法学部
【活動レポート】有路 恵/宇佐美 優樹/松田 真実
「やる気応援奨学金」リポート(26) ナミビアで国際インターン(上) 大自然と出合い過ごした日々
有路 恵 (法律学科2年)
ナミビアへの道のり
国際アカデミックインターンシップ(外交と国際業務)。それが私たちをナミビアへと送り出してくれた授業だ。そもそも、法学部が提供しているアカデミックインターンシップは、行政、NGO・NPO、法務、そして2つのプログラムで構成される国際の4分野に大きく分かれる。
この国際インターンは、前期に教授6人の交代による専門分野別レクチャー、夏または冬休みの間にインターンシップ、そして後期に報告会という流れの通年の講義で、4単位が付与される。インターンシップ先は学生がそれぞれの興味・関心に応じて出した希望に基づいて決定される。タイ、スイス、アメリカ、フィリピンそして日本国内の国際協力機構(JICA)や外務省と、行き先やその目的もさまざま。年度によって行き先が例年と異なることもしばしばある。
講義の内容は、各教授の専門分野と外交を関連させたものだが、ナミビアに関連した授業内容といえば、ヘッセ先生のNGOとジャーナリズムの関係、横田先生の国連とその組織、北村先生の国連開発計画(UNDP)についてのものだった。
第一、いったいなぜ、ナミビアか? ナミビアと聞いて、まずそこがいったいどこの国か、そもそもアフリカにある国かどうかも分からない人は、日本人なら少なくないと思う。ましてや、それがいったいどのような国なのか、などということは論外だ。
ナミビアは今年初めて開拓されたインターン先であり、実際、ヘッセ先生が自分の引率するインターン先はナミビアだと言った瞬間、ああ、あそこね、などと落ち着いた反応を見せた学生はいないに等しかった。ナミビア?アフリカ?アフリカのどこ? 教室にはクエスチョンマーク、そして興奮の入り混じった声が飛び交った。
そのインターンの内容は、先生の説明を聞く限り、自然の保護に取り組むNGOの訪問、砂漠の研究施設訪問など、普段の講義の内容からすれば少し異色のものだった。にもかかわらず、希望者は定員を上回り、選考は難航した。
やはり日本人には全くといって良いほどなじみのない国ナミビアに異国情緒をそそられたか、はたまた真剣にそういった問題に関心があり将来NGOやそのほかの国際機構で働きたいと思っているからか。また、興味はあるが将来のビジョンは明確ではなく、それを決定する契機にしようという人もいたかも知れない。人によって動機はさまざまだろうが、少なからず異国情緒をそそられるような感情はだれしもが抱いていただろう。
結局、私を含めた女子学生7人が、法学部の「やる気応援奨学金」の支援を得て、ナミビアに行けることになった。
大まかな活動内容を先に述べておくと、まずは、野生動物や生態系の保護を手掛ける3つのNGO、そして、砂漠の研究・教育機関GRTCの訪問が挙げられる。前者ではそれぞれ鳥や小動物、サイ、チーターの保護や保護にかかわる現状や問題点などを、後者では世界有数の美しい砂砂漠として知られるナミブ砂漠のことや太陽光発電について学んだ。
次に、元ナミビアUNDPの職員で現ナミビア政府の環境観光省の職員であるパックストン美登利さん、現ナミビアUNDPの職員山本晃子さん、ナミブ砂漠のツアーガイドをする北田百合さんという、3人の日本人女性との出会いがあった。ナミビアに居住する日本人は決して多くはないのに、ナミビアで出会った日本人がみんな女性であったのは驚くべきことかも知れない。
美登利さんと晃子さんからは、国連やUNDP、ナミビア政府や近隣諸国の個々の、あるいはそれぞれがタイアップして取り組んでいる計画などについてレクチャーを受けたり、今の職に就くまでの経歴を聞いて大いに刺激を受けたりした。百合さんには、ナミブ砂漠を徒歩で案内してもらいながら砂漠の動植物や生態系について教わった。
そのほかにも、地域の人も含めた色々な方たちと出会い、大変興味深く実りの多い話を聞かせていただいたのであるが、忘れてならないのは、海に台地、砂漠といったナミビアの広大な自然との出合いであり、冒険である。机上の勉強だけでは知り得ぬその美しさ、雄大さ、そしてそのいとおしさには、見る者に「守らねば」と感じさせる強い説得力があった。
