法学部

【活動レポート】吉元 唯 (国際企業関係法学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(82)
 ドイツで法律・経済学を学ぶ 歴史と現代文化の交錯が魅力

皆さん、こんにちは。私は、法学部の「やる気応援奨学金」制度を利用し、ベルリン・フンボルト大学で交換留学生として法律学と新たに経済学を学んでいます。フンボルト大学はかつてアインシュタインが教鞭を執り、また森鴎外がドイツ留学の際に学んだ大学として広く知られています。

 ベルリン、と聞くとナチス統治や東西分裂のイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。実際に、ドイツ映画でもベルリンを題材にした作品が多く、東ドイツのシュタージ(秘密警察)を描いた「善き人のためのソナタ」、そして東西統一前後のリアルな市民の感情を表現した「グッバイ、レーニン!」などが挙げられます。現在もこれらの歴史はベルリンに深く根付いており、所々に壁の跡を記す石碑や迫害されたユダヤ人をしのぶ慰霊碑などが見受けられ、今まで教科書の上でしか学べなかった歴史を生きた歴史として改めて実感することが出来ます。特に、ホロコースト慰霊碑はブランデンブルグ門のすぐそば、ベルリンの中心に建てられており、高さの異なるブロックが敷地一面に建てられている景色は壮観ですが、少し奇妙な感情に駆られます。このような背景から、ベルリンは比較的〝重たい〟イメージを持たれがちですが、近年では多国籍・多文化都市としても知られており、現代建築博物館や日本では考えられないアパートメント全体が複数のアーティストの作品で埋め尽くされている"Tacheles"など、ドイツ国外からも若手芸術家が集う新しいアートの発信地として定着しつつあります。

ベルリンでの生活

私はこの交換留学の前に、三回ほどベルリンを訪れ、うち二回は語学学校での短期留学を経験しました。それでもなお、ベルリンでの生活は毎日が新鮮で、円高の恩恵を受け、物価は東京よりもはるかに安く感じ、スーパーマーケットなどでその値段に驚くことが今でもあります。しかしドイツ全土の物価がこのように安いのかというと、ミュンヘンやハンブルグなどでは相応の値段が付いており、そうとも限らないようです。この点に関しては、ドイツ全土の失業率が約六・九%なのに対し、ベルリンでの失業率が約一四%(二〇一一年統計)という各都市市民の財政状況が関係しているのかと考えられます。

 また、住宅事情に関してですがドイツでは学生だけに限らず、Wohngemeinschaft(WG・共同住宅)が多く、私自身もWGで生活をしています。日本でも震災以降、シェアハウス人口が増えつつあるという記事がありましたが、WGでの生活は一人暮らしをするよりも安心で、また帰宅してもドイツ語若しくは英語で会話をするので学習する環境に恵まれているかと思います。ごくまれに、WG内でのトラブルを耳にしたことがありますが、幸いそのような問題は起こることなくルームメートらと旅行に出掛けるなど良好な関係を築き上げることが出来ました。

ベルリンの象徴、ブランデンブルグ門

また、住民登録やビザ申請などの行政手続きに関しては、当日に直接行うことも出来ますが、インターネットで事前予約をすれば、待つことなく手続きをすることが出来、そのシステムは日本に劣ることなく「素晴らしい」の一言でした。

 よく「ドイツ人は規則正しく、日本人とよく似ている」という話を耳にし、また私自身もそのように思っていましたが、一概には言えないかと思います。確かに、ドイツ人はほかのヨーロッパ人と比べるとまじめな性格の人が多く、時間もよく守ります。しかし、いわゆる人情というものが薄く、一度駄目と言われたらあきらめしかない点、そして質問をしてもそれぞれが違う返答をする点は日本人の感覚と大きく異なります。特に後者に関しては、住居の契約の際や、大学での事務手続きなどの際に大変悩まされました。私の場合、最初の半年を大学が提供するWGと契約していたのですが、契約更新の際に、更新期間内に手続きを行ったにもかかわらずダブルブッキングがされており、泣く泣く引っ越しせざるを得なくなってしまいました。引っ越し先のWGを決めるにも、一〇〇件を超える問い合わせをし、住居探しとテスト勉強を並行して進めなければならず新年早々ばたばたしていました。が、今となっては、そういうものだと考えそれを前提に進めているのでさほど問題なく過ごすことが出来ています。

