法学部

【活動レポート】篠崎 清子 (法律学科3年)

「やる気応援奨学金」リポート(8) 国連の欧州本部でインターン 国際会議に参加し現場を経験

国連人権小委員会に参加

7月18日から8月13日までの4週間、スイス・ジュネーブにある国際連合ヨーロッパ本部へ、国際インターンの実習に行ってきました。ここでは、そこで経験し感じたことについてリポートします。
今回、私は国連ヨーロッパ本部をインターン先として選んだ。なぜなら、実際に国際会議の現場を経験したかったからだ。日本にいると会議の結果だけが伝えられて、会議の雰囲気や細かいやりとりはうかがい知ることが出来ない。だから国際会議が行われている場所と時間を共有して現場の1部を感じたいと思った。
それに先立ち、前期の国際インターンシップの授業の中で、国際機関の概要やNGO、外交、マスメディアの役割などについて横田先生、柳井先生、西海先生、宮野先生、北村先生から専門的な内容を含む講義を受けた。
国連でのインターンの内容は、国連人権小委員会に横田洋三先生のアシスタントとして参加させていただくというものだった。しかし参加するにあたって自分が人権について何1つ知らないことにはたと気付き、本を読んだりしてみたものの、今1つ問題意識がつかめないままジュネーブに来てしまった。

初めの1週間は「先住民族の人権会議」。人権とは何か、すら理解出来ていない状態にもかかわらず、先住民族の、ときた。さっぱり分からない。人生で初めての国際会議。大きな議場で、たくさん人がいる。オープニングセレモニーから既に驚かされた。無機質な開会の言葉などではなくて、先住民の神聖な祈りの歌によって始まったのだ。
そもそも、先住民族に関する人権問題などは、日本にいたら全くといっていいほど情報は入ってこない。少なくとも、私自身の日常生活には全くかかわりがなかった。色々なNGO団体が活発に発言していた。彼らの主張で共通していることは、神聖な土地を開発によって侵さないでほしいということ、少数民族に対する差別(言語、習慣などの面で)を是正することだった。
土地1つ取ってみても、さまざまな問題が複雑に絡んでいることに驚くと共に、人権問題がカバーする範囲の広さを目の当たりにした。例えば、温暖化に伴う海面上昇で土地が水没してしまう恐れのある地域では開発と環境問題についての議論までなされるのだ。
人権問題は、文字通り、ありとあらゆる問題を包括的に含んでおり、すべてがつながっているような気がした。人権問題を一言で説明することなど到底出来ないということが分かった。そして、これは実際に国際会議を傍聴し、どんなことが議論されているのか見てみないと実感出来ないことなのだと思う。そんなこんなで驚きと発見の1週間が過ぎた。そして、この1週間で耳が英語に慣れ、会議の進行に慣れ、体もジュネーブでの生活に慣れてきたのだった。
ところで、インターン生は私のほかに4人おり、お互いよく知らないままインターンに参加し、4人の女子学生は1室で、別室の男子学生1人と約1カ月間生活を共にした。インターン先も同じため、24時間約4カ月、一緒にいたことになる。これもめったに出来ない経験である。
大きな問題もなく、毎日毎日笑い声が絶えなかった。楽しく、充実した実習が出来たのは、この仲間のおかげだ。夕御飯を一緒に作ったり、マッサージをし合ったり、週末は観光に行ったり、共同生活を送ることについても学べたインターンだった。ここで得た友達は一生の友人だと確信している。

