法学部

【活動レポート】鈴木 ひかる (国際企業関係法学科3年)

「やる気応援奨学金」リポート(51) デンマークで長期留学経験(上) 経緯、学生生活全般について

はじめに

私は去年の9月から、法学部の「やる気応援奨学金長期海外研修部門」のサポートで、デンマークの首都コペンハーゲンから電車で約2時間、アンデルセンの生まれた町として有名なオデンセで留学生活を送っています。9月から現在(1月)、留学生活も早5カ月がたちました。大学入学時から考えていた留学を実現し、5カ月という短い間に、私は多くのかけがえのない友人と出会い、そして多くの社会問題などについて深く考えることが出来ました。このリポートで、私の留学経験を少しでもお伝え出来れば幸いです。今回は、デンマークについて、私が留学に至った経緯、学生生活全般の主に3つについて紹介させていただきます。

デンマーク

留学先どこだっけ?何でデンマークなの?――留学前何度も人に聞かれた質問です。北欧にある小さな国デンマーク。私が留学を決意する前にデンマークと聞いて思い浮かべたのはロイヤル・コペンハーゲンやジョージ・イェンセンのようなインテリアブランド、酪農、人魚姫、福祉制度程度でした。私が留学先として英語圏でもなく、人口500万人ほどの小さな国デンマークに留学することを決めたのには幾つか理由があります。主な理由は、中央大学と協定のある大学があることと、社会制度が整っていて、また移民の多い国だということです。
私が住むオデンセは、人口20万人程度のデンマークのちょうど真ん中辺りに位置する美しい町です。アンデルセンの生誕地として知られ、町の中には至る所にアンデルセン童話の銅像があります。特に夏には、オデンセ川の周りの公園では多くの人がピクニックを楽しみ、町ではフラワーフェスティバルなどが開催され、まさにおとぎ話の世界にいるようでした。町には私が通う南デンマーク大学のほかに幾つか専門学校があり、ヨーロッパからの留学生が数多くいます。
私がデンマークを選んだ理由の1つの社会制度ですが、デンマークの社会制度はとても整っています。実際生活をしていても、日々の生活で制度の便利さを実感します。電車のチケットを買うのにも、郵便局で切手を買うのにも、ほとんど何をするのにも、デンマークではまずは数字が書かれた紙を機械から取り、自分の順番を待ちます。また、街中でホームレスを見掛けることもとても少ないです。それは収入が少なくて住む所がない人も、夜などはコミューン(市町村)の施設で過ごすことが出来るからです。裕福な人も貧しい人も、基本的な生活を安心して送れる点は、日本が学ぶべきところだと思います。デンマークの国民は、所得の50%以上の税金を払っています。しかし、大学の友達や私が

聞いたほとんどの人がこの税金システムに不満はない、と言っていました。大学などの高等教育でも日本のように授業料を払う必要がなく、自治体から勉強するために補助金を受け取ることが出来ます。税金はデンマークの社会を豊かにするために多くの場所で使われているのです。金銭的な不安なく子供を大学に通わせることが出来、また整った福祉制度があることが貢献してか、デンマークは、去年の「国民の幸福度」ランキングで1位に選ばれました。デンマーク人は、とてもリベラルで楽観的な考えの人が多いです。そのような国民の考え方もこのランキングの背景にあるかなと思います。
次にデンマークに来た2つ目の理由の、移民について書きたいと思います。そのほかの西ヨーロッパ諸国同様、デンマークにも多くの移民、外国人労働者が住んでいます。デンマークでの移民問題は、数年前のムハンマドの風刺画問題(2005年9月にデンマークのある新聞に掲載されたイスラム教の開祖、ムハンマドの風刺画を巡り、イスラム諸国で非難の声が上がり外交問題に発展した事件)で日本でも話題になりました。町を歩いていると、オデンセのような小さな町でも中東系の移民の人をよく見掛けます。デンマークの移民の出身国で多いのは、1960年代にゲストワーカーとして来たトルコ、それからイラク、ボスニア、ソマリアなどの国です。現在のデンマークの移民政策はヨーロッパでも大変厳しいものですが、以前デンマークは多くの労働者や戦争難民などを受け入れていました。私の友達にもソマリアやイラクのルーツを持ついわゆる2世の子が何人かいます。その子たちの多くは、デンマークで生まれ育っていて、デンマーク語を話し、デンマーク国籍を持っています。デンマーク人は彼らをデンマーク人として見るというよりは、2世として別の枠で考えているように私は感じました。移民問題は風刺画以後、更に大きな議論の的となっています。現在国内では、移民や外国人に対して否定的な右派のデンマーク国民党の力が強くなっています。整った社会制度、美しいデンマークですが、移民の失業率や教育水準など問題も残ります。

留学に至った経緯

南米からの移民や日系が多い浜松市で生まれ育ったことがきっかけで、私は外国人の労働や教育などの問題に中学生のころから興味を持っていました。言葉が分からないという理由で学校に行かない子供がいたり、外国人だからという理由で仕事を拒否されたり……日本社会の外国人に対する対応はかなり改善の余地があります。日本だけでなく、移民や

