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木立真直ゼミ 国内見学調査報告

訪問日時:2016年6月16日(木) 16:30~18:30

参加者 :教員1名 商学部木立ゼミナール3年生17名 計18名

訪問先 :一般社団法人新日本スーパーマーケット協会
     〒101-0047東京都千代田区内神田3丁目19-8

ご対応者:一般社団法人 日本貿易会 専務理事 河津 司様
     一般社団法人 新日本スーパーマーケット協会 事業本部部長 村尾芳久様
     同協会・プランニングマネージャー 籾山朋輝様

内容

 6月16日(木)の新日本スーパーマーケット協会訪問では、まさに最新の動向を含めて統計データや多数の実例を交えながら昨今のスーパーマーケット業界、小売業界の現状やトレンド、スーパーマーケットの魅力をプレゼンテーション形式で解説していただいた。

 河津様からは、スーパー業界の魅力についてお話をしていただいた。スーパーは多様な商品を取り扱っており、それを所管する役所もさまざまである。そのスーパーを管轄するのは経済産業省であり、河津様は経産省で流通政策のお仕事に長年関わられていたということであった。スーパーを要とするサプライチェーンにおいては人々の生活にかかわるモノ情報が絶えず動いていることから、スーパーとは、一番顧客の情報を得られる場所だといえる。消費者に対する情報の起点が小売であり、生活している人間が立ち止まる場所がスーパーなのである。まさに、顧客の需要や購買に直接、働きかけることができるダイナミックな職場であると指摘された。

 籾山様からは、近年の日本における新しい取り組みをしているスーパーについて詳細なプレゼンテーションをしていただいた。顧客のオーガニック志向に対応した新しいスーパーや、扱っている商品を利用したレストランの併設などの取り組みを紹介される中で、スーパーの仕事には取り扱う商品の幅広さや、日々変化する消費者のニーズにダイナミックに触れることから生まれる面白さがあるとおっしゃっていたことが印象的であった。

 スーパー業界はコンビニエンスストア等との競合も激化しているが、依然として力を維持しつつ成長している中小スーパーも多くあり、中には、値下げによる価格競争以外に他店舗に対する優位性を獲得するため、持続性のある差別化を目指している企業もある。多くのスーパーが価格だけではなく、顧客の多様なニーズに対応するサービスに取り組んでいることが分かった。例えば、高級スーパーの多くは自社工場を持って販売する商品を自ら作るというメーカー機能を果たすことで差別化を図っている。また一般的な価格帯のスーパーでも、目に見える場所で調理の一部を行うことにより、売場のライブ感や鮮度感を出す工夫や、肉屋コーナーのハンバーグや、魚屋コーナーの寿司など部門ごとに惣菜を置く最先端のマーチャンダイジングを行い、差別化を図っていることを知った。

 顧客の“すぐに食べたい”という即食ニーズに対応すべく、店内イートインスペースを有するスーパーが増加傾向にあるというお話があった。その中で、昔は売上に直結しないスペースを設けるよりも、売場面積を広げることが優先されていたのに対し、最近では、即食ニーズに対応することを重視し、その結果として、ニーズの対応により売上や利益率を高める戦略に転換しているスーパーが増えつつあるという内容に、小売業の柔軟性を感じた。

 買い物難民の発生する過疎化、高齢化の進む地域での出店のために物流を効率化した店舗の例として北海道のスーパーの取組みが挙げられた。従来よりも店舗を小型化し、必要な品を厳選して置くことで物流を効率化する工夫をしている。また、都心部のケースでは仕入れの権限を地域に分割することで、従来のように大量仕入れで安く売るだけでなく、野菜以外の加工食品も現地で仕入れることで、店舗の差別化を追求しているという例もあった。

 続いて、近年の食品の流通・マーケティングを取り巻く環境について統計データを基にご説明いただいた。近年、スーパーの坪数は拡大する傾向にあり、売上の坪効率が下がっている。加えて、コンビニの店舗数が右肩上がりで増加しており、小売としての差別競争が激化している。このように業態内ならびに業態間の競争が激しくなる中で、先述のような売場の差別化を図っているということである。

 スーパーの国内市場規模は17兆円と大きいが、スーパーを経営する会社約1200社のうち年商100億未満の会社は約950社であり、寡占化が進んでいない業界である。競合するコンビニは市場規模が年々増加しており、現在10兆円の市場にまで成長している。コンビニの顧客層は、従来多かった若年層に加えて高年齢層も拡大しており、スーパーとしては顧客を奪われることへの対策が必要となってくる。また、通販の市場規模も増加傾向にある。

 日本の人口は2008年をピークに減少に転じており、地方の過疎化は小売業にとって深刻な問題の一つである。過疎化する地方においても他店と差別化し顧客をつかむ工夫は必要不可欠である。例として商品、サービス、コミュニティ形成が挙げられる。

 人口動態と小売業との関係として、高齢化により外食利用者が減少する一方、中食傾向が強まり、デリカ、弁当屋、デパ地下、惣菜の売上が好調に推移している。食品の売上は核家族化、高齢化、食の洋食化などの統計データと比例して動いている。

 スーパーの業界内部の流れとしては、大手はナショナルブランドの製品を安く仕入れるため合併する動き、中堅のスーパーでは仕入れ値を安くし大手に対応するため商圏の違う会社同士で合併する動き、中小スーパーは値下げ以外の方法で差別化する動きが強まっている。

 モバイルの普及や大手ネット通販の生鮮部門への進出により今までに無かった小売業態が登場し、現在のスーパー業界は転換期にある。スーパーで働くことで身についた知識はメーカー等様々な業界でも役立てることや、商品政策が細かく変えられることがスーパー業界の面白さであることを最後に指摘された。

 プレゼンの後の質疑応答には、村尾様と籾山様にご対応いただいた。そのうち2つを紹介しよう。1つは、スーパーの長時間営業の可能性についてである。近年、コンビニとスーパーとの業態間競合が強まりつつあることは事実だが、営業時間のコンビニのような24時間化がスーパーでは主流にはなることは考えにくい。今後とも、コンビニとスーパーはそれぞれの業態にすみわけをしつつ共生していくのではないか、とのご回答であった。いま1つに、冷凍食品のスーパーにおける今後の取り扱いの見込みについてである。すでに、スーパーでの冷凍食品の値引き販売が一般化している。スーパーが割引した冷凍食品を集客の手段として使いだしたことで、冷凍食品の価格破壊が起きている。これに対抗するために、缶詰業界では高級な嗜好性の高い商品を開発したように、違う売り方を考えていく必要があるとおっしゃられていた。

 全体として、世の中の流れに常に対応するかたちでスーパーの業態が変化していることが理解できた。また、多くの業界が大手への寡占化に向かっている中で、スーパー業界は中小企業が力を持っている注目すべき業界であることがわかった。統計データと売り上げデータの関連性から、社会におけるスーパーの重要性を感じた。今回の訪問では小売の中でも特に地域に根差した形態であるスーパーの運営の面白さを知ることができた。当ゼミでは現在、小売りの差別化に関連のあるプライベートブランドや流通について学んでおり、今回の訪問で得た知識を今後の学習に役立てていきたい。

(文責・黒木美香・木立真直)