法学部

【活動レポート】熊倉 理恵 (国際企業関係法学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(12) 短期留学でスコットランドに弁護士と共に法律英語を学ぶ

はじめに

2004年8月16日から9月3日までの約3週間、法学部から「やる気応援奨学金」を頂きまして、日本からは遠く離れたスコットランドの小都会、エディンバラのエディンバラ大学(University of Edinburgh)において、「法律学習のための英語コース(English for Legal Studies)」というサマープログラムを受講しました。
具体的には、民法、刑法、不法行為法、労働法、会社法、EU法などを題材としたリーディング、ライティング、語いの学習、模擬裁判、プレゼンテーション、大学の先生を呼んでの法律に関する講演や裁判の傍聴を行いました。傍聴もただ行うのではなく、その前日の授業では裁判所制度や裁判の流れを授業で予習します。そして傍聴後には裁判内容について意見交換を行うので、そこでの意見を模擬裁判に生かすことが出来ます。
また、判例に関するプレゼンを行う前には図書館に連れていかれ、判例の調べ方から判例の読み方まで事前にきちんと教えてもらうのです。
更に、先生もクラスメートも、先に進むことより、時間が掛かっても全員が理解することが重要だと考えているため、授業で学んだことは全部理解するまでとことんやります。休み時間や放課後も理解の遅い私に友達が構ってくれ、授業のフォローをしてもらいました。毎日深夜までそれが続いて貴重な体験をたくさんさせていただきました。
以下、面白かった授業について具体的に説明したいと思います。

模擬裁判について

私にとっての1番のハプニングは、私のクラスメートはすべて弁護士で、私が1番法律の知識がなかったということです。
学校を選ぶ際、法律英語を学べる学校はイングランド、スコットランドを含め3校しか見付からず、エディンバラ大学のプログラムのみが法学部学生または法学部を卒業した者を対象にしていましたが、ほかの2校は弁護士のみを対象にしたプログラムだったため、私と法律知識のレベルにそれほど差がない学生たちが集まるであろうエディンバラ大学を選びました。
しかし、実際はヨーロッパの若手弁護士(確かに法学部を卒業した者ではある)が、仕事を増やすために、休暇を利用して法律英語を勉強しにこのプログラムを受講しているようでした。
そのため、ディスカッションなどのほとんどの授業内容においては、ヨーロッパの弁護士たちに直接質問し放題で、毎日朝から意見交換することが出来たので、普段は出来ない学習が出来ました。これぞ留学のメリットです。ディスカッションを録音しておけば良かったと思うほど充実していました。
しかしながら、留学前から1番楽しみにしていた模擬裁判については、プロの方々と行うということで、最初は本当のところ頭が不安でいっぱいの状況でした。

模擬裁判は、中央大学の英米法研究会で1度経験しているため、当初、日本と英国の裁判制度の流れの違いを理解しようなどと安易に思っていました。しかし、中央大学のサークルでやった模擬裁判は、事案の概要から台本を1から作るという点に重点が置かれていて、また当時1年生の私に与えられた役割は、証人として本番でただ台本に書いてあるせりふを言い、台本通りの反対尋問に答えるだけというものでした。
だが、今回の模擬裁判では、事案の概要(殺人事件、交通事故などの事例)と役割を先生から与えられただけで、あとは自分でせりふを考えなければなりませんでした。私は弁護側の証人役でしたが、検察ではなく私の味方である弁護側の弁護士に質問されただけで焦ってしまい、思わず“pardon?”と聞き返したりして、友達に笑われ、恥ずかしい思いもしました。
実際、本当の裁判のようなプロの弁護士の迫力に圧倒され、私の証言に対して鋭い質問をされた時には、証人どころか心細い被告人になったような気分も味わえました。

でも、そんな私に対し、クラスメートも先生もとっても優しく、私の出番の前には「リラックスだよ。大丈夫」と必ず声を掛けてくれました。終わると、「すごく良かったよ」とみんな肩をたたいてくれます。プレゼンテーションの時も同様でした。
そのような友達の励ましもあって、2回目の模擬裁判では緊張せずに反対尋問にも、うまく切り返すことが出来ました。何より感動したのは、弁護士や検察の役を演じるクラスメートたちが、即興で鋭いところを反対尋問したり、絶妙なタイミングで「異議あり」と言ったり、即興で長い最終弁論を考えていたことです。ただ傍聴するのではなく自分が参加していると思うと、感動の度合いも違います。次、私に何を尋問してくるのだろう、とどきどきしました。

