法学部

【活動レポート】藤本 陽子 (政治学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(43) 多文化主義国カナダで学ぶ(上) 多角的に国際協力の意義探る

はじめに

現在、私は法学部の「やる気応援奨学金長期海外研修部門」の御支援を受け、カナダのバンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)に2007年8月から2008年4月までの予定で認定留学をしています。今回は留学リポート前編ということで、留学までのいきさつ、大学とバンクーバーという街の紹介、そして冬休みまでの学校生活について御紹介したいと思います。

留学までのいきさつ

私は入学当初から漠然と「在学中に留学をしてみたい」という気持ちはあったものの、初めは単なるあこがれに過ぎず、その目的は明確ではありませんでした。しかしながら、大学で政治学を専攻し、とりわけゼミで国際政治経済学について多くのことを学ぶにつれて、「国際協力」と「多文化共生」の2つのテーマに強い関心を持つようになりました。また、3年次の秋から日本へ逃れてきた難民を支援するボランティアを始めて以来、日本の国際協力に疑問を感じ、外国に出て勉強することで日本をより客観的に観察すると共に、さまざまな国籍の学生と学生生活を送ることにより、本やテレビなどからは知ることの出来ない世界の状況についてもっと知りたいと思うようになりました。
現在、「国際協力」という名の下で、さまざまな活動、例えばODAによる経済的支援や企業による植林活動などが行われていますが、それらが本当に現地の人々の役に立っているのかどうかということは意外と簡単に評価出来るものではありません。将来何らかの形で国際協力にかかわりたいという意思がある以上、ぜひともより多角的視点から日本と世界について学びたいと思い、最終的にこの留学を決意しました。

UBCとバンクーバーという街

カナダは移民国家として知られ、国家の政策としても多文化・英仏二言語主義を採用していますが、とりわけバンクーバーはカナダ西海岸に位置し、その美しい景観と過ごしやすい気候のために世界中から多くの人々を引き付けています。そのため、UBCへの正規留学生の比率も10%を超え、更に毎年138カ国もの国々から交換留学生が訪れており、世界中の学生と共に学びたいと思う私にとっては格好の留学先となっています。
都市の規模もトロント、モントリオールに次いで第三の都市であり、現在は2010年冬季オリンピック開催予定地として更なる開発が急ピッチで進んでいます。UBCのキャンパスでもアイスホッケーの試合が開催される予定になっているので、スケートリンク場やその周辺の環境が整備されています。
こちらでは大学のキャンパスの概念が日本と大きく異なり、UBCのキャンパスは面積で言えばダウンタウンよりも大きく、キャンパス内には授業を行う建物や研究機関、学生寮だけでなく、コンサートホールや映画館、カフェ、レストラン、民家まですべて含まれていて、一種のコミュニティーのような性格を持っています。そのため、初めのころは教室を探すのも一苦労で、まずは建物の〝アドレス〟を確認し、キャンパスマップに書き込んでそれを頼りに移動していました。建物の名前だけでは通り掛かりの人に尋ねてもなかなかたどり着けないのです。

想像以上にハードな日々

UBCは中央大学の協定校ではないので、先生方や国際交流センターの方々にお世話になりつつも、基本的には留学までの手続きを一から自分で行ってきました。最終的に留学許可が下りたのが去年の5月初旬で、すぐに寮の申し込みをしたのですが、入寮希望者が5400人待ちという状況で、部屋探しから始めなくてはなりませんでした。そのため、オリエンテーションが始まる2週間前にはバンクーバーに移動し、インターネットでルームメート募集の情報を探しては見学に行き、交渉をする日々を送っていました。先に述べたようにバンクーバーは現在急速に発展しているため、貸し部屋も大家さんに有利な状況。たった8-9カ月間の契約ではなかなか交渉が成立せず、8月末にはかなり焦っていましたが、何とかフィリピンから移民としてやってきた御夫婦の家でルームシェアをさせていただけることになりました。当初は学生同士でのルームシェアを希望していましたが、授業開始までの時間がないこと、キャンパスからは遠くてもバス停から1ブロックという立地条件の良さなどから妥協せざるを得なかったというのが実情です。
大学が始まってから初めの1週間は留学生向けのオリエンテーションで、キャンパスに隣接するビーチでバーベキューをしたり、ボートクルーズ・パーティーに参加したりと、文字通り世界中から集まった学生と知り合う機会がたくさんあり、楽しい思いばかりをしていました。しかし、いざ授業が本格化すると日々のリーディングに加え、中間試験、リサーチペーパー、期末試験と常に何かに追われている状況で、家であろうと学校であろうと朝から夜まで机にかじり付く日々が続きました。寮に住んでいれば特に待ち合わせなどしなくても気軽に友達と会って息抜きすることも出来たのでしょうが、大学自体も巨大なうえに、皆忙しくしていて、授業の前後に少し話をする程度で、ほとんどの時間を孤独

