2024.03.25

サッカーの力で人をつなぐ
J1リーグ・ジュビロ磐田 運営会社に入社
サッカー部マネジャー 鈴木愛理さん(商4)

学生記者 近藤陽太(経済3)

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卒業の日を迎えたサッカー部マネジャーの鈴木愛理さん(商4)は4月から、サッカーJ1リーグ・ジュビロ磐田の運営会社「株式会社ジュビロ」(静岡県磐田市)に入社する。「Jリーグのチームで働きたい」と強く心に決めたのは1年前、大学3年生の3月にJ2のクラブで体験した1週間のインターンがきっかけだった。

 

「サポーター、選手、ホームタウン、スポンサー企業など、ジュビロに関わる全ての人の立場で考え、行動し、クラブとクラブに関わる人たちの“価値”を高めることに力を注ぎたい。楽しみや生きがいを与えられる人になりたい」。そんな目標、夢を描き、社会人として一歩を踏み出す。

 

父は元日本代表、兄はJリーガー
「サッカー一家」に育つ

父の康仁さんが元日本代表ゴールキーパー、兄2人もサッカー経験があり、次兄の雄斗さんはJ1・湘南ベルマーレ所属の現役Jリーガーという「サッカー一家」に育った。「生まれたときからサッカーが身近な存在」という環境で、父や兄に連れられて行ったサッカー場が幼い頃の遊び場だった。

 

ただ、身近な存在ではあったが、幼少期はサッカーに興味がなかった。その後、サッカー部マネジャーを務めた中学・高校時代に、「サッカーというスポーツは人と人をつなぐ存在。感情を共有し、同じ目的に向かうことができる素晴らしい力を持っている」と学び、高校3年の頃に将来の仕事としてサッカーに関わることを意識するようになる。

 

興味がなかったのに中学・高校でマネジャーになった経緯を不思議に思って尋ねると、中学校でどの部活動をするかを悩んでいたときに相談した担任教諭がサッカー部顧問で、「マネジャーを募集している」と勧められたからだという。サッカーとの縁にどこまでも恵まれていると思わざるを得ないエピソードだ。

肌身に感じたスポーツの力
「サッカーは人と人をつなぐ存在」「楽しみ、生きがいを与えられる人になる」

水戸ホーリーホックでインターン生として活動した鈴木愛理さん
=2023年3月 ⒸMITO HOLLYHOCK

 

 

スポーツの力を目の当たりにした経験もある。中学3年の時に病気で亡くなった祖父は、雄斗さんの試合をいつも楽しみにしていたという。余命わずかと医師に伝えられたことを知った雄斗さんが6試合連続でゴールを決めると、見違えるほど元気を取り戻し、それから1年以上も生きることができた。鈴木さんは「サッカーは人に生きがいや幸せをもたらす。その魅力を多くの人に感じてもらい、私も楽しみや生きがいを与えられる人になりたい」と思うようになった。

 

2023年3月にインターンを体験したJ2・水戸ホーリーホックでは、水戸市の本拠地スタジアムなどでカメラ撮影や取材、SNSでの情報発信といった広報の仕事を主に担当した。実は、水戸は次兄の雄斗さんが2012~2015年に在籍したチームでもあった。

 

X(旧ツイッター)で、かつて所属した雄斗選手の妹をインターン生として受け入れていると紹介されると、サポーターから歓迎するリプライが多く寄せられた。重い病気を患っている高齢の男性からは「水戸のゲームを見るのが生きがい」という言葉を直接聞いた。

 

Jチームでインターン 仕事にやりがい

「ずいぶん前に在籍した兄のことを今も応援してくれていた。チームやサポーターの方々から、とても温かみを感じ、仕事にやりがいを覚えた」

 

「選手に近い場所で働きたい」と希望し、ほかにもJクラブの公式サイトを運営する企業や、サッカーの分野に強みを持つ広告代理店などを就職先に考えていたが、インターン経験が決め手となり、これ以後は「Jリーグのクラブ一本で就活に臨む」と決意した。

 

そして、この頃、ジュビロのサイトで社員公募が始まっていることを知った。迷わず応募し、採用面接では、「中大サッカー部でさまざまな立場になって考える大切さを学んだ。それをもとに考えて、行動し、サポーターや選手、スポンサー企業などクラブに関わる全ての人たちのニーズに合った新しい切り口で、クラブに付加価値を与えたい。人々に楽しみを創りだしたい」などと熱く訴えた。クラブ(ジュビロ)の新卒採用者は少ないという。