私たちがナミビアの大自然で過ごした毎日は、日本では得られない情報と経験にあふれていた。限られた誌面で私たちの経験したことのすべては語り尽くせないのはもちろんであるが、それでも1人でも多くに、日本人には知名度の低いナミビアという国と、そこで私たちが5感をフル回転させて学んできたことについて、ここでぜひ共有していただきたいと思う。
宇佐美 優樹 (国際企業関係法学科2年)
ナミビアという国
「ナミビアは人口と牛の数が同じなんですよ」と現地の国連職員の方は笑って語ってくれた。しかしこれはすごいことである。
日本の国土面積の約2倍の国土面積を持つナミビアの人口密度は1平方キロ当たり2人(日本の人口密度は1平方キロ当たり337人)。180万人という人口は中央大学多摩キャンパス付近の4つの市の人口を合計したものとほぼ同じほどでしかない。確かに、私たちが2週間掛けて旅してきた間に出会った、若しくは見掛けた人数を合計してもその数は渋谷のスクランブル交差点に5分も立てば出会えてしまう数に及ぶか及ばないか、というくらいだ。
わずかな人しか住んでいないこのナミビアの自然は人間の手に侵されておらず、木々や土地、動物はありのままの姿を保っている。それは日本とは比べ物にならないほど膨大で、力強く、美しい。
赤褐色の砂丘と真っ青な空のコントラストが有名なナウクルフト国立公園のデッドフレー(枯渇した砂漠の沼地)は、何百、いや何千年前も昔から存在しているもので、その乾きあがりぱりぱりとはがれた石灰で出来た地面を裸足で歩いた時には何ともいえない感動とさまざまな思いが込み上げてきた。また、私は人生で初めて、一直線の地平線に沈む夕日や、広過ぎて視界に収まり切らないほど広い空を見た。
この素晴らしい自然は無口だが、その静かさや穏やかさ、広大さは、私たちに実に多くを再確認させてくれた。
私たちが抱えていた悩みなど本当はちっぽけなものだったのかも知れない。時間に追われる日々では一息ついて冷静に物事を見詰めることさえ忘れていたかも知れない。知らず知らずのうちに型にはまった考え方しか出来なくなっていたかも知れない。自然が、自らで生態系を管理し、維持しているのに対し、私たち人間は自ら生み出した問題もコントロール出来ず、その素晴らしい生態系を壊し掛けているのだということさえも忘れていたかも知れない。
ナミビアは、南西アフリカとして19世紀末にドイツ領になり、後に南アフリカに占領・統合された。そして国家が独立し、今のナミビア共和国という名前になってからわずか16年しかたっていない、極めて新しい国だ。それゆえにナミビアの発展とそのプロセスは世界的にも注目を浴びている。
1996年、ナミビア政府は、家畜の放牧地の共同管理にはほとんど無関心だった先住民の暮らす土地に保護区を設けて、野生動物の数を増やし観光客を呼び込む事業を発足させた。先住民たちが共有地保護区を共同で管理し、収益を上げる、地域経済の振興策だ。環境観光省から認可を受けた組合は、野生動物など共有地の資源を管理し、その一方で従来通り農業や放牧を続けられる。
その共有地の総面積は7万3000平方キロ以上で、組合員数は3万9000人を超えるまでに成長し、組合の管理、運営と事業によって観光客が増え、地域での雇用機会も増加している。野生動物の数が増えると、観光客にとって大きな魅力となるため、密猟は減り、自然環境の維持にも地域住民が積極的に取り組むようになっているというシステムだ。
まさにナミビアという国家の発展にとって自然を守ることは最重要項目なのだ。自然と共存し、それが国を発展に導く観光振興につながるという相関関係を持つナミビアは非常に興味深く、その政策は発展した国際社会の手本となりうる姿を示してくれているようである。そういった意味でナミビアは先進国だった。その広大な土地の割に人口が少ないということも、これからのナミビアの成長の可能性をより高いものにしている。
政府や国連、NGO、先住民、農家など、ナミビアの発展に寄与する存在は多様で、更にそれぞれが協力し合い、さまざまなかかわり方で貢献している。私たちがどのように、どのレベルでこの国際社会に貢献出来るのかということを考えるきっかけを作ってくれたのもまた、このインターシップのおかげなのだ。
松田 真実 (国際企業関係法学科3年)
野生生物と共に生きるNGO
さまざまな形でナミビアという国家とその自然に貢献する組織の1つに、NGOがある。今回のインターンシップでは、「前線」で働くNGOのうち、ナミビアで成功しているものを幾つか訪問したので、3つほど紹介させていただきたいと思う。
