国際情報研究科

社会人大学院生の学びとチャレンジ

2023年4月に開設した国際情報研究科には、多くの社会人大学院生が在籍しています。社会人の方の中には大学院に興味はあるものの、「どんな人がいるの?」「仕事やプライベートとの両立は?」と心配で、受験・進学に踏み出せない方もいらっしゃると思います。
大手金融機関にお勤めの鈴木宏之さんに、本研究科の入学に至った経緯やゼミの様子、大学院で何を学びどのように業務に生かしていこうと考えているのか、指導教員の須藤修教授も交えて、お話を伺いました。
大学院での学び直しを目指す皆様のご参考としてください。

——— 鈴木さんは大手金融機関にお勤めですが、どのような業務に従事されていますか?

鈴木 金融機関のトランザクション部門で外為業務を担当する部署に所属しています。日本の顧客が海外送金を行うときの手配や、貿易する際に必要な金融のお手伝いをする部隊です。
私は、その外為部署の中でも企画グループに所属していて、例えばクロスボーダー取引に係る債権の流動化という商品担当として契約書等のリーガル面を調整したり、現在は海外送金や外国保証における新たな仕組みをコーディネートするプロジェクトを複数リードしています。

——— その業務の中でどのような問題意識を持ち、大学院に進学したのでしょうか?

鈴木 私の会社ではここ数年、情報技術を活用しようという動きがあります。
私の専門分野は外為の中でも貿易金融ですので、例えばブロックチェーンを使った新たなシステムの開発もその一例です。
新しい技術活用のためには、金融機関の中にいるだけではなく、外に出て新たな仕組みを学んだり人脈を広げたりすることも重要だと思い、大学院への進学を考え始めました。

——— 大学院進学を考えたときに、中央大学大学院国際情報研究科の須藤研究室を選んだ理由やきっかけを教えてください。

鈴木 大学院の説明会に参加したときに、須藤教授が話されている内容が自分のやりたい貿易金融の領域に一番フィットすると感じたのがきっかけです。
また入試出願の前に須藤教授にコンタクトを取った際に、業界の外からではわかりにくい金融機関のシステムについてベーシックなことから発展的な内容まで丁寧にご紹介いただいたので、須藤教授にご指導いただくのがベストだと感じ本研究科を選びました。
さらに「情報」と「法律」の両方の領域にアプローチする大学院は、他に例がなく、その先進性に魅力を感じました。
実は別の大学院も選択肢にあったのですが、そちらはプログラミング技術を駆使した「作る側」の要素が強かったんです。私はそれよりも「使う側」として実業に生かしていきたいと思っていたので、こちらの大学院の方がフィットしていると感じました。
金融機関にいると法律はすごく重要で、日本の法律でも金融商品取引法、銀行法、外為法、手形法 etc..など多く関係してきますが、それだけでなく、私の場合は海外との取引もみていますので、海外の法律も関わります。
日本と海外にまたがる特殊な契約も扱うので、法律を遵守するのは当然のことながら、法律をどう使うのかというのが重要で、それらを合わせて学べるというのは非常に面白く、この大学院の特色だなと思っています。
入学後に感じたのは法律や情報だけでなく、国際情報研究科のカリキュラムに組み込まれている哲学や倫理も非常に重要だということです。
単に仕組みや技術の知識を得ることだけでなく、人間にとっての普遍的な価値観など、自分なりに考えて、本質的なことを継続的に学ぶ姿勢が今後重要になっていくと感じています。

須藤 哲学や倫理を学ぶと物の考え方や見方が変わる可能性があり、そこから自分の価値観を再構築することもあります。魅力的ではないと思っていたことに魅力を感じることもありますよね。

——— 須藤教授にお聞きしますが、鈴木さんの業務遂行の中から生まれた問題意識を、研究者・教育者の立場としてどのように受け止めていますか?

