法学部

【活動レポート】越 加奈子 (政治学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(31) 南フランスで法律を学んで(上) 憲法院の構成、機能など研究

はじめに

大学でフランス語を第2外国語として習得し始め、フランス語が話せるようになりたいとの思いから2年次には「やる気応援奨学金(海外語学研修部門フランス語分野)」を受給して1カ月間モントリオールでフランス語を勉強しました。そして、今回、語学の向上だけではなく法学をフランス語で勉強するという目標を持ち、同奨学金長期海外部門での御支援の下、フランスのポール・セザンヌ・エクス・マルセイユ第3大学への交換留学が実現しました。
留学が始まり早5カ月、フランス語に浸れる環境に自分の身を置くということに大変満足している一方で、フランス社会と日本社会の違いによるカルチャーショックなども経験しました。今回の報告では寮生活や大学での授業を中心に、私の留学生活をお伝えしようと思います。

エクサン・プロバンスの様子

現在1月中旬にして最高気温15℃という冬とは思えない暖かい気候に、雲1つない気持ちの良い青空が広がるプロヴァンス地方の都市、エクサン・プロバンス(通称エクス)。日差しが強い夏の間には町の至る所に見られる噴水の流れ出る水を眺めているだけで心地良くなるような町です。中心街は何と徒歩20分で渡りきってしまうようなミニチュアサイズなのでエクス内ではどこへでも徒歩で何10分といった単位で移動出来るということがここでの生活を住みやすくしてくれています。町外れには芸術家ポール・セザンヌの絵画でよく見られるサントビクトワール山がそびえ立ち、彼のアトリエを見に訪れる旅行者は日本からはもちろん、世界各国から集まります。
天気が良いという南仏ならではの特徴が私にとっての1番の魅力であり、こちらに来てからは太陽のエネルギーが私に元気を与えてくれる栄養源になっていることは確かです。

寮生活

寮にはフランス人学生に交じり多くの留学生が住み、皆1人部屋(約4畳半)が与えられ、シャワー、トイレ、キッチンが階ごとに約30人での共同使用になっています。私の寮には毎年中央大学から少なくとも1人の学生が来ているので、寮には新たに買い足す必要のないほど十分な家庭用品(テレビ、ラジオ、食器類など)、筆記用具、更には参考書やガイドブックまでが残されていました。このように荷物を次の世代に残すといった慣行はとても便利です。中央大学の先輩に大変感謝すると共に次に続く世代にも大事に使っていってほしいと願っています。
寮は比較的住みやすいと思いますが、難点といえばキッチンのコンロが頻繁に故障したり、冷凍庫がないことでアイスクリームや冷凍食品が買えなかったり、トイレまで各自トイレットペーパーを持参することなどでしょうか。一方、寮の利点といえば立地条件の良さにあります。大学や中心街から徒歩25分と少し離れてはいますが、寮のすぐ隣に大型スーパーがあることや、朝のマルシェ(市場)が開かれることで、いつでも新鮮な野菜や果物が手に入ります。チーズとバゲットでその日の食事を済ますようなこともありますが、たまには買ってきた食材で同じ寮に住む友達とカレーやすき焼きを作ることで日本の味を楽しむこともあります。また、ヨーロッパ人の友達に日本の味を知ってもらおうと、巻きずしを振る舞うこともありました。残念ながらフランス料理を作ることまでは行きませんが、フランス人家庭に招かれた時などは、フランス料理のフルコースにいつも驚かされます。アペリティフと呼ばれる食前酒から始まり、続いてサラダ、メーン、チーズ、デザート、終わりにカフェまで付いて最後には動くことすらままならず、さすが世界3大料理の1つであることに納得させられます。

国民性の違いから

国民性というのは社会に大きく反映します。私の目に映るフランス人の国民性というと、陽気な性格に助け合いの精神が根付いており、常にあいさつは欠かさないといった感じです。フランスに来た当初、言葉に慣れていない私を助けてくれた人はたくさんいました。しかし、生活していくうえでフランスのマイナスな性格が見えてしまう場面に何度も遭遇することが残念ながらあります。海外に長期滞在するためには自ら銀行口座を開いたり、滞在許可証を申請する手続きなどを済ませる必要があります。その際に、適当な返事やいい加減な処理のせいで自分が何度も足を運んだことは事実です。手続きがスムーズに進まないことで、今思えばささいなことのように思えますが、当時はそのことで日々悩んだり、日本の社会と比較して落ち込んだりすることもありました。しかし、その国の「人」を知るということはたとえそれがプラス、マイナスの面であったとしても、長期留学の最大のメリットだと私は考えています。更に、このようなことがいつかは笑い話になる日が来ると思い、残りの生活では“c’est la vie!”(しょうがない)と首をかしげて言えるような自分になっていることと思います。
日本とフランスの国民性の相違点について話しますと、日本人は気を遣ったり、自分から行動し始めることなどが難しいといった感じですが、フランスで生きるためには、常に「図々しさ」が必要になると私は思います。例えば、1度聞いたことでも分からないとつい分かったふりをしますが、こちらでは通用しません。聞いた情報が間違っていることもしょっちゅうですが、言ったことが分からなければ、突っ込んだ質問をすると意外と親切に細かい情報まで教えてくれることがしばしばあるからです。この自分なりの考えに行き着いたのは、さまざまな場面でフランス人の行動、言動を通して感じたことからです。国民性の違いというものを理解するまでには色々と悩むこともありましたが、その点を理解し受け止めるという広い心が海外で生きていくうえで必要なのかも知れないと思うようになりました。

