法学部

【活動レポート】堀 祐太 (法律学科3年)

「やる気応援奨学金」リポート(62) イギリスでビジネス英語学ぶ NGOのボランティアも体験

はじめに

2009年8月16日、成田空港から12時間を経て降り立ったヒースロー空港には、インフォメーションセンターで、黒人女性に必死にアナウンスを頼む私がいた。語学学校のピックアップサービスを担当する運転手に会えなかったのである。出発前のミーティングでも、「心配することは何もない」と先生方にたんかを切るほど、強気でポジティブな私であったが、実際に異国の地で1人という状況になってみると、不安がわいてこないはずはなかった。しかし、「1カ月間思いっ切りやってやる。絶対成長してやる」という心の興奮がその気持ちをりょうがしていた。
私は、「やる気応援奨学金」をいただいて、8月16日から9月13日までの約1カ月間イギリスのロンドンに滞在した。主な目的はビジネス英語を習得し、実践することで、Eurocentres London Central(以下、ELC)という語学学校で英語を学びながら、オックスファムというNGOで働き、週末にはオックスフォードやブライトンなどに旅行に出掛けた。1カ月の間には本当にさまざまな出来事があり、到底書ききれないのが残念ではあるが、ここに一部を報告させていただきたい。

ホストファミリーとの生活

ヒースロー空港から車に揺られて45分。目の前にはそれらしき一軒家が立っていた。ホストファミリーに関する情報はほとんど与えられておらず、緊張しながらノックをすると、60代前半くらいの夫婦と中国人の留学生が私を迎えてくれた。1カ月を共にするホストファミリーとの対面である。軽い自己紹介を済ませ、こぎれいな部屋に案内されると、私はここでの生活について、期待に胸を膨らませながらベッドに荷物を置いた。そして、階下からホストマザーの声が響き、翌日から学校へ通うためのオイスターカードを購入しに出掛けることとなった。オイスターカードはゾーンごとに運賃が決められており、その範囲内であれば電車も地下鉄もバスも乗り放題という代物である。そのため、滞在中の移動はほぼオイスターカード1枚で済み、非常に助かった。
買い物を終え帰宅すると、楽しみにかつ心配していた夕食の時間であった。というのも、イギリスの食事というと、フィッシュアンドチップスを除いてはあまり思い浮かばず、一般的にまずいといわれている印象が強いからである。しかし、初日のメニューの米、ローストビーフ、ヨークシャープディング、サラダはどれもおいしく、私の持っていた漠然としたイメージを一瞬で払拭したのである。幸運なことに、ホストマザーは料理がうまく、朝食と夕食を家で食べるプランにしていた私にとってはとてもありがたかった。ただ、どうしても受け入れられなかったメニューが、ホストマザーが中華と言い張る、米にこれでもかといわんばかりのエビが載っているものである。見た目もさることながら、エビはかなり大きく、頭や殻も付いたままの状態であり、食べていると徐々に口の中が痛くなって、食べた翌日までひりひりしていた。このようなこともあり、ホストファミリーとの生活は、大変思い出深い。
確かに、日々の生活の中で、ホストファミリーにビジネスライクな一面が見えることもあった。例えば、洗濯がその一例で、洗濯は学校側から通達されているしなければならないことに含まれていないため、洗濯機を使うのにも料金を支払わなければならなかった。そのため、私は中国人留学生を見習い、風呂で衣類を洗い、干すという作業を毎日行っていた。しかし、生活全般を見れば、やはり、家族の一員として温かく接していただいたと思う。家の鍵が入った財布をすられたり、風呂で滑った時にシャワーのカーテンを壊したりなど多大な迷惑を掛けたが、そのような時にも、まず私の心配をしていただいた。感謝の気持ちでいっぱいである。

語学学校での日々

美しく、重厚な造りの建物が並ぶロンドン中心部の一角にELCは位置する。最寄り駅はビクトリア駅で、多くの鉄道や地下鉄、バスが乗り入れているため、昼夜を問わず、常に多くの人々でにぎわいを見せている。ELCは毎年世界各地から留学生が訪れるしにせ語学学校であり、各種の試験対策やビジネス英語などバラエティーに富んだコースと文化的なイベントに定評がある。授業は初日のリスニング、グラマー、ライティング、スピーキングの試験によって分けられたレベルごとに行われ、1クラス10人程度に保たれている。

