国際情報研究科
二足の草鞋:国家公務員就職と大学院進学
国際情報学部の2期生である長谷川桂司さん。国家公務員として総務省に入省するのと同時に、国際情報研究科にも進学するというチャレンジングな進路を選択し、業務の傍ら修了に向けて研究を進めていらっしゃいます。長谷川さんと、学部時代からの指導教員である准教授 中村真利子に、大学院での学びについてお伺いしました。
※掲載している内容は、2025年7月時点の内容です。
——— 長谷川さんは2020年度に2期生として国際情報学部にご入学されました。学部時代に関心を寄せていたことや研究内容について、教えてください。
長谷川 大学入学以前から、誹謗中傷やフェイクニュースといったインターネットをめぐる社会的課題に関心を持っていたので、情報学と法律を専門教育に据える国際情報学部(iTL)のカリキュラムに惹かれ、入学しました。入学後は、情報系の授業も履修しつつ、法律系の授業に比重を置いて履修しました。iTLで学ぶことができるいくつかの法学の分野のうち、特に刑事法分野に惹かれ、中村先生のゼミを選択しました。ゼミでの「サイバー犯罪の捜査」についての議論は興味深く、卒業論文は「リモートアクセス捜査と越境捜査 -我が国におけるリモートアクセス捜査と越境捜査の国際的動向-」をテーマとして書き上げました。ゼミでの研究もさることながら、授業科目においても、公共政策に携わる企業の方々の講演を数多く聴講できる授業や現役の行政官の方々と討論を交わし、学生オリジナルの政策を立案する授業は特に面白かったことを覚えています。
中村 長谷川さんは、普段の講義やゼミはもちろんのこと、それ以外にも、多摩キャンパスにある教職事務室が運営するプロジェクトに参加したり、市ヶ谷田町キャンパスで法律系のサークルを立ち上げたりするなど、様々なことに積極的に取り組んでいたことが印象的でした。また、大学院進学も視野に入れ、公務員試験と並行して大学院の授業を履修していたことも、そのエネルギーに驚かされました。卒業論文は、サイバー犯罪捜査において非常に重要なテーマに関するもので、慎重ながらも計画的に執筆していました。いまだ課題の多いサイバー犯罪捜査についてゼミで議論できたことは、現在の研究にもつながっているかと思います。
——— 学部卒業後は、就職と進学のいずれかを選択するのが一般的ですが、長谷川さんはその両方を実現されました。学部での学修・研究を経て、ご自身にどのような気持ちが芽生え、就職と進学の両方を選択することになったのでしょうか。
長谷川 就職活動では、安心安全なインターネット環境の実現に私がどのように貢献できるか、を軸に据え、様々な民間企業を検討しましたが、「誰一人取り残さない」行政の姿勢に最も共感し、公務員の道を選び、最終的には総務省への就職が決まりました。しかし、就職活動を進める中でも、自身が学部入学前から抱えていた課題意識に対して十分な検討ができていない、課題に対する自分なりの解答を出し切れていないという思いも持っていました。そこで、学部4年次に「中央大学学部在学生の大学院授業科目履修制度」を利用し、国際情報研究科の授業の履修も始めました。そこで、多様な業界から集まる社会人学生による議論の内容や、働きながらもさらに学び続ける姿勢に強い刺激を受け、大学院進学を本格的に視野に入れました。また、学部生時代に修得した大学院の単位は、大学院入学後に、大学院の単位として認定される制度もあることを知り、この制度を利用すれば、働きながらでも修了できるかもしれないと判断したことが、大学院進学への最後の一押しになったと思います。
——— 長谷川さんの進路について、中村先生からも何かご助言されたこともあったのでしょうか。
中村 ご本人の努力という一言に尽きます。長谷川さんが学部在学中は、コロナ禍の影響で、特に初期は社会とのつながりをもちにくい時期でしたので、オンラインでのサイバー防犯ボランティアの機会を設けたり、公務員や民間企業の方々をゲスト講師としてお呼びしたりするようにはしていました。大学院進学に関しては、その意義について、私の経験も含めお話ししたことはありますが、社会人学生としてのご経験のある他の先生方のご助言やカリキュラムによるところが大きいように思います。
