法学部

【活動レポート】浅井 泰/佐藤 宏美

「やる気応援奨学金」リポート(48) ILOインターンシップ報告

浅井 泰 (国際企業関係法学科2年)
海外インターンシップ部門 ジュネーブ・ILO

スイスに着いたのは、8月1日の夜だった。当日はスイスの建国記念日ということもあり、街は夜遅いにもかかわらず、花火が上がりにぎやかで、まるで私たちを歓迎してくれているかのようであった。すぐさまタクシーに乗り込み、ホテルに向かう。慣れないフランス語を使い、チップを渡す。初海外の私にとって、すべてが新しく新鮮であった。
翌日は土曜日ということで私たちの滞在先フェルネイ・ヴォルテール(フランス領)ではマルシェ(Marche)と呼ばれる朝市が催されていた。私たちは買い出しも兼ね、マルシェを散策した。私は第二外国語でフランス語を履修していることもあり、現地では積極的にフランス語を使おうと心に決めていた。「Bon jour!(こんにちは)」と挨拶すると

町の人々は快く挨拶を返してくれた。これで気分を良くした私は買い物でも「Combien faut-il?(おいくらですか)」や「Que-ce que c’est?(これは何ですか)」など知っているフレーズをできる限り駆使したが、現地の人々はこちらが少しでもフランス語ができると思うと、容赦なく早口で話し、正直言って数字を聞きとるだけでも精一杯だった。午後からはいよいよジュネーブ市内へ。ジュネーブはルソー生誕の地。ルソー島には記念碑が、旧市街には生家が保存されていた。
旧市街を訪れての第一印象は「中世へのタイムワープ」とも言うべき感覚だった。その町並みに漠然と西洋への憧れを感じていた私は大変感動した。

さらに翌日・日曜日は鉄道に乗ってスイスの首都ベルンへ。同地の旧市街は世界遺産にも指定され、市内には裁判所や連邦議会などが置かれ、政治の中心的役割を果たしていることが感じられた。
そして8月4日。いよいよインターンシップが始まる。バスでILOに向かい、玄関前で私たちを受け入れてくれた国際労働基準局の三宅氏と待ち合わせ。まずは国際労働基準局長代理Alexander氏よりILO全般の活動についてブリーフィングを受ける。ILO(国際労働機関)は「労働」に関する問題を扱う国連機関である。その歴史は第一次世界大戦の講和条約であるヴェルサイユ条約にまで遡る。日本も設立時よりそのメンバーだ。現在では全ての人々がディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を享受できるように国際的な労働基準を設定したり、それを拘束力のある条約という形で締結することを加盟各国に促すといった活動、またその労働基準が順守されているかどうかについて監視するなどといった活動を行っている。
ここで私たちの今回のインターンシップの内容について概観しておこう。今回私たちはILOにおいて、2つのグループ(移民労働者班&非正規雇用班)に分かれてリサーチ活動や職員の方々へのインタビューなどを行い、それを通じて世界の労働問題やそれに対するILOの取り組みについて学んだ。最終的にはその成果を職員の方々の前でプレゼンテーションという形で発表した。
ここからは私が移民労働者班に属していたということから、移民労働者班の活動について特記したい。
私たちのグループは日本が直面している労働問題を扱おうという観点から、近年日本でも話題に上っている「移民労働者(外国人労働者)」に関する問題をテーマに掲げた。出発前から事前勉強会を週1度のペースで行い、各自リサーチをし、情報を共有し、論点を洗い出した。またILO駐日事務所(渋谷UNハウス内)を訪れ、ILO駐日代表である長谷川真一氏にもお話を伺い、さらには「移民労働者」に関するシンポジウムに参加するなどある程度の事前準備をしたうえでインターンシップに臨んだ。