に英文と格闘して過ごしていました。留学前には「平日は勉強に没頭したとしても、週末くらいは友達とのんびり過ごせるだろう」とのんきなことを考えていたのですが、現実は想像以上に厳しく、落ち込むこともしばしばありました。
しかしながら、今振り返ってみれば精神的にはかなりきつかったにしても、1日に大量の英文を読みこなす体力が付き、またさまざまな文献を読むことによって、今までよりも多角的な視点で物事をとらえられるようになった気がします。以下、第1タームで履修した授業について詳しく御紹介したいと思います。

国際政治学入門

「国際政治学入門(Introduction to Global Politics)」のクラスは1-2年生向けで、週3回の中規模教室(200人程度)でのレクチャーと週1回の小規模なディスカッションクラスで構成されています。
このクラスでは、まず初めの2カ月でリアリズムやリベラリズムを始めとする国際関係のさまざまな見方と政策決定モデルについて学びました。留学以前にももちろんこれらのテーマについて学んだはずだったのですが、いざ英語で改めて学んでみると、一語一語丁寧な読解を心掛けるせいか、それぞれの特徴を以前より明確に理解することが出来るようになりました。後半の2カ月では、それらを現代の国際関係を分析する際の道具として実際に応用するために、安全保障、開発、国際政治経済、国際機構、紛争解決などさまざまな分野についてケース・スタディーを採り入れながら学ぶのと同時に、その現象を最も適切に説明することが出来るのはどの理論か、ということを議論しました。ケース・スタディーの背景説明は、このクラスの名物で、毎回教授が1人で何役もこなしつつ、迫真の演技によって示してくれました。何だか本物のコメディアンを見ているようで、教室中が笑いの渦に包まれることもしばしばでした。
タームの構成と同様に毎回の授業の内容もとても系統立っており、毎回の授業の初めにその授業での到達目標が示され、50分という限られた時間で時々急ぎ足になりながらも用意されたパワーポイントをベースにきちんとすべて終了します。授業中に深く追究出来なかった分野に関しては授業外のリーディング(大量ですが……)で補えるようになっていて、質問があればオフィス・アワーに教授の研究室を訪ねるか、メールで質問をすることが出来ます。私の場合はあいにくオフィス・アワーとほかの講義が重なっていたため、メールで何度か質問をしましたが、すべてその日のうちに返信を受け取りました。また、この大学では授業中の質問やコメントが奨励されているので、講義であってもディスカッションのようになることさえありました。先生も何か1つの答えを提示するのではなく、色々な視点を提供し、最終的に「あなたはどう考えるのか。その根拠は何か」ということを授業においても試験においても一番重要視していました。私はいわゆる暗記型の人間だったので初めはうまく対応出来ませんでしたが、慣れてくると講義も授業外の勉強もより面白く感じるようになりました。
最後にディスカッションクラスに関してですが、TA(ティーチング・アシスタント)と呼ばれる博士課程の学生によって行われるため、程良く砕けた雰囲気で、課題のリーディングを基にお互いの考えを自由に議論し合うことが出来ました。また、リサーチペーパーの書き方や試験対策のポイントなどについてTAからきめ細かい指導を受けることも出来たので、非常に満足度の高い授業でした。