須藤 鈴木さんの業務分野で私自身も関心があるのは、国際決済としてブロックチェーンを使うことです。
国際金融において、為替変動のリスクを減らすためにブロックチェーンを使用した国際決済が考えられています。
ブロックチェーンも最先端技術ですが、鈴木さんが大学院にきて関心を高めているのが「生成AI」です。「生成AI」が文明を変えるといわれている中で、鈴木さんは「生成AI」を金融システムにどう活用するかを考えているので、それは私自身も非常に関心があります。
鈴木さんのように業界のフロンティアにある人と一緒に勉強することは研究者にとっても刺激になります。ギブアンドテイクなんです。
当然ですが学部生は社会のことがまだ理解できていない部分もあるので「教える」ことが多くなります。しかし社会人大学院生は社会的に責任のある仕事もこなしてきた経験があり、目的意識もはっきりしています。一緒に考える中でお互いの考え方が次のフェーズに移行することもある点が社会人大学院生の特長です。

——— 須藤ゼミは全員社会人ですが、ゼミの様子や雰囲気を教えてください。

鈴木 仲は良いですが、程よい距離感です。時々飲み会を開いたりして交流を深めています。さまざまな業界の人がいるので非常に面白いです。

——— ゼミではどのように授業が進められていますか?

鈴木 前期(2023年4月~7月)はスタンフォード大学のAIに関する論文を読み、みんなでディスカッションをするという内容でした。英語の論文をパートごとに担当を決めサマリーを発表し、それに関して討論する形式です。

——— 担当の部分が課題となるのですね。大変でしたか?

鈴木 そうですね。ボリュームもありますし、英語ということもあって大変でしたが、内容がとても面白かったので進められました。

——— 大学院生それぞれが活躍する業界が違うからこそディスカッションが活発になることもありますか?

鈴木 ありますね。いろんな背景の方がいらっしゃることで新たな視点を得られます。
例えば、教育関係の方がいらっしゃるのですが、教育現場からの視点や教育委員会の考え方などを踏まえてお話やコメントをいただけると、「なるほどな」と思います。
議論を進めていくところに須藤教授も参加されて、適宜コメントしていただけるので、議論の幅もどんどん広がります。

——— 大学院生同士がお互いに刺激を受けながら、学んでおられますね。
では、指導教員の視点から、ゼミの様子や雰囲気を教えてください。

須藤 鈴木さんの見解とほぼ一致しますが、皆さん業種が異なる社会人で大人です。家庭人としても社会人としても責任のある立場で、落ち着いてしっかりと考えているので、安心して議論できます。
冗談も受け入れてもらえますしね(笑)

鈴木 初めの頃は冗談を言われる方だと知らなかったので、何回か真に受けてしまって(笑)。最近は冗談を見抜けるようになってきました(笑)。

須藤 いい雰囲気で、いい距離感なんです。お互いが立場を尊重して、それぞれのフィールドを紹介しあっています。
ゼミの内容は、鈴木さんの話にもあったスタンフォード大学のテキストを読み、最先端技術からその影響までを読了しました。皆さん「今、こんな感じで世の中が動いているんだ」と理解したと思います。
後期もまたテキストを読もうと思いますが、並行して個別の研究テーマの発表と討論を定期的に行いながら、学会発表と学位論文の準備を進めていきます。多くの文献を読み、構想がしっかりと練られた発表を期待しています。学会発表はその後の修士論文執筆にも大いに役立ちます。
また先日、私もパネリストとして登壇した生成AIに関する大きなシンポジウムがあり大学院生にも参加してもらいました。
政治家の発言などは、学部生ですと理解できてもリアルなこととしては受け止めにくい場合もあります。一方で社会人大学院生は経験に基づいて深く理解できることもあるのか、皆さん「面白かった」と言っていたのが印象的です。

鈴木 最先端の情報や業界の雰囲気を知ることができ、とても有意義でした。私の会社からの参加者はいなかったので後日動画が公開されたタイミングで関係部に知らせたところ、とても感謝されました。

