法学部

【活動レポート】橋本 美緒 (国際企業関係法学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(42) ニューヨークでビジネス学(上) ボストンでは就職活動も体験

はじめに

私は現在、「やる気応援奨学金」をいただき2007年の9月からビジネスを学ぶためニューヨークのBerkeley Collegeに留学中である。私は、入学当初から本誌を愛読していた。読み終わった後は毎回、何かに挑戦したいという気持ちの高まりを感じていた。今、長期留学の活動リポートを書かせていただけていることを本当に光栄に思っている。先輩方からいただいた刺激を今度は自分が伝えたいと改めて感じている。私は、留学前から三枝先生に「ぜひ、『草のみどり』の長期留学リポートを書かせてください」とお願いしていた。今回のリポートでは9月から12月の秋学期と1月から3月の冬学期について報告しようと思う。それにより、中央大学での学習環境との違いを具体的に感じることが出来るのではないかと思う。このリポートを読んでいただき少しでも、後輩の方々に対し飛躍の契機を提供することが出来れば幸いである。

留学までの経緯

留学を決意するまでに一番悩んだことは、長期留学をいつするべきなのかということであった。3年次の秋から1年留学に行くと、ほかの学生に比べ就職活動に遅れが出てしまうことや留学先で一定の単位を修得しないと4年間で卒業出来ない可能性が出てきてしまう。私はこれらのことを理由にして長期留学をあきらめた時期もあった。

しかし、2年次に履修した国際インターンシップ(国際金融証券市場と法)によって私の心に決着が付いたのだ。国際ビジネスの舞台で活躍されている実務家の方々との出会いにより刺激を受け、私のやる気に火が付いた。そして今、何かに挑戦しないと必ず後悔するという突き動かされる衝動に駆られとても熱い気持ちになり、挑戦する意欲がわいた。海外研修で語学能力の必要性を肌で感じ、その語学をツールとして国際社会で働きたいと強く思った。長期留学をするには、今しかないと思った。

この覚悟によって悩みや迷いはなくなり、努力次第で可能性を無限に広げられることが出来るのだと考えるようになったのだ。

そして私は、今まで勉強した法律や金融の知識を基にニューヨークにあるBerkeley Collegeという大学でビジネスを学ぶことに決めた。

ホワイトプレンズという街

ニューヨークとニュージャージーに七つのキャンパスを持つ同校に通うにあたり、私が、ニューヨークの北に位置するホワイトプレンズというキャンパスを選んだのは、大都会のマンハッタンに比べ、郊外に位置しているので生活や勉強をするには最適な場所だと思ったからである。ホワイトプレンズからマンハッタンには電車を利用し30分で行くことが出来る。また日本人駐在員の居住区であるため、日本のスーパーやレストランはたくさんあり日本人にとってとても生活しやすい環境である。

また郊外に位置しているため、多くの自然が残っており、春には桜を見ることが出来たり秋には紅葉を楽しむことが出来たりする。また緑の多い所を散歩しているとリスが出てくることもあり、とても心がいやされる。

Berkeley College

この大学の特徴は、ビジネスのプログラムに特化しており幅広いビジネスの授業を履修出来ることである。また多くの教授が実際に国際ビジネス(弁護士、会計監査、銀行、商社など)に携わった経験を持っており、実務に即した知識を得ることが出来る。また入学してから分かったことだが、起業している学生もたくさんいるので、学生間でもビジネスの現状を知ることが出来た。

更に英語を学ぶのにも最適な場所であった。9月に行われた入学式に出席してとてもびっくりしたのだが、アジア人が1割もいないということだ。新入生が350人いてそのうち留学生は10人だけで、もちろん日本人は私だけだった。留学生も今まで出会ったことがないようなネパール人、セネガル人やエクアドル人など、とても国際色豊かであった。

このキャンパスは全学生合わせても650人くらいの小さなキャンパスだったので、すべてのクラスが20人以下の小規模であり、先生との距離が近いことも魅力の1つであるように思う。また多くの学生は、大学の敷地内にある寮に住んでいるので友達を作ることにも全く苦労しなかった。Student Governmentという生徒会にあたるような団体に所属している学生たちが、いつも新入生のお世話をしてくれたり、オリエンテーションやスクールアクティビティーを催してくれたりして交流を深めてくれた。

秋学期の授業(9-12月)

この大学で私は、International Businessという学科に籍を置いた。ビジネスの基礎から、会計、経済や経営などビジネスにおける幅広い知識を得ることが出来るからである。秋学期にはビジネスの基礎となるクラスBusiness Organization and Management、ビジネスで使われる数学のクラスBusiness for mathematics、一般教養としてWorld Culture、必修の語学授業であるEnglishⅠを履修した。