国際政治経済学

「国際政治経済学(International Political Economy)」は60人程度の小規模な3年生向けの授業です。カリキュラム上では週3日のレクチャー形式ということですが、実態は非常にフレキシブルなディスカッションクラスといった雰囲気でした。先に説明した「国際政治学入門」とは対照的に、ターム全体を通してどのトピックを授業で扱うのかということは決まっていても、教授がそれらに関して詳しい講義を行うことはめったにありませんでした。こちらに来てすぐに三年生向けの授業に挑戦するのは「自分には難し過ぎるのではないか」と初めはためらっていましたが、「クラスのレベルが上がるほど小規模になって、本当にその科目に興味のある学生ばかりが集まるようになる。だから絶対にその方が面白いよ」と友達が背中を押してくれたので思い切って履修することを決めました。
学生は予習としてあらかじめ教授のウェブサイトにある文献を読んで、基本的事項は自習形式で学んでおきます。そのため、授業は決まって「あの記事に関してどう思う」と教授が学生に質問を投げ掛けることで始まりました。勧めてくれた友達の言葉の通り、ほとんどの学生は授業に参加することに非常に意欲的で、活発に率直な感想や疑問を交換し合っていました。教授はそれらの学生の反応を基に教授なりの視点からコメントを加え、更にそのことに関連して再び学生にコメント求めるという対話形式で授業を展開します。私はといえば、自分からはなかなか声を上げることが出来なかったのですが、特に経済に関して世界における日本のプレゼンスは大きく、クラスで唯一の日本人ということで、何度かコメントを求められて発言の機会を得ることが出来ました。ただ、日本語でさえ60人もの大勢の前で話すことに慣れておらず、初めはすっかり緊張してしまって言いたいことがうまく言葉に出来ず、フラストレーションに陥るこ

ともしばしばでした。また、フレキシブルであるがゆえに教授はパワーポイントを用意するでもなく、板書をすることもなかったので十分に予習が出来ていない時には授業中に「迷子」になってしまうことすらあり、そんな時には自分の至らなさを改めて痛感し、悔しい思いをしました。
3年生向けの講義を履修するというのは自分にとってカナダでの最初のチャレンジでしたが、サブプライム問題を始めとする時事問題に関しても突っ込んだ議論をしたり、国籍の多様性を生かしてさまざまな国の状況をお互いが報告し合ったりと刺激のある内容でした。そして、何よりもこの授業を通して仲良しの友達が出来たことが自分にとって最大の収穫でした。

フランス語入門

大学に入学してからフランス語を始め、せっかく学んだことを忘れたくないという思いと、何より語学を勉強することが好きなので留学中もフランス語(Beginner’s French)を履修することに決めました。英語を通してフランス語を学ぶというのは、初めは難しく感じましたが、慣れてくると日本語で勉強するよりも理解しやすく、今までぼんやりとしか理解出来ていなかった文法が急にクリアになり、まだまだビギナーではありますが、想像していた以上に多くのことを学んでいます。実現出来るかどうかまだ分かりませんが、カナダの英仏二言語主義という特徴を生かして、出来ればこの留学の終わりにケベック州でフランス語の語学研修をしたいと考えています。

後期に向けて

UBCのモットーはラテン語で“tuum est”。この言葉を英語にすると“it's yours”または“it's up to you”の2通りに訳すことが出来るそうです。ここでは大規模大学であるがゆえに自分が求めさえすれば学部の枠を越えて本当に色々な機会を得ることが出来ます。その一方で、もちろん黙っていては何も得ることは出来ません。このことは初めのオリエンテーションで教わり、自分ではいつも気に留めていたつもりだったのですが、今振り返ってみれば授業ばかりに固執して、色々なことに挑戦することを行動に移す前にあきらめてしまっていたのではないかという気がしています。
もちろん、授業に集中した分だけ多くのことを学ぶことが出来ましたが、ここから残り半分の留学生活をより有意義なものにするためにはもっと多くの人と深くかかわり、本やレクチャーからだけでは学べないものを学びたいと最近は強く感じています。その一環として10月末から不定期でダウンタウン・イーストサイドと呼ばれる地域での炊き出しのボランティアに参加し始めました。初めに御紹介したように、バンクーバーは急成長をしていく一方で、この地区では都市貧困やドラッグ蔓延の問題が深刻化しています。このコントラストはあまりにも衝撃的で、イーストサイドに行くたびに多くのことを考えさせられます。
以上、今回のリポートは完全に授業中心のものとなりましたが、後期は“tuum est”を胸に刻んで活動の幅を広げ、もっと色々なことをお伝え出来ればと思いますので、どうぞ御期待ください。

草のみどり 217号掲載(2008年7月号)