第2章 方法

方法の体系表

注 下線部分は、当面優先すべき対策

1.環境

主として紙を材料とする資料を保存しなければならない当館の場合、昼夜・季節による温度変化とそれに伴う湿度変化は、環境による資料の劣化要因の大きな部分を占める。すなわち、温・湿度の変化は紙そのものの劣化速度を早め、高温多湿は虫・カビ等微生物の発生原因となる。他方乾燥のし過ぎは、本のノリ離れや反り返りを起こし、レッド・ロット(皮表紙が劣化しボロボロになり、触ると手に付着する状態)を招く。特に、5〜6月、9月末〜10月にかけての冷房運転期間外や、冷房・暖房運転期間中であっても夏季・冬季の閉館時間帯及び休館中の温・湿度の変化は、紙にとって劣悪な環境であると言わなければならない。空調設備については、現状の改善はもとより、保存書庫や新館建設に際しては特に考慮されなければならない事項である。

1.1.空調

現在の空調は、貴重書庫とシステマ・トリーブ室を除いて閉館時には作動しないが、昼夜・年間を通して温・湿度を一定(温度18〜22度、相対湿度〈室にある水分の絶対量ではなく、室内温度が変化してもそれに伴う値が一定の範囲に収まるような湿度〉50〜65%)に保つような空調に切り換え、24時間運転の空調にすることが望ましい。その際、書架スペース・閲覧スペース・事務スペースの機能がそれぞれれに異なるため、例えばフロアー毎、部屋毎に単独の温・湿度設定が可能なものにすることが必要である。
一挙に実現することが不可能ならば建物別、フロアー別、部屋別に順次改善して行くこととし、個別空調や除湿機の設置も考慮する。
差し当たっては、次の事項について実施する。
①開館時の温度が一定(23〜4度程度)以上であり、晴れていて気温の上昇が見込まれる場合は 窓のブラインドを極力下ろす。
②資料の展示を行う際は展示ケース内に調湿紙を置く。
③書庫の中の空気溜りのある所を調査し、その周辺にある資料を適時チェックしてカビの発生の有 無等の確認を行う。

1.2.光・照明の適正化

光は紫外線と熱が資料劣化要因となるため、将来は、人の居る範囲や移動する範囲だけを照らす、紫外線除去蛍光灯による自動点滅照明装置を設置することが望ましい。
差し当たっては、次の事項について実施する。
①資料に対する太陽光の遮断対策として、書架のある部屋のガラスに紫外線除去フィルムを貼る。
②書庫、未整理図書保管場所および展示ケースに紫外線除去蛍光灯を備える(交換時に順次切り換えて行く)。
③書庫内の照明のこまめな点滅を心掛ける。

1.3. 防災

防火扉については、床との間に隙間のできているものがあるが、学内の担当部署が定期的にチェックしており、防災上は許容範囲である。なお、扉の開閉の範囲内には物品を置かないことおよび禁開放を徹底する。
書庫内は火災に対して水による消火を想定しておらず、スプリンクラーは設置されていない(粉末消化器による対応が想定されている)。従って、毎年実施される防火訓練及び庶務課による館内の防災システムの説明の際は、図書館員の中の学内自衛消防隊の消火班・通報連絡班の各班員が、火元責任者と共に可能な限り防火訓練及び防災システムの説明を受け非常時に備える。
火気の点検(事務室、湯沸かし室、煙草など)は、原則として火元責任者が退館時にチェックすることになっているが、管理当番のチェック項目の中にも追加する。
一方、資料が火・水・化学物質(粉末消火剤等)等によって被災した場合を想定して、資料保存委員会は被災資料への応急対応のため専門業者の情報収集に努める。

1.4.盗難防止

中央図書館は、非常口(館外への出入り口)との関係で、書庫と閲覧室とが階段・エレベーターでつながっており、扉は施錠されていない。特にBコアとCコアに関しては盗難防止対策上から、開館後は原則として施錠することが望ましい。ただし、消防法上の問題があるため、可能な限りそれをクリアーする方法(ラッチによる施錠等)を検討し、実施に移すことが望まれる。学部学生レベルの書庫入庫が現実の問題となっていていることを考慮し、早急な対応が必要である。
開架所在の資料の盗難防止対応としてBDSが設置されているが、図書館業務の電算化に伴い端末装置が設置されたことにより、台数が増加するとBDSへの悪影響が出ることが判明した。従って影響の出ないものへの交換が必要となる可能性が高い。当面、端末装置増設の際はBDSへの影響を考慮に入れて慎重に設置場所を考慮する必要がある。

