商学部『スポーツ・ビジネス・プログラム』の科目の一つである「Jリーグ・ビジネス論Ⅰ(明治安田寄付講座:担当教員 渡辺岳夫)」に、7月4日(木)、水戸ホーリーホック(以下、水戸HH)の事業戦略執行役員の瀬田元吾氏が登壇しました。
Jリーグビジネス論は、主としてJリーグの各クラブの経営者・経営管理者が講師として登壇して、地域特性、スポンサー特性、スタジアム特性、サポーター特性を踏まえて、どのようなクラブ経営を行っているのかをご講義いただいています。
7月4日の講義では、最初に、日本サッカーの現在地についてご説明いただいた。FIFAランキングも上昇し、日本人選手の海外移籍が増えていることに言及された。次に、この30年間でのJリーグがどのように変容し成長してきたかをご説明いただき、そのうえで現在の世界の潮流を踏まえての春秋制への移行についてや、高卒で海外のクラブに所属するケースが増えていることに言及され、Jリーグにおける各クラブの生存競争が激化しているとの分析を示された。
その後、Jリーグクラブの経営形態が、日本を代表するナショナルカンパニーが親会社のクラブタイプ、地元の有力企業が中核的な立場として大株主になっているクラブタイプ、特定の有力企業を持たず地元の企業・個人などが支援する市民クラブタイプに三分化されており、J1には現在市民クラブタイプは存在しないとされた。水戸ホーリーホックは市民クラブタイプであるとされてから、クラブのミッション、ビジョン、バリューの上位概念としてのブランドプロミスについて、最初にご説明いただいた。すなわち、「新しい原風景をこの街に」であり、その意味は「ふと人生の節目を迎えたとき、同じ時代、同じ町で共に育ち成長できたあの日々、幸せを感じられたあの瞬間、感情を揺さぶられたあの場所、それらすべてが水戸HHと関わる日々によって記憶された風景であったと気づく。歴史を継承し未来の誰かの心に刻まれる。新しい原風景を一緒に創っていくことを約束します。」ということでした。
次に、水戸ホーリーホックを取り巻く現状についてご説明いただいた。まず日本のスポーツビジネスで最も市場規模が大きいのは、プロ野球であり、二番目は1、400億円程度のJリーグであり、内訳はJ1が約860億円、J2が約450億円、J3が約130億円であると説明されました。その後、水戸HHの売上高は約11億円(2023年度)であるが、年々売上は漸増してきていると付言されました(10年前は売上約5億円)。J2内で比較してみると、その上位半分のクラブの売上は20億円を超え、J2平均20.5億円という状況の中、水戸HHは下から8番目の売上規模であり、今後いかに売上を増やしていくのかが非常に重要な課題であるとされました。
最後に、今後の水戸HHの生存戦略について言及され、その三本柱は関係性、収益、独自性であり、事業面・フットボール面でそれらを前提としているとされた。最初に、集客の重要性をチケット収入視点、スポンサー視点、選手のモチベーション視点から説明され、しかし、水戸HHは無料招待チケットをあまり利用しないとしたうえで、特に小学生以下の子供・中高生、および高齢者に着目したチケットパートナー戦略に言及された。第二に、社会課題と地域課題に向き合うGX(グリーントランスフォーメーション)戦略について言及され、具体的には耕作放棄地に着目したソーラーシェアリング事業を、GXパートナーを獲得して展開していることを説明された。
第三に、最高の通過点戦略について言及された。水戸HHは若手中心のチーム構成を目指し、Jリーグの60クラブの中で2番目に若いチームであり、平均年齢は24.2歳(Jリーグ平均26.3歳、ラリーガ27.7歳、プレミア26.9歳)であるとしたうえで、水戸HHの戦略としては、経験値よりも若さとポテンシャルにかけ、高卒・大卒の優秀な選手を積極的獲得する方針であると説明されました。水戸HHからは、U 20 代表に2名選出されており、Jリーグの中でも屈指の選手育成クラブとの認知を得ているとのことでした。実際に、多くの選手が、J1やJ2の上位クラブや世界のクラブに移籍しているとのことでした。
戦略上重視している最後の視点は、グローバル化であるとも言及されました。ローカルの視点から、ホームタウンを大事にしたり、日本人選手のタレント発掘をしたりしてソフト面を充実させるとともに、インフラ整備事業にも力をいれつつ、グローバルも視野に入れているので、水戸としてはグローカル戦略を採用しているとのことでした。グローバルの視点として、ドイツのブンデスリーガのハノーファー96と育成業務提携を結んだことの意義を熱弁されました。
非常に論理的なご説明に学生は集中して聴講し、最後には活発な質疑応答が行われることになりました。
関連リンク
中央大学商学部「プログラム科目」(中央大学公式Webサイト)
▷「スポーツ・ビジネス・プログラム」Webページ
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/faculties/commerce/point/program/program_01/