Business Organization and Managementのクラスでは、ビジネスを学ぶためには最新の情報を知る必要があるといって毎回、私たちはビジネスに関する新聞記事を1つ持ってきて何が問題になっているのか、またそれを解決するためにはどうしたら良いかということについて討論した。このような授業形式は、中央大学でも行われていたが、学生の発言力は異なっているように感じた。アメリカの学生は、1つの記事に対する着眼点や発想が豊かであり、また全員が自己の考えをしっかりと主張するので毎回白熱した討論が繰り広げられた。最初は、なかなか討論に参加することが出来ず悔しい思いで授業に参加していた。しかし、ある時を境に私の発言が増えていった。

その当時ちょうど中国産の欠陥商品についての記事が盛んに話題になっていて、同じアジア人としてどのように中国社会を見ているのかということを聞かれたのだ。前述した二年次の国際インターンシップでは中国を訪れた。そこで実際に自分の目で見た中国社会における高成長と貧富の格差が共存する二面性について発言した。そこから私は、自分の発言に自信を持つことが出来、積極的に討論にも参加出来るようになったのだ。

最初の3カ月はすべてが初めてでどのようにどれくらい勉強したら良いのか分からないという不安もあったが、結果的には履修した4科目でA評価を取ることが出来たので安心した。

冬学期の授業(1-3月)

冬セメスターでは、法学部生として一番興味があったBusiness Law、今まで学んだことがなかったAccounting、一般教養としてPsychology、必修の語学授業としてEnglishⅡを履修した。

中でも一番興味を持ったのが、Accounting(会計学)だった。私は、全くAccountingに関する知識がなかったし、友達のアメリカ人もみんなAccountingだけは難しくて理解出来ないと嘆いていたのでとても不安だった。しかし、私は良い教授との出会いによってどんどんAccountingに魅了されていった。

その教授とは、この大学一厳しいと有名な教授なのだが、インド出身の女性で以前UCLA(University of California Los Angeles)、NYU(New York University)で教鞭を執っていらっしゃった方で現在は一児の母でもある。まさに仕事と家庭を両立しているキャリアウーマンという雰囲気で女性としてもあこがれる存在である。その教授の授業は毎回息つく暇もないくらい内容の濃いもので2時間という時間があっと言う間に終わってしまうような感じがする。教授は、あえて留学生に授業中質問し発言させて自信を持たせようとしていた。そのおかげで私も分からない時は自ら手を挙げて質問することが出来た。

毎回課題があったり、2週間ごとにテストがあったりと、Accountingに掛ける時間が日に日に増していった。しかし私はそれを全く苦痛に思わずむしろ、時間も忘れて朝まで没頭していたのだった。教授は授業外でもいつでも喜んで私の質問に答えてくれて、「あなたの真剣なまなざしが私を奮い立たせるのよ」とおっしゃってくれたのを今でも覚えている。

結果的に4回行われたAccountingの試験ですべて満点を取ることが出来たのも、この教授と出会えたからだと思う。春学期もこの教授にAccountingの応用編を教えていただくので、この調子で頑張ろうと思っている。

ボストンキャリアフォーラム

既に述べたように私が渡米する時期は、日本ではちょうど大学3年生にとって就職活動を始める時期だった。そして私にとって留学中に唯一、企業の方々とお会い出来る機会がこのボストンキャリアフォーラムであった。

キャリアフォーラムとは、海外の大学・大学院で学ぶ日英バイリンガルの留学生に就職機会を与えるフォーラムであり、国際社会で活躍している400社もの外資系企業や日本企業が参加する。参加する前に、このキャリアフォーラムのウェブサイトから興味のある企業に履歴書を送り、企業側のニーズと合えばフォーラム当日に面接を受けることが出来る。

そのため、私は去年の11月9日から11日までボストンに行ってきた。まず参加するにあたっての準備にとても苦労した。日本でも履歴書を作成したり面接を受けたりしたことがない私にとってすべてが初めてのことであった。ましてや英語の履歴書は、日本語のものとはフォーマットが異なり、何度も大学のキャリアセンターに通い指導していただいた。そして履歴書のほかにも企業ごとの質問(例えば、その企業の魅力やなぜその部門を選んだのかなど)があり、1つ1つに500字前後で回答を送らなければならなかった。中でも1番難しかったことが、部門別採用に関する質問である。

