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実態調査報告書

タ イ ト ル : タイ研修
授 業 名 : ベーシック演習Ⅱ(木1、木下 耕児教授)
調 査 日 : 2018年10月2日(火)~10月7日(日)
参加学生数: 1年生 12人
調 査 先 : Ayutthaya, Bangkok, Thailand

調査の趣旨(目的)

昨年度と同様、山田長政の時代から日本と長い国交の歴史を持つタイの首都Bangkokを滞在拠点に、その社会と文化を体感し、当ベーシック演習のテ-マであるGlobalism/Globalizationの視点から理解と考察を深めることを目的とした。具体的には、① Ayutthaya World HeritageのWat MahathatとWat Phra Si Sanphet、日本人町や王室の別荘であるBang Pa-In Palaceの見学, Elephant Ride等を通じて、長い時の流れと人の営みを体感すること、② 本学商学部の協定校であるPanyapiwat Institute of Management (PIM) のinternational Modern Trade Business Management (iMTM) 専攻の学生と共に英語で受講し、交流すること、③AyutthayaのIchitan Green Factoryと日系のToyo Seikan Co., Ltd.の工場を見学すること、④Pattayaのリゾート地を散策し、観光業を考察すること、であった。

調査結果

まず、2日(火)12:20発のタイ航空TG681が整備不良でキャンセルとなったため、羽田空港で一夜を明かし、10:35発のTG683に搭乗、同日の午後、BangkokのSuvarnabhumi International Airportに到着した。早朝の到着が午後にずれ込んだため、急遽、予定していたPattaya散策を最終日に変更した。それに伴い、Bangkok の定宿Royal Benja Hotelでの1泊をキャンセルし、AyutthayaのKrungsri River Hotelに変更、旅行代理店A & A手配の観光バスで移動した。不慮のアクシデントに迅速な対応をして下さったA & Aの宮崎 康代営業主任やタイの現地スタッフ、ガイドのフォン氏には心より感謝している。
3日(水)は、フォン氏のガイドで、昨年度と同じ観光地を訪れた。まず、World HeritageのWat MahathatとWat Phara Si Sanphetは、ビルマ戦争の傷跡を残して所々崩壊した古い石造の遺跡であるが、やはり、隆盛を誇った仏教文化の豊かさと同時に、時の流れと、争いの廃墟が持つ痛々しさを感じさせた。所々修復の作業中だったが、極めて小規模なもので、黄金色の煌びやかな仏像を安置した比較的時代の新しい寺院のメンテナンスがより重視されている印象を受けた。こうした世界遺産の維持のためかどうかは定かではないが、川をボートで行き来しながらの寺院参拝や夜間のライトアップ(前日の夜、空港からバスでAyutthayaに到着した際に確認したが、残念ながら周辺は暗闇で、実施は不定期だということであった) 等の工夫もされている。
寺院を出た後、Elephant Rideを楽しんだが、こちらも時代の流れで、観光業として昔ほどの人気はなく、縮小傾向にあるらしい。また、象を神聖視する意識の低下や、飼育の経費が賄えない等、動物保護の観点からも問題があるようであった。
午後見学した日本人町は、ひっそりとしており、小さな展示場や記念碑はあるものの、山田長政をはじめとする多くの日本人が海を渡って生活した痕跡は全く残っていない。
王族の別荘地であるBang Pa-In Palaceは、全面的にメンテナンス中であった。特別な行事がない限り、使用することはないらしいが、常時、広大な敷地内の庭園や設備を手入れし、警備の兵士を相当数拝している点は、前述の崩壊した遺跡や庶民が生活する混然とした街並みとは対照的である。
10月4日(木) は前日と同様、フォン氏のガイドと観光バスの送迎で、PIMを訪問、10:00から以下のような、組織や教育プログラムの紹介があった。