女性・子供の人権を担当

第2週から第4週はメーンの人権小委員会だ。先住民族の人権会議とは別の、議長や委員の表情が見える小規模の議場で開催された。会議ではアジェンダアイテムごとに話し合われる。テーマは「経済的・社会的・文化的権利」「差別防止」「法と民主主義」など実に幅広い。
授業の一環ということで、後日リポートを提出するために、インターン生それぞれにテーマが割り振られた。私は「女性・子供の人権」の担当になった。これに関連する議題としては、レイプ、売春・買春、女子性器切除、子供兵士、人身売買などがある。その中からここでは、レイプと女性の性器切除(female genital mutilation;FGM)について少し紹介してみたい。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の、紛争下における組織的なレイプ・性奴隷についてのリポートによれば、紛争下での攻撃は、性的暴力という形で女性や少女に直接的に行われることがよくある。レイプは、辱めたり支配したりするために武器として使われるが、ジュネーブ協定によってレイプ、性奴隷、強制売春、強制妊娠は人間性に対する犯罪と見なされる。にもかかわらず、紛争下における性的暴力はなくならない。
ある被害女性の話では、たった500㍍離れた所へ薪を拾いに行こうとしただけでも誘拐されレイプされたという。その目的は、女性を怖がらせたり辱めたりすることでその地域から女性が逃げるのを防ぐことにあった。このほかにも、地域全体の人々が男も女も性的暴力を振るわれた事例がある。これはその地域に復しゅうし、征服するためだった。
そしてこのような性的暴力というのは、個人的レイプ、集団レイプ、性的虐待などさまざまな暴力の組み合わせで行われ、モラルの低下と社会構造の崩壊を助長している。
リポートは、このような性的テロを防止するためには社会政策の変化が必要だとしている。具体的には、武装解除や軍の解体、安全保障のための制度の再編、地元政府に対するサポート、暴力を減らすための手段などが必要とされる。
そして紛争後の永続的な平和のためには、まず被害者への医療制度のサポート、心理的サポート、裁判のサポート、社会経済的サポートなどが必要だということだ。これによって女性の地位も向上し、社会への平等な参加が出来るようになって、紛争を防いだり紛争後の平和構築に大きく貢献したり出来ると見ている(E/CN.4/Sub.2/2004/35)。
しかし、実際問題として紛争の真っただ中でレイプなどの性的暴力を防ぐのは難しい。もともとモラルもないような社会的に不安定で混乱した状況で、モラルや人権の話をしても無駄であろう。だとすると、まずは女性を直接守ることを考えなくてはならない。そのためには国際機関が介入して組織的に女性を保護していくほかはないのかも知れない。
もちろん紛争が終わった後も、肉体的ケアのみならず、精神的ケアも含めてサポートしていかねばならないし、結婚や就職など社会生活の中で差別を受けないように配慮していくことも重要だと思う。そして人権教育によって女性や子供の人権を守っていくことが大切になるだろうと感じた。
女子性器切除(FGM)という言葉は、私たち日本人にとってはあまりなじみがない。女子割礼、といった方が分かる方が多いかも知れない。世界には性器を切除する習慣がある地域や民族が、特にアフリカに存在する。その多くが通過儀礼、地域社会への加入儀式として行われている。女性性器の1部、または全部を切除したり、陰部封鎖をしたりする。
確かに、男子の割礼は聖書にその根拠を求めることが出来るし、衛生上の根拠もあるといわれているが、女性の性器切除には宗教的理由も衛生上の根拠もない。男性が女性に処女性を求めるため、などの理由からなされているのである。
切除の際は激しい痛みや危険が伴うし、陰部封鎖には特に感染症や切除後の障害、妊娠や出産時の苦痛や母体・胎児への危険など、さまざまな弊害がある。残念ながらいまだに廃絶には至っていないが、FGM廃絶に向けて状況は改善されてきていると、この人権小委員会でも報告された。

エキスパートの1人、Halima E. Warzaziさんは、女性と人権のリポートの中で、女性の社会的地位の向上のためにFGM撲滅の政策や行動が必要不可欠だと結論付けている。実際に、ワークショップやセミナー、情報交換、文化交流プログラムなどが行われ、現状に改善が見られるようになったという(E/CN.4/Sub.2/2004/41)。
とはいえ、今も毎年約200万人の少女がFGMをされ、現在までに1億人以上の女性が既にFGMを受けている(WHO、2000)。アフリカでは28カ国でFGMが続いている。
FGMがなくならない理由の1つとして、女性の社会的地位が著しく低く1人で生きていける状況にないことが挙げられる。女性の仕事がほとんどないため、男性に養ってもらわなくてはならない。したがって女性は結婚しなくてはならないが、FGMが行われている地域では、処女でないと結婚しようとしない男性が多い。そしてそのような男性は、女性の陰部が封鎖されていることで花嫁を処女だと見なす。ゆえにFGMがなかなかなくならないと考えられている。

