法学部

【活動レポート】上村 一郎 (2003年入学・政治学科)

活動データ

活動テーマ

体験を通しての自己変革
~地雷除去作業の現状を見て理論を越えた実体験をする~

活動期間

8月2日(月)~8月6日(金)
JAHDS(Japan Alliance for Humanitarian Demining Support
特定非営利活動法人 人道目的の地雷除去支援の会)虎ノ門オフィス
*奨学金の対象ではありませんが、東京事務所でのインターンも便宜上記述いたします

9月8日(水)~9月12日(日) タイ カオプラヴィハーン寺院他
2004年度前期選考(短期海外研修部門 国際インターンシップ分野)

活動日程

東京オフィス

8月2日(月)
対人地雷についての講義
事務所実務参加

8月3日(火)
JAHDSの組織についての講義
事務所実務参加

8月4日(水)
対人地雷禁止条約についての講義
事務所実務参加

8月5日(木)
JAHDS次期プロジェクト概要説明
事務所実務参加

8月6日(金)
総括ディスカッション
事務所実務参加

タイ

9月8日(水)
日本出発
現地学生と合流(現地から学生2名が研修に参加)

9月9日(木)
カオプラヴィハーン国立公園にて
地雷除去プロジェクト開始式典参加
サイト(地雷原安全レーン)視察
地雷除去員との歓談
地雷除去デモンストレーション見学
寺院登頂

9月10日(金)
サドック・コック・トム寺院周辺にて
寺院についてのプレゼンテーション聴講
寺院見学
現地児童の民族舞踊見学
プロムサイ村(地雷原のあるカンボジアとの国境沿いの村)
現地小学校訪問、児童との歓談
地雷被災児童宅訪問、児童・家族との歓談

9月11日(土)
タイ/カンボジア国境にて
出稼ぎのためのカンボジア人の入国を視察
市場調査(物価、製品等)
バンコク市内 AIT(Asian Institute of Technology)にて
学長講演聴講
学生ディスカッション
ディスカッション内容についてのプレゼンテーション

9月12日(日)
日本帰国
活動成果

活動成果

東京オフィス

JAHDSの東京オフィスでインターンを実施したことにおいて、最も印象に残り、成果であったといえるものは、やはりNGOの実態がつかめたことである。その中でも私の今後の勉学の糧となったものは、1)NGOの確立された構造、2)資金調達方法、3)周到なイベントに対する準備、の3点が理解できたことであった。これらを知り、体験できたことが私の東京事務所での成果といえる。1)については、より効率的で確立された組織形態、2)とも関連するが透明性のある資金調達を行うために重要であることがわかった。実際、JAHDSでは理事会をはじめ定期的な会議を開いているし、支援企業から出向してきている方々に対しての業務分担等も厳密に、時には柔軟に行われている。また、定款もJAHDSでは定めており、それに背くような業務はしないようにスタッフ全員に教育が行き届いている。2)の点では、JAHDSへの各支援者に対する会報誌送付作業を私は行ったが、支援者の理解を得るために、定期的に発行したり、作業が徹底されたりしていたことで、資金調達の重要性と大変さを学んだ。実際、国際NGOといえども資金難は常であり、こうしている今もJAHDSは資金調達活動を積極的に行っている。3)については、地雷の被害を少しでも広く伝えるためにJAHDSは各学校、企業、団体で説明会等のイベントを行っている。そのイベントひとつにしても、参加人員の各担当、持ち込み機材(展示用地雷等)の運搬、展示方法等、周到に準備されており、イベントに対するJAHDSの方々の熱意を感じた。これらの点を身をもって経験できたことは、私のNGOに対する理解を大いに深めた。

