2025年10月9日、経済学部「金融論Ⅰ(担当教員:近廣昌志)」の授業内で、プロジェクトファイナンス(PF)をテーマとした特別講義が行われました。講師を務めてくださったのは、元三菱商事の丹田 雅敏さまです。 本講義はPFの基本的な仕組みから実際の活用例を細かに解説くださるものでしたが、冒頭で講義の目的・ポイント・キーワードが明示され、話の全体像がつかみやすい構成でした。
プロジェクトファイナンスとは、ある事業を企業から切り離して特別目的会社(SPC)を設立し、その事業のキャッシュフローを担保として融資を受ける手法、と説明がありました。元の企業の信用力に依存しない「ノンリコース型融資」が特徴で、事業はSPCを通じて実行され、多くの関係者が契約によりSPCと結びつく構造となっています。
これにより企業はリスクを限定しながら、複数の大型事業を同時に展開できるようになり、また企業単体では困難な数百億~数千億円規模のインフラ・エネルギー関連事業への参入やカントリーリスクの高い地域での事業展開も可能となります。
実際の案件としてチリの銅鉱山、モザンビークのLNG、インドネシアの地熱発電などの写真、アメリカのキャメロンLNG事業の動画が紹介され、事業規模の大きさや関係者の多さを実感することができました。
繰り返し出てくる「リスク」について、丹田さまは「20階から落ちる場合と2階から落ちる場合、どちらのリスクが高いか?」とたとえ話を出されました。 「20階ならまず助からないが、2階なら無傷・けが・死亡といくつかのパターンが考えられる。」と、予測が困難であること自体がリスクの本質であると語り、学生たちの思考を深めてくださいました。
一方でPFには審査の厳しさや資金調達までの時間・コストの高さといった課題も存在し、講義後半は、融資契約の交渉プロセスや、インフォメーション・メモランダム、タームシートなど実務で使われる文書についての詳細な解説、そして時間いっぱいまでリスク分析のやり方についてのお話でした。
案件は検討から建設・運用まで10年単位となることも多く、丹田さまは「担当者は案件を育てて、案件に育てられる」と、仕事のやりがいと難しさを熱意をもって伝えてくださいました。またPFに関する格言として、「準備は悲観的に、実行は楽観的に」という言葉が紹介され、徹底した準備とリスク分析があってこそ自信を持って前に進めるというメッセージは、非常に印象的でした。
PFの知識は、銀行や商社、メーカー、エンジニアリング、不動産、コンサル、法務、そして官公庁におけるPFI/PPPなど、多様な分野で活かされていることにも触れ、履修するとよい科目や参考書籍など学生たちへのヒントも教示くださり、学生たちはいっせいにメモを取っていました。