2024年6月25日(火)1限、経済学部の「国際協力論(担当:林光洋)」において、(公財)味の素ファンデーションの宇治弘晃さんをお招きして、「日本企業の新興国ビジネスの一例 ― 味の素の市場開拓と社会貢献 ―」と題した公開特別授業が行われました。
宇治さんは、味の素で途上国市場開拓を担う、社内では「グリーンベレー(米国陸軍特殊部隊)」とも形容されるチームで活躍する伝説的な営業マンです。力強い目で学生たちを眺めながら、1勝14敗だったという就活のことやベトナム駐在に志願して以来インド、エジプト、ガーナといった国々で市場開拓してきたというご経歴を紹介くださいました。
味の素グループが東日本大震災の復興応援活動として始めた「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」のレシピ集を配布し、説明する宇治 弘晃さん
宇治さんは自身の営業の対象分野を伝統的流通(Traditional Trade、青空市場・路面店・伝統的市場内の小売店への販売活動)とご説明。「朝ミーティングをして、車に商品を積んでマーケットに行き、小売店のおばちゃんと話しながら在庫確認、少なくなっていたら買ってもらい、ディスプレイをして代価を現金で回収、事務所に戻って売上金額を勘定する。2024年のいまこの時も、そうしたシンプルな商売をしています」という一日の業務の流れとともに、営業活動の3要件や3現主義(現地・現金・現物)といった方針とその理由、また数多(あまた)のトラブルや対処法・心構えなどを教えてくださいました。
赴任してきた国々の特徴や赴任当時の思い出(社会情勢、トラブル等)の話に、参加していた学生たちはとても興味深く聞き入っていました。
後半に入ると、社会貢献というテーマで、アフリカの社会問題であるStunting(栄養素不足によって起こる、5歳以下の子どもの発育阻害(身体と脳の成長抑制))に対して、味の素ファンデーションがガーナで取り組んでいる栄養改善プロジェクトについての説明がありました。宇治さんはこれを「寄付でもなく、営利事業でもない領域の、社会貢献自走モデル」とご紹介されました。ガーナの伝統的な離乳食(「KOKO」と呼ばれるコーンのお粥)に振りかけるタイプの栄養補助パウダー「KOKO Plus」を開発し、この栄養サプリメントと母親への栄養教育によって子どもたちの栄養状態の改善を目指し、製品の生産から販売に至るまでを現地に根付かせるという壮大なものでした。ガーナ保健省をはじめとして、WFP(国連世界食糧計画)、USAID(米国開発庁)、JICA、ケア・インターナショナルやプラン・インターナショナルといった国際NGOなど多くのステークホルダーを巻き込んで、この難易度の高いプロジェクトを進めていったそうです。
ガーナの伝統的な離乳食に振りかける栄養サプリ「KOKO Plus」の現物を見せながら説明する宇治さん
最後に異文化コミュニケーションの極意として「身体知は言語知に優る」と「共感は身体同調から」を実例とともに教えてくださり、学生からのたくさんの質問をもって講演は終了しました。
宇治さんの豪放磊落に思える人柄や大胆な行動の裏に、緻密に考え抜かれた哲学と計算があることもわかり、いずれ海外での仕事を志す学生にとって宝物のような講演でした。
4限と5限には林ゼミ3年生の研究計画の中間報告会にもご参加くださいました。今年度は、サリサリストア(伝統的な零細小売店舗)班、ストリートチルドレン班、ストリートベンダー(路天商)班、コミュニティ開発(貧困地域の住民グループによる開発)班の4グループに分かれてフィリピンのインフォーマルセクターに関連した研究を行う林ゼミですが、宇治さんはフィリピンの事情もよくご存じで、非常に鋭い指摘をしてくださいました。ゼミの学生たちには大いに刺激となる時間でした。
研究計画の中間報告会に参加してくださった宇治さんを囲む林ゼミメンバー