2025年10月20日、経済学部の科目「金融論Ⅰ(担当教員:近廣 昌志)」において日本政策金融公庫の河本さまと山田さまをお招きし、「政策×金融~政策金融が果たす使命とは~」と題された特別講義が開催されました。先に登壇された河本さまは本学商学部の卒業生で、近廣先生とゼミの同期だったというご縁です。
冒頭で「日本の将来は大丈夫?」という問いかけをされ、日経平均株価の上昇など明るい面がある一方、日本の国際競争力は長期に渡り低迷し、世界で注目されるベンチャー企業が育っていないという日本の危機的な現状についてお話がありました。ここ数年、大学発ベンチャーの数は増加傾向にあるものの、日本の開業率は他の先進国と比べて一貫して低い水準にあり、経済全体の活力低下につながっていると説明がありました。河本さまが日本政策金融公庫に入職された2001年当時に約470万社あった日本の企業数は、小規模事業者を中心に大幅に減少し、現在は338万社にまで落ち込んでいるということです。
一方で、「SONYや京セラなどと言った日本の経済成長を支えた企業ももとは小さな企業から始まった」と述べ、革新的な中小企業こそが日本経済の新たな希望になると強調しました。
そうした創業希望者が最初に直面する課題の一つは「資金」であり、日本政策金融公庫では新規開業・スタートアップ支援資金などを通じて創業を後押ししています。河本さまは第二章として「政策金融の果たす役割」について詳細に教えてくださいました。
民間金融機関はリスクの高い事業に融資しづらいため、政策金融機関がそうした分野を支える役割を担っていると述べ、「資金調達が容易ではない創業前やシード期の企業に寄り添い、安心と挑戦を支え、1社でも多く日本経済を背負って立つ企業を創出することが我々の使命」と表現されました。また起業のみならず農林水産業などの小規模事業者への融資も幅広く行っているということです。
続いて公庫の創業・スタートアップ支援メニューや創業支援実績等について、図表とともに細かな説明がありました。なかでも、公庫を利用して上場した企業が全体の3割を占めており、バルミューダやタイミーなどの皆が知る名前が挙がり、学生の興味を引いたようです。
政策金融機関の仕事として、企業の上場というのは一つのゴールであり、そうした際にやはり大きなやりがいを感じるというお話がありました。
また勤続24年のご自身の経験から、全国各地への転勤・転属が多いことなど、働く側の視点をお話しくださいました。本店・支店での勤務以外に、海外留学や財務省出向時代のラオス・ミャンマー支援プロジェクトの話についても笑い話を交えてご自身の経験を話していただきました。各所への出向や転勤を振り返り、「知らない土地に転勤することをネガティブに捉える人もいるが、個人的には、多様な経験が得られ、良い人生勉強になっている」とお話しくださいました。
後半では山田さま(人事ご担当)が登壇し、学生に向けた公庫の取り組みを紹介しました。夏・冬に行われる「審査体験ワークショップ」では、審査員としてレストラン開業の事業計画を実際に審査してみる実践型プログラムを実施していること、また、高校生を対象にした「高校生ビジネスプラングランプリ」を開催していることの説明がありました。特に高校生ビジネスプラングランプリは、最終審査会では総理大臣からもコメントを寄せられるほどの規模で、若い段階から起業マインドを育てる試みだといいます。
「ビジネスプラングランプリは、実際に創業を考えていない人でも、課題を発見する力、論理的に解決策を考える力、そして他者と協働する姿勢を学ぶ良いきっかけとなる」と山田さまは語り、学生たちに主体的な行動を促しました。
質疑応答では、一度失敗した起業家への再チャレンジ支援や、海外展開支援の仕組み、転勤の実情など、学生から幅広い質問が寄せられました。
本講義を通じて学生たちは、「官」と「民」の間で社会を支える政策金融の意義を学び、日本経済の将来についてひとつ考えるきっかけを得ました。