商学部

商学部学生がイギリスで現代イギリス社会・文化に関する実態調査を実施しました

商学部には、ゼミと連携したグローバル教育「グローバル・フィールド・スタディーズ(GFS)」があります。

商学部「国際教養演習Ⅰ・Ⅲ(担当教員:福西 由実子 教授)」の学生が、2025年9月3日~9月12日でイギリス・ロンドンを訪問し、ゼミ生の研究テーマである、現代イギリス社会における都市計画、鉄道インフラ、文学・音楽・ファッションの文化的資源化の過程に関する実態調査(GFS)を行いました。

*本調査は中央大学商学部「特色ある学部教育補助」により、渡航費用の一部補助を受けています。


国際教養演習は、世界の言語、歴史、文化等に関する知識を深め、それらと関連があるビジネスや社会活動について学習し、将来、多様な言語・文化背景を持つ人々と協働するために必要な能力の習得を目標とします。

調査報告

調査目的


 本実態調査は、2025年9月4日から11日までの7日間にわたり、ロンドンおよび近郊都市において実施された。対象は国際教養演習福西ゼミの3・4年生であり、現代イギリス社会を歴史・文化・階級・消費・公共空間といった多角的な視点から観察・分析することを目的とした。特に、ゼミ論文の基盤となる現地調査として、都市計画、鉄道インフラ、文学・音楽・ファッションの文化的資源化の過程を実地に体感し、比較研究の素材を収集することを目指した。
 また、調査中にはロンドン地下鉄のストライキという予期せぬ事態に直面し、当初予定していた一部訪問を断念せざるを得なかった。しかしながら、この事態により調査対象を柔軟に拡張し、公共交通機関や都市構造の脆弱性、市民生活との関わりを直接体験する機会となったことは大きな成果である。

調査結果


 調査は大きく以下の4つの観点から成果を得た。

バービカン・センター(Barbican Centre, London):戦後のブルータリズム建築を代表する複合施設

1. 公共文化施設と都市再開発
 大英博物館(British Museum)やナショナル・ギャラリー(National Gallery)を訪れ、帝国主義的収蔵の歴史や「公教育」としての美術・科学普及の意義を確認した。さらに、戦後都市開発の象徴であるバービカン・センター(Barbican Centre)を訪問し、ブルータリズム建築の空間構造や複合文化施設としての役割を体感した。公共住宅、劇場、ギャラリーが一体化したバービカンは、文化を都市生活に組み込む実験的モデルとして位置づけられており、現代の都市再開発を考察する上で大きな示唆を得た。

スピレラ・ビル(Spirella Building, Letchworth Garden City):レッチワースに残る産業建築の保存事例

2. 都市空間と社会階級・建築保存
 ポートベロー・マーケット(Portobello Market)の多文化的雑踏、レッチワース・ガーデン・シティ(Letchworth Garden City)とハムステッド・ガーデン・サバーブ(Hampstead Garden Suburb)の比較調査を通じて、都市設計が社会階級や土地制度と密接に結びついていることを実感した。特にレッチワースでは、田園都市構想の理念が放射状街路や緑地空間に表現されているだけでなく、かつてのコルセット工場を保存・修復したスピレラ・ビル(Spirella Building)が、産業建築の再生事例として活用されている様子を確認した。理念と保存建築が結びついた事例は、日本における都市開発研究にも還元可能な知見を提供する。

3. 文化記憶と観光資源化
 シャーロック・ホームズ博物館(Sherlock Holmes Museum)やカムデン・タウン(Camden Town)に残る音楽サブカルチャーの痕跡は、フィクションや反体制文化が「実在の記憶」として都市空間に組み込まれ、観光資源化される過程を示していた。また、ファッションにおけるスウィンギング・ロンドンの遺産が、カーナビー・ストリート(Carnaby Street)やリバティ・ロンドン(Liberty London)に受け継がれている点も確認された。
 

ヴォルクス電気鉄道(Volk’s Electric Railway, Brighton):世界最古の電気鉄道として運行を続ける観光資源

4. 鉄道遺産と地域再生
 ブライトン(Brighton)では、世界最古の電気鉄道であるヴォルクス電気鉄道(Volk’s Electric Railway)に乗車し、鉄道遺産が「動態保存」として体験型観光に活用されている様子を調査した。海岸沿いを走る電車は、鉄道が単なる交通手段にとどまらず、地域の歴史やアイデンティティを体感的に伝える存在となっていた。また、キングス・クロス駅(King’s Cross)やセント・パンクラス駅(St Pancras)の再開発事例を通じて、鉄道が「都市の顔」として再定義されていく過程を把握することができた。

まとめ
 今回の一連の調査経験を通じて、ゼミ生たちは現代イギリス社会の新たな側面を実感するとともに、社会階級や歴史的記憶、都市設計と文化の再利用といった多様な視点から理解を深めることができた。特に、レッチワースにおける田園都市の理念と建築保存、ブライトンにおける鉄道遺産の体験型観光という対照的な事例は、現代都市が歴史をいかに再解釈し、未来へと継承していくかを考える上で重要な手がかりを与えた。また、セブン・シスターズ(Seven Sisters)の断崖景観は、自然そのものが観光資源として人々を惹きつける典型例であり、都市的事例と対照させることで調査の射程をさらに広げることができた。さらに、予期せぬストライキへの対応を含めた一連の経験そのものが、大きな学びと成果となった。