1.5.施設の新設・改善

資料が適切に保存されるためには、適正なスペースが必要である。しかし書庫は狭隘となっていて、未整理資料の保管場所の確保が困難になっていていることはもとより、新規受入資料の排架の際にも書架移動が日常化しており、保存書庫や新館の早急な建設が必要である。当面の措置として、除架や民間倉庫への委託保管を考慮し具体的に検討・準備する必要がある。
現在、貴重書庫は扉で密閉されておらず若干の隙間があるため一般書庫との間での空気の流れが生じている。早急に密閉状態が保たれるよう改善する必要があるかどうかの検討が必要である。また、貴重書・準貴重書の閲覧に関しては、貴重書庫自体または一般書庫内の個人閲覧室を使用しているが、貴重書庫内は閲覧するには温度や照明が適当でなく、個人閲覧室は貴重書にとって適正な環境とは言えない。新館建設の際は、貴重書庫との環境変化の差が小さい環境条件の貴重書閲覧室を貴重書庫に隣接して設置する必要がある。
当面、貴重書・準貴重書の閲覧は貴重書庫内での閲覧を原則とする。

2.取り扱い

2.1.基本的習慣付け

①図書の取り扱いは丁寧に行う。
②手洗いの励行 ― 作業前,作業後,または飲食後には必ず手を洗うことが、資料の汚損を防ぐ基本的姿勢である。
③作業中の飲食 ― 定められた場所で飲食することが望ましいが、やむを得ず作業机等で飲食する場合は、資料をできるだけ遠ざける。
④資料の上で字を書かないことの厳守 ― 貴重であることの有無を問わず、資料の上で字を書かない。
⑤筆記具の限定 ― できるだけ消去可能の筆記具を使用する。鉛筆の使用(B以上)が望ましいが、作業の必要上その他のものを使用するときは、資料から遠ざけて使用する。
万年筆は使用しない。
⑥中性紙・中性糊の使用 ― 装備に関係する用紙全部に、中性紙を使用する。
作業関係用紙(請求書類など)で、複写の必要があるもの、長期の保存を必要とするもの、または資料に長期に挟んでおく必要のあるものは、化学変化を起こし難い薬品を使用したものが望ましい。
ただし、現在使用中のものは、使用期間がまだ短く影響は判明していない。また、配本時まで資料に挿入し以後抜き取るものは、最長期間を想定しても、1ケ年程度と思われるので問題はない。糊は中性糊を使用する。
⑦マイクロ資料の取扱―薄手の布手袋を使用する。

2.2.資料の購入前・納品時(資料の一時的保管)

書店より納入された図書を、長期保管しておく書棚は、ほこりと紫外線防止のための扉付きのものが望ましい。なければ、比較的ほこりの着きにくい場所に置く。
マイクロ、CD、などの非図書資料は、比較的高温多湿にならない場所に保管して置く。その他の資料に関する条件は、書庫内の保管環境条件の各要素と同じである(紫外線防止蛍光灯、温度、湿度、空気汚染防止など)。
ただし、ブックトラック等に積んで短期に作業する場合の事務室の条件は、人間主体にすべきであって、必ずしも資料に適した環境にする必要はない。

2.3.資料の受入時

2.3.1.保護・補修

配本までの作業上で、資料に不都合が生じることが想定できる場合は、必要に応じて補強に必要な措置を構じるか、保護のための容器を作成する(→4.2.)。
ホチキスは原則として使用しないが、止むを得ないときは、必ずステンレス針を使用する。
古書は、受け入れ時にできるだけ手入れをする。ほこりを拭い、破損を繕う。
汚損は消しゴムで消す。書き込みは、不要と判定された場合には消す。