外国人問題はいつでも大きな議論の的となっています。ヨーロッパのジプシーの子供たちの教育水準の低さや、アボリジニーの人たちの地位など、日本以外でも問題はあふれています。そのような問題を、小さいころから自分の目で見詰めることで、私は将来は国際機関で労働や教育に携わる仕事がしたいと考えるようになりました。そのため、大学入学当時から在学中には1年間海外に留学をして、国際機関で働くのに必要不可欠な語学能力を身につけると共に、興味を持ち続けてきた問題に関して更に深く考えたいと思っていました。次に、なぜデンマークかという質問です。移民の多いヨーロッパの国で、社会制度や方針が整っているという2つの要素を持っている国がデンマークでした。そんなデンマークに魅力を感じたのと、またせっかく海外に留学するのなら日本人のほとんどいない環境で過ごしたいと思い、この国を選びました。

学生生活全般 寮生活

学生生活全般を寮生活、大学生活、語学学校の3つに分けて紹介していきたいと思います。まず最初に学生寮での生活について話します。私が今住んでいる寮は、大学から自転車で20分ほどの場所にあります。南デンマーク大学が紹介している寮、学生アパートは7つほどありますが、その中で1番大きい寮です。私の寮は、外国人学生専用のためデンマーク人学生はいません。部屋はお世辞にも広いとは言えませんが、1人部屋で、ベッドや基本的な家具は備え付けられています。寮には150人ほどの学生が住んでいます。部屋のほかにも、テレビルーム、ジム、また地下には安いドリンクを買うことの出来るバーもあります。住んで5カ月たちますが、今でも毎日知らない人と出会い、会話することがあります。この寮での生活のおかげで、デンマークの文化のみならずヨーロッパのほかの文化や言語に触れる機会が多くあります。
寮ではトイレ、シャワー、キッチンは共有です。3つとも部屋と同じフロアにあり、8人で共有となっています。トイレやシャワーは3つあるため、共有でも不自由に感じたことはありません。ほかの寮では、トイレやシャワー付きだったり、2人で共有だったりさまざまですが、デンマークでは一般的にルームシェアをすることはありません。私が使っているキッチンには、リトアニア、スロバキア、ドイツ、アイルランド、ルーマニア、ハンガリーからの留学生がいます。年齢も国籍もばらばらですが、みんな留学生ということもあってか簡単に打ち解けることが出来ました。9月のころから、毎日夕方にはみんなで集まって話すのが習慣化しています。週末には一緒にバーに出掛けたり、自分の国の伝統的な料理をみんなに作ったりしています。母国から離れた国での生活ですが、同じような状況の友達と話したりすることでホームシックを感じることもなく過ごすことが出来ます。また私のキッチンには、修士課程の学生も何人かいるので、時には学校の授業について手助けしてもらったりもしています。マーケティングなど苦手分野を外国語で勉強ということで、最初のころはつまずいたりもしましたが、キッチンに行けば友人たちがいつも一緒に勉強してくれました。共有キッチンのおかげでかけがえのない友達が出来、本当に良い選択をしたと思っています。

寮生活というと騒音やプライバシーがない点がよく問題になります。私の寮では厳しいルールがあるわけでも、管理人がいるわけでもありませんが、特に騒音などが気になることはありませんでした。何か問題があれば、寮でミーティングを開いて、寮に住む学生のみで解決します。ヨーロッパの学生はミーティングなどで自分の意見を表現することがとてもうまく、ミーティングや話し合いでは必ず何かしらのアイデアが挙がりました。日本では、ミーティングや発表となると静かになってしまうことも多いので、ヨーロッパの学生のこのような点はぜひ学びたいと感じました。
2月になって新しいセメスターが始まる前に、寮の留学生の中にはデンマークを去ってしまう人も多く、とても寂しい気持ちでいっぱいです。

大学生活

私が通う南デンマーク大学は、デンマークの5つの都市にキャンパスを持ち、合わせて17000人の学生がいます。留学生も、合わせて500人ほどいるため国際的な学習環境です。私の大学は市の中心から、約5キロの所にあります。周辺

