法学部

【活動レポート】敕使河原 梨沙 (政治学科4年)

やる気応援奨学金」リポート(76)
 イギリスで国際関係学学ぶ(下) 一番大切な日々を振り返って

私は、この度「やる気応援奨学金(長期海外研修部門)」並びに中央大学国外留学生奨学金の奨学生として、昨年の九月から約九カ月間にわたりイギリス・ケント大学で単位認定をさせていただきました。前編(二四五号)では主に留学生活の前半期についてお伝えいたしましたが、後編ではクリスマス休暇を利用したイタリアへの一人旅、後半期の留学生活、更には東日本大震災に際した募金活動についてお伝えしたいと思います。このリポートを読んで、より多くの中央大学の学生が海外へ羽ばたき、さまざまな経験を積みたいと思っていただけることを心より願っております。

イタリアへの一人旅

私はケント大学において社会科学学部に所属しておりましたが、私の留学プログラムでは学部を越えてさまざまな授業を履修することが可能でした。私は以前より海外での語学教育について興味があったため、「イタリア語」を履修し、そして一二月のクリスマス休暇を利用して、イタリアのミラノへ一週間一人旅をしてまいりました。
 私はミラノ市内のユースホステルに一週間滞在し、ミラノ、トリノ、ベローナの三都市を観光しました。初めてのユースホステル滞在に、期待と不安が入り交じった気持ちでミラノの空港に降り立ちました。
 私の滞在したホステルはかなり小さいとても家庭的なホステルでした。到着した翌日がクリスマスだったため、ホステルのスタッフからホステル内のクリスマスパーティーに招待してもらいました。その場でホステルのスタッフを始め、ほかの宿泊客とも仲良くなることが出来ました。スタッフの一人が英語を話すことが出来なかったので、持参した辞書を片手に片言のイタリア語でコミュニケーションを取ったのですが、自分のイタリア語が通じた時は本当にうれしかったです。また、ヨーロッパ諸国から多くの大学生が集まっており、さまざまな国籍やバックグラウンドを持つ学生たちと友達になることが出来ました。
 当時、自分の英語力に対する劣等感からあまり積極的に人との交流を持てずに悩んでいましたが、スタッフやそのほかの宿泊客の温かくフレンドリーな雰囲気にも励まされ、わずか一週間の滞在で多くの友人を作ることが出来ました。宿泊客の多くが私と同じように一人旅であったため、一緒にミラノ市内を観光したり、食事をしたり、映画を見たりしていたので、一人旅ではあったのですが一人で過ごす時間はほとんどありませんでした。また、トリノ、ベローナの周辺都市には電車を利用して日帰りの観光をしたのですが、その土地でも通りすがりの人に市内を案内してもらう機会があったりしたので、結局一人で観光したのは最終日のトリノだけでした。
 たった一週間の一人旅ではありましたが、帰国する当日には一緒の部屋に滞在していたベトナム人の友人から「本当はさよならなんて言いたくないけど、またどこかで会おう」という手紙をもらったり、ホステルのスタッフからも「さみしくなるからもっと泊まっていって!」という別れの言葉をもらったり、また帰りの空港で飛行機が大幅に遅れていたのですが、偶然一緒に居合わせた中国人の人と仲良くなったり、最初から最後まですてきな出会いがたくさんの旅となりました。また、イタリア語に関しても、電車やスーパーマーケットでのコミュニケーション、そしてホステルのスタッフとの会話を通じて、旅立つ以前よりも大きく上達したと感じました。しかし、語学の上達もさることながら、知らない土地に一週間滞在し、こんなにも多くの友人を作ることが出来、そして無事にイギリスへと帰ることが出来たという点で、以前よりも自分に自信をつけることが出来ました。