最初のプレゼンテーション

プレゼンテーションは毎週行ったので、計3回行ったことになります。最初の週は、皆の前に立って、先生が提示した幾つかの法律関係のテーマから1つ選んで15分程度話すものでした。
私の選んだテーマは、司法試験でした。私は、主に司法試験予備校について話しました。日本では司法試験は最も難関な試験の1つであるため、試験突破のために何年も掛かり、受験生は、学校のみならず司法試験予備校に行く人がいることを伝えようとしました。しかし、このプレゼンテーションが大失敗だったのです。
私が行ったプレゼンのキーワードであるクラムスクール(CRAM SCHOOL)という単語はアメリカ英語なので、イギリス英語しか学んでいないヨーロッパ出身のクラスメートたちには理解出来なかったのです。プレゼンの後、先生が「クラムスクールはアメリカ英語ですが、皆さん何のことか分かりましたか」と聞いて、生徒たちが「私立の学校みたいなものですよね」と聞き返していました。
発音1つで、または難しい単語1つでも、聴衆に理解されなければプレゼンが台なしになるということは分かっていましたが、まさか私が日本での英語の授業で当たり前のように使っている英単語がアメリカ英語だとは知らず、しまった、と思いました。日本の高校でアメリカ英語を教わっていることに気付いていれば、このような失敗は回避出来たかも知れません。
この反省から、次回からのプレゼンは相手の知識、語い力はもちろん、イギリス英語を使うように注意して準備することにしました。

法学部の英語の授業で修得したプレゼンテーション

プレゼンテーションを行って分かったことですが、意外なことに私以外、プレゼンテーションの仕方をあまり知らないようでした。なぜ知らないのかはよく分かりません。スピーキングに積極的なスペインの人たちでも、プレゼンテーションが日本人より苦手というのは不思議な気がしました。
中央大学法学部では1年生の時から毎年プレゼンテーションの授業がありましたので、いきなり内容に飛び付かずに序論、結論を付けることは当たり前だと思っていましたが、ほかの生徒は全く知らなかったようでした。そこで、先生が、プレゼンの構成の仕方から簡単に教えていました。いつもは劣等生の私が、この時ばかりはこれまでの語学の授業が役に立ち、友達にプレゼンの仕方を教えたりもしました。

論理的、説得的な構成の仕方を学ぶ点は、ライティングの授業とも共通していますが、この構成が身につけば、専門ゼミでのプレゼンや日本語英語問わずちょっとしたスピーチをするにあたっても十分役に立つことが分かりました。そしてこのことがそれまでの私の劣等感を解消してくれ、私が普段の自分を取り戻すことが出来る切っ掛けになる出来事でした。これまでやってきたことに自信が持てたことが大きかったのだと思います。
2週目のプレゼンでは、大英帝国の最高裁判例全集のうち、先生が指定した有名な判例の中から1つ判例を選んで説明し、質問に答え、自分の意見を言うというものでした。これ以外にも、判例を易しく要約したものを5~10分で読み、隣の人何人かに説明することはほぼ毎日やりましたが、正式な判例を英語で読むのは今回が初めてでした。私は、親族法の養子に関する判例を選びましたが、事案の説明が複雑なので、絵にかいて説明しました。

日本の法律に関するプレゼンテーション

3週目のプレゼンは最終日とその前日の2日間にわたって行いました。今度は好きなテーマを選べたため、クラスメートたちは労働法、知的財産法、特許、アルゼンチンの裁判所とスコットランドのそれの違い、プロファイリングなど多岐にわたっていました。
私は、刑法、民法は分かりますが、労働法などは触りしか学んでいないため、知識のレベルでクラスメートと対等になれるようなトピックを選ぼうと思い、以前に大学の授業で調べたDV(家庭内暴力)防止法の問題点、解決策について説明をすることにしました。調べたところ、イングランド、スコットランドではこのDVを親族法で解決しており、個別の法律があるのはアイルランドなど少数でした。
この法律が日本で成立し、しかもその成立が画期的といえる背景には、日本が他国と違い、裁判に時間が掛かり、男尊女卑の社会が根強く存在していて、しかも裁判を避けたがる日本人の特性があります。そこで、この法を説明する前に、前提知識として日本の社会を説明することになりました。日本の法律はもちろん、日本人の特性についても生徒たちは興味を示したようで、しかも生徒たちからのプレゼン評価アンケートではクラスでも1番の評価を頂きました。
アンケートでは「のりえは熱い。日本の現行法制度を心から心配しているのが分かった」「素晴らしい。いうことなし」という評価を頂きました。先生からも、私のテーマが人権絡みの話だったため、知識がなくてもだれもが興味を持てる良いテーマであったこと、そしてほかの生徒のプレゼンより面白かったとおっしゃっていただきました。
皆さんから身に余る評価を頂いて、おだてに乗ってやる気がフルスロットルに上がってしまったのも本当ですが、自分が中央大学で学んだこと、経験したことに対し理解が得られたことを感じて自分に自信をつけることが出来ました。もっとも、ほかの生徒のプレゼンは専門的過ぎて、私はちんぷんかんぷんだったことも、ここで正直に白状しておきます。