<日本語15分>

(1)CP (Charoen Pokphand ) Group
ブロイラーやポークの加工等、関連グループの国内外での活動や地域社会への貢献

(2)PIMを含むCP ALL Groupによる商品製造、書籍や化粧品の販売、マ-ケティングや広告、クレジットカード部門の紹介

<英語15分>
昨年度同様、連絡窓口となってくれているOffice of International RelationsのManager、Ms. Panisara Termkijkajonsuk等、 昨年度もお世話になったPIMスタッフによる質疑応答 (日本のセブンイレブン20,000店舗に対して、タイは何店舗か? ⇨12,000店舗)
<日本語10分>
PIMの学部、大学院における職業トレ-ニングを重視した実践教育のPRビデオ 
<英語12分>
女性スタッフによるi(nternational)MBAプログラムの解説。早口で学生には聞き取り辛かったようである。

組織や教育プログラムの紹介後、CP All Group経営の新レストランChef’s Kitchenで、昨年度もお会いしたSiam Chocksawangwong氏 (Vice-President) やスタッフ、初対面のPeerapong Hiruviriya氏(Assistant to the President for Special Affairs) 他、海外大学からの研究員20名を交えたランチを楽しんだ。春にPIM生数名が本学生協、都内のレストランや企業でインターンシップを行った際に同行していたTajima Kazuyoshi専任講師とも再会した。来校したPIM生は、当ベーシック演習にも一度参加し、今回のタイ研修参加者と会話を楽しんだことを記憶している。その時の女子学生1名が、アシスタントとして同席していた。前年度は、大学会館のような静かな場所で中大グループのみが迎えられ、同じテ-ブルに学生と現地関係者が同席する、より親しみやすい雰囲気であったが、今年度は、残念ながら、別テ-ブルに分かれており、中大生同士で会話している様子が見受けられ、少々残念であった。
ランチの後、14:15からiMTM専攻のPIM生22名と共に“Go and Thinking Skill Development”を受講した。講義はタイで非常に重視されている囲碁の具体的な戦略や攻守に関する質疑応答から始まり、「アタリ」や「シチョウ」といった用語が飛び交う上に、foreign accentの強い英語は、中大生には言うまでもなく、囲碁に疎い報告者にとっても理解しづらい内容であった。そうした点もあり、中大生は始終、寡黙であった。彼らの寡黙さについては、昨年度の報告書で「日本の英語教育と英語による専門教育の決定的な不備」と記したが、日本語で行っている通常のべ-シック演習でも状況はそれほど大きく変わらず、英語力以前の問題として、常に反省すべきである。
講義の合間に、担当のLapon Jirasophin専任講師と雑談したが、彼は囲碁五段で、日本では囲碁の人気が低いことを認識していた。囲碁は講義の目的そのものではなく、ビジネス戦略に必要な思考力の育成に活用している、ということであった。
質疑応答の後、以下のメッセージに対して、”Write down what you are going to do” (15 min., half A4 page) という質問が出され、数名の学生が回答していた。

One day morning, you wake up and see a note from your parents.
“It’s a special day. We got a birthday present for you. There is a cash card
With 86,400 baht on the table. Make your day! Remember that the validity is
Only until today’s midnight. Love…”