2.3.2.燻蒸

古書を受け入れる際は、作業前に燻蒸を行うのが望ましい。
ただし、規模,必要度等を考慮すると早期実施は難しいので、虫害のおそれのあるものには必要に応じて防虫香を使用する。防虫香は化学薬剤使用のものより、和漢薬剤使用のものが望ましい。
上記の作業は、受け入れ時でなく、目録確定時、または装備時に行うことも考えられる。

2.4.資料の装備・配本時

①旧分類印 ― 記入の鉛筆は、Bを使用する。
②蔵書印 ― 印肉の材質は、即乾性を考えれば化学薬品使用のものになる。現行のものはそのタイプであるが、長期間にわたって使用した場合の、資料への影響は、まだ判明しない。
旧来の朱肉は、油性のにじみが出るものが多く、適当と考えにくい。今後、新しいタイプのものが開発される可能性は不明だが、調査の必要がある。にじみ押えの紙には、中性紙を使用する。
蔵書印は、所在に応じた4種類(角,楕円,縦長,角小)が現在使用されている。しかし、資料の形態・使用法に応じた対応が、必ずしも適切ではないので、今後は、大きさ,媒体,貴重の是非,押印の必要性などを再検討する必要がある。また、併せて逐次刊行物の仮受入印についても考慮する必要がある。改善の方向として、小型化、印をできるだけ押さない、代替物として蔵書票を使用するなどを考慮する。
③不要紙 ― 葉書,広告,蔵書印の押え紙などの不要紙は抜き取る。
④必要紙 ― 月報は抜き取らないで、背を表紙裏に中性糊で貼る。複数ページの束になったものは、ホチキスで止めず、必ず糊を使用する。正誤表は、表紙裏に中性糊で貼る。
⑤ラベル ― 中性紙と中性糊を使用する。
⑥ブックポケット ― 中性紙と中性糊を使用する。現行の材質は酸性紙であるが、残部は少ないので中性紙に切り替えるよりは廃止し、デートスリップを直に裏表紙に貼付する、という方法も考えられる。
⑦タトルテープ ― 現行のものが、金属錆などによって、資料に影響を与える材質のものか否かは、使用期間が浅く不明である。今後、観察・調査が必要である。
⑧デートスリップ ― 中性紙と中性糊を使用する。ただし、今後このまま継続するか、代替のものを使用するか、廃止するかは検討の余地がある。
⑨配本 ― 取り扱いは丁寧を原則とする。 
ブックトラックは、安定性を考えると傾斜のついたスチール製のものが良い。他方、現行の木製のものは、振動の当りが柔らかい、平らに置くことは本を痛めることが少ないなど、どちらとも判断しがたい。継続して観察・検討の必要がある。

2.5.閲覧・貸出時

2.5.1.出納上・複写上の配慮

出納に当たっては、次の事項を遵守する。
①資料の背から天小口に指を入れ、指で背を引っ掛けて取り出さない。
②対象資料の右側の資料全てを、同一棚の右方向に両手を使用してこまめに移して取り出しや収納を行う。
③取り出された後の、隙間は右側の資料を順に左に移して埋める。この際詰めすぎないようにゆったりとした排架状態を維持する。
④資料の取り扱いは両手を使用し片手では行わない。
⑤返却された資料に付箋やシオリがついている場合は必ず取り外す。
⑥可能な限り本の劣化状況を確認するとともに、必要に応じて資料保存担当者へ連絡する。
なお、貴重書・準貴重書については閲覧課が実施した「貴重書・準貴重書の蔵書点検の遵守事項」(付録)を基にマニュアルを作成し館内の合意を経た後、マニュアルに従った取り扱いを行う。
業務上資料の複写を行う際には、写りをよくするため開いたページを押さえつけたり資料を開いたまま背を押さえつけての複写は厳禁とする。なお、利用者が使用する複写機周辺にも同様の注意書きを張り注意を喚起する。また、複写機の使用は資料複写と一般複写は区別して使用する。
筆記具の限定 2.1.⑤

