スポーツ情報学部(仮称)【設置構想中】
開設準備室長挨拶
渡辺岳夫
中央大学スポーツ情報学部(仮称)
開設準備室長
AIは今後、社会におけるあらゆる場面の知的作業において、人間と同等かそれ以上の能力を有するに至ると予測されています。AI登場以前における価値の源泉は、社会における諸課題、言い換えれば解かれるべき「問い」を、いかに正しく、速く、そして多く解くことでした。しかし、それらは広く普及したAIによって代替され、新たな価値を生むものではなくなりつつあります。AIは、明確に問いが定義され、目的関数と制約条件が与えられた場合、極めて適切な解決策を教えてくれます。しかし、解くに値する問いが何かは教えてくれません。問いが誤っていれば、どれだけ高度な分析をしても、意味のない最適解しか得られません。したがって、今後の社会においては、解くに値する問いを定義することこそが、価値創造の起点になると言えます。
スポーツ情報学部では、社会におけるビッグデータに隠れている因果関係を捉え、適切な問いを設定する力を育むために、スポーツを対象としてAI・データサイエンスと経営学・経済学の理論や技術を文理横断的・文理融合的に習得する機会を提供します。スポーツを対象とした学びを提供する理由としては、スポーツが人々を情熱的に動機づけかつ感情を高ぶらせることができるため、それを対象とすることで学びに対する強い意志を育みやすいということが挙げられます。しかし、より本質的に言えば、スポーツに関するデータは大量にあるけれども、何を最適化すると良いパフォーマンスが得られるのかが自明ではなく、解くべき問いを定義する能力を鍛えるうえで適切であるということです。スポーツ情報学部では、心を動かすスポーツを通じて、社会を動かすAI・データサイエンスとビジネスを学びます。
さらに本学部では、適切な問いを設定する能力に加え、その問いに対して適切な答え(仮説)を導出する能力も養成します。スポーツにおいては、様々な要素(自己の身体、戦術、精神状態、環境など)を考慮に入れつつ、努力に応じた成果が得られるとは限らず、小さな判断が勝敗を分けることもあるといった非線形性の存在を踏まえ、仮説をデザインしなければなりません。そのための能力を経験学習により涵養するために、スポーツやスポーツビジネスのフィールドを実際に観察・調査し、そこで経験・失敗・洞察する機会を提供します。
スポーツは、勝敗、記録、パフォーマンス変化といった明確な結果が、その実施後に比較的タイムリーに得られます。つまり、問いの定義、問い対する答え(仮説)の考案、答えの実践への適用、データに基づく結果の分析、分析結果に基づく内省、そして更なる問いの設定へ、といった一連のプロセスを相対的に高速で回すことができるのです。
スポーツそのものを学ぶのではなく、スポーツを通じてAI・データサイエンスおよびビジネスを学ぶスポーツ情報学部が皆様に提供する環境は、スポーツの世界のみならずビジネス領域を含む広く社会において必要とされる、課題を定義し解決する能力を育む学修環境として極めて優れています。スポーツのデータを教材として、ビジネスの現場で活きる学び、そして、複雑な世界に挑むための知恵を得たいという高校生は、是非、共に一緒に学びましょう。スポーツを通じた新たな学びが、そこから始まります。
中央大学スポーツ情報学部(仮称)開設準備室長
渡辺 岳夫