タイ

まず、現地を見ることができたこと。これが一番の成果であった。ビニールテープの一歩向こうは地雷原、という細い安全ルートを通るだけで、地雷に対する恐怖を実感するのには充分であった。撤去プログラム開始式典に出席したことで、どれだけ多くのVIP、そして一般人が地雷撤去に期待を寄せているのかを知ることもできた。趣向を変えると、各寺院を視察したことにより古代アジア文化の奥深さ、そしてその文化を守らなければいけないという現世代の使命を認識することもできた。また、地雷除去員の方々との歓談では、就業せざるを得なかった背景、また自分の仕事に対する誇りというものを実感した。さらに、地雷原で生活する人々、特に子供たちの声を聞くことで、後に述べるが、我々と現地で生活する人々の地雷に対する考え方に大きなギャップがあることを感じると同時に、現地学生とのディスカッションでは、学生の地雷に対する意識の薄さに、まだまだ富裕層と貧困層との間に大きな壁があることにショックを受けた。これらの経験は、大学で講義を聴き、本を読み、また東京オフィスで業務をしているだけでは絶対に感じられないものである。自らの勉強・研究により事実の理解はできるかもしれないが、実感はできないと感じた。その実感を得られたことが、タイでの現地視察における私の成果であった。

当初予想していた成果との相違、思わぬ経験

東京事務所でのインターン業務は、「成果」の欄でも述べたとおり、自分のNGOに対する理解を深めるための大きな成果とはなり、当初予想していた成果通りの内容は得られた。しかし、その意味で活動前に自分の考えていたことに対する大きなギャップがあったわけではなく、端的に言えばNGOの重要性を「再認識した」というだけであった。その点、タイでの現地研修では当初予想していたこととは違うことの連続で、いい意味で非常に混乱し、当惑した。活動前と最もギャップがあったことは、地雷原に住む人々の地雷に対する考え方であった。タイに行って現地の人々と話をする前は、「地雷原に住む人々や実際に被害に会った地雷被害者の人々は地雷を恐れ、毎日を陰気に細々と生活しているのであろう」と私は考えていた。この考え方は、実際に現地の人々と話をした他の日本人学生も考えていたことで、「一般的日本人の考える地雷原に住む人々の生活」といっても過言ではないであろう。事実、私もそう思っていた。しかし、実際は全く違った。地雷原のある村の小学校を訪問したときに、現地児童たちとのフリータイムの時間を取ってもらった。その子供達のふるまいは私の考えを真っ向から否定した。大きな声を上げながら、最高の笑顔で私におんぶをせがむ子供たち。体当たり、キックは当たり前、急に訪れた外国人と最大限に遊ぼうとする彼らのエネルギーと笑顔には「陰気」という言葉は全く当てはまらなかった。地雷についての話も多数したが、地雷を大きく恐れているという感は全くなかった。そんなことよりも、目の前にいる来訪者と汗だく、泥だらけになって遊ぶほうが重要なのだ。つまり、彼らにとっては「地雷原に住んでいる」ということが異常なことではなく、むしろ当たり前のことなのだ。子供たちを見ると、地雷のない都市部の人間に対するひがみではなく、純粋に地雷のある環境を当然のこととして受け入れているのだ。このことは、私に大きな衝撃を与えた。私たちの考える「異常」な環境を「正常(まではいかなくとも「当たり前」)」として考えている彼らと私たちの間には大きな隔たりを感じた。そのため、「彼らがそう感じているのであれば、このままでもいいのか・・。」と考えた部分があったことも事実である。しかし、これは価値観の違いというものではなく、自分の力ではどうすることもできない問題に対する、誤解を恐れずに言えば、「積極的諦め」と取れた。現地の子供たちと触れ合うことで、彼らと同じ、とまではいかなくとも近い目線で地雷を身近に感じることが出来るようになった私はその存在に恐怖した。地雷が身近に存在する、この状況を私は「普通」とは感じられない。現地の人々が積極的に諦めていると思われるこの状況を何とかしなければならない。もはや、地雷問題は他人事ではない。日本という平和な国に住んでいる私たちは、地雷問題は「他人事」という考えがある。事実、私もタイに行く前はそのように感じていた。しかし、地雷問題は自分たちの問題、同じ地球に住む者として他人事ではない。地雷問題は解決しなくてはならない。そして、「まず自分が動かなければ」そう思うようになった。