休憩後は、17:00まで中大生も交えて、学生同士で囲碁を楽しみ、PIM生は戦績表をつけていた。昨年度の講義は、同じく英語ながら、主要部門の一つであるホテル・観光業と、基本的なマ-ケティングに関する科目で、ある意味、より理解しやすい内容であった。一方、今年度は、囲碁がタイ文化において重要であることは認識できたが、現在の日本人一般にとっては馴染みが薄く、予備知識が必要であったため、事前の通知があれば良かったと思う。講義とレクリエ-ションがミックスされたような形式も日本の大学では見られないものであり、賛否は分かれるところである。余談ではあるが、23歳の男子学生から自己紹介があり、タイ人と日本人を両親に持ち、日本で育ったが、卒業後はタイで就職して暮らしたい、とのことであった。
10月5日(金) はホテルからPIMスタッフ手配のバン2台でAyutthaya方面に出発、1時間40分で昨年度も訪問したIchitan Green Factoryに到着した。10:00より現地女性スタッフの英語による説明を聞きながら、展示品と日本企業の技術による巨大なオートメーション工場を見学した。甘味を加えたタイ風味の緑茶は別として、中大生にも起業家Tan Passakornnatee氏のユニ-クな個性は理解できたようであった。                 
近辺のレストランでランチを済ませた後、13:50アユタヤのRojana工業団地内にある日系企業Toyo Seikan (東洋製罐) Co.,Ltd.に移動した。日本人の男性社員による20分のプレゼンテーションによると、1917年に日本の本社が、2013年にBangkok支社が設立され、飲料水や食品、洗剤のような非食品の容器製造や充填を専門としている。日本やタイなどアジアを中心に17か国の企業から受注しているそうで、日本の伊藤園などは緑茶の製造も行っている。Bangkokが大洪水に見舞われ、工場がかなり浸水した際の苦労話も聞くことができた。
工場見学の途中、質問したところ、同社の同製品であっても、一つ処理すると、再び作業を始めるまで5時間掛かるそうで、ある程度以上、大量に受注しないと効率が悪く、中小企業から要望があっても断らざるを得ない場合もあるらしい。また、Bangkok市街のマンションで家族と暮らしているが、完全な日本人居住区になっており、良くも悪くも、日本語で事足りる、ということであった。
15:20見学を終了し、17:20ホテルに到着した。PIM関連の二日間は、こうして無事終了したが、全体の印象としては、スタッフやアシスタントの中大生に対するケアが昨年度よりも雑であった。前述のMs. Termkijkajonsukとの会話から察すると、プログラムに対する需要が増え、以前よりも多忙になったことが、一因かも知れない。また、今年度の一人当たりの費用は二日目のバン送迎がないこともあり、700 bahtから600 baht に値下がっていた。
前日まで夕食は自由行動だったが、打ち上げのため18:00に再集合、 フォン氏の案内でホテルに近いNana駅を超えた一つ先のAsok駅まで歩き、Cocaというタイスキのレストランでディナーを楽しんだ。食文化も海外研修の大切な要素なのだが、前年度同様、タイ料理に対する好き嫌いは様々で、マクドナルドが一番だった、という声を聞いて少々落胆した。
本年度は、最終日に予定していた自由時間がなくなったため、日中のバンコク市街を散策する機会を得なかった。ホテルの自室がある23階から眺めると、昨年度、報告した「グローバル化」による「地域性・文化の消失」を象徴する現代的な高層ビルがさらに増え、その合間を縫うようにBTS(スカイトレイン)が走っていた。その一方で、ホテル周辺の路地に所狭しと密集する屋台や小店舗は変わらず、送迎の車窓から見える、現代の消費社会を代表するかのような高級ホテル、有名ブランド店、レストラン、それらを擁した巨大なモ-ルやアウトレットと対照的で、むしろ後者に空虚さを感じた。後日のベ-シック演習で、学生から「高層ビルやBTSは一見、発展しているようだったが、実際は表面的で、東京の都心ほど便利ではないように感じた」という意見があった。
最終日の10月6日(土)は7:30にホテルをチェックアウトし、フォン氏のガイドで初日に滞在予定だったPattayaに向かい、9:50に到着した。観光バスを降り、モ-ター2基を装備したボートで、リゾート海岸に向かった。土地は富豪の所有で、店舗はすべて借地だそうである。途中、弱いスコールが降ったが、概ね、晴れており、インド人、ロシア人、中国人を多く含む海水浴客でかなりの混雑ぶりであった。ジェットスキー、パラセイリング、バナナボートも見られたが、リゾート地というよりも、昔の海水浴場を思い起こさせるようなレトロな風景であった。
ランチの後、少々、時間を持て余した感はあったが、15:30観光バスでPattayaを後にした。途中、アメリカ系のファーストフード店が立ち並ぶインターチェンジで1時間の休憩を取り、夕食も済ませた。19:00 Suvarnabhumi International Airportに到着、出国カードやeチケット控えを紛失した学生がいたものの問題はなく、ガイドのフォン氏の見送りを受け、22:45発のTG682便搭乗までは自由行動とした。
10月7日(日) 6:55羽田空港に無事到着、自由解散した。

以上