応用化学科・専攻

理工学部応用化学科修士松本佳那,教授片山建二 らの論文がRoyal Society of Chemicstyジャーナルの表紙に採用

Journalカバーページ

PI-PM法によるAl添加SrTiO₃の長寿命電荷キャリアの可視化
― 光触媒水分解の高効率化機構を顕微鏡イメージングで直接解明、Physical Chemistry Chemical Physics 誌の表紙を飾る ―

中央大学 理工学部 応用化学科 片山研究室(松本佳那・中司裕貴・片山 建二 教授)は、兵庫県立大学 工学研究科(潘 振華 准教授・井岡 大輔 氏)、忠北大学校(崔 承憲 氏・孫 雲鎔 教授)との共同研究として、Al添加チタン酸ストロンチウム(SrTiO₃:Al)の光触媒水分解における高効率化の微視的起源を、独自開発のパターン照射時間分解位相差顕微鏡(PI-PM)法によって初めて直接可視化することに成功しました。本成果は国際学術誌 Physical Chemistry Chemical Physics(RSC)第28巻第19号(2026年5月20日号)に掲載され、表紙(Front Cover)に選出されました。


研究の背景

光触媒による水分解は、太陽光から水素を直接製造する再生可能エネルギー技術として期待されています。なかでもAl添加SrTiO₃(SrTiO₃:Al)は、紫外光照射下でほぼ100%に達する量子収率を示す世界トップクラスの光触媒材料です。この卓越した性能の鍵は、光励起によって生じた電子と正孔が再結合せずに長時間生存できることにあると考えられてきました。しかし、「どこで」「どのような形で」電荷キャリアが蓄積・分離されているかという微視的な空間情報は、従来のアンサンブル分光法では得られず、長年にわたって未解明のままでした。


本研究のアプローチと成果

本研究では、片山研究室が独自に開発したPI-PM(パターン照射時間分解位相差顕微鏡)法を用いて、SrTiO₃、SrTiO₃:Al、およびRh担持SrTiO₃:Al粒子薄膜における電子・正孔の時空間ダイナミクスをナノ秒〜ミリ秒の時間分解能かつ顕微鏡レベルの空間分解能で直接イメージングしました。

PI-PM法は、光励起により生じた電荷キャリアが引き起こす屈折率変化を位相コントラスト顕微鏡で検出する手法です。電子と正孔では屈折率変化の符号が逆になるため、どちらの種類のキャリアがどの領域に蓄積しているかを空間的に識別することが可能です。

クラスタリング解析との組み合わせにより、以下の3つの主要な知見が得られました。

1.Al添加による正孔寿命の劇的な延長:Al添加によって新たな正孔トラップ準位が形成され、正孔の寿命がバンド内の再結合経路と比較して2桁以上延長されることを直接確認しました。この長寿命正孔は正孔捕捉剤によって選択的に消光されることから、酸化反応に寄与する活性種であることが裏付けられました。

2.Ti³⁺欠陥由来の高速再結合経路の抑制:Al添加前のSrTiO₃では、Ti³⁺欠陥に由来する電子・正孔の対称的なトラップ応答が観測されました。Al添加によりこの高速再結合成分が減少し、電荷キャリアが有効に分離されることが空間的に可視化されました。

3.Rh助触媒による電子蓄積サイトの形成:Rhを担持することで、追加的な遅延電子応答が現れ、電子捕捉剤によって消光されることを確認しました。Rhが光生成電子の貯蔵サイトとして機能し、還元反応を促進することが、初めて時空間分解イメージングによって直接実証されました。

これらの実験結果は、速度方程式に基づく数値シミュレーションによっても定量的に再現され、Al誘起正孔トラップとRh誘起電子トラップを含む一貫したキャリア動力学モデルが確立されました。


表紙イラストについて

今号の表紙を飾るイラストは、電子・正孔の分離プロセスを「化学モンスター」として擬人化したものです。Al添加がモンスターの骨格を形成し、助触媒が水素・酸素発生の炎を吹き出す姿を表現しています。研究室メンバーが描いたラフスケッチをもとに、Geminiを活用して洗練されたイラストに仕上げました。


研究の意義

本研究は、SrTiO₃:Alの高い光触媒活性を支える二つのメカニズム(Ti³⁺欠陥の抑制と長寿命正孔トラップの形成)が、粒子表面上で空間的に不均一に分布していることを初めて直接示したものです。PI-PM法が粒子系光触媒の局所キャリアダイナミクス解析において強力なツールであることを実証するとともに、長寿命電荷キャリアの局在・制御という視点から次世代光触媒材料の設計指針を提供します。


掲載誌 Physical Chemistry Chemical Physics (RSC)
Kana Matsumoto, Yuki Nakatsukasa, Daisuke Ioka, Zhenhua Pan, Seung Heon Choi, Woon Yong Sohn, Kenji Katayama
Spatially Resolved Visualization of Long-Lived Charge Carriers in Al-Doped SrTiO₃ by Time-Resolved Microscopy
Phys. Chem. Chem. Phys., 2026, 28, 11587–11599
DOI: 10.1039/D6CP00521G
Front Cover: DOI: 10.1039/D6CP90094A


参照先
分光化学システム研究室(片山研)