろ“マイナス”と言ってもいいくらいで、何かになりたいとか社会で働きたいと思った事もありません。どんな道を選んでもいい、キャリア志向でなくてもいいんだよという話にもなるんですけど。とはいえ、現実には生活のために働かざるを得なくなりました。私は大学で長く学んでいて、途中で休学も挟みながら、11年間学生生活を続けていました。気づけば30代後半になって、本当にどう転ぶかわからない状態でした。当時は本当にお金がなくて、服を買うお金もなかったです。それでも、働くかどうかは別として、研究が好きでした。

上田さん:大学院にも入られて勉強を続けて来られたからこそ、研究者として勉強も続けながら生きていく道を選ばれたということですね。

武石先生:この道しかないという感じでしたね。

上田さん:なるほど。実際にこの道を選ばれて楽しいですか?

武石先生:はい!「ひいきに見えるようなことをして誰かを傷つけてしまうのが嫌だ」という気持ちが強くて、中学校の時には「教員にだけはなりたくない」と思っていました。でも実際になってみると楽しいです。

武石先生がAIデータサイエンスに興味を持たれたきっかけを教えてください。

武石先生:早稲田大学で心理学の実証研究について学んだことです。当時、あまり好きではなかったのですが得意ではあったので、その後趣味も兼ねて新しいデータサイエンスを独学していたら、たまたまAIデータサイエンスの副所長になるよう頼まれて、今に至ります。

授業について

現在教えている授業について教えてください。

武石先生:大勢の人の前で楽しく話せる人もいますが、私はそうではないタイプです。講義科目は大きな教室でやるよりは動画配信型にしてしまって、少人数のゼミを対面でやってという形で二分化させてどちらもきちんとやるのが良いのではないかというのが現在私の採用している指導スタイルです。前者が、商学部の「社会調査入門」と全学の「AI・データサイエンスツールⅠ」。後者のゼミ型の方が、データサイエンスを扱う商学部のゼミと、国際を扱うグローバルFLPという全学プログラムの海外引率科目等です。

上田さん:私自身、これまでを振り返ると、特に少人数のクラスでの学びがとても印象に残っています。先生方との距離が近く、学んだことひとつひとつをよく覚えているんです。だからこそ、今でも可能な限り、少人数制の授業があれば履修するようにしています。

武石先生:学生を見ていると明らかに少人数の方が効果的だと感じます。アメリカでは、学生が先生にどんどん質問してそのやり取りの中で理解していきます。聞いただけでは自分は分かった気がしていても、他の学生との質疑応答で自分が分かっていないことに気づかされたりするので、そういったやり取りが重要なのだと思います。

大学で学ぶ上で大事なことはなんでしょうか。

武石先生:私は『学問の府』という本が好きです。著者は私の師の師にあたり、科学社会学および高等教育の社会学の祖と言われているジョセフ・ベン=ダヴィードです。アメリカの大学には、実践的な職業訓練をやや軽んじ、理論中心の教育が行われていた大学もあります。逆に日本の一部の大学は、専門的な知識を身に付けていく方がいいとされていたりします。そんな中、『学問の府』が説いているのは、「ひとつのことだけを教えてはいけない」という考え方です。「選択肢があること──選べるという自由こそが大事なのだ」と。自分はこう考える、でも他の人の考えは必ずしもそうではないという考えを大学時代に身につけておくのが大事です。もちろん職業的なスキル、研究する力、アイデンティティの形成、交流スキルを伸ばすことも大事とされています。

上田さん:勉強になります!ありがとうございます!

商学部教員である武石先生の考える「ビジネス」とは何ですか。

武石先生:私はアダム・スミスが大好きで、特に経済学者になる前の社会学者としてのアダム・スミスが好きです。アダム・スミスいわく、王様は、見かけだけ立派でいい服を着て、それで尊敬されることがある。でも庶民の中には、勇気があったり、誠実だったり、そういう理由で尊敬される人がいる、と。アダム・スミスは、そういう庶民が力を発揮できる社会を目指していて、私は、ビジネスをつぎのように解釈しています。世の中にちょっと足りないものがあったら、自分で起業すればいい。王様に文句を言って終わるのではなくて、自分で動こうとすること。あと、もしビジネスでなければこの人とは友達にならないと思うような人とでも、良い関係を築ける。だから、ビジネスはコミュニケーションでもあります。私は本当は、家にいてずっと料理をしていたいのですが、でもこうやって働くことで身体が動かされて、健康的だと思うんです。私にとってビジネスって、そういうことです。だから、ビジネスの中で社会学を教えるのは、本当に私の本望なんです。それに、色々な国をまわって、ビジネスパーソンと話をする中でよく感じるのが、立派なビジネスパーソンほどアカデミックな話をされることです。大学の先生以上に、哲学とか社会のこととか、そういう話をされる方が多かった。私は、そういうビジネスパーソンをつくりたいと思っているんです。

上田さん:とても素敵ですね!

最後に在学生の皆さんへメッセージをお願いします。

武石先生:「キャリアプラン」という概念が無縁だった私に偉そうなことはとても言えないのですが、振り返ってみると、「無駄なことはない」。そう思うので、どんなことも目の前にあったら一所懸命やってみたらいいと思います。みんな違ってみんな良い。キャリアを考えない人もいたっていいし、キャリアに向かって一直線に向かう人がいてもいいし、自分の1番心地良いところ見つけるのが大事なのではないでしょうか。

上田さん:ありがとうございました!