2.5.2.関連機器の改善・交換

-テレリフト(特にコンテナ)、返却ポスト、マイクロリーダー・プリンター、複写機の現在の機種は、それぞれ短所があり機種の交換を行うことが望ましい。
テレリフトについては、一部のテレリフトのコンテナの内側に試験的に衝撃緩衝材を張り付けているが、衝撃緩衝材自体の破損が著しい。これはコンテナが移動する際に資料に対して相当の衝撃が加わっていることを物語っている。従ってコンテナは製品の改良を待って衝撃の少ないものに交換する必要があるが、当面は破損している衝撃緩衝材を張り代え、全てのテレリフトのコンテナに対して衝撃緩衝材を張る。
返却ポストについては、ポストへの投函の際、資料がポストの中で開いてしまうことがあり、その上に更に別の資料が投函されることがある。しかし、利用者からの要望があり24時間開館・年中開館が実施できない以上、返却ポストの採用自体は止むを得ない。ただし、ポストへの投函の際の衝撃を最小限に防止するために、投函口と内部の資料を受けるテーブルとの間の落差を最短にするよう、ポストに内蔵されているスプリングの交換を頻繁に行うことが望ましい。当面、原則として資料の背から投函するような注意書きをポストに張り着ける。
マイクロリーダー・プリンターについては、機器へのセットの際、フィルムの陰画面自体に直接触れてセットしなければならず、セツトもしづらいため、フイルムを痛める恐れがある。可能な限り早急に自動セット可能な機種に交換することが望ましい。ただし、利用状況がこのまま推移するとすれば、当面M階で使用中の3台中2台を交換対象として考える。
複写機については、ほとんどの機種が資料の背をガラス面に押さえつけて複写するタイプであるため、現在出版されている資料のかなりのものがアジロ綴じである現状を考慮すると、基本的に複写の度に資料を痛めてしまうことになる。従って、資料複写用と一般複写用に区別し、資料複写用は全機種をフェイスアップ(資料の背を押さえ着けずに複写するタイプ-現在1台のみ所有している)タイプに交換することが望まれる。当面は、相互協力等業務により資料の複写が必要な場合、フェイスアップタイプを使用する。また利用者の使用する複写機の側には、複写の際に資料の背を押さえつけなよう注意書きを張る。

2.5.3.利用制限

利用を制限することは図書館としては本末転倒であるが、紙の酸化の進んだ資料(特に明治期以降昭和の初期の資料等)は、ページ送りを行うことですら資料を破損する危険性が高い。これら劣化の激しい資料はある程度の利用制限を講ずる必要がでてくる。
当面これらの資料は、次のように取り扱う。
①資料保存委員会において保存の必要性と禁帯出(原則として貸出を行わない)扱いとするかどうかの判定を行う。
②保存の必要な資料は、保存箱等に収めるとともに保存箱等に取り扱い注意書(「酸化・破損しています。取り扱いを丁寧にしてください」等)を貼付する。
③閲覧・貸出時には、利用者へ取り扱いの注意を促す。

3.保管

3.1. 排架状態の多様化

資料はその媒体や形態(和装本、大型本、新聞を含む)によって区分し、同一のものを集中させて排架・保管の上、保管スペースの有効利用を図ることが望ましい。現実には、保管スペースが狭隘で十分なスペースが無いため保存書庫等が確保されてからでないと現状以上の区分排架は困難である。
当面、図書と図書の間に余裕を持たせたり、書棚の上下幅が図書の高さを十分上回るように努める。

3.2. 資料の手入れ

空調にはフィルターが付いており、定期的にチェックされ必要に応じて交換されているが、それでもなお空気中には埃があり、この埃には微量ながら資料の劣化原因となる大気汚染物質や金属イオン等が含まれている。これらの埃はを静電気だけで払い取る布(アメリカ製の「ワン・ワイプ」や「エンダスト」等)を使用して、周期的に埃払いを行うことが望ましい。特に保存箱等に収容する場合は必ずこれを行う。
燻蒸は貴重書に対して実施して来たが、虫・菌等に侵されているものの進行を抑える働きをするものであり、予防はできない。従って、同一資料に対して定期的に実施することが必ずしも効果的であるとは限らない。虫・菌等に侵されていないものに対して燻蒸を実施することは何の効果も無いのみならず、かえって資料に余分なガスを一時的に浸透させることになり、また利用を制限することにもなる。今後は、虫・菌等に侵されているもののみを選別して実施する方法が望ましい。また防虫処置として保存箱や帙の中に収められている資料には防虫香を入れる。
レッド・ロット対策としては、専門家に依頼するものと、館内で手当するものとに区別し、館内で手当を行うものについては次の要領で実施する。
①使用薬品等はHPC(ヒドロキシ・プロピル・セルロース-製造:日本曹達、銘柄:M)とそれを溶かす消毒用アルコール(エチルアルコール-水にも解けるが、水道水自体に金属イオンが含まれているため使用しないこととする)。比率はHPC:エチルアルコール=15グラム:1リットル。
②作業はアルコールを使用するため風通しのよい所を選ぶ。
③皮によっては、多少の黒ずみが出る場合があるため、予め表紙裏の皮の折返し部分などで試し塗りを行う。

