国際情報研究科

設計業務の未来を考えるAI活用研究

国際情報研究科の学生のうち60%は社会人として働きながら研究する学生です。その社会人学生のひとりで、総合建設会社にお勤めの高橋智子さんと指導教員の准教授 吉田雅裕に、大学院での学びについてお伺いしました。
※掲載している内容は、2025年10月時点の内容です。

——— 高橋さんが大学院進学の検討に至ったきっかけや動機、業務で感じていた課題等を教えてください。

高橋  建築業界で意匠設計に携わっており、特に建築物をパソコン上で立体的に再現するBIMでの実施設計を担当しております。
進学のきっかけは、会社がDX推進の一環として、ある大学と提携して実施した講義を受けたことです。そのときにDXについてもっと学びたいと思いが強まり、進学を考え始めました。
こうした経緯もあり、現在はDX×AIチームのプロジェクトリーダーも務めています。

——— 数多ある大学院の中から国際情報研究科を選んだ理由を教えてください。

高橋  業務との両立を最優先に考えて選びました。また子育て中ということもあり、オンラインを活用した授業を実施していることも本研究科を選んだ大きな理由です。

吉田  平日はオンラインで受けられる授業が多く、社会人が参加しやすい時間に設定されています。業務との両立を考えている方にも選びやすいのではないかと思います。

——— 仕事と学業の両立について、1週間のスケジュールと講義の受け方を教えてください。

高橋  前期は週に4コマ受講しました。そのうち1コマはゼミ(科目名:国際情報学研究指導)で、土曜日に対面で参加しています。他の3コマは平日の夕方の授業で、オンラインでの受講です。終業が遅くなった際は、職場でそのままオンライン授業に参加することもあれば、授業後にまた仕事に戻ることもあります。

——— 仕事と学業の両立で、つらいと感じることはありますか。

高橋  すごく楽しいです。社会人を長く続けていると、どうしても業務に対してマンネリ化してしまいますが、業務の中で「もっと学びたい」と感じたタイミングで学ぶことができているので、非常に充実しています。
研究は思った通りに進まないこともありますが、特に苦労だと感じることはありません。
課題や研究内容も実務ベースで取り組んでいますし、吉田先生がそのように指導してくださっているので、業務との両立ができています。
また新しく学んだことをどのように業務に活かすのかを考えたり、物事の考え方の幅が広がったりすることに喜びを感じています。

——— では大学院の学びについてお聞かせください。
高橋さんは卒業した学部もお仕事も建築系ですが、自動運転の研究をしている吉田先生を指導教員に選んだ理由を教えてください。また先生と研究分野にギャップは感じていませんか。

高橋  AI・データサイエンスや情報工学を中心に学びたいと考えていたため、吉田先生を志望しました。
応用や実装という面では異なる点もありますが、技術的な方向性はあっているため私はギャップを感じていません。

吉田  当初、車の自動運転を専門としている私が、建築・設計を専門とする高橋さんを指導できるか心配もありました。しかし、話を聞く中で、建築の中でも業務の効率化やBIMなど、コンピュータと親和性の高い内容を中心に学びたいとのことだったので、その懸念は払拭されました。
また、冒頭のお話にあった、高橋さんの会社が実施した他大学でのDX講座を担当していたのが、私の博士論文の審査をしてくださった先生でした。その先生はIoT分野で非常に著名な方で、高橋さんがその講座で学んだ内容をさらに深く学びたいという理由で志望されたと伺い、高橋さんの学びたいことのイメージを把握することができました。結果として専門分野の違いに対する不安は解消され、実際に入学後も違和感はありません。

——— 授業について、情報系の授業を受講するのは初めてだと思いますが、大変ではないですか。

高橋  初めてですが、大変だとは感じていません。

吉田  私の授業では、基礎理論を一から学ぶというよりも、社会人の方が実務に応用できるよう、実際にプログラミングを行っています。
情報系の授業は受講生の中でレベル差があることも多いですが、国際情報研究科の教員は、さまざまなレベルの方を指導することに慣れていると感じています。というのも、同じ建物で学んでいる国際情報学部には、理系クラス出身の学生も文系クラス出身の学生も在籍しているためです。
学部の授業を担当する中で培われた、「ここから先は難しく感じやすい」といったポイントを見極めながら、大学院の授業も進めています。

——— 吉田先生は社会人大学院生を教えるうえで注意していることなどありますか。

吉田  その技術がどのような理論に基づいているのか、といった理論的な内容よりも、「どのような場面で使われているのか」「どのような業務に活かせるのか」といった点など、実務との結びつきを意識して授業を進めています。

