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木立 真直ゼミ 見学調査報告書

テーマ   : 東日本大震災から山元いちご農園の復興
ゼミ名   : 木立 真直ゼミ
調査先   : 山元いちご農園株式会社(宮城県亘理郡)
調査日   : 2018年8月6日(月)
参加学生数 : 3年生17名、4年生16名、院生2名
対応者   : 山元いちご農園株式会社 代表取締役社長 岩佐 隆 様

調査の趣旨(目的)

東日本大震災により、最も風評被害を浴びやすい農業に関して、山元いちご農園を例に震災直後の問題と現在・今後の課題について知る。

調査結果

代表取締役社長岩佐隆様から、「東日本大震災から山元いちご農園の復興について」プレゼンテーションをして頂いた。概要は主に、震災当時の様子から、山元いちご農園の復興、現在行われている事業や今後の展望である。

山元いちご農園のある山元町は、2010年2月チリ地震により大津波警報が発令されたが、津波は来ることはなかった。このことから、「警報が発令されても山元町に津波は来ることはない」と町民は思うようになり、実際に東日本大震災発生当時も大津波警報が発令されたにも関わらず、危機感をもつ町民はいなかったという。そのため、山元町は宮城県内で女川町に次ぐ、2番目に被害が大きかった地域となった。

そこで岩佐様は、「震災前にやっていた事業を再び行うことがまちづくりになる」と考え、雇用創出・地域復興を目的に、震災3ヶ月後に山元町にかつてあった3件のいちご農園の方々を中心に法人を設立した。山元町の「自立したまちづくり」を達成するためには、震災後人口が減ってしまった地域の雇用を創出することが必要だと仰っていた。そのため、山元いちご農園を震災からわずか3か月でスタートしたことが、山元町の雇用創出・復興の手助けにつながったという。また、雇用を生み出すにおいて、後継者は必要不可欠であり、岩佐様はいちご農園だけではなく農業において、若者がこの仕事をやってみたいと思わせることが大切と仰っており、若者が好むような経営スタイルに尽力した。実際に、宮城大学の学生たちにワインに対するイメージアンケートを行うことや、ワインの生産段階で学生の力を借りること、また地元の高校生に対してインターンシップを実施するなど、若者に対してのアプローチが強いように感じた。東北の学生や、若者が好きになるような取り組みを行うことで若い人たちに興味を持ってもらうことで、結果的に地域からの人の流出を防ぎ、若い人たちに農業に従事してもらえるような工夫、また次世代を担う若者たちに、山元町ならではの地場産業に馴染みや親しみを持ってもらえるようにしているのだろうと感じた。

設備を始め、全てが更地になってしまったことから、完全にゼロからのスタートであったのにもかかわらず法人を設立した方々の山元町やいちご栽培に対する熱い想いを感じ、地域密着型の会社であると感じた。

また、原発に近いということから風評被害に遭い、思い通りにいかない中でこれらを逆手に高設栽培という手段で認知してもらえるように努力しながら、いちごを中心とした6次化産業を行っている。6次化産業とは、農家(第一次産業)が食品の加工や製造(第二次産業)を行い、カフェによる販売やいちご狩り(第三次産業)を行うことである。山元いちご農園では、カフェ「Berry Very Labo」によるいちごを使ったおしゃれなランチやカフェメニューを提供している。いちご栽培だけではなく、ワイナリーやバームクーヘンによる農園のいちごを用いた加工食品も扱う。

新しい技術を取り入れ、三次産業まで自社で開発することは、震災後山元いちご農園を中心に山元町復興への強い意志を感じた。これは山元町のブランド力の向上である。さらに、ブランド力の向上という点で要点として挙げられるのは、マスコミなどによる情報の発信があるという。山元いちご農園の一番の事業といえば、「いちご狩り」であるが、震災直後と現在では約15倍にお客様が増えた。いちご狩り参加者を増やすために行っている取り組みの1つとして、いちご狩りに参加していただいたお客様の中から、素敵な笑顔の写真を撮った方に対して「笑顔で賞」が授与されるというものだった。参加者に情報発信をしてもらい、それを表彰することで、また来たいと思わせる工夫がされていた。この背景には、お客様を増やすため、復興のための努力をしたことが挙げられるのだが、マスコミやいちご狩り参加者による情報の発信が、何よりも山元いちご農園の知名度を上げることとなり、県内はもちろん、県外からのお客様がいらっしゃるようになったと岩佐社長は仰っていた。

社長のいちごに対する熱い想いが伝わってくるのと同時に、積極的に大学などとの交流を図り、風評被害に負けないいちごは山元町の方だけだはなく、関わってきた人々による発信が大事になると感じた。

農園というのは閉鎖的なイメージがあったが、いちご農園では農業分野の6次化や観光にも力をいれるという新しい経営をすることで今後さらに発展していく分野だと感じることができたとても貴重な訪問であった。

(文責:青木美菜、斎藤智宏、渡辺文香、石黒彩、木下剣一、常盤真菜、山口柊平)