4.保存

4.1.方法の選択

対象資料ごとに、当館にとっての価値、劣化の程度、利用頻度の3つの側面を合わせ考慮した上で、後述のどの対策を講ずるか判断する。
実施に先立ってサンプリング調査を行い、実態及び予算の把握をする必要がある。調査法としては、1)蔵書点検時に何らかの手当が必要な資料を抽出し、必要な対策別に分類しその数量を把握する方法や、2)既に茶封筒に収納されている劣化資料の調査(次の段階では中性紙の保存容器に入れ換える)などが考えられる。
実施に際しては直ちに専門的な処置を施すのでなく、まず保存箱に収納するなどして劣化を遅らせ、その後に別の対策を講ずるという段階的保存(フェイズド・コンサベーション)プログラムに従う。また、なるべく個別処理よりは群を対象とする効率的な処理を心掛ける。
参考資料:保存の方策を決定・選択するための一覧表(木部徹) Phased Preservation(Special Libraries, 35-43, 1990) ①放置 ― 利用に支障がない程度の劣化に留まっている資料は、そのまま書架に戻し資料それ自身に対策を講じない(利用の制限や環境の改善などの対策はあり得る)。
②原形保存 4.2.
③内容保存 4.3.
④原形保存+内容保存 ― 当館にとって現物として貴重であるにもかかわらず、利用頻度が高いか内部に何らかの原因を抱えているため劣化の恐れがあるものに限って、媒体変換または買い替えを行うと共に原本をも保存し代替物を利用させる。
 参考資料:マイクロ化とともに原資料を保存する(木部徹 Book Preservation,6:20-23,1988) 
⑤分担保存 4.4.
⑥除却・抹消 ― 関連する基準を参照のこと。

4.2.原形保存

原形保存する資料のうち、特に貴重書・準貴重書・本学出版物・学内刊行物などに対しては、1)資料を傷めない対策を講じる、2)可逆性(補修以前の状態に戻せる)のある対策を講じる、3)対策内容とその実施年月日を記録する*、という保存の3原則を遵守する。
* 記録法には一般に次の3種がある。1)カード形態の詳細なカルテ(貴重書庫内の資料に対して)、2)調査票(保存容器に収納した資料に対して。媒体変換の是非の判断材料として利用頻度を記入するために保存容器に貼付する)、3)CHOISの所蔵注記への入力(書庫内の保存箱に収納していない資料に対して)。