——— では、研究についてお聞かせください。テーマは決まりましたか。

高橋  (1年目10月の時点で)テーマは決まりました。タイトルは「建築設計図面のレビューを支援するAI-注釈付き図面を用いた暗黙知の構造化と応答形式がユーザビリティに及ぼす影響-」です。

——— テーマ設定は大変でしたか。

高橋  大変でした。時間もかかりましたね。

吉田  大変だった、というよりも、高橋さんの中で業務課題が複数あり、その中での選択に時間がかかっている印象でした。方向性が決まってからはスピーディに進んでいたと思います。

——— 吉田先生が感じる今回の研究のテーマのポイントや興味深い点はどんなところですか。

吉田  今回の研究テーマは、世界的にあまり研究されていない分野なので、研究を進めることで実際にどれくらい業務に影響するのか、興味深いです。
また技術面では図面と人間の手書き文字が混在するデータセットを読み込む、という点にも挑戦しています。
さらに生成AIの課題として、誤った内容をあたかも正しいように出力してしまうという点が挙げられます。建築設計では必ず守らなくてはいけない基準があるため、生成AIの柔軟性を活かしつつ、厳格に守るべき基準をアルゴリズムとして学習させる必要がある点は、学問的にも技術的にも面白いと感じます。

——— 今回の研究は、技術面だけでなくAIが関わるということで、先行研究がそれほど多くない点でも大変かと思います。現在の研究の状況と今後の進め方、目標について教えてください。

高橋  先行研究が少ないため、手探りで進めています。すでに生成AIに対し図面資料の読み込みや経験者の知見の学習を行い、現在プロトタイプが完成した段階です。
生成AIに資料を読み込ませる過程では、手書き文字の誤認識が多く、手作業での修正が必要となったため大変でした。
今後は、社内で実際に社員に使用してもらいDXの効果がどの程度あるのかを検証していきます。

吉田  目標については実際の技術開発まで完成させることは時間的に難しいため、高橋さんが考えていることが技術的に可能なのかを検証できればと考えています。

——— この後の研究を進めるにあたり大事にしたいことを教えてください。

吉田  企業での実務経験から、どんなに優れた技術でも情報倫理が伴わなければ、社会実装は成功せず普及もしないと感じています。ぜひ情報倫理を重視してプロジェクトを進めていただきたいです。

高橋  先生からは、周囲の人々に受け入れられ、社会的に認められるためにも、またリスクヘッジの観点からも情報倫理は重要だというアドバイスをいただいています。

吉田  また、社会人の方は部下がいらっしゃることも多く、全体を俯瞰して見る能力に長けています。ただ、研究においては、一つのことに深く集中して掘り下げる視点も欠かせません。
企業にいれば技術面は専門の方に任せるケースも多いと思いますが、せっかく大学で学ぶ機会ですので、すべての工程をご自身の手で着実に進めていただきたいところです。
簡単そうに見えることほど、実は難しいものです。全体の「概論」はもちろん大切ですが、個別の「各論」も同じように重視し、一つ一つの技術的な課題に深く向き合って研究に取り組んでほしいと思います。

——— 大学院に入学してよかったこと、実際に学んでみての気づきなどはありますか。

高橋  DXやAI活用などは入学前と比べ知識が増えた一方で、分からないことも増えていくと感じます。
「こんなことができるのでは」と思い入学したのですが、学んでいくことで「可能だけれど、やってよいのか」という問いが生まれ、より深く考えさせられます。

吉田  知識が増すにつれ、容易だと思っていたことが実は非常に難しく、理想と現実のギャップに気づかされます。現在、社会で活用されているAIは、そうしたギャップを乗り越えて実用化されたものですから、実際のビジネス展開の事例を知ることは極めて重要です。
当研究科では、さまざまな企業からゲストスピーカーをお招きし、どのようにビジネスに活用するに至ったのかをお話しいただいています。講演には実用化のヒントが数多く含まれており、私にとっても大きな学びとなっています。

高橋  またデータサイエンスを基礎から学べていること、情報法も学べること、という情報と法律を軸にした多角的な学びは国際情報研究科を選んでよかったと思える点でもあります。法律を学んでいる方たちと話していると、考え方の差を感じることもあり、興味深いです。

——— 最後に今後の目標を教えてください。

高橋  建築専門の人材が多い社内において、システムや管理業務のDXではなく、建築業務そのもののDXに取り組む今回のプロジェクトは、大きな挑戦だと感じています。今後は、この研究で得た知見を活かし、日常の業務課題をDXによって改善していくことが目標です。

吉田  ぜひ学会発表にも挑戦していただきたいですね。