法学部
【活動レポート】黒田 佑太 (政治学科3年)
「やる気応援奨学金」リポート(45) カナダで英語とCSRを学ぶ 世界を良くする方法目指して
奨学金でしたいこと
英語で行われる「やる気応援奨学金」の面接(海外語学研修英語部門)で「あなたはこの奨学金をもらって何がしたいのか」と尋ねられ、私は答えた。
“I want to make the world better”
正確にいうならば、この奨学金で私は「世界を良くする」ための方法について考え、学んできたのである。2008年2月2日から3月3日までの1カ月間、「やる気応援奨学金」の支援を得て、カナダのトロントで英語研修とCSR(Corporate Social Responsibility…企業の社会的責任)の調査をした。これらがなぜ、「世界を良くする」のに関係するのか。この疑問に私の活動を踏まえたこのリポートでお答えしたい。
英語漬けの日々
英語が私は苦手である。
しかし、世界で活躍するには英語は必須である。英語が出来ないと、得られる情報も発信出来る情報も限られてくる。逆にいうと、英語が出来れば、「世界」が広がるのである。世界にかかわるための前提、それは英語が出来ることである。英語が出来なければ、私は世界にかかわること、更には「世界を良くする」ことは出来ないのだ。苦手な英語を克服すべく、2月4日から2月29日まで1カ月間、トロントの語学学校PLI(Pacific Language Institute)のインテンシブコースで学んだ。朝8時30分から16時までみっちりと授業を受け、ホームステイ先に帰る。家に着くとすぐに次の日の予習を開始して、20時くらいにホストファミリーと食事を取り、その後も部屋に戻り予習を続け、24時くらいに就寝するという生活であった。インテンシブコースだったからか、もともと熱心な語学学校だったからかのどちらかは分からないが(両方の理由からかも知れない)、大量の宿題が出て、平日は授業以外の時間もひたすら授業の予習・復習をしなければならなかった。ホストマザーからは「スタディー・マシーン」とまで呼ばれてしまうほどだった。
このような英語漬けの日々を過ごして、自分はこんなに英語が出来ないのかということを一層痛感させられた。語学学校の授業で意見を求められても自分の言いたいことを表現することがなかなか出来なかった。また、語学学校のクラスメートが一読して分かるようなものも、私は辞書を使いながら2度3度と読まなければ理解出来ないことが多かった。言いたいことが言えない、何を言っているのか自分でも分からないという状況に陥り、実力のなさを再認識させられた。
「どうすれば英語が出来るようになるのだ」と授業の最終日に語学学校の先生に尋ねたら、「ここで1カ月やそこら英語を学んだからといって、すぐに出来るようになる人は1人もいない。だが、時間を掛けてしっかりやれば、だれもが英語が出来るようになる。続けることだよ、ユウタ」とアドバイスをくれた。
カナダから帰ってきた今も私と英語の格闘の日々は続いている。
CSRで企業インタビュー
私はCSRを勉強している。CSRとは何か。世界を良くする手段である。
CSRとは、企業が社会の一員としてなすべきこと、社会の一員として負っている責任のことである。私がCSRに興味を持ち、勉強し始めたのは、FLP(Faculty-Linkage Program)のゼミにおいて、CSRに配慮した経営を求める投資、SRI(Socially Responsible Investment…社会的責任投資)を学んだことがきっかけだった。横文字ばかり並び、何が何だか分からないという感じがするかも知れないが、簡単にいってしまえば、次のようになる。まず投資家が、環境問題に取り組んだり、従業員・地域社会・顧客に対して誠実な取り組みをしたり、国際協力に積極的にかかわったりする企業を選択して投資を行う。それによってその企業は発展し、世界全体も良い方向へ向かっていく。一方、そのような投資行動は、社会的貢献に積極的な企業(CSRに積極的な企業)が持続的に成長することを可能にするので、長期的には投資家も得をすることになる。これがSRIの基本的な考え方である(CSR・SRIについては国・地域・企業・学者によってさまざまな定義があり、これらは私の考えるCSR・SRIである)。