まずは、野生生物(特に鳥類や、小さいほ乳類)の保護を行うNARRECだ。NARRECでは、傷ついたり親とはぐれたりした野生生物の治療をし、自然へ返す活動をしている。また、環境教育にも力を入れており、動物の生態から野生生物の取引市場の現状まで、幅広いプログラムを持っている。
私たちはまず、ここで作られたランチを頂いた。メニューはパン、温野菜のサラダ、新じゃがの煮物である。そしてこのランチ、何とすべてソーラークッカー(太陽熱のみを利用して、加熱調理出来る器具)で作られたものなのである。ソーラークッカーは万能調理器。肉、野菜、御飯やパンでさえも、1~3時間で調理出来るのだ。環境に全く負荷を掛けずに調理が出来るこの器具に、私たちは本当に驚かされた。
その後、NARRECで保護されているさまざまな種類のワシやタカ、カラスにミーアキャットを実際に目にしながら、彼らの生態や、彼らを取り巻く乱獲、密猟などの問題についてレクチャーしていただいた。野生生物の取引市場は巨大なもので、彼らの生命を大きく脅かすものになっているのである。
次に、サイの保護センター、SRTを訪れた。私たちはここで、ライオンやゾウ、ハイエナの生息する地帯のすぐそばでキャンプ生活をした。水しか出ないシャワーに寝袋だが、この2泊は私たちが最も楽しんだ晩だったかも知れない(ちなみにここでは一晩中火をたいているし、2階なので安全である)。
SRTでは、黒サイの保護を行っている。SRTに到着した次の朝、スタッフのルリーにレクチャーをしていただいた。サイの角は工芸品や漢方薬の材料として珍重され乱獲が進み、特にアフリカに住む黒サイは過去25年で6万5000頭から2300頭まで激減、絶滅寸前の状態にあり、ワシントン条約で絶滅危惧IA類に指定されている。SRTではそのサイを保護することにより、生態系全体をも保護出来るとの信念の下、活動しているのだ。
そしてレクチャーの後、SRTのあるパーム・ワグで、サファリに行くことになった。たくさんの野生のキリン・シマウマ・オリックスなどに出合う。ここを案内してくれたのはジェフというアメリカ人のスタッフ。ジェフは29歳で、今回の旅では割と私たちと年齢も近く、人生の先輩、という感じで話を聞かせていただいた。
彼は南アフリカの大学で生物を勉強した後、ナミビアと中国を行き来しながら野生生物の保護に努めている。彼はある日、1頭の美しいチーターに出合い、野生生物に魅せられて、そのまま一直線に努力を続けている。私たちは彼から、本当に好きなこと、夢中になれることを追求して生きていく姿勢の格好良さに気付かされたのだ。
最後に、チーターを保護するNGOであるチーター保護基金(CCF)を紹介したいと思う。
CCFは、女性のドクター、ローリー・マーカーによって1990年に設立された基金であり、世界中で最もチーターの生息数が多く、理想的な生態を保っているナミビアにおいて、チーターの調査を行うと共に、教育機関も設置している。目的は世界に向けてチーターと、生態系すべてを保護する必要性があると周知させていくことと、生態系を守るための資金調達をすることである。
ここで私たちは幸運にも、設立者のローリーとランチをさせていただく機会を得た。実際に会ったローリーは、強いオーラと、意志の強さと行動力を物語る美しい目を持った方だった。彼女は、生態系の頂点に立つチーターを保護することにより、その生態系すべてを包括的に保護出来る、という理論に基づき、精力的に資金集めの営業に、忙しく世界を駆け回っている。
3つのNGOで、さまざまなお話を聞かせていただき、私たちは一言でNGOと言ってもそれぞれが独自に目的を設定して活動していることを知った。NARRECやCCFでは教育や実際に自然を観察し、保護することに重点を置いており、一方でCCFのように、活動に不可欠な資金調達や広報に重点を置くNGOもある。
しかし、それぞれのスタッフの方々は皆、自分の仕事に強い興味を持ち、使命感を感じながら、誇りを持って仕事をしている、という印象を受けたし、実際にそう語ってくださった。この旅で、私たちは、いかに働くかはすべて自身の意思と行動力にかかっている、そう気付かされたのだ。
ここまで、ナミビアに行くまでのプロセスや、ナミビアという国について、そして前線で働くNGOについて紹介させていただいた。しかしそれだけではこの国と私たちの学んだことを語るには十分ではない。
まだ、この旅は、始まったばかりである。
草のみどり 200号掲載(2006年11月号)