4.2.1.保護

中性紙の容器などに収納して、酸化の進行や出納時の摩擦など、傷みの要因から資料を守る方法である。資料自体に手を加えないため実行し易い方法であると同時に、段階的保存プログラム導入のための第一歩でもある。なお、保護の方法や容器には次のような種類があり、資料の形態や状態に応じて最適なものを選択する。
①封筒に入れる ― 数頁程度の薄手の冊子や、文書、折り畳んだ図面などに適している。これらは書架上で散逸したり、周囲の資料の出し入れ等の影響を受け易いので、受入れ時など劣化以前からの利用が望ましい。
②保存箱 ― 厚みのある大型・中型の資料を入れる容器。複数の冊子をまとめて入れることもできるので、和漢書を収める帙の代わりにもなる。50冊以上まとまれば、図書製本費を使用して外注による作製もできる。1個当りの単価は外注の場合でも補強製本より安価である。
③カイルラッパー ― 0.5mmの厚さのボードで作る容器で「保存箱」に比べると、薄い資料や、小型の資料を入れるのに適している。
④フィルム封入法(film encapsulation) ― 1枚物の資料を透明なポリエステル・フィルムの間に挟み、フィルムの周囲を両面テープでシールする方法。大気から遮断することで酸化を防ぎ、利用の際の物理的な傷みや破れからも資料を保護することができる。必要ならば、テープと資料の間のフィルム部分を切って資料を取り出すこともできる。
⑤中性紙でくるむ ― 発行時に付随していたケースや、過去に作成した帙など、すでにある容器を利用したいが、その使用材料に不安があったり、酸性であることが明かな場合は資料を中性紙でくるみ、容器と資料が直に接触しないようにする。また、中性の封筒や容器に収める場合も、出し入れの際に資料を傷つける恐れのある時は、さらに紙でくるむ、ボードに挟むなどしてから収納する。
⑥カバーをかける ― 背の天が壊れたもの、表装用の皮が劣化して、周囲の本や手を汚したり、背文字が読み取れないなど、外側の劣化は激しいが、綴じなど内側には問題がないものに利用する。
(注1)上記の容器の作成方法等詳細については「容器に入れる-紙資料保存のための技術」(日本図書館協会、1991)を参照。
(注2)容器に収める前に必ず資料のクリーニングを行うこと。
(注3)保護に使う中性紙やボードは、TSスピロン社の「AFシリーズ」を使用する。また、フィルム封入法に使用する材料については、必ず注1にあげた参考資料で指定されたものを用いること。
参考資料:表紙は外れたままでよい(木部徹 コデックス通信、v.3,no.3, 1990)

4.2.2.補修

様々な種類や段階があり一概には言えないが、利用度の高い資料や、簡単な補修をすれば、それ以上の破損を防ぐことができる予防的な補修は実行する必要がある。また、貴重書やそれに類する資料、劣化のひどい資料については、先ず、4.2.3で述べた保護処置をした上で、専門家と相談しながら、必要度に応じて順次補修を進めていくことが望ましい。
なお、補修をするに当たっては、次の原則を守ること。
・資料の現状をできるだけ維持する。
・資料の原型を尊重する。
・必要な手当を行う。
・充分な手当を行う。
・手当は最小限にとどめる。
(注)「保存手当の手引-文書館資料のために-」(相沢元子著 CAT、1990)より
・資料に影響を与えない、化学的に安定した材料を用いる。
実際に補修するとき、上記の原則をすべて満たすことは難しい。しかし、補修を必要とする資料が、その時点で貴重書であるなしにかかわらず、常にこの原則を念頭に置きながら、その資料にはどの原則を優先して作業すべきかを決定していくことが大切である。また、まだ安全性が確保されていない材料や、セロテープやブッカーなど簡便ではあるが、既に問題があることが明かなものを用いて、その場しのぎの安易な手当をしてはならない。
なお、自館で行う補修のための具体的な方法や、使用に適した材料については、上記の「保存手当の手引」を参照。
参考資料:保存製本とはなにか(ニコラス・ピックウ-ド コデックス通信 v.2,no.2)

4.2.3.紙力強化、脱酸処理

①紙力強化 ― 薬剤塗布、含浸などがある。当館の能力では無理であり、必要な場合は委託する。
②小量脱酸 ― 水性脱酸法、非水性脱酸法、気化法の3つに大別される。どの方法を採るとしても、適用することの是非の判断が困難であり、適用できる資料が限定され、しかも作業に時間を要する。特に水性脱酸法の場合、水溶液に浸して処理するため、書籍の場合は処理に当たって一旦解体し処理後に再製本しなければならない。当館の能力ではまだ実施困難であり、必要な場合は委託する。
参考資料:少量脱酸の技術(鈴木英治 コデックス通信3:1-3,21-26, 37-38, 1988-1990)
③大量脱酸 ― 技術的に未解明の問題が残されていて、現在は動向を見守るしかない。
参考資料:脱酸技術の開発(安江明夫 科学技術文献サービス73:30-39,1985)、神話から科学へ(同上 びぶろす42:268-275, 1991)