しかし、インターン開始後すぐに壁にぶつかることとなる。「移民労働者」というテーマ自体が非常に広く、最終的にプレゼンという形でまとめ上げるには焦点をさらに絞り込む必要があったのだ。この点に関し、私たちにヒントを提示してくれたのは5日の国際労働基準局のKaterine氏のブリーフィングであった。彼女は「migrant workers」まさに「移民労働者」の問題について私たちにお話をしてくださったわけであるが、その中で彼女が強調していたのが「Social integration(移民労働者の社会的統合)」というポイントであった。「社会的統合」とは移民労働者に対して、受け入れ国の言語教育を行ったり、様々な社会保障を提供したり、現地の人々との交流を促進したりすることで、移民労働者を現地社会に適応させ、異文化間の摩擦をできる限り取り除くような政策ということができるだろう。これは依然として「xenophobia(外国人嫌い)」が存在すると言われる日本において非常に重要なポイントではないかと私たちは思った。
ILOのデータベースや図書館を駆使し、情報を集める。ILO本部では設備が非常に充実しているので、情報を集めるのにはそれほど苦労しなかった。問題はその後だ。集まった情報を整理しまとめる作業はそう簡単にはいかなかった。ILOでの就業時間(9時~17時)だけではとても間に合わず、毎日夕食後深夜1~2時まで勉強会を開かざるをえなかった。
さらに私たちのグループはもう一方のグループに比べ、明確なテーマ設定が遅れたため、職員の方々にインタビューの約束を取り付けるのにも遅れを取ることとなった。この点に関しては、三宅氏からも「もっと積極的に行きなさい。」と注意を受けた。私たちはまず前述のKaterine氏にインタビューのアポイントメントを取ることにした。ところがKaterine氏は大変お忙しいようで、なかなか予定が合わず、その代りに「migrant(移民)」という部署がILO内にあることを教えていただいた。時間もあまりなく焦っていた私たちはアポなしで直接お話を伺いに行くことにした。文字通りの「直撃インタビュー」である。突然の私たちの訪問に驚いた様子のMigrantの職員の方々であったが、こちら側の事情を説明すると丁寧に対応していただき、翌日朝一番でインタビューに成功。更に同午後には、IOM(国際移住機関)を訪問することができた。IOMは国連とは独立した機関であるが、ILOやUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などと連携した活動も行っていることから「国連ファミリー」と呼ばれることもある。同機関にも「移民」問題を扱う「移民管理局」という部署があることから、同局長で元外交官の谷村氏にお話を伺った。移民問題についてお話を伺うことはもちろんのこと、外交官と国際公務員という職業の違いなどについてもお話を伺い、将来の進路選択にもとても参考になった。さらに後にはようやくKaterine氏にインタビューに応じていただくことに成功。たくさんの有益な情報をいただいた。こうしてたくさんの方にインタビューに応じていただいたわけだが、その際感じたのは「人のつながり」の重要性である。ある方に紹介していただいた方にまた違う方を紹介していただく。そのようにしてインタビューは成功したと思う。
こうしたリサーチやインタビューといった一連の活動を最終的に成果としてプレゼンテーションという形でまとめ上げた。私たちのグループはプレゼンのテーマを「日本における移民労働者への社会的統合政策」とし、以下3つの提言を行った。
①「移民庁」の設立
②移民労働の権利保障のための法整備
③移民労働者と現地住民の間の双方向での社会的統合
プレゼンテーションは英語で行い、実際にILO職員の方々の前で行ったので、私を含めメンバーは皆緊張していた様子ではあったが、職員の方々からはなかなかの高評価を頂いた。

以上がインターンシップの概要であるが、期間中はILO以外にもUNHCRや国連欧州本部などの機関を訪れた。
まずUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)であるが、同機関はその名の通り「難民」に関する諸問題を扱っている機関である。ここでは日本人職員である細井氏と清水氏にお話を伺った。なかでも清水氏は競争が激しいと言われるUNHCRで15年のベテランで、プロとしてのオーラのようなものを感じた。

続いて国連欧州本部。これはニューヨークに本部を置く国際連合(United Nations)の欧州支部であるが、ここでも様々な交渉が行われている。私たちが訪れた時も、ちょうど国際法委員会(ILC)による交渉が大詰めの時期で、私たちは運良く、引率教員の宮野教授が以前同委員会に所属しておられた関係で、アジア代表の山田大使の許可を得、特別に会議を傍聴させていただいた。条約の草案を形作るうえで“a”や“the”といった非常に細かい語句にまで議論がなされているのが印象的であった。
以上、今回のジュネーブILOインターンシップを振り返ってきたわけであるが、私なりに得られた成果をまとめておきたいと思う。
まずはやはり「国際機関の現場」を実際に現場で働く職員の方々から直接学べたことであろう。その中で私が改めて気付かされたのが、国連を始めとする国際機関は「世界政府」ではないということだ。国際機関あるいはそこで働く国際公務員の方々がいくら努力しても国家を従わせることはできない。国際機関という現場に非常に魅力とやりがいを感じる一方、「国際機関の限界」にも改めて気付かされた。
次に国際的な現場における「言葉」の重要性を改めて認識させられたことである。聖書の言葉を借りるならば「初めに言葉ありき」。私たちを受け入れて下さった三宅氏も英語はもちろんのことフランス語にも堪能であった。国際機関という現場で非常に高い語学力が求められることはわかってはいたが、改めて自らの語学力の未熟さを思い知らされた。が、同時に非常に刺激となり今後につながる機会となったと思う。

佐藤 宏美 (国際企業関係法学科2年)
ILOインターンシップ報告(非正規雇用班)

