法学部

【活動レポート】森田 幸穂 (法律学科2年)

「やる気応援奨学金」リポート(89)
 インドネシアで適性技術学ぶ 貧しい国の生活改善目指して

今回、私は「やる気応援奨学金」を受給して九月一日から九日までインドネシア(フローレス島、バリ島、ジョクジャカルタ)でインターンシップを経験してきました。

インターンシップ志望理由

私がこのインターンシップを選んだ理由は、国際業務について学びたいと思ったからです。また、私は貧しい国での生活の改善に取り組みたいと思っています。テレビでこれらの問題を見て、授業で話を聞いているうちに何とかこの状況を変えたいと思うようになりました。私の祖父は私が幼いころから私たち同様世界の恵まれない子供たちの幸せをいつも願っている人でした。田舎で不便な場所に住んでいたのでそんな自分でも力になれるようなことはないかと色々調べ、UNICEFなどに募金をしたり、フェアトレードの商品を積極的に購入したりしていました。そんな祖父の影響もあり、私はこの状況を自分の手で変えていきたいと思うようになりました。生活の改善のために必要なことは何かを考えてみると、まず住民の生活環境を変えていくことだと思いました。このインターンシップは現地の様子を直接見て、この状況について聞くことの出来る素晴らしい機会であり、環境改善のための体験もさせていただくことが出来ると思い参加を希望しました。

事前学習

今回国際インターンに参加するに当たって、行き先の国について調べて勉強することは必要不可欠のことでした。私たちインドネシアグループとタイグループは酒井先生の御指導の下、歴史や言語を学びました。毎週レジュメを作り発表したことや自己紹介、簡単な挨拶などを現地の言葉で出来るようにしたことは、実際に現地に行ってから大いに役立ちました。また、私たちインドネシアグループはAPEX(特定非営利活動法人)での事前研修もありAPEXがどのような考えで今の事業を行っているかということや、国際協力や適正技術についても具体的に学びました。この事前研修があったため、現地での事業説明については理解がスムーズでした。

APEXとは

今回私が参加させてもらったのはAPEXのスタディーツアーでした。APEXは設立以来インドネシアのNGOと協力して、アジアの人々の生活向上やアジアの環境保全のための活動を続けている日本のNGOです。APEXでは、それぞれの地域の社会、経済、文化的条件に適合的で住民が参加しやすく、人々のニーズを効果的に満たしながら、環境に負担を掛けないような「適正技術」を開発し、それを普及させることを重視しています。

ジャトロファ事業

ジャトロファは熱帯、亜熱帯地域に広く存在する植物で、その種子からは軽油燃料となる油脂が採取出来ます。この植物は乾燥や病害虫に強く、荒れ地で育つことから農地に適さない土地を利用して再生可能なバイオ燃料を生産することが可能です。インドネシアでは二〇〇三年から二〇〇六年にかけて、年間一一七万㌶(全体の一・二五%)の森林が失われていて、意図的または事故による火災も多いそうです。そのため焼けてしまった土地を緑化しつつ効率良く育つジャトロファは注目され、APEXでの事業に使われています。フローレス島では、ジャトロファ事業のモデル農園と種子集積場を視察した後、ジャトロファの植栽地であるレロロジャ村とハビ村を訪問し、現地の方々と意見交換をしました。APEXが行っているジャトロファ事業は、エネルギー問題の解決だけではなく地域の貧困削減や環境保全にも寄与している複合的な事業となっていて素晴らしい事業だと思いましたが、同時に多くの問題もあり、これをどのように解決していくのかが重要だと思いました。

レロロジャ村で住民と

モデル農園と村を視察した後は、ジャトロファセンターの見学に行きました。ジャトロファセンターにはたくさんの機械があり、どのように使われているのかなどを現地スタッフの方に説明していただきました。特に印象的だったのは廃棄物や廃熱の利用で、ジャトロファセンターでは果実の殻などの廃棄物をガス化してディーゼル発電機に導入し、工場の燃料消費を節約する設備、更にディーゼル発電機の排ガスを利用して、海水を淡水化する設備も備え、廃棄物も含めたジャトロファの複合利用を図っていて非常に効率的だと思いました。

排水処理事業

ジョクジャカルタでは排水処理事業について学びました。インドネシアでは現在下水道普及率が全体でも二%程度しかなく、適切な衛生設備を利用出来ない人は約七〇〇〇万人(全人口の約三〇%)もいます。また、インドネシアは都市部ではセプティックタンク(腐敗槽、主にトイレ排水を処理)が普及していますが、処理水の水質は不良で地下水汚染をもたらしているそうです。セプティックタンクは整備、保守が悪く、生活雑排水も多くが未処理放出です。私たちが住民との意見交換のため、クリチャック地区を訪問した際に近所の子供たちが川遊びをしていたその川も生活排水や廃プラスチックなどのごみがたくさん流れ込んでいて驚きました。

