2024年10月19日(土)と20日(日)に、中央大学多摩キャンパス学部共通棟(Forest Gateway Chuo)F310教室で、第44回日本ケルト学会研究大会が開催され、本学経済学部教授 渡邉浩司(担当科目:フランス語、他)が大会・会場責任者を務めました。
大会初日には、昨年ジョーゼフ・キャンベル著『聖杯の神話』の翻訳を人文書院から刊行した斎藤伸治氏(岩手大学教授)によるキャンベルと「アーサー王神話」についての講演があり、大会2日目には、本学の渡邉浩司の企画による「聖杯物語」をテーマにしたフォーラム・オンが開催されました。
このほか、初日には4件、2日目には2件の研究発表があり、中央大学人文科学研究所の「妖精とは何か」チームからは、客員研究員である辺見葉子氏と高木朝子氏がそれぞれ、トールキンのエルフ語とアイルランド民話における妖精についての研究発表を行いました。
大会責任者 渡邉浩司によるコメント
日本ケルト学会の研究大会を中央大学多摩キャンパスで開催するのは今回が2度目で、前回は今から13年前の2011年10月15日(土)と16日(日)に、第31回研究大会を多摩キャンパス2号館4階の研究所会議室で開催しました。今回の第44回研究大会は、多摩キャンパスの新しい施設Forest Gateway Chuo のF310教室が会場となりました。
2日目の午後には私が企画したフォーラム・オンで「聖杯物語」を取り上げましたが、実はこのテーマはちょうど20年前の同学会のフォーラム・オンでも、同じく私の司会で取りあげました。2004年10月10日に行った「聖杯伝説-その起源と展開を再考する」というこの企画では、4人の研究者仲間にそれぞれ、中世ウェールズ、中世アイルランドとスキタイ、中世ドイツ、中世イベリア半島における「聖杯」についての報告をお願いしました。キリスト教世界の聖遺物の中でも特に有名な「聖杯」(中世フランス語では「グラアル」または「サン・グラアル」)について、「ヨーロッパ」という広い枠組みの中で検討したこのフォーラム・オンの意義は非常に大きかったと思います。
その後の20年間では世界的に見ても、「聖杯伝説」や「聖杯物語」について従来の説を覆すような新説は出されてきませんでしたが、昨年8年ぶり22回目の来日を実現したフィリップ・ヴァルテール氏(グルノーブル=アルプ大学名誉教授)が中央大学多摩キャンパスで2023年2月25日(土)に行った講演で、中世ヨーロッパの「聖杯物語」の解釈について新たな方向性を示されました。それは「聖杯物語」を国際民話話型ATU910B「主人の教えを守る」から検討するという方向性です。
そこで今年のフォーラム・オンでは「聖杯物語」の最初期の例であるクレティアン・ド・トロワ作『グラアルの物語』(1181年頃、古フランス語・韻文)からスタートし、その類話とされてきた『ペレディル』(中世ウェールズ語・散文)、およびヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ作『パルチヴァール』(13世紀初頭、中高ドイツ語・韻文)、さらには中世ラテン語で書かれた『ルーオトリープ』(1070年頃)を国際民話話型の観点から、特に主人公に与えられる「忠告」に注目しながら比較検討しました。「聖杯物語」研究の進展が感じられるフォーラム・オンとなりましたが、この新たな研究は緒についたばかりであり、多くの課題が残されていることも同時に実感しました。
今回の研究大会の開催にあたりサポートして下さった中央大学人文科学研究所の事務室のみなさん、同研究所の研究チームのみなさん、1年間にわたり研究大会の企画から実現まで粘り強くかかわって下さった日本ケルト学会の幹事会のみなさん、講演や研究発表を快く引き受けて下さった研究者仲間のみなさん、遠方から多摩キャンパスまでお越し下さった参加者のみなさん、さらには2日間にわたって受付のアルバイトを引き受けてくれた渡邉ゼミの関根君と香田君に心より感謝いたします。