私が活動に参加した理由

ILOでのインターンシップから早3ヶ月あまりが経過した。季節もすっかり変わった今では、ジュネーブで忙しい生活を送っていた日々がはるか遠い昔のことのように感じる。それほどスイスでの2週間は日本での生活とかけ離れたものであった。
私がILOでの活動を希望した理由は、大きく分けて2つある。ひとつは国連機関とは何かを知ること、2つ目は活動で得た経験を今後の進路を考える上での指針とすることであった。これまでは授業等を通して国連という組織や国際社会についての知識を得ることはできたが、それらによって国連や国際社会の実体的なイメージが湧くことはなかった。そこで今回のILOでのインターンシップを通して国連そして国際社会に触れ、広い視野から進路を考えたいと思い、活動への参加を希望した。

ILOでの研修内容

よく「ILOでインターンシップを行う」と言うと、「何をするの?」と訊かれる。率直に言ってしまえば、活動について明確に何かを指示されることはない。
一般に企業などでのインターンシップでは実務に従事した活動を行うのが主流である。実際、ILOにも2年間のインターンシップ制度があり、その制度を利用して一般業務の補助を行っている人は少なくない。しかし、私たちが現地で活動するのは2週間という極めて短い期間である。
そこで、今回、私たちは2つの班に分かれ、それぞれのテーマに沿って調査・研究を行い、最終日に職員の方々に対してプレゼンテーションを行うことにした。ここからは私が2人のメンバーと共に行った、非正規雇用をテーマにした活動について報告する。
近年、日本ではワーキングプアの問題の深刻化が進み、多くの人にとって身近な労働問題の一つとなっている。活動を通して日本国内の問題に対してILOがどのような役割を果たしているのかを探り、その過程でILOの組織や理念について学ぼう、というのが当初の目的であった。しかし、問題の全体像やその背景について調べていくうちに、ILO条約の中には企業ではなく業界中心の労働組合が前提となっている条約があるなど、「ILOの条約の基準は欧米寄りではないか」という疑問が浮かび、自然にそれが活動の基軸となった。
このように事前準備の段階で活動の方向性が絞れたことで気持ちに多少のゆとりが生まれたが、それはILO本部での活動の開始と同時に消え去ることとなった。
ILO本部では、ブリーフィングやインタビュー等による情報収集とそれらの整理を主な活動内容とした。しかし、これが想像以上に大変な作業であった。
活動初日とその翌日の予定はILO本部職員の三宅さんがアレンジしてくださったが、その後の10日間の予定は全て自分たちの自主性に任せられていた。つまり「どの部局の職員といつ、どこで何を話したいか」ということは全て自分たちで決めなければならない。しかも8月上旬は夏期休暇のシーズンであり、本部に勤務している職員は通常に比べて少なくなっている。よってアポイントをとりに直接オフィスを訪ねてみると長期休暇中ということも度々あった。
インターンシップの期間中にお話を伺ったのは、社会的保護総局の労働条件局と社会保障局、そして法務局の職員の方々である。インタビューの最初に日本の非正規雇用の実態についてこちらから説明し、それに対しての各局の活動についてお聞きした。日本でも最近ではパワハラの防止や有給休暇の見直しなど、労働環境の公正化や労働者の待遇を改善する動きが活発になってきてはいるが、欧米諸国、特にヨーロッパ諸国と比較すれば未だに改善すべき点は多い。インタビューを通じて日本と欧米との意識の違いを改めて感じた。
「ILOの基準が欧米寄りではないか」という私たちの指摘に対しては賛同を得ることができた。ただし、以前はそうであったが今ではアジア諸国をはじめとする多くの国々が条約の制定に携わっており、徐々にグローバルな基準に移行しつつある、とのことであった。
また、そうした意見の一方で、国際機関としての限界を感じさせる意見も多々あった。他の国際機関と同じようにILOには制裁措置は存在しない。条約の批准はあくまで各国の任意によるものであって、ILO条約は一つの基準にすぎず、内容が国内事情と合致しないようであれば部分的に変更を加えて批准することが出来るというのである。国際社会のためにILOが果たすべき役割と各国の自主性の尊重とのバランスを取ることの難しさが垣間見えた瞬間であった。

「自分から動く」ということ

今回の活動を通じて一番痛感したのは自分から積極的に行動することの大切さである。それまでは自分で決断して行動しているように思ってはいても、インタビューのアポイントメントのときに感じた戸惑いは、やはり心のどこかで誰かにやってもらうのを待っていたからこそ感じたものであると思う。