——— 先ほど修士論文の話がありましたが、鈴木さんは修士論文について構想などは考えられていますか。

鈴木 構想とまではいかないのですが、分野はやはり貿易金融を中心に話を進めようと考えています。
そして、会社でも生成AIを業務に活用していこうという取り組みが進んでいますし、私が担当しているシステム開発でも生成AIを活用できないかと考えているので、そのようなトピックスも内容として入れられたらと思っています。
一方で、金融機関におけるアンチマネーロンダリングなどのコンプライアンス対策はますます重要となってきており、そういった領域でもあらたな情報技術の活用や個人情報保護の取り扱いの高度化は非常に重要になっているのでまとめていければと思っています。他にもいくつかの候補があるので、これから選んでいきます。

——— 大学院と仕事、プライベートの時間の使い方で意識していることはありますか。

鈴木 1日が24時間しかない中で大学院と仕事、プライベートの3つを別々に考えてしまうとどうしても無理が出てきてしまいます。
なので、それぞれを全く別なものと思うのではなく、それぞれがオーバーラップしているものだということを意識しています。
例えば、私は、現在の仕事はやりがいもあり成長を感じることができて充実しているので、そういった意味では趣味みたいなものだなと感じますし、大学院も新たな知識や経験を得ることが本当に楽しいので、遊びと一緒だなと思っています。言い方が難しいので分かってもらえるかわかりませんが(笑)

——— 実際に4月から平日は100分、土曜日はほとんどを大学院に使っていますが、しんどいと感じることはありますか。

鈴木 しんどいと感じることは不思議とないです。授業の内容がどれも楽しくて毎回ワクワクしているというのが一番の理由ですが、私の場合は、会社の働き方も多様化しており在宅勤務をできること、そして大学の授業をオンラインで受講できること、どうしても出席できなかった場合は、あとから録画された授業をみることもできるのでそういったことをうまく活用しながら学べているというのが大きいと思います。
例えば、私は通勤に片道1時間くらいかかるので、在宅勤務に変更することで2時間捻出できます。工夫して時間を作り、授業や予習復習に充てています。
またプライベートでは小学生の子供が2人います。5年生と3年生なので子供が幼いころと比べて子供だけで友達と遊ぶ時間が増え、自分の時間を捻出しやすくなったと感じます。子供たちには、自分のやりたいこと、学ぶことは楽しいんだよということを背中で見せられたらと思っています。

——— 須藤教授としては大学院で学ぶにあたって事前に身に付けておいてほしいことはありますか?

須藤 基礎知識は皆さん持っていると思います。また大学院で学ぼうと思われているのだから、それぞれに問題意識もあります。 ですから、向学心と意欲をもって大学院に来てほしいですね。
それから鈴木さんも何度もおっしゃっていますが、ゼミや授業を「面白い」と感じられることが大切です。鈴木さんだけでなく、他のゼミ生たちも楽しんでいます。
また一種の「リカレント教育」なので、社会を経験したうえで学び直すと、さまざまな視点から物事を見ることができ、世の中の仕組みを深く自分のものにできます。
社会人の場合は自分の経験との相互作用で独自性のある見方を獲得しやすいです。社会人であればこそ研究の意義が高まる部分もあると思います。
さらに大学院を出ると指導的な立場に立たれる方が多いです。大学院での学びをきっかけに、よりレベルの高い指導者になれると思います。

——— 先ほど鈴木さんの修士論文や研究計画について話がありましたが、指導教員として鈴木さんに求めるものはありますか?