友人の送別会にて。カップケーキをみんなで手作りしました。

留学生活後半について
授業、テストについて

あっという間の留学生活前半でしたが、秋学期が終わった後に自分自身の留学生活をフィードバックし、今回の留学で大きく伸ばしたいと考えていたスピ―キング能力があまり伸びていないということに気が付きました。秋学期はとにかく授業に付いていくことに必死で、毎日図書館にこもって勉強ばかりしていたせいか、英語を話す機会がなく、そして自分の英語力が伸びないことを悲観して更に人との交流を避けてしまうという悪循環に陥っていました。
 そのことを考慮して、かなり悩んだ選択ではありましたが、後期は基本的に現地の一年生が履修するレベルの授業を取ることに決めました。残り半年しかない留学生活の中で、勉強以外の活動や英語で多くの友人ともっと交流する機会を持ちたいと考えたこと、そして一年生と一緒に基礎的な科目を勉強する方が、セミナー形式での授業により積極的に参加出来ると考えたことが理由です。
 故に、後期は前期に引き続き「イタリア語」「EUの政治と政策」、そして一年生の科目である「国際関係史」と「現代日本のメディアと文化」という授業を履修しました。「国際関係史」の授業は、国際関係を学んでいる学生だけではなく、私のような交換留学生や、歴史、哲学、更には野生保護など国際関係以外の専攻の学生も多数履修しており、セミナー形式の授業ではさまざまな視点から国際問題を分析することが出来ました。この科目は大変評価が厳しく、思うような成績を取ることが出来ませんでしたが、反省材料としてこれからの勉強に生かしていきたいと思います。「現代日本のメディアと文化」は、日本の広告やメディアの報道の分析を通じて、日本の文化や日本社会について学ぶというものでした。ケント大学には、「国際関係学と日本での一年間の留学」というプログラムがあるのですが、この科目は主にそのプログラムに所属する学生が履修していました。日本に関する授業ということもあり、セミナー形式や講義形式の授業においても発言を求められる機会が多く、スピ―キング力を大きく向上させることが出来ました。
 春学期もあっという間に終わり、いよいよ試験の時期が近付いてきました。ケント大学では四月のイースター休暇の後に、その年に開講されたほぼ全教科の筆記試験を行います。初めての英語の論述試験への不安からテスト勉強中に何度もくじけそうになりましたが、何とか無事にすべて乗り越えることが出来ました。
 一年間の勉強を通じて、さまざまな新しい知識や視点を得ることが出来たことは、私の中で掛け替えのない経験となりました。また、現地の学生の、自分の研究内容に対する熱意にもとても刺激を受けました。残りの中央大学での学生生活でも、この姿勢を忘れずに、しっかりと最後まで多くのことを学び吸収していきたいと考えています。

留学生活について

留学生活後半も、サークル活動や友人との交流を通じて、多くの大切な思い出を作ることが出来ました。
 サークル活動に関しては、前編でも述べたとおり、日本人と日本に興味のある学生の交流サークル、そして動物の権利について考えるサークルの二つに所属し、毎週のミーティングに参加していました。特に前者では、日本文化のワークショップ、日本の映画鑑賞、そしてピクニックやロンドンへの日帰り旅行など、たくさんの思い出を作ることが出来、そして多くの友人を作ることが出来ました。ワークショップの中で、日本語を教えるというワークショップを行ったことがありましたが、日本語の母語話者である私たちから「生きた日本語」を学ぶチャンスとあって、多くの学生がかなり熱心に日本語を勉強している姿を見て、日本人としてうれしく思ったと同時に、自分自身の英語学習へのやる気をもらうことが出来ました。
 そして、同じ時期にイギリスに留学していた中央大学法学部の星野敬太郎君と同総合政策学部の横山功君と共に、学員会ロンドン支部の先輩方とお会いすることも出来ました。学員会ロンドン支部とは、現在イギリスで御活躍中の中央大学の卒業生の方々が所属されているグループです。現在中央大学でのそれぞれの経験を生かして、ビジネスや起業、更にアカデミックな分野などさまざまな活動をされている先輩方とお会いし、そして先輩方の経験談や今までの御活躍をお話しいただき、また当時私たち三人が不安に思っていた将来のことや就職活動についてのアドバイスなどをいただく機会を得ることが出来、とても有意義な経験となりました。
 また、後半はボランティア活動に参加したくて老人ホームへ伺ったところ、相手の英語のなまりが強過ぎて全く理解出来ず、「本当に英語を話せるのか」と聞かれてしまったり、将来の就職のことが不安でイギリスに来た理由を見失ってしまったり、人間関係が円滑にいかずに悩んだりと、かなりつらい経験を多くした期間でもありました。しかし、以前の私ならふさぎ込んでただただ落ち込んでしまっていたところを、多くの友人のサポートのおかげで、どんなにつらく傷ついても前を向いて進んでいく勇気を得ることが出来、最後までとても有意義な留学生活を送ることが出来ました。イギリス留学中のすべての出会いに、心から感謝しています。

