2025年10月28日、経済学部の科目「国際開発論」(担当:林光洋)において、世界銀行で長年勤務する大森功一上級対外関係担当官をお招きし、公開特別授業を実施しました。授業では、世界銀行の概要と役割、具体的なプロジェクトの進め方に加え、国際機関で働くことの実際やキャリア形成について、体験にもとづくお話を伺いました。

世界銀行の役割と国際開発の現場について講演する大森功一さん
「国際機関への道」は、意外なきっかけと積み重ねから
冒頭では、大森さんご自身のキャリアの歩みが語られました。10代のころは「勉強はあまりかんばしくなかった」と振り返りつつ、音楽(サックス)がきっかけで海外に関心を持つようになったこと、英語学習では音読が自分に合っていたことから徐々に得意になっていったことなど、率直で親しみやすいエピソードが紹介されました。
大学時代には、留学生のサポートや短期留学、大学が立ち上げる国際プログラムなどに積極的に参加し、「英語を使う環境に身を置く」ことを重ねたといいます。教員の勧めで米国の大学院へ進学し、渡米直後に「本を届けに行く」という口実で国連を訪問した経験が、国際機関のオフィスに入った最初の体験だったというお話もありました。
そうした出会いや経験がつながる中で、ある時世界銀行のポストを打診され、入職されたとのことです。大森さんは、国際機関への就職は「縁と運」の側面が大きく、「自分にできる仕事」、「自分にフィットする職」にたまたま空きがあり、タイミングが合うことが重要であると説明されました。
世界銀行とは何か ―使命と組織、途上国支援の全体像
続いて、世界銀行(世界銀行グループ)の成り立ちと役割が紹介されました。世界銀行は第二次世界大戦後の復興支援を目的に設立され、現在は貧困削減と持続可能な開発を中心的な使命として、途上国の開発課題に取り組んでいます。世界銀行は189か国が加盟し、本部は米国ワシントンD.C.にあり、世界各地141か所に事務所を持ち、約13,000人のスタッフが181か国の出身で構成されていることなど、組織の規模も示されました。
また、世界銀行グループは、国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、投資紛争解決国際センター(ICSID)の5つの機関から成り、途上国政府向けの融資、贈与、助言、技術協力だけではなく、途上国の民間部門への投融資、途上国向け民間投資にともなうリスク保証、途上国向け投資の紛争の調停・仲裁などを含め、幅広い手段で途上国開発を支えていることが説明されました。
授業の中では、日本も過去に東海道新幹線や黒部ダムの建設時に融資を受けていたことが紹介され、世界銀行が「遠い存在」ではなく、日本の発展の歴史とも関わりがあることが示されました。
プロジェクトはどう進むのか―支援の流れ
世界銀行の仕事のイメージをつかむため、プロジェクトが進む基本的な流れについても説明がありました。途上国政府が自国の開発課題に取り組む中、世界銀行は資金とノウハウの面から支援し、具体的には「融資」、「政策助言」、「人材育成」の3点を柱として関与します。融資を受けた政府がプロジェクトを実施し、機材・機器や建設、コンサルティング業務などは競争入札を通じて発注されます。そのため、民間企業にとってはビジネス機会にもなり得ることが示されました。また、NGOとの連携についても、事業実施や政策対話など、さまざまな関わり方があることが紹介されました。
融資は、「投資プロジェクト融資(Investment Project Financing)」、「開発政策融資(Development Policy Financing)」、「結果連動型融資(Program-for-Results)」という種類があり、支援が現場事業から制度・政策づくりまで幅広いことが説明されました。これらを使い分けながら、途上国の教育・保健、インフラ整備、気候変動対策などの分野を対象に、毎年、5〜60のプロジェクトに対して7兆円前後を融資しているそうです。
大森さんは、それらの融資を承認する理事会のことや、1国1票を持つ国連に対して世界銀行は出資比率に応じて投票権が決まることといった大枠の仕組みにも触れました。実際のプロジェクトの例として、インドにおける土地改良プロジェクトやモンゴルの多世代型高齢者施設のプロジェクトについて、写真も交えながら紹介がありました。

世界銀行のプロジェクトのサイクルを説明する大森さん
「国際機関で働く」ということは ―職場環境とキャリア形成
授業の後半では、世界銀行をはじめとする国際機関で働くことの具体像について、キャリアパスや働き方、休暇の取得状況など、職場としての側面に焦点を当てたお話がありました。世界銀行では、次のポジションに自ら応募して昇進・異動していく仕組みがあること、柔軟な働き方(在宅勤務等)が進んでいること、休暇は確実に取得できること、定年が67歳であることなど、国際機関の職場としての特徴も共有されました。
採用や奨学金に関しては、ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)やジュニア・プロフェッショナル・アソシエイト(JPA)、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)、インターン、日本・世界銀行協働大学院奨学金(JJ/WBGSP)など、多様な入口が紹介されました。 そして、世界銀行が求める人材像として「T字型の人材」という考え方も紹介され、専門性を持ちつつも幅広い分野に対応できること、チームとして仲間と協働できる力を有することの重要性を示されました。
授業の締めくくりには、国際機関を目指す学生へのメッセージとして、「目の前の仕事に誠実に向き合うことが次のチャンスにつながる(人に覚えてもらう)」、「人生いろいろ、キャリアパスもいろいろ。決まった道はない」といった言葉が印象的でした。
授業後も続いた質問 ―学生の関心の高さ
公開特別授業が終了した後も学生たちは列を作って質問に並び、大森さんが気さくに一つひとつ丁寧に応じる姿が見られました。世界銀行の事業を理解するだけではなく、国際機関で働くために今できる準備やキャリア形成の考え方について、具体的なヒントを得る機会となりました。