 

関東1部リーグ残留を決め、喜ぶサッカー部員たち(右から2人目が鈴木愛理さん)=2023年12月2日、千葉県浦安市のブリオベッカ浦安競技場

関東1部リーグ残留に胸ドキドキ
「総理大臣杯」出場へ、一体となった応援

サッカー部ではマネジャーの役割とともに、Jリーグクラブのフロント制にならい、営業や企画、広報を業務とする「事業本部」に所属した。SNSやYouTubeで部活動の情報を発信したり、オリジナルグッズを作製・販売したり、地域の店舗や幼稚園・小学校との関係づくり、地域の清掃への参加など、さまざまな活動に取り組んだ。こうした活動や地域とのかかわりを礎に、ホームゲームでは集客目標を定めた。試合前には子供たちが参加できるミニゲームも開催し、好評だった。

 

マネジャー、アナリスト(分析担当者)といったチームや選手を支えるスタッフは、一歩下がった存在と見られがちだが、サッカー部は違う。副主将を務めた佐藤悠平選手(商4)をはじめ同期の選手が「マネジャーも選手も同じだから」と、繰り返し声をかけてくれた。この言葉に後押しされた鈴木さんは、「プレーしないから見えるものもある。マネジャーだからと遠慮することなく、私のポジションだからこそ感じたことを伝えられた」と仲間に感謝する。

 

忘れられない試合の記憶がある。2023年12月2日、関東1部リーグ残留を懸けた山梨学院大とのプレーオフ。「絶対残留できる。どうせならスリルあるこの状況を楽しもう」と心に余裕を持って臨んだはずが、勝利のホイッスルを聞くと、心臓の鼓動が速くなり、目に涙があふれてきた。想像以上にプレッシャーを感じていた自分に気づき、1部残留という結果を後輩たちに残せた安堵感を覚えたという。

関東1部リーグ残留に部員の笑顔が弾けた=2023年12月2日

「良いクラブ」「温かいクラブ」「すごいクラブ」
地域に根差した異色のコラボレーションも

「第47回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント大会」への出場を決めた2023年6月の関東大学サッカートーナメント大会(アミノバイタルカップ)の筑波大戦は、PK戦にもつれる劇的な展開となった。応援の部員らと一体となって声援を送り、勝利の瞬間は全員がピッチ内に走り出していた。鈴木さんは「気持ちで勝った試合」とたとえている。

 

部活動を軸に、この4年間で学んだことは、「人と人のつながり」「さまざまな立場で考えること」のそれぞれの大切さだ。ジュビロ磐田でも、「良いクラブだな」「温かいクラブだな」「すごいクラブだな」と、クラブに関わる人や、サポーターら情報を受け取る側の人とその周囲にいる人たちに感じてもらえるような環境を作っていくつもりだ。地域に根差した企業や団体などとの異色のコラボレーションを企画したいという。

 

中大に進学したのは「部員の意識も高く、環境も高いレベルにあるサッカー部でマネジャーをしたい。入学前の見学でアットホームな雰囲気にひかれたから」だという。もう一つ、商学部にスポーツビジネスに関する授業があるのも理由だった。オープンキャンパスで授業を受講し、担当の渡辺岳夫教授(サッカー部マネジメントアドバイザー)に「商学部に進学できるよう頑張ります」とすぐにメールを送った。

 

幼少期に関心がなかったサッカーにこんなにも関わることになるとは思わなかったと振り返った鈴木さん。「家族でサッカーを通じた活動ができていることに幸せを感じます」と続け、卒業の今になって「私たち家族をつないでいたものがサッカーだったことが改めて分かった」と話している。

鈴木愛理さん

サッカー部公式ブログ

すずき・あいり。神奈川・関東学院高卒、商学部4年。中学・高校時代はサッカー部の活動以外に、外部のスクールに通ってダンスに打ち込み、コンテストやイベント出場の経験もある。趣味はダンスと料理、愛犬とゆっくり過ごすこと。好きな言葉は、心が動く様を表す「感(うご)く」。サッカー部公式ブログにその理由が記されている。

 

https://note.com/chuo_univ_fc/n/n262656d92ce9

2023年度チームスローガン「LOVE中央」

おれはホントに中大が大好きだから…」

 

 

