2024年6月18日(火)1限、経済学部の「国際協力論(担当:林光洋)」において、日本国際ボランティアセンター(以下JVC)事務局長の伊藤解子さんをお招きしての公開特別授業が行われました。

中央大学経済学部OGでJVC事務局長を務める伊藤解子さん
伊藤さんは本学経済学部のOGで、英国の2つの大学院へ留学して開発学および地域研究(東南アジア)を修め、現在、日本の草分け的なNGOであるJVCの事務局長として活躍されています。JVCに入職される前は、東南アジアの民間企業、教育分野に強い日本のNGO、JICA本部、開発コンサルタントなど様々な国際的な仕事に携わってきたとのことです。経歴紹介のなかでも、「戦後20数年くらい経って生まれた」という紹介が印象的でした。
JVCの紹介に入り、団体の概略と「世界から中心をなくそう」のスローガンとそれに込められた思いからお話しくださいました。 JVCが携わっているプロジェクトを世界地図に示したうえで、1つ目としてイスラエル・パレスチナ問題を取り上げました。2023年10月7日に始まった空爆と地上侵攻により世界的に注目を集めるガザ地区の状況やプロジェクトについてです。

知っている紛争について、挙手をする学生たち
伊藤さんはこの紛争の概要として、19世紀後半にさかのぼり、以降、パレスチナの土地がどんどん縮小されていく状況を解説されました。空爆以前のガザ地区内の様子の動画を流して「人々が普通に過ごし、朝には街角のサンドイッチ店が開くなど、日常があった」としながらも、分離壁や検問所、拘禁や逮捕、家屋の破壊といったショッキングな写真も示し、その悲惨さを訴えました。ガザ地区の子どもたちの多くは栄養不足による貧血、発達・発育不良、ときには「くる病」なども抱えており、JVCはこの地で母親への栄養教育や病院へのアクセスなどを支援していたということです。

ガザの子どもたちが直面する課題について説明

ガザに住むアマルさんからの悲痛な叫び声を紹介
空爆の開始後は一層悲惨さを増しており、ガザに住むアマルさんという子持ちの女性の声が紹介されると、学生たちも悲痛な表情で説明に聞き入っていました。 このようなイスラエル・パレスチナの紛争や武力行使に対して、JVCが他のNGOとともに発した外務省宛ての緊急アクション(政府・国際社会への働きかけ)を求める要請文についてお話しくださいました。物品の供与や専門家の派遣といった支援のほか、電子マネー支援といった輸送コストのかからない支援の仕方もあること、また何より、各国で報道し、学ぶことで「忘れていない」というメッセージを発信することが重要ということでした。
イスラエル・パレスチナ問題に続いて、イエメンの紛争についての説明がありました。このイエメンの紛争は、国際社会から関心が低い「忘れられた紛争」と言われているそうです。日本ではほとんど知られていない人道危機で、実際、授業参加者の中で知っている学生はいませんでした。
イエメンの暫定政権とフーシー派の間で、サウジアラビア、米国、欧州、アラブ首長国連邦(UAE)の連合軍とイランの間の対立を反映した代理戦争が行われ、それがイエメンの紛争の実態であると説明してもらいました。イエメンの総人口約3,400万人のうち、この紛争による死亡者は約37万人、国内避難民は約456万人、支援と保護が必要な人口は約1,820万人、不就学の子どもは約450万人を数え、国連によれば「世界最悪の人道危機」の状態にあるとのことです。
そのような状況の中でJVCは、身分証明証や出生証明書の発行支援、「子ども広場」の設置、幼稚園園舎の増設などの面でイエメンに協力しています。避難民の中で、身分証明証や出生証明書をもともと所持していなかったり持ち出せなかったりした人たちに対して、それらの発行・再発行を支援することで、援助機関からの現金給付を受けることや子どもたちが学校に通うことを可能にしているそうです。また、「子ども広場」の創設により、避難民の居住地域の子どもたちが安心して子どもらしい時間を過ごすことを可能にしているとのことです。
最後に、JVCのスローガン「世界から中心をなくそう」に込められたメッセージを再度説明してくださいました。「特定の地域、国、人のみが中心である世界ではなく、1つ1つの地域や国が、1人1人の人が、それぞれ中心になることのできる新しい世界をつくっていこうということです。命の重さや力の大きさに違いはなく、1人1人が自らの未来を決めていくことのできる世界を目指してJVCは活動しています」という言葉で講演を締めくくられました。 その後、Q&Aのコーナーとなり、学生たちからはイスラエル・パレスチナの問題やイエメンの紛争をはじめ、JVCの事業、国際協力分野での就職に関連した多くの質問が出され、伊藤さんはそれらに対して丁寧にわかりやすく回答してくださり、本公開特別授業は終了となりました。
伊藤さんは4限および5限の林ゼミ3年生の演習授業にも参加してくださいました。今年度の林ゼミ3年生は、テーマごとに4つのチームに分かれて、フィリピンのインフォーマルセクターについて研究しています。 サリサリストア(フィリピンの伝統的な零細小売店舗)班、ストリートチルドレン班、ストリートベンダー(路天商)班、コミュニティ開発(貧困地域の住民グループによる開発)班、それぞれの研究計画と進捗の発表に伊藤さんは耳を傾け、「フィリピンの事情に詳しくないのですが」と前置きしながら問題点の指摘や、計画のブラッシュアップへのアドバイスなどをくださいました。

伊藤さんと林ゼミのメンバーたち