経済学部

経済学部「交通経済論」にて株式会社ANA総合研究所様による特別講演が行われました

2026年7月14日(火)、「交通経済論(担当:後藤 孝夫)」にて、株式会社ANA総合研究所 主席研究員の中村 慎一様をお招きし、特別講義が行われました。

2機のヘリコプターから始まったANAが「新しい価値を創り続ける」ことを目的に設立したANA総合研究所。 同社が長年にわたり蓄積してきた知識・ノウハウ・ネットワークを活かし、航空・産業政策ソリューション、産学連携・人材育成、地域活性化支援などに取り組んでいる組織です。

講師の中村様は、早稲田大学卒業後にサントリーを経てANAに入社され、国際線事業に携わった後、日本観光振興協会への派遣や、観光関連の国際機関・委員会のメンバーとして幅広く活躍されてきました。「ANAはお客様を運ぶことが本業だが、日本は人口減少が進んでいる。利用者が減れば便数を減らさざるを得ない」と人口減少に伴う悪循環に言及し、「地域活性化に貢献しなければ会社自体も存続できないからこそ、当研究所が存在する」と、ANA総研の立ち上げ背景と役割をご紹介いただきました

講義では、世界の民間航空機数や旅客輸送量の推移、航空会社ランキングといった航空産業の現状についての解説の後、本題である「観光」へと話題が進みました。 観光業の裾野の広さや観光消費額の拡大といった経済的なプラス面に加え、観光リーケージ(経済的漏出)やオーバーツーリズム、フードロス、環境負荷の増大といった「観光の理想と現実」におけるマイナス面についても、具体的な事例とともにご説明いただきました。

日本での観光は、訪日外国人観光客による経済効果が非常に大きく、定住人口1人当たりの年間消費額が、訪日外国人観光客6人分の旅行支出と概ね等しくなっている現状が示されました。また、インバウンド消費額は貿易(輸出)額と比較しても半導体等電子部品を上回り、自動車産業に次ぐ規模に達しているとのことです。2000年代から始まった「観光立国」推進の流れにより、観光はもはや日本の基幹産業となった一方で、環境や住民の生活の質(QOL)を保つことの重要性といった近年の潮流についても語られました。世界的に提唱されている「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」とは、「経済的に成長できる」「環境的に適正である」「社会・文化的に好ましい」という3つの観点から、「地域のための観光」を第一に考える姿勢であることが強調されました。
こうした文脈を踏まえ、中村様のチームが手がけた地域創生事業について、具体的なエピソードを交えて教えていただきました。

さらに、「観光地を一つの会社として捉える」という観光地経営(DMO:Destination Management/Marketing Organization)の考え方と重要性について解説がありました。DMOの発祥が約200年前のアメリカ・デトロイトにあることや、近年の先進事例が紹介されました。従来の観光地案内では見どころやレストラン、お土産などの周知になりがちですが、街を網羅して紹介できるショウウインドウとして観光とは直接関係のない様々な商店などを紹介し、地域全体で潤う仕組みを整え、観光客のニーズに繋いだ米国シャーロッツビルや、押し寄せる観光客で経済自体が潤うハワイでは、地域住民が自らのアイデンティティである伝統文化や、恵みとして与えられた自然・環境の大切さを再認識し、著名な観光地においては大胆に来訪者の入場制限を行い、ビジターセンターでの教育・啓蒙、自然環境の保全などを図り、地域住民と観光客が共存していく観光計画へ転換を図った事例が挙げられました。
一方で、日本においてはDMOの導入が進みつつも、自治体の観光行政を含めまだ十分に機能しきれていない課題が指摘されました。

充実した講義の締めくくりには、学生からの質問にも一つひとつ丁寧にお答えいただきました。
膨大なデータや事例をもとにその背景を深く掘り下げる熱意あふれる講義は、これから社会へ羽ばたく学生にとって、観光業の枠を超えて深く血肉となる貴重な機会となりました。