2024.04.03
香りがもたらす公害である「香害」について広く知ってもらおうと、多摩キャンパスで2023年秋、「パネル展 化学物質過敏症・香害・SDGs」が開催された。文学部のプロジェクト科目「今、そこにある公害」(担当:清水善仁准教授)に連動した企画と位置づけ、香害の実態や被害、発症のメカニズムなどを写真やイラスト入りのパネル39点で詳しく紹介した。香害に関するこうしたパネル展は首都圏では初の開催という。
多摩キャンパスで開催された香害パネル展=中央図書館1階ホール
パネル展は「あなたも気づいて! イノセント・ポリューション(悪意なき汚染)」と題して、多摩キャンパス中央図書館1階ホールで2023年9月21日~10月31日に開催された。
柔軟剤や合成洗剤といった身近な日用品などに含まれる化学物質が引き起こす香害は近年、新たな公害として問題となっている。この香害を正しく理解することが生活スタイルを見直すきっかけとなり、持続可能な社会を実現していくため、来場者にできることを考えてもらおうというのがパネル展の狙いだ。
化学物質過敏症は、化学物質に繰り返しさらされる中で、ある限界量を超えると、以降はわずかな量に接しただけで頭痛や吐き気、目鼻の痛みなどさまざまな症状が表れる病気。パネル展示では、発症のきっかけがシックハウス、高残香性の洗剤や柔軟剤、学校や職場のワックスがけなど多岐にわたると説明された。
環境からの影響で免疫・アレルギー症状、慢性疲労、記憶・情動障害など多様な症状が表れる、まさに現代的な病といえる。「ある限界量」は人それぞれで、誰もが突然に発症する可能性がある。展示では、全身の症状のほか、患者が抱える苦しみとして「病気なのに病気と思ってもらえない」という周囲の無理解があるとも紹介された。
特効薬はないものの、治療法として①有害物質を生活環境から取り除く②有害物質を身体の外に出す(解毒)③免疫力を高める―の3点が挙げられた。
化学物質に過敏な患者はマスクが必需品で、マスクなしの生活は不可能だ。展示では、マスクをしているだけでは過敏症患者と気づかれない上に、食事や使用する日用品のことを考慮すると、地震などの災害時には避難所に滞在できない恐れがあると指摘された。過敏症患者は一層、命に関わる問題に直面せざるを得ないということである。
SDGsの目標の一つ「すべての人に健康と福祉を」のターゲットには、「有害な化学物質や大気、水質、土壌汚染による死亡および病気の件数を大幅に減少させる」ことを目指すとあり、香害はSDGsの観点からも喫緊の課題であるといえる。
プロジェクト科目の受講生、文学部人文社会学科2年(受講時、現3年)の久保田朱寧(あかね)さんに、香害に関する学修の意義や学ぶ中での気づきなどを寄稿してもらいました。
文学部のプロジェクト科目「今、そこにある公害」の授業風景
皆さんは「公害」という言葉にどのような印象を抱いているだろう。現在では、学校で歴史として学ぶようになったことで、過去の出来事として認識される傾向にある。しかし、プロジェクト科目「今、そこにある公害」を通じて、公害は現在進行形の問題であることを学んだ。
この授業では、毎週異なるテーマで、講師の方に講義していただき、さまざまな観点から公害を考察した。地域研究や哲学、教育学、さらには映像文化など、多様な学問領域からアプローチすることで、人々が公害とどのように関わってきたかを多角的に捉え、問題の複雑性、影響を及ぼす領域の広さを知ることができた。
この科目を受講し、私は「香害」に強く関心を持った。香害とは、柔軟剤や香水などの強い香りによって、不快感や体調不良が生じることである。症状がひどくなると化学物質過敏症を発症し、日常生活が困難になる。香害は、特定の工場からの廃棄物に由来する公害とは異なり、全国的規模であることや、製品の使用者が加害者にも被害者にもなりうることが特徴である。
また、廃棄物が原因だった以前の公害とは異なり、日用品が原因であるという点で、対策が進まないという現状も問題である。恥ずかしながら、私自身この科目を受講するまで香害を知らなかった。関心を持ったきっかけの一つとなったのが、大学で行われたパネル展「化学物質過敏症・香害・SDGs」である。
パネル展は、化学物質過敏症患者の方による手書きイラストを交え、症状や実際の生活、原因となる柔軟剤・合成洗剤などの問題性が紹介された。また、全国の患者の方から寄せられた手紙も展示され、被害者の声からも事態の深刻さを強く感じ、香害がまさに現在進行形の問題であることを認識した。
過敏症は、花粉症のように、いつ誰が発症してもおかしくない病だ。この公害を改善するには社会的理解が不可欠である。公害は過去完了形ではなく、現在進行形であること、まさに「公害は今そこにある」という認識が当たり前になるよう、個人でできることから取り組んでいきたい。