4.3.内容保存

4.3.1.製本

表紙の剥離や破損、頁の脱落等のため利用に支障のある資料を綴じ直したり、表紙をつけ替えたりする補修としての製本と、雑誌や冊子などを一定量でまとめて一冊の本のようにする製本の2種類がある。本館では前者を「補強製本」、後者を「合冊製本」と呼んで区別しているが、どちらもいわゆる「図書館製本」である。その種別により細かい点で若干の違いはあるが、原則として次の条件を満たすことが望ましい。
①資料の中身の状態の変化を最小限にとどめる。
②資料の寿命をできるだけ長くするために、中身にダメージを与えないこと。
③②と同じ理由で、製本の材料には化学的に安定し、丈夫なものを使用すること。特に資料と直に接する見返しには中性紙を使用すること。
④コピーの際などに無理にのどを広げなくて済むように、頁が楽に180度に開くこと。
⑤利用者が資料を読むのに押えなくて済むように、机の上で広げて置けること。
⑥表紙など元の材料が使用可能であれば、できるだけそれを利用すること。同じく蔵書票、旧蔵書印、署名など特殊な興味を引きそうなものは、すべて残すこと。
⑦資料の小口を化粧裁ちしてはならない。
⑧資料の本文の背を裁ってはならない。
⑨できるだけ元の綴じを生かすこと。それが不可能ならば、折丁の背の折山で綴じ直す。
(注)⑥以下の条件は、主に補強製本に関するものである。また、⑧⑨は折丁の背が糸綴じされた本に限って適用される。
以上は製本業者に依頼する際の指針である。次にこれまでの作業の見直しを含めて、依頼する側として注意すべき事項をあげる。
①製本をしてよいものと、してはならないものを区別し、安易な改修をしないこと。
・「図書館製本」は長期間保存する必要があるが、本それ自体に芸術的もしくは資料的価値があるわけではないものに限って適用することが原則である。
・「図書館製本」は一度行えば、以後、元の形に戻すことはできない。1点毎に、利用度や利用のされ方を検討し、判断のつかないもの、現時点では壊れたままで差し支えないものについては、容器にいれるなどして、保護のみにとどめること。
・本文紙の劣化の激しいもの(頁の端を折曲げてみて2回程度で破れてしまう)を製本しないこと。
②雑誌については、これまで、ハードカバーのもの、単冊としての独立性の強いもの以外は、すべて合冊製本の対象となるという考え方をとってきた。しかし、今後は、この方針を見直し、背にタイトルや巻号情報がない、自立できないなど管理上問題の生じやすい資料に限って合冊製本の対象とするなど、新しい基準の作成と管理方法を検討する必要がある。
③現在のコスト重視から、技術・材料重視の製本発注への転換を心がける。
・予算面では、①②を実行することで、補強・合冊ともに、従来より製本冊数を絞り込むことができるはずである。
・本項の最初にあげた製本上の条件がどの程度満たされているか、現在の業者の仕事の点検を行い、問題がある場合は、方法の変更を申し入れる。点検の際は専門家のアドバイスを受けることが望ましい。
・現在の業者では条件を満たせない場合は新たな業者を選択する。
④補強製本(保存箱の作成を含む)の場合は、資料1点毎に管理方法、利用状況等を考慮した上で、どの資料にどんな製本(処置)をすべきかを判断し、業者と連絡を密にして作業にあたることが必要である。現在は製本費全体を逐次刊行物課が管理しているため、合冊・補強製本の両方について、逐次刊行物課が業者との対応にあったっている。しかし、この方法では、本来の補強製本の発注者である蔵書管理部署と製本業者のやり取りが分断される形になり、作業上好ましくないばかりでなく、発注にともなう作業や出来上り後の利用に向けて必要とされる処理等の責任の所在も不明確になっている。従って、補強製本や保存箱の作製については、対象資料に適した処理方法の特定から、業者への発注(指示)・受入(検収)までを、一貫して管理部署が行うことが望ましい。なお、図書製本費のCHOIS上の発注・受入作業は、補助レコードにより請求書の処理のみを行っているので、現物1点毎にCHOIS上の処理をする必要はない。現在の組織上、管理部署が経理処理を行うことが難しい場合は、現物の発注・受入処理を管理部署が行い、CHOIS上の経理処理を逐次刊行物課または図書課が行うという作業分担も可能である。
参考資料:図書館製本を依頼する際の指針(シェアリン・オグデン CAP,v.1,no.5、1986, p.18-20)、 研究図書館のための製本(ジャン・メリル-オルダム CAP,v.3,no.1, Aug.1988, p.6-15)、 図書館の修復現場から(1-3)(久芳正和 コデックス通信、v.1, no.3, 1986; v.1. no.5, 1987; v.2. no.4, 1988)、 多摩図書館を訪ねて-雑誌の保存のケーススタディー(Book preservation, no.10,1990, p.9-15)

