理工学研究科
専攻横断型の副専攻制度を導入
理工学研究科では、副専攻制度を導入していることも大きな特徴として挙げられます。
副専攻では、新しい分野の学問や、各専攻分野の横断的なプロジェクトの中から生まれてきた学問など、これまでになかったカリキュラムを提供しています。
2023年度からはヒューマニティーズ・ランゲージサイエンス副専攻、Global Sustainability Science副専攻を新設します。また、環境・生命副専攻がWater for Peace副専攻へ名称変更し、カリキュラムも大幅にリニューアルします。
副専攻は以下の6つの分野で構成されています。
Water for Peace副専攻
テクノロジーが高度に進歩し生活の利便性が向上する一方で、地球規模の気候変動は卒業生が活躍する社会では人類共通の喫緊の課題となっています。気候変動は干ばつや資源の枯渇、森林の減少、砂漠化の広がりをもたらすとともに異常気象による水害や災害なども引き起こします。これら広範囲にわたる影響は発展途上国のみならず、先進国でも同様にさまざまな問題を引き起こしています。さらに複数の国を巻き込んで紛争問題に発展する事案も少なくありません。
また地球の8割を占める海洋の酸性化やプラスチックや油汚染、甚大被害を起こす洪水や水害、安全な飲料水や下水道の整備、地下水を含む公共用水域や湖沼の保全、船舶走行や資源開発など海洋の利用、さらにはvirtual water(畜産農産物等に含まれる水)など、「水」をキーワードとする諸問題はこれから気候変動の影響をさらに受け、ますます重要な社会課題となっています。「水」は安全保障そのものであり、グローバルな課題であり、国内のリージョナルスケールでも課題・問題を抱えています。
本学は、法学を強みとし社会に貢献する総合大学です。茗荷谷キャンパスへの法学部移転を契機として、「水」をキーワードとした技術や社会の諸問題に本学に在職するさまざまな分野の専門科教員の協力を得て、法と技術・ビジネスなど複数のリテラシーを有する高度な職業人を育成する学際的な教育研究を行います。研究科における専門性とともに「水」というテーマを通して、法や社会の仕組みと理工学・ビジネスなど複眼的な視点で社会課題に対処できる高度知識(Law &)人財を育成します。
データ科学・アクチュアリー副専攻
ビッグデータの活用が注目されているように、データから意味のある情報を抽出するデータ解析の手法は、肥大化するデータ社会において標準的な解析ツールになっています。データ解析で得られた情報・知識は、工学、医学、生物学などの理系分野にとどまらず、経済学、心理学、文学などのさまざまな学術分野のほか、ビジネスの場でも役立てられています。
データ解析に対する社会的ニーズが高まるなか、データ科学・アクチュアリー副専攻では、データ解析のための基礎理論から応用、また近年急速に発展している統計科学の方法論を学習します。さらに、各学術分野固有の特徴を十分に活かした形で、新しい観点からデータ科学の研究・教育を行います。これらの研究・教育を通し、データ科学の観点から当該分野に本質的な貢献をすることのできる人材の育成を目指します。
一方、保険・年金・金融などの分野で活躍するアクチュアリーが注目を集めるようになっています。アクチュアリーとは、確率・統計などの数理的手法を活用して不確実な事象を取り扱い、保険や年金などに関わる問題を解決し、財政の健全性の確保と制度の公正な運営に務めることを主な業務とする国際的な専門職であり、社会的ニーズも高まっています。
このように、アクチュアリーになるための基本は確率・統計にあり、データ科学と密接な関連があります。そこで本副専攻では、確率論・統計学をベースに、アクチュアリー数理および保険数理に関する研究・教育を通した人材育成も行っています。
電子社会・情報セキュリティ副専攻
コンピュータとネットワークによって構築されるサイバー空間は、人類未踏の新しい世界であり、人々により広い自由をもたらすと同時に、安全性、プライバシー保護などの面で従来になかった課題が生じています。
