法学部

【活動レポート】守屋 美雪 (法律学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(61) スウェーデンで平和を学ぶ(上) 安全保障政策についても研究

はじめに

私は、現在「やる気応援奨学金(長期海外研修部門)」の御支援を頂き、2009年の8月からスウェーデンのストックホルム大学で、交換留学生として留学生活を送っています。あっという間に留学生活も半分以上が過ぎ、残すところわずか3カ月ほどです。真っ暗で厳寒のスウェーデンにも、やっと雪解けの季節がやってきました。今回はリポートの前編として、私が留学するに至った経緯、スウェーデンという国について、こちらでの学生生活全般、の3つを中心にスウェーデンでの留学生活を御紹介します。

スウェーデン留学までの経緯

「知らない世界を見てみたい」。その一心で親に無理を言って、高校時代にアメリカに1年間交換留学をさせてもらいました。それまで自分の中ですべてだった日本という国が、アメリカではニュースにも出てこないし、新聞にもめったに見当たらない。「日本って世界の中では何てちっちゃいんだろう!」と、とてもショックを受けると共に、将来は世界で日本の活躍に貢献出来る職業に就きたい、と漠然と考えるようになりました。
大学に入学し、アジア法学生協会(Asian Law Students Association)というサークルに入会し、アジア各国の学生と出会う多くの機会に恵まれたことは、世界の中でも日本の周りのアジア地域に目を向け、「日本人としてアジアのために、そして世界のために何が出来るのか」と考えるきっかけとなりました。
「国際」と付くからきっと何か面白いことが出来るだろう、と応募してみたFLP国際協力プログラムを履修し、実際にインドネシアに行き法整備支援の現場を見たことで、私の世界は更に広がりました。社会基盤である法律を作っても、道路やスラム街で暮らす人々は減らず、貧困が直接解決されるわけでもなく、汚職のせいで法は機能せず、イラクやアフガニスタンのように憲法を制定しても武力紛争が収まらない国もある。何が原因で、どうしたらこれらの問題が解決するのだろうか。一方、インドネシアで見た人々は貧しくても、法律が機能していなくても、昔からの伝統的なルールに従った自分たちの暮らしに満足して幸せそうだった。私たちが考える「平和」や「幸せ」は世界のほかの国では必ずしも同じとは限らないのではないか。政治的・経済的に力のある国が、自分たちの「平和」や「幸せ」のために一方的に押し付けているものではないのか、と疑問を抱くようになりました。
また、日本を取り巻くアジアの情勢について考えてみた時、北朝鮮によるミサイル発射実験など、「もしかしたら、明日東京にミサイルが飛んでくるかも知れない」といった日々の生活をも脅かす安全保障上の問題が多々あります。日米安全保障条約によって日本はアメリカの核の傘に守られてはいるものの、現在ではASEAN+3といった地域ごとの安全保障の取り組みが始まっています。人種・宗教・政治制度・経済発展の度合いも全く異なるこの地域が、どのようにしたら協力して平和な世界を作っていけるようになるのだろうか。こうして私の興味は「平和構築」と「安全保障」に絞られました。
かねてから日本の活躍に貢献出来る職業、と漠然と抱いていた思いは「外交官になって日本とアジアのために働きたい」という強い思いに変わり、法律だけではなく具体的に世界はどう動いているのか知りたい、もう一度留学しようと決心しました。そして今回は国際政治の中心であるアメリカではなく、EUとして地域協力の進んでいるヨーロッパへ、その中でもEU加盟国であり、中立政策を採りながらも国際社会への貢献に定評があるスウェーデンで平和構築と安全保障政策について勉強しよう、とスウェーデン留学を決めました。

北欧スウェーデン

「スウェーデン」と聞いて何を思い浮かべますか。H&M、イケア、ボルボ、ノーベル賞……、そして近年有名になってきている、その高度な福祉政策や最先端の環境政策、またはジェンダー政策などが頭に浮かぶかと思います。
スウェーデンは北欧スカンディナビア半島の中心に位置し、南北に広がる広大な、しかし人口は東京都の人口にも満た