このような「地球環境・国際社会・日本社会・地域社会・従業員・顧客・企業・投資家」というすべての主体がWIN-WIN(相互互恵)になる関係を築く投資を私は「WIN-WIN投資」と名付けて研究した。しかし、そこでは、「WIN-WIN投資」が本当にすべての主体をWIN-WINにすることが可能かは「現時点では明確には分からない」という結論しか出すことが出来なかった。
CSRやSRIに関する文献を多く読んだが、「現時点では明確には分からない」ため、SRIは本当に成立するのか、企業側はどういう意識でCSRに取り組んでいるのかということに疑問を持っていた。そこで、海外のCSRの現実と企業の考えについて学ぶために、CSRに先進的な取り組みを行っているカナダに行き、企業にインタビューを行うことを計画した。ただし、その道のりは困難なものであった。
インタビューを行うために、10月の中旬ころにインタビューについてお願いするメールをカナダの企業10数社に送った。しかし、何のつてもなく、しかも英語がほとんど出来ない日本の大学生から突然CSRについてインタビューしたいと申し込まれても、忙しい企業の人には迷惑以外の何物でもないことは想像に難くない。案の定、返信が来たのは3社だけで、そのうち1通は断りのメールだった。残りの2社、Interpraxis.IncとRicoh Canada Inc(リコーカナダ)から検討してみるという返信を頂き、その後のメールのやりとりでインタビューについて承認を頂いた。カナダに到着した後、インタビューの日時と内容について最終確認を行ったが、その段階でInterpraxis.Incから日時について折り合いが付かないとの返答を受け取ることになった。幸いリコーカナダとは日時の調整も成功し、Ricoh Canada Inc TorontoにてKevin Braun,Environmental Management Representative(EMR)&Director,People&Excellenceにインタビューを行った。
以下、インタビュー内容の一部を紹介する。
――CSR(特に、環境保全など)を追求すると企業の利益は低下すると一般的に考えられています。CSRと企業利益の関係についてどのようにお考えですか。
基本的にはCSRを追求すれば利益が低下するという考え方に同意します。10年前は環境を保全することのコストが非常に高かったのは事実です。しかし時がたち、5年前ころから、カナダ政府が環境を保全する技術開発や取り組みをする企業に対して支援するようになってきました。政府は「環境保全を推進する企業と積極的に取引する」という方針を発表しました。ご存じのようにCSRにはさまざまな分野が存在します。環境保全、情報開示、法令順守などがあります。その中でも環境保全の分野は代表的な分野です。時がたつにつれ(政府や人々が環境問題についてより意識するにつれ)、大企業、グローバルカンパニーはCSRとして環境保全を担うことが要求されるようになったのです。単なる
(経常)利益という視点ではなく、“Right Business”という利益、つまり、適切な方法により再生産のコストを抑え、かつ、ある種の付加価値(環境が良くなるなど)が付くという利益もあります。この(経常)利益と“Right Business”という利益、2つの視点があるということです。市場のシェアを大きくしていくという点ではCSR(特に環境部門)には大きな利益があるのです。こういった点で、この関係(経常利益とCSRの関係)は“Trade off”(二律背反)でなく、“Correlation”(相関関係)なのです。
――企業の第一の存在理由は、(経常)利益を上げることだと考えています。しかし、リコーを始め一部の企業はそうではなく、別の「利益」を求めています。それはいったいなぜですか。
答えるのに難しい質問です。当然すべての企業は(経常)利益を上げなければなりません。企業が持続的発展を続け、存在し続けるためには(経常)利益を上げなければならないのです。もし、お金を稼がなければ、企業は存在することは出来ないし、企業を維持することは出来ません。