これらの諸課題の解決には、情報セキュリティ技術、管理運営手法、システム監査、情報セキュリティ法制度、情報倫理などの諸分野を強く連携させて、自由の拡大、プライバシーの保護、安全性の向上、監視社会への恐れの最小化を同時に達成する方策が探究されなければなりません。その意味で、情報セキュリティを対象とする学問は総合科学と言えます。
本副専攻は、学際的カリキュラムを編成し、大学の諸学科の卒業生、産業界や自治体等政府系機関の情報システム管理者・技術者など、広い層を対象とした電子ビジネスや電子政府・自治体あるいは電子医療などの分野における人材の育成を図ることを狙いとしています。情報セキュリティ分野の人材育成は、先進各国において喫緊の課題となっており、米国や韓国などの一部の大学で教育体制が整備され始めています。本副専攻のような体系的カリキュラムは、世界にもほとんど例を見ない先駆的なものです。
感性ロボティクス副専攻
感性ロボティクスとは、感性工学とロボティクスを核に、情報学、心理学、福祉工学、建築工学、経営学、哲学などの分野を横断的・文理融合的にカバーした新しい科学技術領域です。これは、単に「スマートなロボットを作る、あるいはロボットに知性・感性を感じられるようにする」という狭い接点の話ではなく、感性工学的な視点(人間の多様性・個別性)からの科学技術と、ロボティクス的な視点(人と機械、人と人の相互作用・共生)からの科学技術を融合させて、21世紀のパラダイムである「多様性と共生」を科学技術の面から支える、新しい情報社会基盤を構築しようという壮大なチャレンジです。
本副専攻では、このような新しい科学技術体系とその応用がどのように進められつつあるのか、最先端の知識を各分野の研究者から学び、彼らとの共同研究に参加して新しい技術を深く掘り下げる形で研究開発能力を身につけます。
情報通信産業・家電産業ではインターネット+モバイルネット+ユビキタスネットを融合させて人にやさしい情報機器・情報サービスの研究開発、福祉・介護産業では介護福祉ロボットやユニバーサルデザインの概念に基づく機器・サービスの研究開発、官公庁などでは都市や公共的な空間の設計等の分野での活躍が期待されています。
ヒューマニティーズ・ランゲージサイエンス副専攻
2023年度から設置されたヒューマニティーズ・ランゲージサイエンス副専攻は、理工学研究科の博士前期・後期課程に設置される副専攻プログラムです。専攻横断的な他の副専攻とは異なり、理工学研究科に所属する大学院生が、自らの専攻にかかわらず、理工系研究者として修得しておくべき学際的で人文社会科学的な教養(ヒューマン・ウェルネスの知見含む)や言語科学の知見(発表・論文作成の言語スキル含む)をともに学び合う場となります。本副専攻では、学部設置の教養演習等で提供されている内容を、大学院レベルの発展的な内容にて体系的かつ集中的に修得します。
具体的には、現代社会における諸問題(例えばジェンダー論)を科学技術との関連で議論したり、最新の言語科学的アプローチによる言語の使用・習得過程や評価方法を理論的に議論したり、言語を文化・社会・思想との関連で議論したりといった、学生の主専攻には特化しないものの、広くは理工系研究の基盤に関わるような人文社会科学的なトピックに関する知見や具体的なアプローチへの知見を深めます。まずはオムニバス形式で開講される必修科目の「ヒューマニティーズ・ランゲージサイエンス概論」によって幅広いトピックについて議論します。さらに特定のトピックやアプローチについてより深く掘り下げるために、選択必修科目の各種「特論」を履修します(選択科目の「ヒューマン・ウェルネス科目群」を履修することも可能です)。
また、本副専攻では、言語科学のスキル的な側面として、正確で論理的なプレゼンテーション・論文作成の技法を修得するための科目(大学院全専攻共通科目の「アカデミック・ライティング」「アカデミック・プレゼンテーション」や本副専攻科目「日本語リテラシー発展演習」)を選択科目として履修することもできます(加えて、一部の「特論」において、言語スキルも包括する論理的思考や批判的思考のトレーニングを行うこともできます)。なお、修得する技法の中には、研究分野や専攻を問わず知っておくべき標準的な論文執筆等のスタイル(様式)についての演習も含まれます。