大学での生活

フンボルト大学は、一〇月中旬から二月中旬、四月上旬から七月中旬の二セメスター制で、各セメスター間には二回のテスト期間が設けられています。各科目ごとにRound.1/Round.2のテストの実施日が指定されているので、自分の予定に合わせた選択を出来る点が魅力です。仮にRound.1で単位を取得出来なかった場合は、もう一度Round.2で挑戦することも可能であり、また、納得が行かない評価を受けた場合も同様に再挑戦することが出来るフレキシブルな制度となっています。

 大学の授業を半年間受けての印象は、学生の年齢層が幅広い、とにかく発言する学生が多い、ということです。日本の学生は比較的、質問を促されるまで講義を聞いているというのが一般的ですが、こちらの学生は〝今〟説明しているところが理解出来ないと思うと、先生が指名するまでずっとペンを掲げています。海外の学生は発言が多い、というのは前々から聞いていましたが、実際に目の当たりにするとやはりカルチャーショックを受けました。また、授業への取り組みは皆熱心で、授業に沿った図書や文献を予習してきているため質問の内容も濃く、一つの授業を通して本当に隅々にわたる知識を得ることが出来ます。授業の内容も現代の問題と関連させたものが多く、民法の授業では昨年のドイツでの食中毒事件の訴訟についての討論を行う、ビジネスのゼミナールではゲストスピーカーとしてコカ・コーラ社を始めとした企業関係者のお話を伺ったりするなど、社会の動きを肌で感じ取りながら勉強をすることが出来ました。

 もちろん、そのような内容を最初から理解することは困難で、最初の一カ月はノートを取ることもままならず、聞き取る姿勢を維持することで精いっぱいでした。日常会話は比較的満足なレベルになっていたかと思うのに、今までの生活の中で出てこなかった、専門用語ばかりの講義の中で、語彙不足を痛感し、悩むこともありましたが不思議と授業を重ねるにつれて、だんだんと理解度が上がっていきました。留学生が少ない授業を受講していたこともあり、周りの学生がノートや教科書を見せてくれたり、レジュメの印刷方法などまでも教えてもらったりするなど、友人らの支えなしでは、このセメスターは語れないかと思います。

フンボルト大学にて

前述した〝学生の年齢層の広さ〟については、ドイツは日本よりも、高校を卒業したらすぐに就職、若しくは大学に行かなければならない、というようなプレッシャーを持っている人が少なく、時期や年齢に対してあまり気にしていない点から生じているのだと思います。事実、大学入学前や在学中に一年ほどインターンシップを経験する学生が大変多く、友人の中には一年間ニュージーランドで羊飼いをしていたというつわものもいます。勉強する環境から一時的に距離を置き、社会の中での自分の存在や立場を理解することで自分に足りないものとは何かを考え、課題を持って再び勉強に取り組むという姿勢に関心を抱くと同時に、そんな学生たちをうらやましくも感じました。また驚くべきことに、同じ教室の中には、人生の先輩と言えるような年齢の方や、赤ちゃん連れのお母さんなども一緒に勉強しているのです。このような挑戦が出来るのも、ドイツでは授業料が掛からないというメリットから生まれるものなのかも知れません。

ヨーロッパの学生

ヨーロッパの学生は、英語はもちろんのこと第三、第四外国語が堪能な人が多くいます。ドイツ人学生は特にフランス語、スペイン語などを話せる人が多いです。堪能ではないけれど、ある程度理解することが出来る言語を含むと、一人当たり四、五カ国語を使い回せるのではないかと思います。その中には、日本語を勉強している学生もおり、そのレベルの高さには驚きを隠せませんでした。日本に行ったことがない学生がほぼ完璧なアクセントとイントネーションで話すのです。同じ年数をドイツ語に費やした私と、日本語に費やしている彼らを比べても彼らのレベルの方がはるかに高く、ドイツ人の語学に対する勤勉さには会う度に圧倒されました。

 なぜ、こんなに語学ののみ込みが早いのかというと、ドイツではTandem、いわゆるLanguage exchangeが盛んだからなのです。大学の掲示板やインターネットを介して、パートナーを探すことが出来、会話を楽しみながら学習出来る点が大きなメリットです。語学学校に通うことなく、自分の母国語を相手に教え、相手から学習言語を教えてもらうというまさにgive and takeのシステムとなっています。

