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ロースクール
法務研究科長挨拶

小木曽 綾

小木曽 綾
教授・法務研究科長

「人は城、人は石垣、人は堀」。

信玄公が言ったかどうかの真偽はともかく、「中央大学法科大学院の特徴は?」と聞かれれば、私は迷わず、「全国に広がる法曹ネットワークがあること」と答えます。

中央大学の創始者が学んだイギリス法は、先人の知恵を受け継ぎながら、その知恵を基礎として、新しく直面する問題を正義と衡平に照らして解決するという伝統をもっており、その法思想は、徒弟制度で後世に伝えられてゆきます。条文や法概念を書物から知識として得ることはできるでしょうが、ある法を必要とする人々の営みや社会のありようと、解釈・適用されて発展してゆく法の相互作用は、独り座学してもなかなか腑に落ちて分かるという体験をすることは難しいでしょう。しかも、現代社会は常に動いています。実務家や研究者がともに教鞭をとり、全国に広がる法曹ネットワークの支援を受けたエクスターンシップなどを通じて、法科大学院で友人と共に学ぶ意義はそこにあります。残念ながらあまり知られていないようですが、中央大学は、いわゆる法曹3者の他にも、企業のトップや法務部にもたくさんの人材を送り出しています。2014年度後期度から、企業法務の一線におられる弁護士さんをゲストに招いて連続講演していただく科目も設け、その内容は、専門誌に連載されていますが、そうした学びの場を通じて得られる先達の知恵、人と人の触れ合いは、法曹として、人としての大きな糧となるでしょう。

さて、法科大学院は、専門職大学院の一角をなします。文部科学省のHPによれば、専門職大学院は「科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程として、平成15年度に創設され」た、とあります。

では、「高度専門職業人」とは何でしょうか。

私の友人の税理士さんの話です。彼が若いころ、ある老婦人の税務相談を受けた時のこと、この方が、自分の死後、子供たちになにがしかのものを残すため、所有する土地にマンションを建てたいと言ったそうです。しかし、この依頼人の場合、その希望通りにマンションを建てるのは、税金対策として決して勧められることではなかったので、彼はそのことをそのままこのご婦人に伝えたのですが、彼女はひどく寂しそうな顔をして帰っていったといい、税理士氏は、自分のアドバイスがそれでよかったのか、その後ずいぶん考えたそうです。彼は今やそれと知られた税理士さんですが、依頼人の想いや望みを徹底的に聴いて、その人の想いに応えるのが自分の仕事だ、と言います。

専門家の看板を掲げる以上、その守備範囲についての知識をもっていることは当然で、税理士さんならば、依頼人の事情に応じていくつかの選択肢を示し、そのメリット・デメリットについて分かりやすく説明することは当然できなければならないでしょう。しかし、税務の専門家は、税負担の軽いプランを示すことだけが仕事でしょうか。依頼人には、ひとりひとりそれぞれの人生があり、想いがある。そうした、人の想いを受けとめてアドバイスする、それが、世の人々が専門家に求めることなのではないかと私は思います。

さらに、「グローバルな専門職業人」という言葉が、文化や言語の垣根を越えて、日本でも世界でも一人の「士」として生きてゆくことのできる人を指すならば、法科大学院が負うべき社会的責任は、在学生教育にとどまらず、法曹となった人々のキャリア形成の支援にもあると考えます。2015年度より、若手弁護士を対象とした短期セミナーを開催していますが、中央大学法科大学院は、いわゆるリカレント教育にも力を入れてまいります。

「社会あるところに法あり」といいます。古代オリエントや中国にはすでに体系化された法の存在が記録されていますし、日本でも17条の憲法や大宝律令があります。科学技術が発達し、人やモノやサービスが国境を越えて行きかい、社会が複雑になればなるほど、種々の利益を調整したり、紛争を解決したりする法律家の需要は高まりこそすれ、衰えることはありません。英米で政治のリーダーの多くが法律家出身であるのは、理由のないことではないでしょう。リーガルサービスとそれを担う法曹は、流行り廃りに関わらず、いつの世にも必要とされる社会資本なのです。

法も伝統も紡いでゆくもの。次の世代の法曹を志す皆さんと、キャンパスでお会いできるのを心待ちにしています。

最後にひとつ。

わが法科大学院の入口には受付があって、警備員さんが常駐しています。もうずいぶん前のことになりますが、大変愛想のいい警備員さんがいました。彼は、朝な夕なに笑顔で学生を迎え、送り、励まし、修了生が司法試験合格の報告に訪れると、その手をとって共に喜びを分かち合ってくれていました。その警備員さんが定年退職でキャンパスを去る日、在学生はもちろん、修了生までもがやってきて、即席の花束贈呈式が開かれました。

中央大学法科大学院は、そうした心豊かな人々の集う場所であり続けたいと思っています。