4.3.2.媒体変換

媒体変換に当たっては、常に再目録が伴う。 ①マイクロ化 ― 利用頻度に基づいて対象を決定すべきである。変換時に資料を傷めることが避けられないので、余り利用が頻繁でないものは、保存容器に入れ利用回数を記録するようにして判断を先送りし、安易なマイクロ化を避ける。従来当館が行ってきたマイクロ化の対象である貴重書の中には、その意味でマイクロ化を要しないものが含まれている反面、対象外の資料の中に必要と思われるものがある。そこで、今までの作業は一旦中止し、対象を再吟味した上で、積極的に行うべきであり合わせてマイクロ・リーダーを増やす必要がある。
実施する際は業者に委託することになるが、事前に業者と原資料の取り扱いに関して十分な申し合わせが必要である。また原資料を引き続き保存するか、除却・抹消するかの判断が必要である。前者の場合は、この機会に原資料の状態を点検しドライ・クリーニングや補修も行う。将来は他図書館との作業分担の実現に努力する(一館がマスターを制作し他館はそのコピーを所蔵する)。なお、CD-ROMは寿命が短く変換の対象とはみなせない。
②中性紙への複写 ― マイクロ化と比較して、変換作業が容易・安価で変換前と同一条件で閲覧できる長所がある。

4.3.3.買い換え

新版や復刻版、特に中性紙に印刷した版に買い換える。

4.4.分担保存

将来は、他館に働き掛けて分担保存の実現に努める。当面は新聞に関して「外国新聞分担保存協定」(東京西地区大学図書館相互協力連絡会)の遵守あるいは改訂に努力する。

5.意識化

資料保存対策を実効あらしめるためには、図書館員(専任職員、嘱託、アルバイト)の資料保存に対する意識が重要である。更に、図書館員のみならず利用者、業者の資料保存に対する意識を喚起することも重要である。

5.1.図書館員

①意識調査 ― 資料保存に対する意識を喚起し、その意識を行動に移すための意識調査を随時行う。
参考資料:中央大学図書館員の保存意識と行動自己採点表(私案)(大野純子 1991.10.12付)
②研修会(講習会、ワークショップ、講演、見学) ― 研修は、外部機関が主催するものを中心に行う。簡単な補修の研修は、館内において随時行われるのが望ましい。
特に、資料保存を担当する副課長および資料保存担当者に対する研修は、一貫性のある体系的なものでなければならない。
③広報 ― 資料保存に対する緊急アピ-ルあるいは資料保存の新しい動きは絶えず図書館員に広報することが必要である。
④マニュアル ― 資料保存上必要な資料の取り扱いに関する指針書の作成が急務である。

5.2.利用者

①意識調査 ― 資料保存は、図書館資料を扱う全ての人にその意識をもってもらうと共に実際に資料を取り扱うときに注意を払ってもらうことが必要である。利用者に対して必要に応じて資料保存についての意識調査を行うことが望ましい。
②指導 ― 利用者に対して随時資料保存についての指導を行う機会を設けることが望ましい。特に新入生へのオリエンテーション時に、資料の取り扱い方に触れるようにする。
③広報 ―「CUL」、「HAKUMONちゅうおう」等により資料保存についての注意を絶えず喚起することが望ましい。随時、利用者を対象にチラシを製作して配布する。
④マニュアル ― 利用者に対して資料保存上必要な資料の取り扱いに関する手引書を作成することが望ましい。

5.3.業者

資料を取り扱うときに資料保存の意識に基づいて注意を払ってもらうため、資料の取り扱いについてのマニュアルを作成し、それに従って作業を行える業者を選定しなければならない。
本学の刊行物(学術出版物、学内刊行物)に関連する学内部署に、中性紙を使用した出版物を製作する業者を選定するよう提言する。出版物、学内刊行物)に関連する学内部署に、中性紙を使用した出版物を製作する業者を選定するよう提言する。