は特にこれといった建物もなく、ファームや畑が広がっています。私は大学まで自転車で通っているのですが、国土が平らで自然が奇麗なオデンセでの自転車通学はとても気持ちの良いものです。私はオデンセキャンパスの人文学科で勉強しています。学部や学科の間の壁がそれほどないため、私は今学期2つの学科、国際ビジネス学科と英語学科から授業を履修しました。大学ではデンマーク語のほかに、英語、スペイン語、フランス語、ロシア語、ポーランド語などの言語でも授業が開講されています。私は、今学期はすべての授業を英語で履修しました。かなり多くの授業が英語で教えられていることにとても驚きました。
私が取った授業で1番興味深かったのは、異文化間コミュニケーション論の授業です。この授業は、文化の概念や異文化間でのコミュニケーションにおける方法論を学ぶという目的を持っています。授業内では、典型概念はどう生まれるのか、イスラム圏でビジネスをする時と欧米でビジネスをする時の違いなどについてプレゼンテーションをしたりスキットを演じることを通して、学生同士で異文化間のコミュニケーションについて討論しました。前に述べたように、デンマークは移民やイスラム圏からの外国人が多い国です。ビジネスや日常生活で、お互いがどのようにコミュニケーションを取り合えば誤解を招かずに、理解し合うことが出来るのかは重要な課題です。国内での外国人とのコミュニケーションの問題を取り上げてディスカッションをしたり、デンマーク人学生の考えを知ることで、私のテーマである多文化社会での指針についても考えさせられました。南デンマーク大学は特にコミュニケーションの分野での教育に力を入れているため、コミュニケーション関係の教授は国際経験豊富で授業もとても興味深かったです。
デンマークの大学では、授業はかなり自由に行われ、私が履修した授業で出席を取るものは1つもありませんでした。また、宿題もほとんど出されません。留学前は授業に付いていけるか、宿題などをこなしていけるかが不安だったのですが、逆に何も要求されない状態に私は困惑しました。私が取った多くのクラスでは、授業内では自分で学んできたことに対して発言したり、ほかの人に質問したりすることが多く、テキストに書かれていることを教わるということはほとんどありません。自発的に、自分で勉強することを学ぶのが私の最初の学習だったように思います。初めのころは、ほかの学生の話を聞くだけであまり発言をすることは出来ませんでした。しかし次第にこの学習プロセスになれると、授業でほかの学生とディスカッションをすることがとても楽しく感じられるようになりました。試験も口頭試験と筆記試験のどちらかを選べることが多く、暗記ではなく自分の言葉で表現出来ることがかなり求められていると感じました。

語学学校

9月の終わりから、私は週に2回デンマーク語の語学学校に通っています。デンマークの語学学校は、コミューン(市町村)によって運営されていて、授業料は1年間の通学でも1~2万円ほどです。テキストなどもすべて学校が貸し出してくれるため、ほとんどお金が掛かりません。授業は15人程度の少人数制です。私が通う語学学校には、私と同じよ

うな外国人留学生、外国人移民など多くの国籍、年齢の人が通っています。アラビア語圏など非アルファベット圏でアルファベットに慣れていない人用のコースが特別に用意されていたり、授業の時間以外にもいつでも質問が出来たりと語学学校の教育はかなり優れていると感じました。デンマーク語と聞いても多くの人があまりイメージがわかないかと思います。ドイツ語と同じゲルマン語派で、文法はかなり簡単ですが、世界で1番発音が難しい言語とも言われています。独特な発音が多く、多少音が違うだけでも全く分かってもらえないこともよくあります。よくデンマーク人が外国人に発音させようとする、外国人にとって難しい一文があります。“rød grød med fløde”、クリームと赤いパンという意味なのですが、最初に聞いた時は何かの動物の声のまねかと思ってしまうほどの奇妙な音でした。語学学校では最初は基本のあいさつから始まり、4カ月たつ今は自分の趣味について説明したり、長い文章にもチャレンジしています。2時間ほどの授業は、会話が中心で、生徒がのんびりと勉強出来るように冗談なども交えながら進んでいきます。また、デンマークの文化について学ぶためにクリスマスにはデンマークの伝統的なクリスマスディナーを作ったりもしました。語学学校の先生たちもかなり親身で、私にとって語学学校はデンマークという国を好きになる大きな理由となりました。語学学校ではキューバやトルコ、ブラジルなど多くの国の人と話す機会があります。結婚して、あるいは難民としてなどさまざまな理由でデンマークに住んでいる外国人にとって、かなり安い費用で優れた語学教育が受けられるというこのシステムは、とても価値があると思います。5カ月間過ごしてきて感じるのは外国人や貧しい人など社会的弱者にも、平等で良い生活が送れるようにというデンマークの方針は多くの国が見本とするべきだということです。私は安い語学教育や無料の医療のおかげで、デンマークでの生活に早くなじみ、そして初めから不安の少ない生活を送ることが出来ました。教育に表れるように、デンマークにはゆとりがあり、自由があふれています。

後期

あと2週間ほどで、新たな学期が始まります。ここで、残りの半年間についての目標や課題について書きたいと思います。学業面では、前期に履修して、興味を持ったコミュニケーション論やまた社会制度や移民問題について更に学びたいと考えています。前期では、自分を表現するという点で言語能力をかなり伸ばすことが出来ました。日常生活では、つい英語を使ってしまうことが多いのでデンマーク語を出来るだけ使っていこうと思います。前期を振り返ると、新しい生活に慣れたり、学習の感覚をつかんだりしている間に5カ月間、とても早く過ぎていきました。今このリポートを書いているのがとても信じられないほどです。今回のリポートでは、デンマークや留学生活について簡単に紹介させていただきました。後期には自分のリサーチテーマとも結び付けて、1年を通しての経験などについて更に詳しくお知らせしたいと思います。

草のみどり 225号掲載(2009年5月号)