また、FGMをされている女性たち自身に人権侵害の意識がないこともFGMが続いている原因の1つだ。習慣だから当然やるものだと思っている女性が少なくない。これも男性優位社会の中で女性が情報へのアクセスを制限され、FGMの弊害や世界の流れを知ることが出来ない状況に置かれていることに起因するだろう。
FGM問題は早くから取り上げられてきた問題の1つだが、女性の人権問題として認識されるようになったのは1994年にカイロで行われた国際人口開発会議からといえる。それまでは、人体に有害だからというだけの理由でFGM撲滅が訴えられていたが、ようやくこの会議でFGMは女性の健康、女性の人権の問題であり、FGM撲滅は女性のステータスを変えることにもなると考えられるようになった。
FGMは地域の儀式だから、習慣だからといって見過ごすことの出来る問題ではない。FGMがなくならない理由をきちんと考え、女性の人権が侵されているという事実を直視し、撲滅に向けて更なる努力が必要である。

ヒトゲノムと人権にも関心

ここまで紹介してきたのはほんの1部の問題に過ぎない。担当したテーマ以外で関心を抱いた問題の1つに、ヒトゲノムと人権とのかかわりがある。これはルーマニア大学のIulia Motocさんが指摘していたことだが、遺伝子情報は医学的研究や犯罪対策に貢献している半面、仕事や生命保険などにおいて差別を引き起こす可能性がある。例えば先住民族にとっては遺伝子情報に基づく不公平な一般化がされて、個人としてではなく集団として扱われる恐れがある。身体に障害がある人たちにとっては出生前診断などによる障害者排除の傾向が生まれることが懸念される。
Motocさんは、それらを防ぐためにプライバシーを保護することや、遺伝子情報の間接的な利用の規制や禁止、公共教育が必要であり、国家は研究者や国民に対して、遺伝子情報の使用と社会に与える影響をきちんと説明する義務があると警告している(E/CN.4/Sub.2/2004/38)。
このように、科学の進歩と共に新しい人権問題が生じているのである。人権問題には終わりがないようだ。それどころか解決の難しい問題が時代と共に増えているようにすら見える。しかし、人権問題に携わる人たちがそれにひるむことなく少しずつ前進しているのを見て、とてもやりがいのある仕事だと感じた。
人権について全くといっていいほど知識も理解もないまま飛び込んだ世界だったが、その場その場でじっくり見聞きし、考えていくうちに、ほんの少しだが見えてくるものがあって、それによって新しい問題意識が生まれ、それに導かれるようにまた前に進む、という繰り返しだった。
そして、今回のインターンで最も大切だと実感したのが、人との出会いだ。ヨーロッパのみならず世界各国から来ているさまざまな人と知り合いになって話を聞いたり意見を交換したりすることで大きな刺激を受けた。
実際の国際会議の場でもエキスパートの方々は人とのつながりを大切にしていたし、事実、個人的なつながりによって微妙な問題がうまく処理されていったりすることもあるということを学んだ。いかに大きな組織でも、人と人、個人と個人の信頼関係が基本にあって、それが土台となって世界が動いていくのだと実感した。
このインターンでは、横田先生の御縁でさまざまな分野で御活躍なさっている方々のお話を身近に伺うことが出来、本当に幸運だった。これからも、人との出会いを大切にしていこうと思う。

最後になりましたが、インターン前もインターン中も、帰国後も本当にお世話になった横田洋三先生には、言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちをささげます。柳井先生、西海先生、宮野先生、北村先生、外交や国際法の御指導ありがとうございました。
また、中央大学法学部のやる気応援奨学金制度から経済的サポートを受けることが出来、本当に助かりました。いつも笑顔と機知で支えてくれた安藤さん、石田さん、山下君、重松さん、ありがとうございました。そして、日本からいつも私を気に掛けてくれていた両親と妹に、また出会えたすべての人に心から感謝しています。
今の私があるのも、皆さんのおかげです。本当に、ありがとうございました。

草のみどり 182号掲載(2005年1月号)