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国外実態調査
テーマ : 演習Ⅲ・Ⅳ
ゼミ名 : 山田 辰巳ゼミ
調査先 : IASB(International Accounting Standard Board)、Lloyd's、
SM Amlin社(三井住友海上火災保険㈱の子会社)、Deloitte、EY
調査期間 : 2019年2月6日(水)~11日(月)
授業科目名 : 演習Ⅲ・Ⅳ
参加学生数 : 9人(4年生)
調査の目的
① 国際財務報告基準(IFRS)を作成している国際会計基準審議会(IASB)の本部を訪問し、どのようにIFRSが作成されているかを学ぶこと。また、IASBに出向している日本人スタッフからIFRS作成の現場での経験について学ぶこと。
② 損害保険の最終的なリスクが取引されるLloyd's及びそこでのメインプレーヤーである日系のアンダーライターを訪問することで、IFRS第17号(保険契約)の背後にある損害保険の仕組みを学ぶこと。
③ 大手監査法人のロンドン事務所を訪問し、主としてそこに出向している日本人スタッフから事務所内でのIFRS教育の現状及び日本人スタッフのIFRSに携わった経験について学ぶこと。
④ すべての上場企業でIFRSを連結財務諸表に適用することが求められているイギリスの上記関係先を訪問してIFRSの開発や適用の現実を体験することで、IFRSへのより深い理解を得て、IFRSが実際にどのように適用されているかを実感すること。
- IASB(2月7日(木)午前10時から11時30分まで)
IFRSの設定主体であるIASBでは幸運にもボードの傍聴をする機会に恵まれ、どのようにして基準に関する審議が行われているかを体感することができた。ボード・メンバーが整然と英語で議論を展開している状況を、ボード・メンバーのすぐ後ろにある傍聴席で約30分にわたって聴くことができた。
また、IASBのようなインターナショナルなボードでは、様々な国からメンバーが集まっているため、さまざまな英語が飛び交っており、それらを理解する英語力ももちろんであるが、それ以上に、会議で議論されている内容や相手の意図を理解し自分の意見を主張することが求められていることが実感できた。ボード会議では、アジア国籍のボード・メンバーも活発に発言しており、その姿から、英語力よりも自分の意見を持ち、それを敵活に伝えることの重要さを実感することができた。傍聴の後は、別の会議室で、日本から就航しているIASBスタッフの方からその経験をお聞きし、海外で仕事をするための心構えなどについて有益な助言を得ることができた。
さらに、その後、IASBが2018年夏に引っ越した新しい事務所内を見学した。 - Lloyd's (2月7日(木)午後2時30分から4時30分まで)
国際的な損害保険市場であるLloyd'sを訪問するに当たり、Lloyd's で引受業務を行っているSM Amlin社(三井住友海上火災保険㈱の子会社)を訪問し、損害保険の仕組み及びLloyd'sの果たしている役割について、日本から出向されている2名の方から約1時間にわたって説明をお伺いした。それによって、Lloyd'sは、保険会社とは異なり、獲得した案件を持ち込むブローカーと保険引受人となるアンダーライターが取引を行う場所を提供するサービスを行う事業をしていることを理解した。
また、その後、Lloyd'sに入ることができるパスを保有されている日本人の方2名に先導いただき、2班に分かれて、実際にLloyd'sの建物の中を案内して頂いた。リスクの種類(マリーンなど)ごとに取引が行われる場所が異なっており、それらの異なるフロアーを見学し、また、Lloyd'sの歴史、そして過去に捉われない多岐にわたる保険を取り扱っているという他市場にはないユニークな側面についても説明をいただき、Lloyd'sの活動の状況を理解することができた。Lloyd'sの建物内で数千人の人が働いており、その活発な状況を見ることができた。非常に多くの人が働いており、その多さに驚いたが、これについては、Lloyd'sの取引では電子化がまだ十分進んでおらず、この部分での近代化が今後のLloyd'sの展開のための課題であるとの説明を受け、納得した。 - EY(2月8日(金)午前10時から11時30分まで)
EYでは、日本からの出向者4名とアメリカ人でロンドンで勅許会計士の勉強をしている方の5名の方から、IFRSの研修、教育制度等などについてお話をお伺いした。IFRSに関する会計監査サービスを提供するためには、事務所内での認定資格を取得する必要があることやIFRSデスクからのテクニカルなサポートを得る必要があること等、クライアントからのニーズにスムーズに適応できる体制が整えられていることが理解できた。また、この仕組みを全世界で展開することで、グローバルレベルで監査の品質を保つことができる仕組みができあがっていることもよく理解できた。
さらに、出向者の方々それぞれの海外経験を踏まえて、今後社会人として(取得して大手監査法人で)働いていく上で参考となる助言を多数いただいた。 - Deloitte(2月8日(金)午後1時30分から3時まで)
Deloitteでは、日本からの出向者2名と現地のスタッフ2名から、同社におけるIFRSに関連する教育及び研修、特に最近策定されたIFRSの適用や適用準備のためにどのような対応を行っているかについてお話を伺った。日本からの出向者からは、これまでの経験、そして、グローバルに活躍するにはどのようなことに気を付ければいいのかに関する助言をいただいた。また、IFRSの教育訓練に関する説明にあっては、現地の方から英語で説明をお受けした。英語での説明のため、どこまで理解できたかについては限界があるものの、英語を理解できないことは大変な刺激であった。ヒアリング力を高めることが一番重要であることを痛感した。 - その他
本報告の最後に、まず、今回の各機関の訪問では、それぞれの訪問先で多くの方々に我々のために時間を割いていただき、大変ご丁寧なご対応をいただいたことを記し、感謝を申し上げたい。このようなご協力をいただいた各関係機関の皆様に感謝するとともに、そのような機会を得ることができた私たちは、大変恵まれていると感じている。
2月8日(金)には、EYの方々やIASBの方々との食事をする機会があり、非公式な意見交換をすることが出来た。実際にグローバルなフィールドでご活躍なさっている方々の経験談は、それぞれの組織でどのような人材が求められているか、そして自分に不足しているものの多さを実感させてくれるものであった。特に卒業後海外で働いてみたいと考えている学生にとっては、今後自分自身を高めていくために大変良いお話をたくさん伺うことができた。
今回の訪問では、自分たちが2年間かけて学んできたIFRSが、実際にロンドンではどのように開発、そして適応されているのか、またそれを支えるために各機関がどのようなサポートをしているのかを目の当たりにした。また、ロンドンでご活躍されている方々のお話を聞くことは、将来どんな会計士になりたいのか、どのような形で社会に貢献していくことができるのかを考えるきっかけとなった。これは卒業を目前にし、それぞれの道を歩んでいくことに期待と不安を抱えている私たちにとって、非常にいい機会であった。
今後ともIFRSへの興味関心を持つことはもちろん、会計以外の分野においても知見を広げ、様々な分野で活躍・必要とされる人材になりたい。そのために、今回の調査で学んだこと経験したことを念頭に、長期的な目標をもって、何事にもチャレンジしていきたいと思う。
IASBの新オフィスにて撮影
IASBのボードを傍聴するゼミ生たち
Deloitte訪問時に撮影