色々な英語への対応と寮生活

留学の基本は英語力ですが、中大の授業でもって十分対応出来ました。もっとも、学生寮の友達のスペインなまりがなかなか理解出来ず、最初の1週目は何度も聞き返すことが多く、最初の何日かはストレスを感じたのも事実です。
そんな時、滞在中に大変お世話になりました、以前中大法学部で教鞭を執られており現在エディンバラにお住まいのアングス・コリンズ先生にそのことを愚痴ったところ、「色々ななまりの人がスコットランドにはいるから、なまりがない人の方が少ないくらいだよ」と慰めていただきました。この言葉は初めての留学に緊張していた私の肩の力をすっと除く魔法の力を持っていました。本当にありがたいお言葉でした。
なまりがひどくて何を言っているか分からないとあきらめるのではなく理解しようと思えば理解出来ることに気付き、なまりのせいで意思疎通の出来ない中国人とスペインなまりの友達の間に入って簡単な通訳をすることもありました。
留学では、クラスメートや学生寮の生活も大変有意義なものでした。エディンバラ大学の法学修士である中国人たちも私と同じ寮に住んでいました。彼女たちとクラスは違っても私と全く同じテキストや判例を扱っていたので、一緒に寮で夜遅くまで勉強することもありました。
彼女たちのクラスでは、クラスメートのほとんどが中国人で、日本と台湾が1人ずつという偏った構成だったせいか、同じ教材を使っているにもかかわらず、英語でのディスカッションにならず、法律についての話し合いが十分に出来なかったということです。寮の仲間たちに恵まれたことやクラス編成にも私は運が良かったのかも知れません。

最後に

この活動によって得たものは大きいものでした。判例の勉強においても、クラスメートたちは判例名を読んだだけで「あ、あの有名な判例ね」と言ってすぐ判旨の説明をしていましたが、私は初めて耳にする判例名だったことが多かったです。この知識の差にショックを受けたため彼らより私の方が予習で忙しかったように思います。
しかし、だからといってこのプログラムを来年または社会人になってから受けるべきだったかというと、そうは思いません。きっといつ受けたとしても同じくらいショックを受けていたのではないかと思います。
むしろ、クラスで最年少、しかもただの学生という肩書のおかげでクラスのみんなが基礎から教えてくれましたし、すぐに仲良くなれたおかげで、分からないことはどんどん質問出来る雰囲気でした。かえって、それが短い時間の中で効果的にたくさん学ぶには良かったのではないかと思います。
また、日本人がほかにあまりいなかったため、より以上に外国の人たちと親しくなれたと思います。朝から夕方まで一緒に授業を受け、御飯を共にし、また寮のキッチンではフラットメートたちと食事を一緒に作り、一緒に食べ、その後私の部屋に集まって延々とおしゃべりをし、一緒に毎日課される宿題をするなど授業以外でも充実出来ました。
毎日の睡眠時間がもったいなくて、夏時間のスコットランドの短い夜を更に短くし、日本では体験出来ないたくさんのことが次から次へと続く楽しさに、言い尽くせないほど充実した時間を過ごすことが出来ました。
最後にこのような体験をする機会を提供してくださった中央大学法学部の関係者の皆々様に心より御礼申し上げます。また、留学を勧めサポートしてくださったバーフィールド教授、三枝教授、スコットランドでお世話になりましたコリンズ御夫妻に申し上げます。素晴らしい時間を頂き誠にありがとうございました。

草のみどり 186号掲載(2005年6月号)