2022.07.25

ジェンダー、セクシュアリティを知り、学ぶ
「学生のためのハンドブック」を作成
ダイバーシティセンター

学生記者 森美樹(文3)

  • 中大ニュース
  • きょう・あした

中央大学の学生や大学院生らに、ジェンダー、セクシュアリティについて分かりやすく解説したハンドブックを、中央大学ダイバーシティセンターが作成した。ジェンダーやLGBTQに関する用語や基礎知識、学生生活に関わる氏名・性別・写真の取り扱い、各キャンパスのトイレ、更衣室、シャワー室、授乳室の利用に関する案内、ダイバーシティセンターの相談窓口を紹介しているほか、Q&Aやコラムも掲載している。ジェンダー、セクシュアリティについて「これから知りたい・学びたい」という人にも適した内容だ。

「アウティング」「アライ」 言葉の意味を解説

ハンドブック作成に携わった長島佐恵子教授(左)と子安加余子教授
=多摩キャンパス「ダイバーシティスクエア」

ハンドブックでは、ジェンダー、セクシュアリティについて「用語」「学生生活」「Q&A」など6つの項目別に詳述されている。用語では、他の人のセクシュアリティを本人の了承を得ない状態で第三者に暴露してしまう「アウティング」、LGBTQの理解者・支援者・味方として行動する人を意味する「アライ(Ally)」などの言葉の意味を解説した。

 

ハンドブック作成に携わった法学部の長島佐恵子教授は「マイノリティ性を持ついわゆる『当事者』の学生には、必要な情報と、大学が公式に取り組んでいるという事実を届けたい。ほかの学生にも自分と関係ないテーマではないことを知ってほしい」と意義を話し、ハンドブックには「キャンパスの人間関係を円滑にする情報が詰まっている」と訴える。

 

経済学部の子安加余子教授も作成に携わった一人だ。授業の中でジェンダーやセクシュアリティの話をすると、「アライになりたい」と理解を示す学生が増えてきたという。「ハンドブックは学生生活を安心して過ごすためのもの。ダイバーシティセンターも学生のための場でありたい」と話す。

「全員が自分ごととして考えてほしい」

気軽に少し立ち寄るー。「ダイバーシティスクエア」はそんな”居場所”になっている

ハンドブックの随所に掲載されたコラムでは、性的指向によって、ある属性の人を「普通の人」と表現することで、そうでない人を「普通ではないとみなしてしまう」ことにつながると指摘した内容や、生理用品を用意した多目的トイレや授乳室の整備の大切さを訴えた「誰もが安心して過ごすことができるキャンパスとは?」といった5編を紹介した。

 

ダイバーシティセンターで当事者の学生らの相談を受け付けているコーディネーターの小川奈津己(なつき)さんは、「キャンパスにいる全員が自分ごととして考え、全員で大学の環境をつくっていきたい」と呼びかける。

 

中央大学は、2017年に「中央大学ダイバーシティ宣言」を公表し、性別や性自認、性的指向など、さまざまな背景を持つすべての人に、平等な学修環境、職場環境を提供するとうたっている。

「学生のためのジェンダー・セクシュアリティに関するハンドブック」はA4判24ページ。PDF版が公開済みのほか、印刷された冊子も配布している。あわせて「教職員のためのジェンダー・セクシュアリティに関するガイドブック(配慮と対応)」(A4判20ページ)も公開された。こちらから閲読できます。

 

ジェンダー・セクシュアリティに関するハンドブック、ガイドブック

 

 

誰もが過ごしやすいキャンパスを目指して
~中央大学におけるダイバーシティ推進を知る~
学生記者 森美樹(文3)

学生記者の森美樹さん

中央大学ダイバーシティセンターは、「多様性が尊重されるキャンパス」「誰もが安心して活動のできるキャンパス」づくりの拠点として、障害学生等支援、ジェンダー・セクシュアリティ、グローバル・多文化共生の3つの領域を軸に、学内の環境整備や学生、教職員への啓発、個別相談への対応などの活動を進めている。