2023年度のサッカー部スローガン「LOVE中央」は、「中央大学を愛し、中央大学のために闘い、行動する」という意味が込められている。マネジャーの鈴木愛理さんによると、ミーティングを重ねて決まったスローガンで、発案したのは加納直樹選手(総合政策4)。チームが代替わりした後の3年生当時の冬のミーティングで、加納選手が「おれはホントに中大が大好きだから、ホントLOVE中央なんだ」と熱い思いを口にし、異論なく決定したという。

 

鈴木さんは「負けが続いても前を向けるチームにしたいという思いも込められている」と話す。同じ4年生のチームメイトには「一緒に過ごした4年間はかけがえのない宝物。楽しかった時間、もがき苦しんだ時間を糧にしてお互いに頑張ろう」とメッセージを送っている。

■2023年度 関東大学サッカーリーグ1部成績

順位     勝点 得失点差

① 筑波大   52   32

② 東京国際大 43   11

③ 明治大   38   22

④ 日本大   37   15

⑤ 流通経済大 36   −1

⑥ 東洋大   30     2

⑦ 桐蔭横浜大 28     3

⑧ 東海大   23   −7

⑨ 国士舘大  20   −9

⑩ 中央大   19    −13

⑪ 拓殖大   17    −36

⑫ 法政大   14    −19

 

※中大はプレーオフで2部の山梨学院大に勝ち、来季の1部残留が決定

☆卒業する中央大学サッカー部4年生(カッコ内はポジション)

 

青木奏人(DF)  有田恵人(MF)  猪越優惟(GK)  兎本瑛洋(DF)  牛澤健(DF)

太田尚弥(FW) 小川峰和(FW)  影山兼三(DF)  勝田泰智(FW) 加納直樹(DF)

北原康太(MF)  熊谷悠里(FW) 栗山且椰(FW)  齊名翔太(MF) 坂本康汰(MF)

佐藤悠平(MF)  鈴木大樹(FW) 鈴木悠矢(GK)  髙木慎太郎(FW) 武田洸(FW)

田尻優海(MF)  田邉光平(MF)  田村進馬(DF)  野上弾(MF)      橋本泰知(FW)

松井竜豪(MF)  南出涼太(DF)  矢尾板岳斗(FW) 山下陽希(MF)山本航生(FW)

山﨑希一(MF)  吉田圭汰(MF)  芳山詩恩(MF)

吉川七海(運営・広報)  熊川将太朗(事業本部)  澤村美裕(学生トレーナー)

鈴木愛理(マネジャー)  高橋一誠(学生コーチ)   持田温紀(事業本部)

編集後記
チームの原点を担う「0人目の選手」
学生記者 近藤陽太(経済3)

2023年5月6日、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の浦和レッズーアルヒラル(サウジアラビア)の決勝第2戦(埼玉スタジアム2002)を観戦するため、私は15年ぶりにサッカー場に赴いた。

 

ところで、私は根っからの野球ファンだ。特段、サッカーが“苦手”なわけではなかったが、いつも足を運ぶのは野球場だった。友人に誘われた観戦だが、ACL決勝ゆえにチケット代はかなり高額で、渋々感があったことも否めなかった。

 

しかし、スタジアムに足を踏み入れた瞬間、そんな若干の後悔は吹き飛んだ。スタジアムを埋め尽くす真っ赤なユニフォームとフラッグ、世界一を目指す浦和レッズを国際線の飛行機に模したコレオグラフィー(手にした紙などでつくる人文字)、そして日本一アツいといわれる浦和サポーターのチャント。繰り広げられる華麗なドリブルやパスプレー、キーパーのスーパーセーブに心が躍った。

 

「サッカーってなんて面白いんだ!」。素直にそう思った。このあとも私の地元の名古屋グランパスの試合に足を運んだ。今では、ワンルームの壁にグランパスと中日ドラゴンズのユニフォームが並んで飾ってある。

 

サッカー部マネジャーの鈴木愛理さんは4月から、私が魅了されたプロのサッカーの世界に飛び込む。プレーし、皆に応援されるのは選手だ。しかし、その舞台を用意し、万全の状態をサポートするのはチームスタッフである。

 

「サポーターは12人目の選手」という言葉をよく耳にする。そうであれば、「チームスタッフは0人目の選手」だ。チームの“原点”を担うスタッフとして、Jリーグのチームに進む5人のチームメイトとともに大きく羽ばたいてほしい。

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