生活排水で汚染された川で遊ぶ子供たち

これらの問題を解決するためにAPEXは、原理的に単純で運転が易しく、電力消費や汚泥の発生も少ない回転円板排水処理に着目し、インドネシアのNGOディアンデサ財団と協力してやしの繊維を用いた新しい回転円板装置を開発しました。耐水性、耐久性があるやしの繊維を用いた回転円板は日本の回転円板と同じようなものであるのに、製造コストは日本の五分の一だそうです。視察で訪問したクリチャック地区では一二平方㍍で七〇世帯分の排水処理を行っていましたが日本だと三-四軒分しか処理出来ないと聞き、そのコンパクトさに驚きました。また、排水処理事業については、住民参加型のシステムも形成されていました。その地域の特性や経済性に合わせた方法を採用するなど成果を持続させるためにさまざまな工夫がなされていると感じました。

バイオマスエネルギー事業

APEXではディアンデサ財団と協力して、バイオマスエネルギーの開発と普及のための事業に取り組んでいます。APEXが二〇〇〇年から取り組んできたバイオマスの熱化学的ガス化技術の開発はこれまで無為に廃棄されてきたバイオマス廃棄物を利用して、再生可能エネルギーを得ようとするものです。バイオマスガス化技術開発の課題としては、タールの除去や抑制、生成ガスの高品質化、低コスト化が挙げられます。それらの問題を解決するためにAPEXではバイオマスの流動接触分解ガス化法を考案し、技術開発を進めてきました。今回私たちはバイオマスエネルギーの実証プラントを見学し、意見交換もさせていただきました。まだまだ継続的な努力が必要ですが、APEXはそれらの課題は決して乗り越えられないものではないと考えているそうです。

ディアンデサ財団

インターンシップの研修最終日にAPEXと協力して事業を行っているディアンデサ財団のディレクターのアントン氏に話をしていただきました。そもそもディアンデサ財団の活動は村の人々の抱える問題を見て始まりました。その中でも目に留まった問題は水の問題で、お母さんたちが時間を掛け重労働で水を取りに行っていた姿が印象的だったようです。現在は水供給の問題から再生エネルギー、農業、収入の問題へと広げていって活動しています。やはり重視していることは住民の側に立つことだそうです。また、アントン氏は団体がスピーディーでフレキシブルであることが大切だと考えており、大きな団体になった現在でもこれを心掛けていました。そのために分散化して、小さなセクションでそれぞれがきちんと役割を果たすことを重視しているそうです。経済的には最初はほかのところからの援助を必要としていましたが、それから少しずつ自立出来るように取り組んでいったそうです。外部資金に頼り過ぎたり収入を重視することに固執するとうまくいかないため、バランスを重視していました。アントン氏の話から、どのように多くの人をまとめていくかなど、私が将来働くうえでの基本となる大切なことを学べて勉強になりました。

今回のインターンシップの感想

このインターンシップではたくさんの村を訪れましたが、日本と違ってまだまだ経済発展していない所がほとんどで、水や電気など生活に欠かせないものを十分に使うことが出来ない人がたくさんいました。日本に住んでいる私にとっては当たり前のことがインドネシアの人々にとっては当たり前ではないという状況や汚染された河川で楽しそうに遊んでいる子供たちを目の当たりにして、心が痛みました。インターンシップの当初の目的はインドネシアの適正技術について学ぶことでしたが、現地住民との交流をしていく中で彼らの抱えるそのほかの問題も知ることが出来ました。貧困でトイレがないことや学校に行くことが出来ないこと、このような問題が存在するということは知ってはいたものの、実際にそのような地域を訪れて初めて実態を知ることが出来たと思います。現地のニーズは現地に行ってみないと分からないと改めて感じました。今回訪れた村でもニーズはたくさんあったので何に一番困っているのかを自分の目で確かめてから優先順位を考えることが大切だと思いました。このインターンシップを通して、環境についての知識を深めることが出来たので、習得した知識を生かして国内外のさまざまな環境問題に取り組み、一般社会に貢献出来ればと思っています。またクラスやサークルの友達にも国際協力について興味を持ってもらえるように、帰国後はAPEXや現地NGOの活動について伝えていきたいです。

 今回、私は「やる気応援奨学金」のおかげでこのような素晴らしい体験をさせていただくことが出来ました。御支援いただいた皆様、アドバイスや指導をしてくださった先生方、先輩方にこの場を借りて御礼申し上げます。