大切なのは(経常)利益と「良い意味での利益」とのバランスです。ここでいう「良い意味での利益」とは、企業が社会の一員として責任を担うことであり、換言すれば、CSRであり、環境を保護するということもそのうちの1つです。大切なのはバランスです。財務的に健全な私企業でありながら、環境に配慮する、このバランスが大切なのです。これが私の意見です。もちろん、CSRはほかの側面も持っています。環境を強調してきましたが、個人情報の保護や、会社情報の開示、顧客に対する対応など、さまざまなものがあります。これらを総合したCSRと(経常)利益とのバランスが大切なのです。
――リコーやトヨタといったグローバル企業は財務的にも良好で、規模が大きいのでCSRを行いやすいという事情があると思います。一方で中小企業はそう簡単にCSRを追求する余裕はありませんのでCSRをすることが出来ません。結果、全体として世界の状況は変わらないのではないかと思うのですが、どうお考えですか。
つまり、あなたは中小企業にはCSRに取り組む機会や動機が少ないということを言っているのですか。
知っての通り、今、世界中で環境保護の宣伝や議論がなされています。これらの動きは非常に大きな圧力となるのです。すなわち、どのような企業であれ、いずれすべての企業がCSR、特に環境についてかかわっていくように強いられると思います。確かに規模の小さい企業は、大企業のようなことは出来ないが、それぞれの規模にあったCSRの活動をすれば良いのです。規模の小さい企業は大きなことをする必要はないが、彼らは小さな貢献をする義務があるのです。大きな企業は大きな期待を寄せられているが、小さい企業は小さい期待を寄せられているのでそれをこつこつとやることが大切なのです。
そもそも、規模だけではなく、世界中の企業の状態は互いに大きく異なっています。同じリコー内でも異なっているといえます。例えばリコーカナダと日本のリコーの企業文化は同じではありません。我々ですら違う企業文化を持っているのです。このように企業は違う状況の中でそれぞれがそれぞれのCSRを追求していく必要があるのです。その結果、そう遠くない未来、世界は良い方向に動いていくだろうと少なくとも私は信じています。
英語と私とCSR
勉強している英語を使い、私はCSRについて学んできた。
Kevin Braun氏へのインタビューは、私に「世界」では英語が必須だと再認識させると共に、CSRの推進は「世界を良い方向」に向かわせるということを私に確認させた。今後、どのような社会的な責任が求められるのか、どのような社会貢献がステークホルダーの間にWIN-WINの関係を築き上げるのか、「WIN-WIN投資」を成り立たせる条件は何かを学び考えることは、「世界を良くする」ことにほかならない。
「世界を良くする」のに、CSRの取り組みは必要条件である。ただし、CSRの取り組みは十分条件ではない。CSRを評価し、その反応としてCSRを推進する企業を選択する取引先の企業・消費者・投資家がいて初めて、CSRが真に推進され、WIN-WINの関係が出来上がり、世界が良い方向へと向かうのである。
そういったことを学ぶのには、今回のカナダでの経験は貴重なものであった。語学学校での英語の授業は厳しいものだったが、自分の英語力を再認識させ、向上させる1つのステップとなった。リコーでのKevin Braun氏とのインタビューは非常に興味深く有益だった。インタビューをセッティングすることには本当に苦労したが、社会に出てから役に立つ、良い経験だったと思う。また、英語でインタビューをするために万全の準備で挑んだが、英語では本当に言い
また、現実に行われているCSRとはどのようなものか、企業はどのような意識の下にCSRを進めているのかといった文献だけでは得られない、企業の現場の情報や考え方を学ぶことも出来た。更に、文献と現実の違いも感じた。文献はモデルを多用し、CSRの活動などを抽象化して演繹的に説明するのに対して、実際の企業(少なくともリコーカナダのKevin Braun氏)は具体的な事例を多用し、そこから帰納的にCSRの意味や効果を説明・説得するように感じた。
このリポートには書ききれないほど多くの経験をして、多くのことを学んだ。最後になったが、このような貴重な経験を可能にした「やる気応援奨学金」に関係するすべての方々に対し、深く感謝したい。
草のみどり 219号掲載(2008年9月号)