 

併設のダイバーシティスクエアは学生の居場所として開放され、上記3領域に関する書籍や資料を借りることもできる。

 

私は「HAKUMON Chuo」の学生記者として、ダイバーシティセンターが4月に発行した「学生のためのジェンダー・セクシュアリティに関するハンドブック」について、作成に携わった法学部の長島佐恵子教授、経済学部の子安加余子教授、学生の相談を受け付けるコーディネーター(ジェンダー・セクシュアリティ領域)の小川奈津己(なつき)さんの3人に取材する機会を得た。

円滑な人間関係へ ハンドブックが道しるべ

取材でうかがった話によれば、ハンドブックは、大学の各部署がすでに対応していたジェンダーなどに関する事柄を集約するイメージで作られたという。

 

たとえば、生協で購入できる大学指定の「履歴書・自己紹介書」はキャリアセンターの方針で他大学にさきがけて性別欄をなくしていた。また性別違和のある学生が一定の手続きで学生証の写真を変更するなどの対応も以前から全学の指針によって行われていた。

 

ただ、個々の学生はもちろん、対応した教職員も、プライバシーの問題もあって、個別のケースの詳細な情報を部署を超えて共有できていたわけではない。つまり、“経験”が受け継がれているわけではなく、情報も「知る人ぞ知る」にとどまってしまう。新たに悩みや問題を抱えた人は、「そもそも中大でそれは可能なのか」という地点から出発するしかなかった。常に「道なき道を行く」状態だったといえる。そうした情報をわかりやすく見せるために工夫が凝らされたハンドブックは、「そこはすでに道があるよ」ということを示している。

ダイバーシティセンター 「困りごとを共に考える場」

ダイバーシティセンター作成の「ジェンダー・セクシュアリティに関するハンドブック」など

ダイバーシティセンターのある多摩キャンパスの「FOREST GATEWAY CHUO」に授乳室があることもハンドブックで紹介されている。「学内に託児所があったっけ?」と私はピンとこなかったが、主に搾乳のスペースとして使われているとのことだった。

 

これまでは搾乳したい場合、授業の合間にトイレを利用するしかなかったという。盲点だった。実際にトイレで搾乳した経験を持つ教員や学生もいると聞く。子安先生は「困りごとを抱えているときはそれに対処するだけで精いっぱいで、どこかに訴えるという余裕もない」点を指摘し、「本当に支援が欲しいとき、本人は何もできないことが多い」と続けた。

 

長島先生は、センターを立ち上げる前に他大学で同様の取り組みをしている教職員への聞き取りを重ねたという。その中で、「マイノリティ性のある学生に『どういうことで困っていますか』と尋ねても、『困っていません』という返事しか返ってこないかもしれない。しかし、日々会話を重ねていくと、あらゆる場面、あらゆるところで困っていると分かることがある」と教えられたそうだ。

 

長島先生は「本人が変えて欲しいと言ったことだけを変えるのでは十分ではない。おしゃべりしているうちに困っていることが出てきて、ダイバーシティセンターがそれをどうしたら変えていけるのかを一緒に考えていける場になっていけばうれしい」と語った。

キャンパスに居場所があることの重要性

コーディネーターの小川奈津己さん

実際、センターはそんな場所になりつつある。対面授業主体になった4月からは少し立ち寄るという利用の仕方が格段に増えて、相談目的で来たわけではないのに、話の流れで相談になったこともあったと、コーディネーターの小川さんは話す。居場所があることの重要性と、そこから声を吸い上げられていることを肌で感じているそうだ。

 

取材を通して、私は改めてダイバーシティの重要性を実感した。誰もが過ごしやすいキャンパスを、誰もが生きやすい社会を実現するためには、さまざまな人のニーズを知り、一緒に解決に向けて考える必要がある。その基礎にある考え方がダイバーシティなのだと気づいた。遠くない未来に、誰もが過ごしやすいキャンパスは実現できる。そんなビジョンが見えた気がした。

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