さて、その結果私は、ポーランド、ベルギー、メキシコ、スペイン、ロシア、フランス、韓国、日本の学生から成るクラスに配属された。比較的、多様な出身国の人で構成されているクラスであったため、各国の文化に触れることが出来非常に興味深く、有意義な時間を過ごすことが出来た。ビジネス英語の授業では、交渉、電話応対、プレゼン、苦情対応、ビジネスレターなどについて学んだ。多くの場合は、一通り知識や手順などを学んだ後に、実際に生徒同士を違う立場に振り分けて、ロールプレイを行うといった密度の濃いもので大変満足している。交渉のロールプレイでは、サッカーチームのスポンサー役を演じ、限度額は幾らまでといった幾つかの項目を頭の隅に置きながら、相手のサッカーチーム側と案を練り上げる場面があった。しかし、外国人の意志の強さは驚異的であった。日本人であれば妥協してもらえるであろう折衷案にも全く耳を傾けないのであるから。これにはだいぶ困ったが、とても良い経験になったと思う。また、授業の中で各国の経済情勢などについて意見交換する機会を通して、自分が日本に対して無知であることを痛感させられた。
ELCは設備もさることながら、実際に、週末の小旅行や放課後のイベントなどのプログラムも充実していた。とりわけ、私は毎週火曜のパブナイトが気に入っていた。どれほどの時間をそこで友人と過ごしたのであろうか。火曜の夜は決まって帰宅するのが深夜であったことだけは確かである。パブというと、日本ではあまりなじみのないものではあるが、もともとはパブリックハウスの略で知らない人とでも気兼ねなく語り合ったり、スポーツ観戦したりする場である。このような、人と人とがかかわり合える場が存在し、サッカーでイングランド代表が試合に勝つようであれば、ともに喜んでエールビールを不特定多数の人におごったりするような光景はほほえましい限りである。

また、この学校には30歳くらいの日本人留学生が数人いた。その中には公認会計士で米国公認会計士になるために語学研修に来ている人などさまざまな人がいたが、私が1番衝撃を受けたのはこの不況に大手企業を辞め、昔からの夢であった留学をしている人が何人かいたことである。私が今回の留学を決めるに当たっては、翌年は就活が始まるし今しかないという気持ちも少なからずあった。しかし、そのような方々のお話を伺うにつれ何事もやる気次第であるし、常識にとらわれないで、やりたいことをするのが1番大切だと感じることが出来た。

オックスファムショップ

滞在2日目の放課後、私はオックスファムショップ・ピムリコ店の前を行ったり来たりしていた。ここで働くと日本で決めて来たものの、いざ店に乗り込むとなると複雑な気持ちであった。この程度の語学力しかない日本人がいきなり訪ねていき働かせてもらえるのか、接客が出来るのかと不安ばかりが頭をよぎった。そして「何も失うものはない」とようやく自分に言い聞かせた私は、店に入り、店長に話があると店員に告げた。2階に通され、イタリア人の店長に会い、働きたい旨を必死に伝えた。すると、不安とは裏腹にあっさり快諾していただいたのである。
ここで、オックスファムショップについてとオックスファムで働くことにした経緯について少し触れておきたい。私は、まだ漠然とではあるのだが、将来は国際的な環境で働きたいと考えていて、そのためにイギリスでビジネス英語を学ぶことを決意した。しかしビジネス英語を学校で学んだだけで実践力が付くのかどうかに疑問を感じたため、ビジネス英語を実際に使ってマスターする場としてオックスファムを選んだ。オックスファムは世界各地で貧困をなくすために活動しているNGOで、イギリスにおいては、人々がいらなくなったり、飽きた服、家具、CD、DVD、アクセサリー、靴、食器などを集めてリメイクを施したりしながら安値で販売する事業を主に行っている。そして、その利益は

