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木立真直ゼミナール国外実態調査報告書

訪問日時:2016年8月30日(火)10:00~12:00

訪問先:JETRO (Japan External Trade Organization)バンコク事務所
(住所:16th Fl. of Nantawan Bldg., 161 Rajadamri Road, Bangkok 10330, THAILAND)

テーマ:タイにおける食品・農産物の消費や流通事情
日本の食品メーカーや食サービス業の進出状況とその課題
日本からの農産物輸出の取り組み

ご対応者:JETROバンコク事務所 農業・食品部Director 瀧山幸千夫様
同・Senior Coordinator 安田良輔様

参加者:中央大学商学部木立ゼミナール3年17名 教員1名 計18名

内容

JETROバンコク事務所において食品分野を担当されている瀧山幸千夫様と食品・農業関係コーディネーターをされている安田良輔様から、タイの日本食品事情、日本の農林水産物・食品の輸出についてプレゼンテーションをしていただいた。その概要は以下のとおりである。

日本からの農林水産物輸出先としてタイは輸出量ベースで第6位であり、ASEANでは1位である。しかしながら、前年比の輸出量の増加率は2.9%に留まり、他のASEAN諸国と比べて低く、やや伸び悩み傾向にある。その理由として、タイ系小売店での日本産食品の販売価格が高く、タイの国内消費者の所得水準とのミスマッチという点があげられる。また、日本産食品をタイで販売する場合には、関税や輸送コストが上乗せされる。さらに、タイ市場における需要が高所得者層に限られマーケットが狭いことによる需要が不安定であること、消費者からのクレームや売れ残りは輸入卸が返品に応じる契約であることが多く、そのため廃棄率が高くなりがちで、そのコストを上乗せする必要もある。

タイで販売されている商品の価格は、8を掛けて円換算すると、日本人にとっての「金銭感覚」になるという。例えば、日本産リンゴ1玉は約100~300バーツで売られているが、これを日本人の「金銭感覚」に合わせると、8を掛けた800~2400円で売られていることに相当する。今回の訪問でタイの物価は安いと感じていたが、この方法で計算すると、タイの人々にとって日本産食品はかなり高価であり、購入できる層が限られていることが容易に理解できる。ただ、タイ在留邦人数は8万人を超えるとも言われておりており、バンコク在住の日本人が日本産食品の購入者として大きな存在となっている面もある。

タイにおける日本産食品の販売先は、主に「小売」と「業務用(日本食レストラン)」であるが、そのうち外食・中食市場が大きいため業務用の比率が高い。また、タイの人々の健康志向の高まりと同時に、健康的なイメージである日本食の需要は着実に増えている。しかし、一口に日本食とは言っても「日本産日本食」、「タイ原産日本食」、「他国産日本食」が存在し、必ずしも日本産ではない。例えば、タイにおける中所得者向け日本食レストランでは「タイ原産又は他国産日本食」がほぼ100%である。

タイの農林水産業の状況を見てみると、産業別GDPにおける農林漁業の割合は12%、農林水産・食品の輸出割合は19%、農林漁業産業就業者割合は40%であり、農林漁業が依然としてタイ経済にとって最も重要な産業の位置を占めている。これと比べると、日本はいずれの指標でみても5%を下回り、輸出に至っては1%にも満たない。このことから、日本国内での農林水産業の位置付けが大きく低下してしまっていること、その結果、海外からの輸入に頼らざるを得ない状況になっていることを痛感した。

そうした中で、日本政府は、農林漁業の振興政策の一環として、農林水産物・食品輸出額を2020年までに1兆円にすることを掲げ、さらに現在は、それを前倒しで達成することを目指している。タイ向け輸出において力を入れている農林水産物・食品は、牛肉・水産物・果物・日本酒である。果物では特に柿・リンゴが人気であり、一定の市場規模となっている。しかし、現在、全体的にタイへの輸出が伸び悩んでいることは前述したとおりである。今後の農産物輸出の展望として、イチゴ、牛肉などタイ産と比較して品質面で格段に優れたものを輸出していくことが重要である。タイでの購買層は、従来の新奇性から高所得層を中心に購入していた段階から徐々に脱却し、今では中間層にまで広がっている。その際、タイが日本の農産物を生産できる自然条件を備えていることから、ただ日本から輸出して販売するのではなく戦略的に差別化しながら販路を拡大していくためのマーケティング戦略を検討していかなければならない。所得層別の課題としては、高所得層には、新規性と高品質を訴求し、かつその商品にストーリー(旬、生産方法、食文化の中の意味合い等)などの付加価値をつけて提供することで需要を喚起する。中間層には、日本産としてのクオリティーが維持でき、比較的安価なものを輸出していくことが求められる。しかし、ある程度のクオリティーで比較的安価なものはそもそも日本国内でも需要があり消費されてしまうので、タイに輸出する量が確保できないという問題点もある。

輸送コストを抑える取り組みとして、冷蔵技術の開発があげられる。今まで農産物で傷みやすいイチゴやブドウは費用のかかる航空機を使って輸送する必要があったが、近年の冷蔵技術の発展により、船で2~3週間鮮度を保ったまま輸送できるようになった。今後日本からタイへの農産物輸出の拡大にはいくつかの課題があると考えられるが、技術革新による輸送費の削減などを通して日本産食品の価格を下げるための企業の取り組みには注目したい。

最後に、瀧山様から「将来直接的に仕事に関わらなさそうなことでも、一度勉強したことは頭の片隅に残り、それがいざという時に案外役に立つ。学生のうちに専門性を問わず興味があれば様々な分野の知見を広げる必要がある」と就職活動に対するアドバイスをいただいた。自分が専攻する分野以外でも、「引き出し」を多く持った人になれるように進んで学びたいと思った。安田様からは、「ユニークさを持ち、焦点を絞っていくことで高い競争力を身に就けることができる」とのお話があった。自分をアピールするための武器を学生のうちに見つけ、プロと言えるレベルを究めることが重要だと感じた。

今回の訪問を通じて、日本産食品・農産物の海外事情をタイという他国の特徴と掛け合わせながら学ぶことができた。日本産食品を生活スタイルの異なる他国で販売することは予想以上に難しく、コスト面での課題が大きいとわかった。とはいえ、瀧山様からは、課題が大きい反面、日本人は技術や想像力に長けていると考えられ、広い視野に立って柔軟な思考をすれば、必ず何か答えが見つけられる、とのコメントをいただいた。農産物輸送の技術革新や、タイにおける日本食の動向について、より一層注目し、今回得た知識や課題を今後の研究に生かしていきたい。

なお、瀧山様には、ご多用中にもかかわらず、本報告書の最終確認と修正について多大のご協力を賜りました。心からお礼申し上げます。

(文責:徳山朝香)

 

JETROバンコク事務所にて