国際情報学部

国際情報学部 学部長・教授 平野晋が、学生団体〈iTL AI研究会〉で講演を行いました

2022年03月01日

国際情報学部学部長・教授 平野晋

2022年2月1日、国際情報学部 学部長・教授の平野晋が、国際情報学部_iTL_の学生から構成される学生団体〈iTL AI研究会〉からの講演要請に応じて、「AV(自動運転車)の法人格」について講演を行いました。

国際情報学部学部長・教授 平野晋の専門分野はアメリカ法、製造物責任法、及びサイバー法です。著書に『アメリカ不法行為法』『ロボット法』等があります。
また、平野はこれまで、国内においては総務省の「AIネットワーク社会推進会議」や内閣府の「人間中心のAI社会原則会議」に、国外においてはOECD「AIGO:AI expert Group at the OECD」(AI専門家会合)に参画しており、AIの開発や利活用に関する議論に貢献し、かつ自動運転のいわゆる〈派生型トロッコ問題〉も国際会議や法律雑誌にて紹介してきました。詳細はこちらのページをご覧ください。
また1月にも平野は、〈日本データベース協会〉DBSJセミナーにおいて、「自動運転車の派生型トロッコ問題~ドイツの倫理原則と大衆の選好との乖離を考える~」を報告しました。

今回、平野に講演を要請した〈iTL AI研究会〉は、iTLの学生たちが立ち上げた学生団体で、その主たる活動は、主に海外の文献を分析してAIのガバナンスに関する最新動向を把握しつつ、AIに関わる政策、倫理、社会、及びガバナンスなどについて研究し、学部教員や学部外の有識者を招いて講演会や意見交換会を開催することにあります。
そのような〈iTL AI研究会〉からの、AIの法人格に関連した講演の要請を引き受けた平野は、AIを使用したシステムに法人格を付与するアイデアについて顕著な動きが見られるヨーロッパの論争を紹介しました。

本論に入る前に、平野はまず、〈株式会社〉の仕組みを例に〈法人格〉の基本的な概念や特徴を説明。その上で、EUにおいては当初、AIシステムを用いたロボットや機械が、あたかも人間と同等な権利を付与されて自然人扱いされることから生じる混乱や恐怖感などゆえに、反対論が優勢であった事実を、日本の有識者会議における指摘なども使用して紹介しました。

しかし、その後EUでは、AIシステムを用いた機械(たとえば自動運転車)が事故を起こして被害者が損害賠償を求める場合などにおいては、学習したデータに左右されて判断を下すAIの特性ゆえにアルゴリズム開発者にもAIシステムを制御できず、さらにはAIシステムの開発や運用などには多くの関係者が関与することからも、被害者が責任の所在を明らかにするための立証責任を果たすことが困難であることが指摘され、それゆえに、まずは法人格を付与されたAIシステムが被害者に対して賠償責任を負って、その後の関係者間の求償問題や責任分担は法人の関係者たちの内部にて処理することの合理性が指摘され、EUも法人格の付与について全否定する訳ではない方向に転換した近況を紹介しました。

以上のEUにおける近年の議論や分析の紹介に続いて平野は、アメリカにおける不法行為法/製造物責任訴訟の状況やその影響も受けた日本の学会の動向を簡潔に紹介。必ずしも被告に非難可能性や帰責性がない場合にまでも、被害者賠償の目的のためにむりやり被告を無過失責任的に〈敗訴〉させる動向に問題があると指摘しました。
すなわち、そのように非難可能性や帰責性に欠ける被告を敗訴させれば、〈敗訴=悪者〉というレッテルが被告に貼られてしまい、社会的に不当でネガティブな評価が被告に加えられます。すると、不法行為法の本質や公正さや正義に反する点で大問題である、と平野は指摘。
その上で、自動運転車の事故による損害賠償においては、法人格を自動運転車に付与することの合理性が日本でも検討されるべきである、と締めくくりました。