最終的には、本副専攻で得た人文社会科学的な知見や言語スキルの技法を統合した実践の場としての「ヒューマニティーズ・ランゲージサイエンス特別演習」にて、リサーチペーパー(日本語または英語)を作成します。リサーチペーパーの指導は人文社会科学・言語科学の分野で研究を行っている理工学部の語人社・英語教室の専任教員が担当します。特別演習での研究内容としては、例えば、ジェンダー論と理工系研究をリンクさせたアプローチによる研究、言語習得論の知見を生かしながら自然言語処理のアルゴリズムを改善する研究等、各学生の専門分野を興味のある人文社会科学領域の視点から捉えなおすようなものが想定されます。特に博士後期課程のリサーチペーパーにおいては、そのまま学生自身の研究分野やリサーチペーパー指導教員の研究分野、あるいは学際的・融合的な分野の学術雑誌に投稿できる水準の研究を目指しますが、主に博士課程前期においては、「各学生の専門分野を興味のある人文社会科学領域の視点から捉えなお」しリサーチペーパーを書き上げるプロセスや経験そのものを重視します。
これらにより、現代社会における諸問題に対する解決策を、理工系研究者としての各自の専門的な見地に加え、学際的で人文社会科学的な教養への深い知識をもちながら、かつ正確で論理的な言語によって提案することができる人材の育成を目指します。
Global Sustainability Science副専攻
Global Sustainability Science副専攻は、理工学研究科の博士前期課程に設置されるもので、持続可能性科学の実践を担うグローバル人材の育成を目指します。広義の持続可能性科学を構成する多様な学問領域の英知を結集し、ダイナミックな学際的な教育と研究を実践していきます。標準的な修了期間は1年とし、すべての授業は英語にて行います。
持続可能性科学は、様々な分野と国境を横断する学術体系です。気候変動による自然災害の増加、生物多様性の減少、生態系サービスの衰退、エネルギー不足、貧富の格差拡大、ウェルビーイングの低下など、持続可能性を取り巻く諸問題は、相互に絡み合い、1つの分野からのアプローチでは解決することは困難です。さらに、これらは地球規模で起こる問題であり、グローバルな解決が必要とされています。
持続可能性とは、環境、社会、健康、経済活動、文化活動など、人の生活に関わるあらゆる場面において「将来にわたって機能を失わずに続けていくことができることシステムやプロセス」を意味しています。 このために、目先の利益や効率を優先するのではなく、長期的なメリットを考えて行動し、社会を発展させることが重要となります。現在SDGsとして、2030年までに解決すべき17つの発展目標が設定されていますが、これらは持続可能性における初期の問題の解決を主眼とした、いわば「マイナスをゼロにする」アプローチです。SDGsの重要性は尊重したうえで、我々は、ポストSDGsの課題として、自然環境、生態系、人間の社会生活が高レベルで調和した高度持続型社会の実現を目指します。これは、自然環境、生態系、人間の社会生活の調和が人間のウェルビーイングそのものをもたらすという新たな社会と生活様式の実現です。
そこで、本副専攻では高度持続型社会を担う、複眼視的視点と柔軟な発想力を持った、異分野融合人材の育成を目指します。さらに、地球規模での解決を担うグローバル人材を育成するため、全科目を英語で開講いたします。本副専攻を構成する科目は、環境工学、生態学、健康科学、行動科学、認知科学、情報科学、土木工学、都市計画等、自然環境、生態系、人間の社会生活を取り巻く多様な分野から構成されています。これらの科目をバランスよく受講することで、持続可能性科学のアカデミックマインドである分野融合的リテラシーを培います。