今回の活動についての感想

当初、自分が大学の学問と並行して学習している安全保障問題の一環として、「地雷」という問題に携わってみよう、ということが活動への参加のきっかけであった。この問題のように、規模が大きく、そして深いものは「あくまで「国家」というアクターが解決していくものであり、いちNGOの力はないよりはいいが、なくてもいい」、それくらいのものだろうという認識しかなかった。しかし、今回東京事務所での研修を経て、タイ視察に参加したことで、自分の考えが大きく変わった。一つ一つの地雷原地域を浄化していくためには、NGOの力は必要不可欠であり、また当該国家も草の根的活動ともいえる地雷除去活動には、NGOに対して絶大な信頼をおいていることがわかった。そして、何より現地地雷原に住む人々と接することによって、「地雷問題は他人事ではない、まず自分が動かなければ」と考えるようになったことが、自分の中で大きく変化したことであった。元来、机上の空論を嫌い、実体験を通した考えでなければ、浅はかな結果しかえられないと考える私にとっては、自己変革をもたらすほどの非常に大きな経験を得られたと思う。地雷問題に限らず、世界に存在する「問題」は机の上の勉強では解決できない。たとえ少しでも、自分が動かなければならない。今回の活動で、最も私が感じたことである。

今回の活動をどのように自分の将来に生かしていくか

今回の活動に参加する以前に、活動参加後に自分がやるべきことはすでに明確にしていた。まず、「自分が学びそして体験したことを周囲に、そして後世に伝えること」。この世界に存在する地雷を全て除去し終わるのは、私が生きている間には達成されないことが濃厚である。だから、私たちに与えられた使命は現状をより広く、より長期的に伝えることである。タイからの帰国後、国連大学で視察旅行に参加した他大生も含めカンファレンスが行われた。そこでは「私も何かしよう」と、多くの聴衆の方々が私の考えに賛同してくれた。「そのような方々に『受け皿』を作る」、それが、「地雷問題を周囲、後世に伝える」という自分の行動に続くもうひとつの行動であった。私は学生有志とともに、その二つの目的を達成する手段として「地雷カレンダー募金箱」を製作した。「伝達」の部分をカレンダーに、「受け皿」の部分を募金箱へそれぞれ思いを托し、400人の聴衆の中、330人の方がこの募金箱カレンダーを受け取ってくれた。自分の声が聴衆に届いたことを確信した。そして最終的な目標は、その他者への伝達をきっかけとして、自分の将来の職業に対してプラスにすること。私は将来防衛庁で国家公務員として勤務しようと考えている。その時に、今まで机上で学んできた安全保障論、過去に私が勤務していた陸上自衛隊での経験、そして「地雷」という一分野ではあるが、戦後復興処理に携わった経験は、他の同期職員に比べて安全保障を理解し、今後の日本政治に貢献できる要素となるという自信が私にはある。それぞれの学習・実体験が相互にリンクし、私の知識を深め、それに基づいた行動のきっかけとなることが理想である。そこで、日本国民の間に世界の地雷問題に対する認識が高まっていれば、「国家」というアクターとして、日本の地雷問題に対する資金援助等の国際貢献がより円滑に、そしてより大規模に行えるのではないか。このように今回の活動は、帰国後の他者に対する私からの問題・情報の伝達を経て、私の将来の職業に生かし、さらには日本の国際的な地位を向上させることに生かせると考えている。

後輩達へのアドバイス

前述の通り、私が最も嫌うのは机上の空論である。書籍やメディアを通して、たくさんの知識を身につけ理論武装することは、それはそれで大事なことだ。しかし、その理論で他者を論破できたとしても、私には実体験に基づかない理論というものは浅はかな考えとしてしか受け取れない。現代、「現場」と「会議室」の考え方に壁がある原因はここに起因するのかもしれない。「やる気応援奨学金」を利用して何らかの行動を起こそうとしている志の高い後輩の皆様は、企業であろうが公務員であろうが、何らかの形で日本の中心的役割を担いたい、そのような考えの方が多いと思う。皆様には、机上の空論だけではない、実体験に基づく考え方を身につけてほしいと考えている。そのための「やる気応援奨学金」であると思う。そのような志を持つ方には、中央大学は投資を惜しまない。今回そのように私は感じた。後輩の皆様の将来にリンクできるように、この奨学金を活用してもらいたいと思う。

その他

研修先
JAHDS(特定非営利活動法人 人道目的の地雷除去支援の会)
HP:http://www.jahds.org/

知っていてほしい地雷の知識
現在地球に残る地雷の数:推定1億個
地球から地雷を全廃するのに必要な年数:あと10世紀