2022.11.28

「ライフセーバーは日常のあらゆる場面で活動できる」
人命救助で実証
ライフセービング部の大谷純加さんに消防総監感謝状

  • 中大ニュース
  • ゼミ・サークル

ライフセーバーというと、海水浴場で救命処置を行う人というイメージがある。しかし、海辺だけでなく日常生活のさまざまな場面で、応急手当てなどが必要なときも、ライフセーバーとしての知見、経験は生かされる。

 

2022年9月、京王井の頭線の永福町駅(東京都杉並区)で人命救助にあたり、そのことを実証した中央大学ライフセービング部の大谷純加(すみか)さん(法3)が、東京消防庁から感謝状を贈られた。

 

大谷さんは「手当てをした男性が社会復帰されたと聞き、本当に良かったという気持ちです。ただ、私も非医療従事者であり、ライフセーバーという資格があるからできた行動とも思ってほしくない」と振り返る。ライフセービング部での1次救命処置の手技手法の訓練とともに、2022年春学期の法学部「生命倫理」の講義を通して、海水浴場だけでないあらゆる場面での事故の心構えを学べたことが、躊躇(ちゅうちょ)なく人の命に向き合う姿勢に結び付いたと訴えている。

「何か手伝えることはありますか」
十数分間、救命処置にあたる

感謝状を贈られた大谷純加さん。右手前は杉並消防署の岡田一将署長

永福町駅で停車中の電車に乗っていた大谷さんが事態に気付いたのは、9月10日午前8時40分ごろ。ホームから「AED(自動体外式除細動器)を持ってきました」という駅員の声がして中高年の男性が倒れたことを知り、電車を降りた。当時はライフセービングの大会に向かう途中だった。

 

電気的除細動や、医療従事者に限らず誰でも行える気道確保、心臓マッサージなどの心肺蘇生法(1次救命処置)がいかに早く行われるかが生存率に大きく関わる。駅員ら6、7人が救護に携わり、男性の胸骨圧迫も始めていた。事態はあわただしく切迫していた。

 

大谷さんは「ライフセーバーですが、何か手伝えることはありますか」と駅員に声をかけ、救急隊到着までの十数分の間に、全体への指示や呼吸や脈、体動の確認を行った。新型コロナウイルスの流行で1次救命の人工呼吸は原則として行わないという決まりがあり、まずAEDを装着し、8時45分に1回目のショックを実施した。

 

別の乗客の女性や駅員が協力して探した保険証から男性の名前や年齢が分かり、名前を呼びながらの声かけもできた。そして8時50分過ぎに到着した救急隊員に、1次救命の間の男性の様子やAEDショック回数(計4回)などを含めた情報を引き継いだ。

「学問を机上の空論にしない」
小峯力教授から「生命倫理」の学び

消防総監感謝状を手渡される大谷純加さん=2022年11月11日、杉並消防署

 

今回の経験を経て、「応急手当ての必要な場面は、海水浴場だけでなく日常にある」と身をもって痛感した。春学期に法学部の「生命倫理」を受講していなければ、海辺の事故の心構えしかなく、今回の事故に対応できなかったと感じている。講義を担当し、ライフセービング部の部長も務める小峯力(つとむ)教授(救急救命学)が「学問を机上の空論にしない」と呼びかけていたことを改めて思い出したという。

 

公益財団法人「日本ライフセービング協会」が発行する資格は、「サーフ・ライフセーバー」という水難救助のイメージである。しかし、同協会の前理事長で、現在スーパーバイザーを務める小峯教授は、夏だけでなく、春夏秋冬に生かされる資格でなければならないと訴える。つまり年間を通じた「暮らしのファーストレスポンダー」として、未然防止から確かな1次救命者であるべきと願いを込める。

 

「男性本人が助かったことは何よりですが、その存在を必要とするご家族のもとに戻せた(社会復帰)ことこそ最上の喜びです。その予後(病気や治療がたどった経過)を決定する病院前救急救命を担えると大谷さんが証明した。人が人を救う、その行為をあたりまえにする社会でありたい」と、小峯教授は話している。

ライフセービングの根底に
「利他と慈愛の精神」

 

 

救急救護功労者贈呈式は11月11日に杉並消防署で開かれ、大谷さんと、京王井の頭線永福町駅駅員の石井武敏さんに、東京消防庁の清水洋文消防総監名の感謝状が贈られた。

 

大谷さんは「男性が社会復帰され、ご家族のもとに戻せたことが本当に良かった。ライフセービングの根底には、利他の精神と慈愛の精神があると思いますが、これらは両親から授かったものと考えています。それを小峯先生をはじめとするライフセービング部の関係者と仲間たちが、部の活動や生命倫理の授業を通じて成長させてくださった」と感謝の言葉を述べた。

 

石井さんは「大谷さんの機敏で適切な行動は本当に助かりました」と振り返り、2人に感謝状を手渡した杉並消防署の岡田一将署長は「倒れた男性は一命を取り留め、既に退院された。現場での適切な対応に改めて感謝します」と話していた。

☆中央大学 学友会体育連盟ライフセービング部

 

1988年創部。年間を通じて病院前救急救命の理論と実践を展開。夏期休業期間は全国の海岸で監視救助活動の任務にあたる。多摩キャンパスのプールや、湘南、千葉、静岡などの海岸で練習を重ねている。

 

全日本選手権、大学選手権(インカレ)などの大会に出場。ともに速さを競う「ビーチフラッグス」「ボードレース」などの競技の根底には、「ゴールの先に救う命がある」という考えがある。

大谷純加さんはライフセービング部で主務を務めている。
左は小峯力教授(ライフセービング部部長)、右は遠藤航副部長

GO GLOBAL!
スポーツ・文化活動
中大スポーツ
Connect Web
Careers