発展途上国に寄付され学校の建設などに役立てられている。従業員はすべてボランティアで構成されており、素晴らしい理念の下に、間接的ではあるが、貧困をなくしたいという高い意識を持った人が集まっており、私もこのような目的に共感したためにオックスファムを選んだ。
初日は、いきなりレジを任されたのだが、お釣りを返すのに苦戦を強いられた。なぜなら私はイギリスの硬貨をまだほとんど知らなかったからである。硬貨は八種類あり、すぐには覚えられなかったが、その日の仕事が終わるころには使いこなせるようになっていた。レジ以外の仕事内容としては、寄付された商品の査定とその配置であった。配置場所は自由に決められたので、自分なりに売れそうな物の配置を工夫したり、お薦めDVDを決めたり出来、経営者になったかのような気分が味わえて非常に面白かった。しかし、私の目的であったビジネス英語の実践という点では、正直あまり効果的ではなかった気がする。お客さんを待たせる時や電話応対、謝罪などの場面ではたまに実践することもあったが、NGOで、従業員もボランティアであったため、従業員とお客さんの距離が通常より近く、友達のように会話することが多かったからである。一方、イギリスが紳士の国といわれるにふさわしいと感じる場面が多々あった。多くの人が思いやりを持っており、お客さんは店を出ていく時に、店員に笑顔で“cheers”と必ずお礼を言うし、地下に行く狭い階段では擦れ違えないため、女性やお年寄りを先に通すことは当然なのである。お客さんが買おうとしてレジに持ってきたガラスの家具を、包む際に誤って落として割ってしまった時も“It is no use crying over spilt milk”と笑顔で許してくれた。また、お釣りの硬貨はすべて募金するという人が多かった。このように、オックスファムショップではビジネス英語だけではなく、貴重な経験をたくさん積むことが出来た。それには寛大な店長と助けてくれた仲間の存在が必要不可欠であったことはいうまでもなく、大変感謝している。

フルハムスタジアムにて

この留学中間違いなく1番興奮したのがプレミアリーグの観戦である。カードはチェルシー対フルハム。チェルシーの試合はとても人気があるため、1カ月前でもチケットを入手するのは困難であり、当然チケットを持っていたわけでもなかった。しかし、クラスで意気投合したサッカー好きのセザールと当日スタジアムに行って、ダフ屋に声を掛けられるのに賭けてみようということになった。お互いに携帯電話を持っていなかったため、待ち合わせがうまくいくかについてすら懸念があったが、何とか無事に会うことは出来た。幸運なことに、スタジアムの周りをうろついていると怪しい男がチェルシーの応援席で1枚75ポンド(約1万1000円)と声を掛けてきた。少し高かったが、せっかくのチャンスなので私たちはチケットを購入することにした。さて、スタジアムに入場し席まで行ってみると、前から3列目くらいのとても良い席であった。試合までは少し時間があったのだが、スタジアムの雰囲気にうれしくなった私たちは売店でビールを買い、席に座って試合を見られることになったことに乾杯をした。するとそこへ警備員がものすごい形相でやってきた。嫌な予感はしたが、それもつかの間すぐに外につまみ出されてしまった。事情を聞くと、どうやらスタジアム内はアルコール禁止であったらしく、試合を見せることは出来ないと言われてしまった。謝り続け、もう2度としないと懇願すると、飲み終わったら入って良いが次はないと念を押された。
試合はもちろん素晴らしく、ドログバのゴールなどでチェルシーが勝利した。選手の技術やプレースピードなども、生で見るとすさまじいものであったが、ファンのサッカーに対する熱さにも感動して、一気にプレミアリーグのとりこになった。

最後に

この留学を通して、何度となく失敗し、障壁にぶつかってきたが、経験したすべての出来事は私をさまざまな面で成長させてくれた。また、それと同時に、悩むよりもとりあえず行動に移す重要性にも気付かされたし、自分はまだ若く、あまり大きな犠牲を強いられることなく、やる気次第で好きなことが出来る貴重な時間を過ごしているという認識も持つことが出来た。帰国してもう半年がたとうとしているが、ロンドンで出会った友人とは連絡を取り続けており、これからも大切にしていきたいと考えている。最後に、今回の活動を実現するためにお世話になったすべての方々に厚く御礼を申し上げる。多くの方々からいただいた支えなしには実現は困難であったであろう。この場を借りて、感謝の意を表したい。

草のみどり 236号掲載(2010年6月号)