——— 本研究科には自身が社会人学生として大学院時代を過ごした教員が多く、社会人学生を多く受け入れている本研究科の学生にとっては、仕事と大学院の両立などのアドバイスを受けられたりして、良い環境だと聞いています。
——— 就職と進学という二足の草鞋を履くことについて、大学としては大歓迎ですが、就職先の方から進学を止められるようなことはなかったのでしょうか。
長谷川 やはり、最初は「無理なく続けていけるのか」という心配をいただきました。しかし、後になって「実は自分も大学院に通っている」という上司や同僚がいることがわかり、とても驚きました。職場柄「学び続けていくこと」にはかなり寛容で、年次を越えた大学院生のコミュニティの中で情報交換をしています。
——— 仕事と学業の両立が始まってから今まで、実際の生活はいかがでしたか。
長谷川 想像はしていましたが、二重の新生活ですから、やはり大変は大変です。ですがそれ以上に、仕事では得られなかったであろう知見の獲得や人脈の形成をかなえることができ、負担感よりも面白さが勝っています。毎週土曜日のゼミは法律系に所属する学生の合同ゼミで開催されており、様々な業界に勤める方、また同じ法律系ゼミとはいえ異なる法分野を主に研究する方々と意見交換をすることで、とても刺激的な時間を過ごせています。
——— 社会人大学院生にとっては、大学院は人脈形成の場としても有益であることは、社会人の方からもよく伺います。本研究科では新入生入学後に全学生と教員が一堂に会する懇親昼食会を行っていますが、そこで長谷川さんが積極的に名刺交換している姿が印象的でした。
——— 法律系合同ゼミについて、社会人学生は所属する業界が様々で、また、新卒学生も在籍していますが、合同ゼミを運営する教員の視点から、その面白さや醍醐味、また大変な点などはありますか。
中村 刑事法は犯罪と刑罰にかかわる法領域で、厳格な解釈が必要であることから、その意味での議論の難しさはあるように感じます。もっとも、他分野の先生方だけではなく、様々なバックグラウンドをもつ学生を前に報告し、また多様なご意見をいただけることは、学際的な研究をするにあたって大変有意義であると思います。
——— 業務を進める中で、大学院での学びがリンクしていると実感できる場面はありますか。
長谷川 大学院では、iTLの先生方に留まらずゲスト講師としても様々な業界の先生方からのお話を聞くことができます。このおかげで、業務において自身の不見識な分野に関する話が出ても、視野を広く、自身の知っている話に結びつけることができるようになりました。また、業務で議論になっていた政策が、大学院の授業で紹介されていた際には、大きなつながりを感じました。
——— 修士課程の修了にあたっては、修士学位論文の執筆が必要ですが、テーマはもう決まっているのでしょうか。
長谷川 学部生時代もサイバー捜査に関する卒業論文を執筆しましたが、修士学位論文では、これにプライバシーの観点も含めた論文を執筆する予定です。修士学位論文の完成に向けては、指導教員の先生のみならず、異分野を専門とする先生にも副査として論文に対するご助言をいただけるので、本研究科の学際性を活かした厚みのある修士学位論文となるように励みます。
——— 学生としての長谷川さん、国家公務員としての長谷川さんに期待することを教えてください。
中村 学生としては、修士学位論文の完成に向けて引き続き取り組んでいただくとともに、研究活動そのものも楽しんでいただきたいです。国家公務員としては、着実にキャリアを積み重ねられているようですので、健康にも気をつけながら頑張ってもらいたいと思います。
——— 社会人学生としての生活はもう間もなく一区切りとなりますが、国家公務員としての社会人生活はまだ始まったばかりです。国家公務員としてのこれからの抱負をお聞かせください。
長谷川 国家公務員としては、今後も大学入学以前から自身が抱いていた課題感を忘れることなく、また大学院で身に着けた知見や考え方をフルに活用して国民のためになるような制度設計・運用に携わっていきたいです。特に、デジタル分野における議論の移り変わりはとても速いので、大学院で学んだことを基礎としてどんどんキャッチアップできるようにしていきたいです。