東日本大震災の募金活動

二〇一一年三月一一日のことを、私は今でも鮮明に覚えています。友人からの国際電話で日本で地震が起こったことを知り、すぐにインターネットで最新の情報をチェックし、津波や燃える気仙沼の映像、そして帰宅難民があふれ返る東京の映像を目の当たりにし、本当に言葉が出ないくらいのショックを受けました。その日はBBCも一日中日本の地震のニュースを放映していました。
 このような状況下で私たち日本人留学生を支えてくれたのは、周りの人々の温かい励ましでした。ハウスメートの一人が日本の地震のことを知るなり「今まで日本は世界の国々を助けてきてくれた。だから今度は世界が日本を助ける番だ」と、ショックに打ちのめされている私に優しく声を掛けてくれました。また、友人の一人は落ち込んでいる私を見て、教会に祈りをささげに行こうと誘ってくれました。私が留学していたケント大学の近くには、カンタベリー大聖堂というイギリス国教会の総本山があります。その中の一角に、日本への祈りをささげる専用のブースが設けられており、多くの人が日本の復興を祈ってキャンドルをささげてくれていました。
 そのような周りの人々からの励ましに支えられて、私たち日本人留学生も日本のために何か出来ないかと考え、三月一六日から一八日までの三日間、ケント大学カンタベリーキャンパス内で有志の日本人留学生が中心となって募金活動を行いました。ポスターやSNSでの告知、手書きのちらしなどの広報活動の結果、三日間に実に多くの人々が日本のために募金をしに来てくれました。また、三日間とも大変厳しい寒さの中、エッセーの締め切り直前で忙しい時期にもかかわらず、多くの日本人以外の学生がボランティアとして活動に参加してくれました。イギリスから何千キロも離れた小さな島国のために、こんなにもたくさんの人々が祈りをささげ、そして一緒に日本のために活動してくれたり募金をしてくれたりするなど、その温かい支援に心から感動しました。結果としては三日間で約四〇万円もの義援金を大学内で募ることが出来、イギリス赤十字社に寄付いたしました。また、私たちの活動は地元紙にも取り上げられ、多くの人が日本の震災について関心を持ってくれているのだとうれしく感じました。また、その一週間後には私の所属していた日本サークルやそのほかのサークルが合同で、日本のためのチャリティーデーを企画し、募金活動やチャリティーバザーなどを通じて日本の支援のために活動してくれました。
 今回の震災がきっかけで、このような国境を越えた人々の優しさに触れることが出来、とても感動的な体験となりました。また、大学内のカフェで隣に座っていた人が、BBCが日本のニュースばかりを取り上げているのを見て、「日本ばかりしかやらないからつまらないよ」という心ない発言をしているのを聞くなどの大変ショッキングな出来事もありましたが、今まで他国で災害が起こった時に、自分自身も今回のように積極的に活動に参加してはいなかったと自分の行動を反省するきっかけとなりました。

留学生活を振り返って

昨年の九月、私はイギリスに向けて旅立ちました。成田空港から飛び立つ瞬間、期待と不安で胸がいっぱいだったことを今でも覚えています。帰国後、SNSなどを通じて私の後輩たちが現在留学先で奮闘している様子を見ていると、当時のことを懐かしく思い出します。
 イギリスへ到着して最初の一カ月は、日本に帰りたくて毎日部屋で泣いていました。慣れない環境、英語が話せないもどかしさに毎日押しつぶされそうでした。しかし、留学生活最後の一カ月間は、留学生活が終わってしまうことが悲しくて毎日泣いていました。九カ月間苦楽を共にした友人たちとの別れの瞬間を思い出すと、今でも熱いものが込み上げてきます。留学生活を振り返ると、本当に留学先で出会った多くの友人の支えなしには、乗り越えられなかった壁が幾つもありました。留学先でのすべての出会いに心から感謝しています。
 たくさんつらいことがありました。自分らしさがなかなか出せなくて悩んだこと、英語が出来なくて悩んだこと、差別を感じたことなど、数えれば切りがありません。イギリスに来なければ良かったと本気で何度も思いました。自分が今までいかに甘えて生きてきたかを思い知らされる瞬間が幾つもありました。前編にも書いたのですが、留学とは「自分自身との闘い」であると思います。自分の限界に直面し、そして自分自身の力で限界を超えていかなければいけません。それは想像以上につらく、苦しいことでした。
 しかし、そのような苦しみを乗り越え、たくさんの大切な思い出を作ることが出来ました。楽しかった瞬間やうれしかった瞬間も、数えれば切りがないほどです。たくさんの仲間と共に励まし合い切磋琢磨しながらさまざまな局面を乗り越えたこと、たくさんの仲間と素晴らしい時間を共有出来たこと、そして国籍や文化を超えて分かり合えるような関係を築けたことなど、素晴らしい経験をたくさんすることが出来たと思います。
 現在、ケント大学から多くの友人が交換留学生として日本にやってきています。先日何人かの友人に会う機会がありましたが、皆日本での新しい生活を楽しんでいるようで安心しました。また、SNSなどを通じてケント大学やミラノで出会った友達とも連絡を取り合うことが出来ています。帰国してもずっとつながっていられるような関係を築くことが出来たということも、今回の留学が私に残してくれた大きな財産であると思います。
 そして、今回の留学を通じて、今までよりもずっと自分を成長させることが出来たと思います。成田空港に到着した時に、自分の中で新しい風が吹いているのを確かに感じました。今回の留学を通じて、自分の弱い部分を目の当たりにするという場面も多くありましたが、今までちゃんと評価出来ていなかった自分自身の良いところ、新しい可能性を発見することが出来たように思います。九カ月間にわたって日本から遠く離れた国で勉強し、色々な困難を乗り越え、充実した有意義な留学生活を送ることが出来たという点で、少し横柄に聞こえるかも知れませんが、自分自身を誇りに思います。
 最後になりましたが、今回の留学に当たり、御協力くださったリソースセンターの方々、法学部事務室の方々、国際交流センターの方々、三枝先生、ニックス先生、バーフィールド先生を始めとする先生方、そしてこの「やる気応援奨学金」という素晴らしい制度に心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。

草のみどり 250号掲載(2011年11月号)