商学部

商学部学生がロンドンでイギリスの〈今〉に関する実態調査を実施しました

商学部には、ゼミと連携したグローバル教育「グローバル・フィールド・スタディーズ(GFS)」があります。

商学部「国際教養演習(担当教員:福西由実子)」の学生がGFSの活動として、2025年1月29日(水)~2月4日(火)でイギリス・ロンドンを訪問し、ゼミ生の研究テーマである〈今〉に関する実態調査を行いました。*本調査は中央大学商学部「特色ある学部教育補助」により、渡航費用の一部補助を受けております。


国際教養演習は、世界の言語、歴史、文化等に関する知識を深め、それらと関連があるビジネスや社会活動について学習し、将来、多様な言語・文化背景を持つ人々と協働するために必要な能力の習得を目標とします。

調査報告

調査目的


 本ゼミでは、第二次世界大戦後のイギリス社会について、政治、経済、文化の各側面から多角的にアプローチし、ゼミ生は自身の関心に基づいてゼミ論文を執筆した。今回の実態調査の目的は、各自の研究テーマに関連する最新の〈実態〉を実際に現地で確認し、理論的な知識を現場に照らし合わせることで、より深い理解を得ることであった。
  ゼミ生たちの論文テーマは多岐にわたり、例えば「英国戦争記念碑――現代社会と紡がれる過去の記憶」、「『メアリー・ポピンズ』論――1930年代イギリスにおけるナニーの社会的役割について」、「ピクチャレスクを通して見るイギリス人と自然との関わり」、「英国に影響を受けた日本の鉄道発展史――鉄道の発祥の地イギリスと、『世界一の技術』を有する日本との違いに着目して」などがある。 
  

調査結果


〈戦争記念碑とジェンダー〉
 ロンドンのホワイトホールには、イギリス政府の中枢をなす中央省庁や政府機関が並んでおり、その道沿いに戦争記念碑が設置されている。今回の調査では、第二次世界大戦期に戦争に従事した700万人以上のイギリス人女性を讃える記念碑「THE WOMEN OF WORLD WAR Ⅱ」を間近に観察し、その特異(かつ巨大)な女性性の強調を確認した。また、第一次世界大戦を契機に「The Cenotaph」をはじめとする多くの戦争記念碑が全国に設置された歴史的背景を振り返り、記念碑が当時の社会をどのように反映していたのかを分析した。特に、従来の「戦争=男性」というイメージに対するアンチテーゼとして上述のような女性を象徴する記念碑が社会に与えた影響を、ジェンダーを含めた多角的な視点で考察した。

〈『メアリー・ポピンズ』とその背景〉
 『メアリー・ポピンズ』の作者、P.L.トラヴァースが実際に住んでいたサウス・ケンジントンの邸宅(スミス・ストリート50番地)を訪れた。この邸宅は、作中に登場するバンクス家のモデルとなっている。彼女は1934年に第1作『風にのってきたメアリー・ポピンズ』を発表して以来、1988年までに全8作品を手掛けた。その中でも、1930年代イギリスにおける階級社会や、ミドルクラス家庭でのナニーの役割が焦点化されている。今回、邸宅とその周辺の環境を実際に見学することで、メアリー・ポピンズに与えられた役割について新たな視点を得ることができた。

〈ピクチャレスクとアーツ・アンド・クラフツ運動〉
 ナショナル・ギャラリーでは、英国ピクチャレスクの概念を考察する上で重要な画家であるJ.M.W.ターナーの作品をはじめ、多くの名画を鑑賞した。また、ピクチャレスクの影響を強く受けた19世紀イギリスのテキスタイルデザイナーであり、詩人、作家、アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者であったウィリアム・モリスの工房と邸宅(ケルムスコット・ハウス)を訪れ、その後、ヴィクトリア&アルバート博物館に足を運び、モリスの実際の作品に触れる機会を得た。

〈JR東日本の海外展開とイギリス市場における挑戦〉
 JR東日本ロンドン事務所を訪問し、イギリスでの事業展開や文化の違いについて社員の方々からお話を伺った。JR東日本ロンドン事務所は2014年に開設され、現在5名が在籍されている。主にモビリティ事業と自販機事業を担当し、2019年からイギリスでデジタル自販機を展開、13都市50台でトライアルを実施した。その後、2024年にはイギリスの自販機運営会社「Decorum Vending」を買収し、鉄道駅を中心に自販機の台数を50台から1,000台に拡大。さらに、ロンドン中心部のユニクロ店舗に日本産品を販売するタッチパネル式自販機を設置し、特に福島の「あかつき桃」ジュースや「青森りんご」ジュースが人気を集めている。
 また、日本の伝統工芸品の海外展開にも注力しており、ロンドンの「ジャパンハウス」などでPR活動を行っている。名川所長によると、伝統工芸品は海外で新たな用途を生むこともあり、お猪口がエスプレッソカップやバルサミコ酢入れとして使われるなど、驚くべき発想の違いも見られるという。
 「省人化が進む中で、今後の無人運転はどうなるか?」という質問に対しては、自動運転技術に力を入れており、山手線や京浜東北線、新幹線の入換運転でも導入している。しかし、イギリスと日本で規制が異なり、イギリスでは自動ドアの閉鎖時に係員の対応は不要だが、日本では必須とされているとの返答であった。このように、制度や文化の違いが明確となった。

〈実態調査を通じての学び〉
 このほか、①ポートベロー・ロード・マーケットや小売店舗など、現地の消費生活に関わる施設を視察し、②オックスフォード大学ボードリアン図書館及びクライスト・チャーチ・カレッジを訪れてイギリスの高等教育の最前線を学び、③大英博物館、ロンドン科学博物館、ロンドン自然史博物館、国立海洋博物館といった特色ある博物館を訪れた。
 調査の締めくくりには、ロンドン中心部と東部を結ぶ自動運転鉄道「DLR」に乗り(JR東日本ロンドン事務所で「人間が挟まれていても発車するから気をつけて」との忠告を受けた)、欧州最大の超高層ビル群であるカナリー・ワーフを経由してグリニッジ天文台を訪れ、その後フェリーで歴史的な金融地区であるシティに向かうという体験をした。今回の一連の経験を通じて、ゼミ生たちはイギリスの現代社会の新たな側面を実感し、これまでの調査結果を自分たちの視点でさらに深めることができた。