ロースクール

法務研究科長挨拶

小林 明彦 教授・法務研究科長

正解がないから面白い・・・法律家の世界への誘い

 法律の世界に限らず、世の中は全て、唯一の正解があるわけでないことを自覚するところから成長が始まると思っています。

 善と悪、正と邪の闘いばかりなら苦労は要らないのですが、これは水戸黄門か戦隊ヒーローものの世界だけの話。「正義」という言葉をこの場面で使ってしまっては、思考停止を招きます。実際には、善と善、正と正との衝突が生じるからこそ、社会に生起する問題は難しいのです。

 ここで、正と正との衝突を解決するのが社会科学の領域であり、その重要な一つが法律学です。複数の「正」は、それぞれ論拠を持ち、同時に脆弱さを抱えます。自分の強みは相手の弱さを基礎付け、逆に自分の弱さは相手の強みとなります。その論拠と脆弱さを精密に分析し、それを上手に使いこなしていく。そしてその先に、着地点、すなわち問題の解決があるのです。

 良い法律家は、自分の意見の正統性を主張しつつ、同時に弱さを認め、相手をリスペクトする姿勢を持っています。これこそが、法律家としての実力です。これを持ち合わせていない人は、目先では多少の良いことがあっても、必ず負の反動がやってくることでしょう。私もこれまで、そうした負の事象を沢山見てきました。

 私は、1986年の弁護士登録以来、金融取引等の企業法務を中心とした弁護士業務を行うとともに、本学法科大学院開校時から民事系科目を担当してきた実務家教員です。私はこれまでの教員生活の中で、社会に生起する事象を読み解くためには、唯一の正解があるのでないことを理解し、常に複眼的視点で考察することの重要性を伝えるよう努めてきたつもりです。

 ただ、こうした複眼的な考察をする力というのは、座学だけではなく、多くの人々とのコミュニケーションや実体験を通じて醸成されるものだと思っています。教員はもちろんのこと、友人たちと議論したり、先輩のネットワークを利用したり、といった能動的な体験を通じ、新たな発見を積み重ねることによって、徐々に養われるものだと思います。

 中央大学法科大学院は、中央大学創立の精神である「実学」の伝統を尊重し、「理論と実務の架橋」という法科大学院制度の趣旨を大切にして、目先の正解探しに振り回されない足腰の強い法曹を育ててきました。これは、多数の研究者教員と実務家教員がコラボレーションする教育体制、全国に広がるOB・OGネットワークに支えられたエクスターンシップや就職活動支援、修了生である若手弁護士たちが実務講師として学生に寄り添うサポート制度など、実に豊富なプログラムを提供できているからでしょう。このことは、修了生たちが出身大学の別を問わず、異口同音に中央大学法科大学院への愛着を語ってくれることによっても証明されていると思います。

 新キャンパスのある駿河台は、中央大学の聖地です。私たちは、文京区茗荷谷に45年ぶりの都心移転を果たした法学部ともより一層の連携を深め、この聖地において、法曹養成という「法科の中央」の幹を、より太く、大きくすることにより、新しい時代に生きるたくましい法曹を育てていきます。

 私たちと一緒に、正解のない世界の面白さを知って、法律家としての真の実力を鍛えてみませんか。