経済学部

経済学部「国際協力論」(林光洋)で公開特別授業「途上国におけるCOVID-19ワクチン格差」が実施されました

2023年05月16日

2023年5月9日、1限の国際協力論(担当教員:林光洋)において特別授業が開催され、国立国際医療研究センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの若林真美さんがグローバルヘルス=国際保健に関する講演を行いました。講演のテーマは、特にこのコロナ禍における途上国を意識したワクチンの国際的な供給・分配の枠組みについてでした。

若林さんは、現在、グローバルヘルス政策研究センターの上級研究員ですが、大学院時代にはWHO西太平洋地域事務局(フィリピン)やUNICEFベトナム事務所でインターンを経験し、社会人になってからは開発コンサルティング会社のコンサルタント、監査法人のグローバルヘルスケア領域のコンサルタント、国立大学大学院医学系研究科の教員、外務省国際協力局国際保健政策室の職員等を歴任されています。経済学部教授 林光洋が在外研究先のオーストラリアの大学で出会ったときからのご縁で、2014年度にも3年生のゼミを対象に講義をしていただいたことがありました。

今回の講演は世界における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用ワクチンの投与状況・開発状況と日本の貢献についての紹介から始まり、国としてワクチンを入手する経路はどのようなものが考えられるか、という質問が学生に投げかけられました。
COVAX(COVID-19 Vaccine Global Access)は、「ワクチンを共同購入し、公平なワクチン分配を目指す時限付き枠組み」であり、参画する組織や、枠組みのメリット、さまざまなプロセスが説明されました。さまざまなデータを用いて、COVAXによる成果や達成できなかったことについて紹介されました。目標の1つ、低所得国の92か国について、2021年末までに人口の40%に対して、2022年末までに人口の70%に対してワクチン接種を行うという目標を達成できなかったこと説明してくれました。

低所得国92か国の中で、太平洋島嶼国にはワクチンの受領状況と接種率の間に大きな乖離のある国がいくつか含まれていました。この状況について若林さんは、輸送時・保管時における損失や基本的な保健医療サービスの脆弱性のほか、ワクチン忌避も大きな要因であると述べられました。オンラインのアンケートシステムで「ワクチンを忌避する人に接種を促すにはどうするべきか」という質問を投げかけたところ、学生たちからは「接種した人にインセンティブを提供する」や「接種した人たちから口コミで広める」など50件超の意見が寄せられました。
最後に、日本の企業が、近年、CSRやMDGs/SDGsを理由に、グローバルヘルス分野に進出してきていることを、豊田通商/トヨタ自動車のワクチン保冷輸送車を例にあげて説明され、この時間の講演は終了となりました。身をもって体験したコロナ禍とワクチン接種について、その供給に関連する現場にいた方のお話を伺うことができ、学生たちにとって非常に実りある時間となりました。

若林さんは、4限からの経済学部およびFLP林ゼミ(以下、林ゼミ)の3年生演習にも参加してくださいました。林ゼミ3年生はフィリピンについて研究しており、夏の現地調査に向けて仮説やリサーチクエスチョンの設定、分析手法の検討、調査対象の選定等を進めています。

フィリピンのフードバンクは飢餓と食品ロスの問題解決にどの程度有効なのかを研究するチーム、災害の多いフィリピンにおける災害リスク管理について研究するチーム、農地開拓による森林破壊が相当なスピードで進むフィリピンにおいて、どのようにしたらアグロフォレストリーを促進し、うまく機能させることができるのかについて研究するチームのそれぞれが研究計画をプレゼンテーションしました。

ゼミ生の発表を、若林さんは熱心に聞いたうえで、温かい、貴重な助言やコメントをしてくださいました。休憩を挟んでグローバルヘルス分野の日本およびG7諸国のODAについて講演をしてくださいました。最後に、ゼミ生から、グローバルヘルスの分野に興味・関心をもった理由、大学院時代の海外現地調査で印象に残っている国・できごと、人生で大切にしている言葉・行動などの質問があり、若林さんが、それら1つ1つに丁寧に回答・説明してくださり、この日のすべてのプログラムを終了しました。林ゼミの学生たちは、アカデミックなことだけではなく、これから生きていくうえで必要なこと、大切なことまで学ぶことができたに違いありません。