ないほどの国です。私が勉強しているストックホルムは、首都といえども東京と比べると歩いて街が回れてしまうほど小さく、中心地から地下鉄で15分ほどのストックホルム大学とその寮の周りにはハイキングコースや湖があり、「ここは北海道か!?」と思うほど豊かな自然に囲まれています。また、労働組合の影響が強く、深夜・休日労働の賃金が高いスウェーデンでは、24時間営業のコンビニやレストランなどなく、休日は普通のお店でも12時開店16時閉店などと、開業時間もあまり長くはありません。そのため、出掛ける場所も限られていますが、日本と比べて時間がゆったり過ぎていく、こののんびりした感じがとてもすてきな街です。
消費税率25%、コミューン税率(地方・所得税)平均30%で、収入が高い場合には更に所得税率20%(国税)という「高負担」の社会ですが、その分20歳以下の医療は無料、学費も無料、社会保険・年金制度、学生ローンなど、福祉制度はとても充実しています。そんな、「すべての人が気持良く働き、困った時には助け合うような公平な社会」作りを目指しているスウェーデンの政策は、外国人・女性・障害者などのマイノリティーにも行き届いています。例えば、税金を払えば国民でなくとも無料の教育と低額での医療が保障されているので、アジア・中東からの移民や学生が多くいます。スウェーデンにいると、すべての人が「平等」という意識が強いことに驚かされます。
また、スウェーデンを説明するのに不可欠なのがその気候です。夏は皆ビーチに行ったり芝生の上で昼寝をしたりと、とても良い気候ですが、10月から2月までの秋から冬の間は、暗くて寒い、とても人々を憂うつにさせる気候です。冬至近くは、朝9時過ぎにやっと日が昇り、2時過ぎには暗くなり、夜がとても長く、時にはマイナス20℃を超えるほど寒くなります。スウェーデンの若者が多く外国に移住してしまい、政府が外国人の受け入れに積極的にならなければいけない理由も、この気候にあるそうです。今年はヨーロッパに特に強い寒波が来たため、例年よりも更に寒く、雪も多く、この気候に慣れているはずの公共交通機関もまひしてしまうほどでした。現在3月も中旬になり、やっと雪が解け始めたので、皆が暖かい春が来るのを待ち望んでいます。

寮生活

大学から歩いて10分ほどの寮に住んでおり、シャワー・トイレ付きの1人部屋で、キッチンは9人でシェアしています。ストックホルム大学の学生以外に、近くにある他大の学生もおり、また留学生ばかりでなくスウェーデン人の学生も住んでいるので、とても多国籍で多くの人と知り合うことが出来ます。私の階にはスウェーデン人が3人、ほかにインド、中国、ラトビア、イラン、スペインからの学生が住んでいます。なぜか私の階だけ、通常の寮の半分の人数でキッチンも小さく、交換留学生が私だけ、という状態で、期待していた寮生活とは違い最初はがっかりしましたが、今ではこぢんまりとした奇麗なキッチンと、年上で落ち着いた友達がとても居心地良く感じます。
高校時代の交換留学とは違って、ホストファミリーはいなく、料理洗濯掃除すべて自分でやらなければならず、1人暮らしをしたことがない私にとって、最初はとても大変でした。朝起きても朝食は用意されてないし、いくら勉強で忙しくても自分で料理をしなければならず、洗濯の仕方もよく分からず、と改めて日本で両親に頼ってばかりいたことを自覚しました。また、国も違えば食文化も習慣も違うほかの学生との生活は、日本のように皆が「雰囲気を読んで行動する」ことはほぼないため、お互い不満に思いいらいらすることも多々あります。そこはミーティングを開いて改善点を話し合い、何とかうまくやっています。日本とは違い、相手にはっきり自分の意思を伝えることが重要であり、共有キッチンは、自分と違うさまざまな人たちとの付き合い方を学ぶ良い場だと思っています。暗くて寒い憂うつな気候と、自分には手いっぱいの授業、慣れないことばかりで時には日本が恋しくなることもありましたが、キッチンに行けば誰かいて、悩みを聞いてくれる、一緒に話が出来る、そんな友達が出来たのもこの共有キッチンのおかげです。

大学生活(授業)