大学システムと留学生について

フランスでは大学のほぼ90%が国立で日本のような大学個別で行われる入学試験は存在せず、高校終了時に行われるバカロレア試験(国家試験)に合格すれば大学入学資格が与えられます。エクス・マルセイユ第3大学は法学部、経済学部を中心にグランゼコール(高等専門学校)である政治学院やフランス語学学校など複数の学校を含む組織体になっています。とりわけ法学に歴史のある大学と言われ、優秀な教授陣がそろっているということも言われています。

大学での教育年数は、日本の学士にあたるLicenceが3年間、修士にあたるMasterが2年間、博士にあたるDoctoratが3年間と続いています。大抵の学生は仕事を探す際にマスターを取得している方が有利と言われるためかマスター取得を目指し、4、5年間の学生生活を送っています。バカンス時にはインターンシップをする学生も数多くいて、研修が就職時のキャリアとして高く評価されることから日本と比べて研修の受け入れ態勢が整っていることは確かです。
今年の交換留学生は、主にヨーロッパを中心に世界27カ国から117人が集まりました。ヨーロッパではエラスムス制度と呼ばれるヨーロッパ13カ国間での学生留学を促進させる制度を利用した学生が多く、アジアからの学生はタイ人、香港人を含めたったの三人です。留学生はLicence1からMaster1の4学年にまたがって好きな教科を履修出来、教科によっては、TD(日本で言うゼミ形式の授業)と呼ばれる授業が付属していますが、私の場合フランス語の授業を並行させる必要性と5教科の勉強で精いっぱいということでTDには参加していません。前期に履修した科目はDroit international privé(国際私法)、Droit constitutionnel(憲法)、Relations internationales(国際関係法)、Histoires des relations internationales(ヨーロッパ史)、Systèmes judiciaires comparés(比較司法制度)の五教科ですが、この中で私の研究目的の1つであるConseil Constitutionnel(憲法院)について以下で取り上げたいと思います。

憲法院の研究

中央大学では3年次から植野妙実子先生のフランス公法ゼミに所属し、フランス政治制度を中心に学んでいることから、こちらでは、フランスの第5共和制以降発展し続けているという共通点を持つ憲法院と地方自治制度の2点についての研究に絞り、前期では憲法の授業を通して憲法院について学びました。

憲法院(若しくは憲法裁判所と呼ばれる)とは憲法に関する訴訟のみを扱う特別裁判所のことで、立法とのかかわりが強く、日本の裁判所が持つ違憲立法審査権の権限のように、法案の合憲性審査を行う機関でもあります。日本の司法裁判制度は、すべての訴訟を普通裁判所で受理するという1本柱になっていますが、フランスの裁判制度では、複数の枝に分かれます。つまり、民事・刑事訴訟は司法裁判所の管轄、行政訴訟は行政裁判所の管轄、そして第5共和制憲法の下に新たに追加されたのが憲法訴訟を扱う憲法院です。歴史的に見てまだ若い裁判所ですが、憲法改正の多いフランスにおいてこの裁判機関は、大きな役割を持つことになります。授業では日本が採用するアメリカ型のJudicial review(違憲立法審査)とヨーロッパ型のJustice constitutionnel(憲法裁判所)との比較から始まり、フランス憲法院の構成、機能、権限などについて学びました。
フランスでは憲法改正や新たな法律を加える際などに国民投票が行われますが、国民によって可決された法案を憲法院が合憲審査を行うことが出来ません。なぜなら法律は一般意思の表明であるというルソーの思想が大きく反映されているからです。フランスでは国民が法律に参加する機会が多く設けられているためか、国民の法に対する関心度は日本に比べて高いような印象を受けました。

自分独自の勉強方法を見付ける

授業中に学生は教授の話す内容を1字1句たりとも漏らさずにノートに書き取る必要があります。しかし私のメモ書きのようなノートでは後から理解出来ないので、講義を録音し家に帰ってノートに書き写すという作業をしばらく行っていましたが、相当な時間が掛かるという効率の悪さに気付き、その後はフランス人からノートを借りてすべてを日本語に訳しながら理解をして、新たに自分のノートを作成するという作業に変えました。その結果、単語を正確に覚えられるうえにテスト前には自分のノートを見返し暗記するという自分流の勉強方法を発見するに至りました。法律専門用語は厄介なもので、今では私の親友になったフランス法辞典をいつも片手に勉強しています。授業中に正確にノートを書き取れるというレベルまでもっていくのは非常に難しいうえに毎日の復習と積み重ねがいかに大切かということを痛感させられました。実際、フランス人にとっても法学の授業は一度で聞き取れていないことも多く、そんな中アジア人の留学生は“ça va?”(大丈夫か)などとよく心配されますが、実際“ça va”(大丈夫)と答えられる日はまだのようです。とはいえ、毎日フランス語に浸れば聞き取れる単語量も増え、理解度に手ごたえを感じるにまでになりました。

後期に向けて

後期の授業では憲法院の研究と並行しながら比較憲法や基本的人権などを学ぶ予定になっていて、日本でのゼミを通して興味を持っていた科目が待っていることに大きな期待を寄せています。また、学業のほかに10月以降からATD Quart Mondeという貧困撲滅を目指す国際NGOのボランティアの1人として、マルセイユの貧しい地区に住む子供たちに本の読み聞かせを行う活動に参加しています。後半では、そこでの体験と私の目に映るフランスの移民についても報告させていただきたいと思います。

草のみどり 205号掲載(2007年5月号)