最近では日本企業も導入しているが、外資系企業の多くは部門別採用を行っている。そのため、履歴書もその部門に即した履歴書を作成しなくてはならず、面接も部門ごとに行われていた。その当時、留学生活に追われていてまだ詳しく企業研究などをしていなかった私は一から始めた。そしてなぜその部門を選んだのか、またなぜ自分がその部門に向いていると思うか、どのように今学んでいる知識を用いて会社に貢献することが出来るかなどを簡潔に記す必要があり、その作業に大変時間が掛かった。この自己分析などの作業は、2年生までに考えておくべきであったと反省した。

アジア人としての自覚

不安が残るまま当日キャリアフォーラムに参加したのだが、会場は7700人もの留学生で埋め尽くされ、更に私の不安は大きくなった。アメリカ全土だけではなく、ヨーロッパやオーストラリアなどからもたくさんの学生が訪れていた。

私も、このような貴重な機会を十分に活用するために、毎朝五時に起き、1日中企業のブースを訪れ直接社員の方々とお会いし、ホテルに戻るのは深夜零時近くというとても濃い3日間を送った。これが最後のチャンスとなる学生も多く、彼らのまなざしは真剣そのもので張り詰めた雰囲気が漂っていた。同じ留学生と言っても、ハーバード大学卒や既に職業経験を持っている学生もたくさんいた。そんな中で自分をどのような形で企業にアピールするかということが、私にとって大きな課題であった。

何度か面接を受け、人事の方々と話しているうちにどのような社風が自分に合っているのか、そして自分が企業に何を求めるのか、またどのように働きたいのか、ということが少しずつ分かってきた。そして自分の中でアジア人としての自覚が芽生えたのだった。

やはりそれは、日本から離れ、外国で生活し異文化体験をしたから気付くことが出来たのだと思う。それまではアメリカあっての日本だと思っていたが、離れてみて初めて日本の素晴らしい点や世界におけるアジアの目覚ましい成長に気付いたのだ。つまり日本を客観的に見ることによって初めて愛国心が生まれたのだ。そして私はアジア人としてのアイデンティティーを基に、アジアの発展に貢献したいと自然に心から思うようになった。今後の就職活動もこの自覚を自分の軸として取り組んでいこうと思っている。

自分自身と向き合った寮生活

寮生活においては、初めて親元を離れそして他人との共同生活をすることの大変さを知ることが出来、今では非常に良い経験が出来たと思っている。また価値観やバックグラウンドの違う人たちとの出会いから本当の自分の弱さや強さを実感した。弱さを実感したからこそそれに負けないための強さを学んだように思う。

秋学期では、中国生まれでアメリカ育ちのルームメートと2人で住んでいた。彼女は卒業間近の学生だったのでインターンシップをしたりアルバイトをしたりと、私たちの生活時間帯は異なっていた。初めは、一緒に御飯を食べにいったりお互いの将来の夢を話したりと、とても良い関係を築けていたように思う。しかしだんだんと彼女の生活が忙しくなるにつれて、機嫌が悪くなり私に当たってくるようになった。夜中に帰ってきても大音量でDVDを見たり音楽を聞いたりし始め、私が音量を下げてもらうよう頼んでも全く聞いてくれなかった。最初は私もどうにか我慢して勉強したり寝たりしようとしていたが、だんだんと我慢の限界に達してきた。そして最終的には、寮のアドバイザーに相談し部屋を変えてもらった。

今まで共同生活をしたことがない私にとって、どこまで自分の意思を主張してどこまで相手に合わせるべきなのかということについてとても考えた。最初は、色々なことを日本と比べてしまい、なぜアメリカで生活するとこんなにもうまくいかないことが多いのだろうと自問自答していた毎日だった。その当時は何かうまくいかないことがあるとすべて、周りの環境のせいにばかりしていたように思う。

そしてある時から「環境のせいにしていても自分でどうにかしないと、何も変わらない」ということに気付いた。それから少しずつ生活が楽しくなって精神的にもだいぶ余裕が出てきた。それは少しずつこっちの生活に適応しようとし始めたからだと思う。どこで生活しても思い通りにいかないことはたくさんある。それを環境や相手のせいにするのは簡単なことだと思うが、そんな時こそ自分自身が変わるチャンスだと考えるようにした。まだまだ壁にぶつかることはたくさんあると思うが、自分の気持ち次第で環境を変えられると思っていれば、多少の困難に直面しても乗り越えていけるという自信を持つことが出来るようになった。

この経験を通して「環境のせいにして何かをあきらめるならばそこから成長出来ないのだ」と自分を奮い立たせているのだ。このように今までとは違う新しい環境で生活することで、新しい自分を発見することが出来たのだった。そして春学期(3-6月)も更に成長した自分と出会えるよう励んでいこうと誓った。留学報告の後編では、春学期の授業の内容や就職活動について報告させていただきたいと思う。

草のみどり 216号掲載(2008年6月号)