須藤 「意欲をもって攻めの姿勢で取り組んでほしい」という点ですね。
鈴木さんは入学前から金融システムの高度化に関心を持っていました。金融は今、多様化しており特に投資分野が重視されています。投資分野は国際的な取引が重要で、グローバルな金融契約は社会にとって重大な影響を及ぼすため、鈴木さんが関わっているシステムは重要です。
同時に今後、生成AIはあらゆる分野に強く影響するので、どのようにして積極的に生かすか、も重要です。鈴木さんも、鈴木さんの会社も生成AIへの関心は高いです。
だからこそ会社の考えと鈴木さんの考えがマッチングしているし、大学院での論文で鈴木さんが独自性のある知見を出すことがあれば、うまく役立てると思います。
厳しいことがあってもプラスに変えられるような発想をして、面白さを見つけながら勉強を進めて、どんどん活躍してほしいです。

——— 鈴木さんは今のお話を聞いてどうですか?プレッシャーですか?

鈴木 頑張ります(笑)

——— 社会人の中には勉強をしたいけれど仕事や家庭との両立に悩んで一歩を踏み出せない方もいると思うのです。そのような方へ鈴木さんからメッセージをお願いします。

鈴木 情報化社会が進んでいく中で、ここ数年は特にオンラインが身近になってきたと感じます。オンラインが普通の選択肢の一つとのなることで、社会人などの時間の制約が多い人達にとっては、学校に通うということの垣根が以前より格段に低くなったと感じています。
なぜなら、在宅勤務もそうですが、さまざまなことをオンラインに変更することで時間を捻出することができるようになってきたからです。
私も、もしオンライン授業ができず、毎回大学で授業を受ける必要があったら入学は難しかったかもしれません。しかし、ここはオンラインでもいいし、実際に大学に来て授業を受けてもいいという選択肢があります。
この前のゼミで須藤先生が見せてくれましたが、中国でもオンラインを活用することにより、特に農村部の子供達が、それまで片道数時間の未整備の道を通学することなく都会と変わらない教育を受けられるということで社会全体の教育の底上げが進んでいると観ました。
せっかくこのような時代の中で生きていて、システムも存分に活用できる環境もあるのでおそれずに飛び込んでやってみるのはありだと思います。

——— チャレンジしてほしいということですね。

鈴木 はい、実際にやってみると何とかなることは大いにあります。
何事もトライが重要です。

——— では須藤教授、全受験生に向けてメッセージをお願いします。

須藤 まだ初年度ですので、普遍化はできないですけれども、私が経験しているところでは社会人大学院生はすごくやる気があって、すべての講義にわくわくしながら参加しています。
またゼミでも各自の専門性を生かした発表やコメントをするので、大学院生同士お互いに参考になりますし、教えている自分にとっても重要で良い機会です。それは学部生とは違った魅力です。
今後、社会に対するITの影響は強くなり、ITに関わる法制度やガイドライン作りが重要になります。大学院での学びを、そういったことをトータルで考える機会としてもらえるといいと思います。
国際情報研究科は今までの専門的な枠組みとはちょっと違って、融合領域をやっているので、新しい視点を獲得する良い機会になっていると思います。
社会人であればこそ考える機会や新しい視点の影響は大きいので、どんどん社会人も大学院に来ていただきたいですね。

——— お話をお聞きしていると、鈴木さん自身の問題意識が須藤教授の専門領域と合っているので指導する側も学ぶ側も一緒に勉強するのが楽しく、相乗効果が生まれているように思います。これは大学院ならではですね。
このように良き指導者を見つけていくときのポイントや、どの程度まで問題意識を固めて教員にアプローチした方がよいなどのアドバイスはありますか?

須藤 教員にもよりますが、私はガイダンスを聞きパンフレットを見て「この教員に連絡をとってみようかな」という直感から始めてみてよいと思います。
教員の方からも良い感触があればそれでいいですし、もう少し詳しく聞いてみたいという場合はそれをきっかけに会ってみれば良いと思います。「何のために」という目的意識と意欲があれば、教員側もサポートはしやすいですね。

——— 目的をもった社会人の方々にぜひ大学院での学びにトライしていただきたいですね。本日はありがとうございました。