ERASMUSの友人と共に

またヨーロッパの学生の多くが語学力向上のために利用しているのが、ERASMUS(EuRopean Community Action Scheme for the Mobility of University Student)制度です。これは、欧州の学生たちが出身国以外の欧州諸国で学ぶ交換留学制度であり、一セメスター-一年間他大学で勉強・研究することが出来ます。私たちのようなEU以外からの交換留学生もERASMUS STUDENTSと同様の枠で手続きなどを行いますが、EUのあらゆる国から学生が来ているため、日本にはないインターナショナルな雰囲気を味わうことが出来ました。アジア諸国もこのような制度を導入し、より簡単に留学する制度を整えていけば、昨今の日本人学生の海外敬遠の傾向を逆方向にもっていけるのではないかと思いました。

気を付けていること

このような生活の中で、私が気を付けていることは〝毎日生のドイツ語に触れること〟です。留学をしているのだから、毎日ドイツ語を使うことは当然だろうと思われるかも知れませんが、これが意外と難しいのです。なぜなら、誰しも月に何回かは外出しない日というのがあると思うからです。私自身も日本ではあまり外出せず、大学以外は家で過ごすことが多かったのですが、ドイツで暮らしていてそんなことをしてはもったいないと思い立ち、常日頃外出することを心掛けるようになりました。もちろん、出掛けるのが面倒な時もあるのですが、出先の図書館やレストランなどでの会話を通して学ぶドイツ語も多く、簡単な会話から新たな言い回しを発見するなど、生きたドイツ語を学ぶことが出来、大変役に立っています。ほかにも、〝最初の三カ月は日本語を話さないこと〟や〝質問する〟というようなごく当たり前のことに対しても気を付けるようになりました。留学以前は授業中の質問しかり、ゼミでの討論の時など、分からないことに対してついつい分かったふりをして聞き流してしまう、恥ずかしくて質問が出来ない、後から自分で調べてもよく分からずにそのまま……ということが度々ありました。しかし、留学を通して質問しないと相手にも失礼であり、自分にとっても無意味だということを今更ながら痛感しました。その後は、友人との会話の中で分からない単語が出てきた時など、すぐに聞き返す習慣が出来、伸び悩んでいた語彙力がぐっと上がったように感じられました。

 確かに、質問をする度に会話や授業の妨げになるのではないかと不安に感じることもありますが、分からない〝今〟質問をしなければ、後々理解出来ている人との間に大きな差が生まれると言っても過言ではないと思います。さすがに、授業内で毎回質問することに対しては引け目を感じますが、友人間では快く、そしてアドバイスと共に返答してくれることが多く、とてもありがたいです。

残りの留学生活に向けて

残すところあと四カ月となりましたが、今後も大学で課題を持って取り組み、卒業後はドイツ企業でのインターンシップ、後々は就職をしたいと考えているので、帰国までにその基準を満たせるよう、TestDafなどドイツ語力を証明する資格取得に向けて努力したいと思います。前セメスターでは、ヨーロッパ法の歴史やドイツ民法などの法律科目や、企業倫理について主に学習しました。これらを基礎に、次セメスターではマーケティングや会社法に焦点を合わせ、学びたいと考えています。また、四月下旬にドイツで学ぶ学生のための企業相談会が三日間にわたり開催されるため、こちらで情報集収をしたりドイツ企業の雰囲気をつかみたいと思います。その一方で、長期間ドイツ語に集中していたこともあり、英語に対しての不安が募ってきたため、こちらも併せて身につけられるよう徹底していきたいです。

 そして現在、日本人留学生が集い、東日本大震災から一年たった日本の現状を伝えようと四月末に写真展の開催を予定しています。一月末から立命館大学の学生を筆頭に、甲南大学・東海大学・法政大学・立教大学からの留学生グループで、大学側と掛け合い、今回の企画が成り立ちました。当初は、グループの中で被災した人がいないこと、更に直接的に経験していないため、写真展を主催するにしても外側からしかとらえられないことから開催の是非を悩みました。しかし、実際にそれぞれの友人が、撮ったドキュメンタリー映画や数々の写真を通して、日本の、同じ大学生が、見た・感じた・触れたものをドイツにも届けたいと思い、この企画を続行することを決意しました。

 ドイツの公共放送局ZDFでは、幾度か"FUKUSHIMA"として福島の原発事故に関した特集がなされ、その放送を見たドイツ人は、"FUKUSHIMA"=〝原発〟ととらえつつあるのが現状です。しかし、私たちは〝福島〟に住む人々、その暮らしに焦点を合わせ、写真展を通してその方程式を取り除くことが出来ればと考えています。機会がいただければ、後ほどこちらの写真展の事後報告が出来たらと思います。

 最後に、「やる気応援奨学金」のエントリーの際にご教授いただいた真田先生、小林先生、諸先生方、並びに国際交流センターの皆様ありがとうございました。