法学部通信教育課程

通信教育部長挨拶

森 光

通信教育部長  法学部教授
森 光

2023年11月より、通信教育部長を務めさせていただくことになりました森光(もり・ひかる)と申します。専門はローマ法です。通信教育部では、「法学入門」「西洋法制史」を担当しています。

私の法学部教員としての仕事は、通信教育部から始まりました。もう20年ほど前になりますが、指導教授であった眞田芳憲先生の代役として、札幌支部が主催した合宿ゼミの講師を務めたとき、はじめて学生を前にして授業をしました。その合宿ゼミの参加者のほぼ全員が私より年長でした。緊張を隠しながら必死に話をしたことをよく覚えています。その後、担当の講義の他にも、いろいろな支部の学習会や合宿ゼミで講師を務めてきました。通信教育部の学生の皆さんの、熱心で、そしてわかるまでどこまでも食いついてくる態度は、私の教えるスキルの向上に大きく役立ちました。昨年、私は『法学部生のための法解釈学教室』(中央経済社・2023年)という本を出版しましたが、その中には、通信教育部の学生のみなさんとの格闘の中で得られたメソッドがたくさん盛り込まれています。

周知の通り、中央大学法学部通信教育課程は、明治18年の本学の創立間もない頃に開始された校外生制度に遡ります。この当時は、まだ大学法学部は数えるほどしかありませんでした。またその所在地も東京に集中していました。その一方、明治維新後に我が国が継受した西洋法は、権利の実現のために個々人が自らの権利を主張することを求める一方で、訴訟を遂行していくためには高度の法律知識を要求するという性質を備えていました。つまり、権利主張をサポートする法の専門家が市井に多数いなければ権利主張ができず、その結果、権利が保護されず、ひいては法が有名無実化するということになってしまいます。そこで、中央大学の創始者たちは、通学課程とあわせ、講義を筆記した上ですぐに印刷した講義録を作成し、当時発足したばかりの郵便制度を活用して送ることで、全国のどこにいようとも法学の勉強をできる機会を設けたのです(詳しくは『超然トシテ独歩セント欲ス』(中央大学出版部・2013年)を参照ください)。

早いものでそれから約150年がたとうとしていますが、我が国における法知識の普及という課題は、今なお道半ばであるように思えます。確かに日本全国に数多くの法科大学院、法学部、法律専門学校がつくられてはいます。しかし、依然として、こうした教育機関で学ぶ機会をもつことができるのが一部の恵まれた環境にある人であることにかわりはなく、法律の学識をもった人々は少なく、誰しもが自らの権利主張のために専門家のサポートを容易に受けることができるという状況にはほど遠いといわざるを得ません。だからこそ、中央大学法学部通信教育部は、いまなお創立者たちの志を引き継ぎ、法知識の普及という社会の負託にこたえていかねばならないと考えております。