2025年3月に本研究科を修了した猪谷誠一さん(株式会社博報堂DYホールディングス研究開発部⾨マーケティング・テクノロジー・センター上席研究員)及び国際情報学部教授 須藤修による以下の共著論文が法学分野のトップジャーナルの一つである『International Data Privacy Law』(Oxford University Press)に原著論⽂として採択されました。
International Data Privacy Law誌は、Clarivate社によるJournal Citation Reportに採録されている法学分野の学術誌434誌中上位53位(2024年インパクトファクター 1.9)、ScopusのSJR※ランキングでも法学分野1089誌中95位(2024年SJR 0.850)を有しており、プライバシー法分野だけでなく、法学全体で⾒てもインパクトの⾼い学術誌です。
※SJR
SCImago Journal Rankの略。GoogleのPageRankアルゴリズムを用いて、引用を行ったジャーナルの重要度も考慮して評価するために作られたジャーナルの指標。
タイトル:Ignored Discrepancies in the Fundamental Concepts of Data Protection Laws in Japan and the EU
掲載誌:International Data Privacy Law(Oxford University Press)
DOI: 10.1093/idpl/ipaf015
著者:猪⾕誠⼀(本研究科修了生/株式会社博報堂DYホールディングス/⼀般財団法⼈情報法制研究所)、須藤修(本学部教授)
論文概要:
本論⽂では、個⼈情報保護法における「個⼈情報」及び「個⼈情報取扱事業者」とGDPR における「personal data」及び「controller」がどのように異なり、その差が実際のデータ保護に与える影響を論じました。加えて、⼀般財団法⼈情報法制研究所が保有するわが国の個⼈情報保護法制に関する10万ページを超える政府開⽰資料や政府検討会議事録に基づいて、個⼈情報取扱事業者の概念が⽣まれた経緯も明らかにしました。
本論文は本研究科が審査を行った修士学位論文にも含まれています。
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在学時の指導教授 須藤修のコメント
はじめに、本論文のファースト・オーサーである猪谷誠一氏について簡単に紹介しておきます。彼は、東京大学大学院にて研究を行った後に広告会社である博報堂に入社し、マーケティング・サイエンスやコンテンツ、プライバシーなどの領域で広く研究開発等に従事してまいりました。
そして社会人大学院生として、2023年4月より2025年3月まで本学大学院国際情報研究科に在籍し、須藤の指導の下で修士論文を書き上げました。その修士論文はきわめて論理展開力に優れ、審査において非常に高い評価を得ることができました。工学的知見と法学的知見を学問的基盤に据えた、まさに学融合的で実証的な研究成果であると言えます。
そして、この度、法研究において世界的トップジャーナルのひとつとして数えられるInternational Data Privacy Lawに掲載された論文は、まさに本学大学院国際情報研究科の特徴をなす学際的研究教育、学融合的な研究思考の成果であると自負しています。
本論文は、日欧双方で個人情報保護法制の「本質的同等性」が認定されているにもかかわらず、両者の根幹概念―すなわち「保護対象情報」と「規制主体(誰が規制対象たるか)」―に未だ見過ごされてきた重要なズレが存在することを、理論的・実証的に明確化したものであります。とりわけ日本の個人情報保護法が、OECDプライバシーガイドライン起源の「コントローラー」というEU型概念を採用せず、「個人情報取扱事業者」に規制主体を限定したことによる影響と、その歴史的・制度的背景を起草経緯・立法資料・行政文書を根気強く精査し、丁寧に分析した点に意義を有すると考えています。
最後に、国際的な個人データ移転やガバナンス(AI・クラウド・PETs等先端技術を含む)が進展する中で、日本法が「誰が、何を、どのように」保護すべきかという根本設計について熟考するための基礎的論点と具体的問題状況を、本論文は提示しようとしたものであり、今後、法実務・国際比較法・データ保護実務の各分野にとって重要な貢献をなすことができるならば、猪谷と須藤にとって望外の喜びであります。最後に今後とも皆様のますますのご指導をお願いいたしたいと存じます。
国際情報研究科では、新卒学生のみならず、既に企業・機関で活躍している社会人学生が多く在籍しており、研究指導教員のもと研究活動を進めています。本研究科の授業は、平日夜間と土曜日に開講され、オンライン授業も活用しているため、社会人学生であっても、2年間で修了することが可能です。
国際情報研究科では、情報技術と情報に関する法制度の両方を専門的に学び、進展著しい情報社会で活躍できる人材の育成を目指してまいります。