ストックホルム大学では、およそ4万人の学生が学んでおり、2009年度の留学生の受け入れ数は何と過去最多の800人と、とても大規模な大学です。しかしながら講義は大体学生50-70人、セミナーは20人前後と、日本に比べると少人数授業です。スウェーデンの大学のシステムは、日本のシステムとは違い、1セメスターが4つのタームに分かれていて、その1ターム(大体5週間)で1科目ずつ、1セメスターで合計4科目履修する仕組みになっています。(2ターム以上にまたがって1科目のみを履修する科目もあります。)よって、その5週間は1科目のみに集中して勉強することが出来ます。同時に10科目以上違う科目を勉強する日本とは違い、1つの科目をしっかり学べるので良い仕組みだと思います。しかしながら、5週間といってもあっという間に過ぎてしまうので、日本の制度に慣れている私にとっては、多少物足りなさも感じられます。
また、ほぼ教授のみが授業を受け持つ日本とは違い、スウェーデンでは博士課程在籍中の学生も授業を受け持っています。そのため、大学側は少ない経費で少人数クラスをたくさん設置することが出来、また学生にとっては年齢の近い、研究意欲あふれる先輩を間近で見られるため、勉強のモチベーションが上がる、という2つの効果があります。
平日は授業、休日はアルバイトという休む日もなく忙しかった日本の生活に比べて、スウェーデンでは週に2、3日ほどしか授業がなく、時間がゆっくり過ぎているように感じます。授業も講義であれば出席は必須ではなく、学生の「自習」に重きが置かれています。しかし授業は少ないといっても、課題の量は多いため、空いている日はほぼ毎日図書館で勉強しています。そのため図書館は、午後行くと席を見付けるのが困難なほど、毎日自習する学生で満席です。

スウェーデン語

「スウェーデンって普段何語話すの」とよく聞かれますが、公用語はスウェーデン語です。私はこちらに来る前は何1つ勉強せず、9月の留学生用のスウェーデン語の授業が始まると共に勉強し始めました。日本語や英語にはないアルファベットや発音があり難しいですが、その特徴のある強弱のはっきりしたアクセントやしゃべり方が、中世のバイキングのような力強さを感じさせる言語です。日本人と違い、スウェーデン人は老若男女(例外もありますが)流ちょうな英語を話すので、スウェーデン語がしゃべれなくても普段の生活で苦労することはありません。また、私は見た目からしていかにも「外国人」なので、大抵英語でしゃべり掛けられ、たとえスウェーデン語で話し掛けたとしても英語で返されてしまい、なかなかスウェーデン語をしゃべる機会がありません。そのため、スウェーデン語の子供向け番組を見たり、寮のキッチンで友達とスウェーデン語のみ話すことに決めたりと、スウェーデン語に慣れるように努力しています。

スウェーデンで得た友達

残念ながら、ストックホルム大学には日本のようにサークルはありません。友達は寮かクラスで、特に留学生は大体寮の同じ留学生同士仲良くなりますが、前述したように私の寮の階は人数が少なく皆年上の修士課程の学生のため、クラスで友達を作るように努力しました。クラスの中でも、ドイツ人、フランス人など、人数の多い国の学生がそれぞれ固まり母国語で話している中、日本人は私1人であったため、あまり輪に入ることが出来ず、私の仲の良い友達はほとんどスウェーデン人の学生です。スウェーデン人といっても、移民の国らしく、人生のほとんどをスウェーデンで過ごしている人でも、バックグラウンドはミャンマー、韓国、フィリピン、ガーナ、イランなどさまざまです。そのため、留学生ではないもののオープンでさまざまな価値観を持っており、たわいのない話から政治、宗教、人生についてまで、話していて毎回とても刺激を受けます。
一方純粋なスウェーデン人は、シャイで人と一定の距離を置く、という何とも日本人のような人々です。これは比較的男性が多く、女性は逆に、さばさば、男らしい(?)、「スウェーデン人女性は笑わない」とまで言われる「ジェンダーフリー」の国らしい性格です。

ヨーロッパでは、交換留学生はセメスター中でも授業を休んで旅行するなど、「勉強するために来た!」感じではなく、「長期休暇のように楽しむもの」との見方があります。私の思っていた交換留学とは懸け離れていて驚きましたが、スウェーデン人の友達が多いことで、一緒に図書館で勉強したり、スウェーデン人の生活を間近で見ることが出来たりと、最初のモチベーションがうまく保たれていると思います。
現在既に春学期が始まり、また忙しい生活を送っています。秋学期は、憂うつな気候に落ち込んだり、健康面や経済面でトラブルが続いたり、スウェーデン生活に慣れるのに精いっぱいで、あっという間に6カ月たってしまいました。今学期は生活にも慣れて、気候も暖かくなり始め、多少気持ちに余裕も出来たので、更に集中して勉強に取り組み、課外活動にも積極的に参加しようと思っています。後編では、こちらでの授業と課外活動を中心に御紹介します。

草のみどり 235号掲載(2010年5月号)