ILOには自分たちの活動拠点として割り当てられた部屋があり、膨大な量の資料があり、あらゆる分野の専門家である職員の方々がいる。手を伸ばせば届く範囲に、普段では考えられないほど多くの情報が眠っているが、それらを収集し、利用するためには、自分から動かなければならない。インターンシップを有意義なものにするのか、それともただ何となく過ごすのかを決めるのは他ではない自分達自身なのである。
慣れないフィールドで自分から積極的に行動するには勇気がいる。しかし、一歩踏み出せば必ず周りは協力してくれるし、その努力に見合った結果を得ることが出来る。実際、アポイントを取りに行った先で「その担当は私ではないけど」と言われたことがあったが、それでもその職員の方は自分が知っている限りのことを教えてくださっただけでなく、どうすれば必要な情報が手に入るかを丁寧に指南してくださった。他にも、インタビューを2度行うことになり、2回目のときには別の職員の方も呼んでくださっていたということもあった。
最初は心細いが、積極的に行動することによって周囲は自然と協力してくれるし、どんな時でも必ず道は開ける。これがILOでのインターンシップによって私が学んだことである。

UNOHCHR/WTO訪問

ILO外での活動として今回のインターンシップでは国連人権高等弁務官事務所(UNOHCHR)の職員の方と世界貿易機関(WTO)の日本政府代表部の方にお話を聞くことが出来た。
人権高等弁務官事務所というと耳慣れない人も多いと思うが、国連事務局の人権担当部門としての役割を担っているのが人権高等弁務官事務所である。扱っている人権は多岐にわたり、国連が行う人権に関する活動の援助を行うほか、各国の人種遵守の手助けも行っている。お会いした職員の方は企業が係わる人権問題について取り組んでいる方で、インタビューでは主な職務や最近の多国籍企業の途上国における労働問題の事例やそれらの問題に対する人権事務所の役割など、人権について多角的な視点からのお話を伺うことができた。
インターンシップ最終日に急遽決定したのが、WTO日本政府代表部の方へのインタビューである。WTOは自由貿易の促進を主な目的として作られた国際機関であり、常設事務局がジュネーブに置かれている。WTOの国際会議には各国の代表が出席し、今回お話を伺ったのは日本政府の代表としてジュネーブに滞在している外交官の方である。折しもWTOが主催していたドーハラウンド閣僚級会合が、中国、インド、アメリカ等の意見の相違によって決裂した直後であったため、交渉決裂に対する実務の視点からのお話を聞くことができたのは大変良い機会であったと思う。それに関連してWTOの採択方式についての利点や欠点、またWTOにおける発展途上国の定義に関してなど、実務に携わる方であるからこそ聞ける話が多く、学ぶことの多い充実したインタビューであった。

ツェルマット観光

スイスへのインターンシップ期間中はほぼジュネーブに篭りきりの状態であったが、15日間の滞在中に週末を利用して観光に行ったのがスイス屈指の観光地であるツェルマットである。ツェルマットはマッターホルンをはじめとするスイスアルプスの山々が連なるアルペンリゾートであり、景観の美しさから多くの人が訪れている。
今回スイスに行って気が付いたのだが、スイスはドイツ語圏とフランス語圏とで地域の雰囲気が全く異なる。ドイツ風の街並みからフランス風の街並みへと徐々に変わっていく車窓からの景色には退屈することがなかった。

ツェルマットに到着して一番驚いたのが、観光地としての意識の高さである。景観の保全のため、建物の外観は全て統一されていた。また、ガソリン車の乗り入れが禁止されているために街中はとても静かで、空気は澄み渡っていた。豊かな自然と清らかな空気が魅力のツェルマットであるが故の、環境に対する人々の意識の高さを肌で感じた。
幸いなことに滞在中の2日間は雲1つない晴天に恵まれ、観光の最大の目的であるマッターホルンを思う存分観賞することができた。また、年に1度のパレードの日でもあったため、スイス国内の各地方の伝統的な民族衣装を見ることができた。
今回のツェルマット観光は天候に恵まれただけでなく、スイスの文化にも触れることができ、インターンシップ期間中の大変良い息抜きになった。

最後に

以上、各自今回のインターンシップを通して様々なことを学び、多くの素晴らしい機会を得ることが出来ました。そしてそれは多くの方の支援や協力があったからこそ実現したものでもあります。
今回のインターンシップをお世話して下さったILOの三宅さん、私達の訪問を受け入れてくださったILO、UNHCR、UNOHCHR、WTOの職員の方々、引率して下さった宮野先生を始め、国際インターンシップの授業を通してご教授下さった先生方、共に支え合ったILOインターンシップのメンバー、そしてこの活動を支えて頂いた「やる気応援奨学金」に心から感謝いたします。

草のみどり 222号掲載(2009年1月号)